【完結】喪女は、不幸系推しの笑顔が見たい ~よって、幸せシナリオに改変します! ※ただし、所持金はゼロで身分証なしスタートとする。~

つこさん。

文字の大きさ
上 下
148 / 247
 帰路に着く

148話 わたしなにやってるんだろう

しおりを挟む
「――ソノコ様には、好きな人、いる?」

 カヤお嬢様は、ぼうっとしていて。手をつないで、駅舎のはじっこの方にあったカフェへ行きました。モーニングが始まったばかりの時間なのでパフェは頼めないですが、ホットケーキはOKでした。よかった。
 座ったのは窓際の四人がけボックス席。わたしの背中側、隣のボックスに、カヤお嬢様についてこられた執事のルークさんと、わたしの後方に控えてくれていた方がいっしょに座られます。警備さん全員はむりなので、二人でだけ。
 ホットケーキを切り分けていると、カヤお嬢様から小さな声でそんなことを質問されました。ひとりの顔が思い浮かびます。会話を聞かれるんじゃないかと背後のボックス席のことを意識してしまって、わたしは背筋が伸びました。

「……えー。えー。あのー。……………………。ぃます」

 返答が小さい声なのはカヤお嬢様に合わせたんです。ええ。はっとしたような顔でわたしをご覧になり、カヤお嬢様は「本当? どんな方なの?」とおっしゃいました。

「えー。……国宝?」
「わかる。厳重に保護すべきって思うわよね」

 力強い賛同を得られて、わたしはカヤお嬢様が同じ道を志す者だと気づきました。同担ではないだけで。わたしが深くうなずくと、カヤお嬢様も同じようにうなずかれました。

「好きでいて……悩むことってありました?」

 ――もしかしてこれは、恋バナというやつではないか――?
 わたしには六億年ほど早くないでしょうか。そんな。カヤお嬢様小学生なのに。おませさん。悩み? 悩みってなんだろう? 今はオリヴィエ様が生き延びる方法についてが悩みだけれど。それは言えないし。これまで普遍的に抱いてきた悩みってなんだろう。すんごく考えて、長考の末に顔をあげて言いました。

「――いつかあのかっこよさが罪に問われる時代が来ること?」
「わかる」

 この度もたいへん力強いうなずきがありました。はい。ですよね。かっこよ罪が成立してしまったらオリヴィエ様が真っ先に捕まってしまう。どうしよう。闇結社、闇結社作らなきゃ。そしてオリヴィエ様を匿わなきゃ。いつか時が来たら表舞台に返り咲けるようにそれまで暗躍していただかなきゃ。やだかっこいい。闇属性オリヴィエ様もかっこいいどうしよう。裏の世界を牛耳ってもらって陰の支配者として君臨してもらわなきゃ。あ、どうしよう好き。かっこいい好き。

「――嫌われたらどうしようとか、思わない?」

 ささやくような声でした。カヤお嬢様の本音だと思います。わたしはホットケーキをほお張りました。もぐもぐして、飲み下してから言います。

「正直なところを言うと、わたしみたいな木っ端ミジンコが好かれることの方が奇跡というか」
「コッパミジンコとは」
「嫌われることを考えて、好きって気持ちを制御できます?」

 わたしの質問に、カヤお嬢様はちょっと考えて「ムリ」とおっしゃいました。ですよねえ。

「だから。せめてお邪魔にはならないように。わたしが好きでいることが、足かせにならないように。それでいいかなって」

 カヤお嬢様はわたしをじっと見ました。そして「好きに、好きを返してほしいって思わないの?」と高度な質問をしてこられました。だからそれわたしには六億年早いって。
 ――それでも、少し前に言われた言葉を思い出しました。『私は、あなたが好きだよ。ソノコ』……考えて。好きに好きって返してもらえて。すごくうれしくて。でもそれって、わたしは考えてもいなかったことで。うれしい、って思うことすらわたしにとってびっくりすることで。好きに好きを返してもらえたら、うれしい。でも、そうじゃないことだって世の中にはいっぱいあって。わたしには、返せない好意があった。ルミエラでトビくんを刺した人。それに、リッカー=ポルカの、三区間さん。二人ともわたしに好意を抱いてくれたけど、わたしはそれを受け取れなかったし返せなかった。……そんな風には、なりたくないな。わたしの好きという気持ちが、相手の負担になるなら、わたしはそれを表明しない。わたしの中で、大事にしまっておくと思う。
 だから、わたしならどう考えるかを、伝えました。

「わたしは――好きな人が幸せだったら、それでいいです」

 本心からそう言いました。カヤお嬢様はぐっとフォークを握ってホットケーキに目を落としました。「……わたし、子どもね」とつぶやかれます。そうですね。小学生ですからね。

「ありがとう……ソノコ様みたいに大人の女性になれるよう、わたし、がんばる」
「え、目指すとこそこでいいんですか」

 カヤお嬢様は吹っ切れたような表情でホットケーキに取りかかりました。これでよかったんでしょうか。クロテットクリームみたいのとシロップが最高にマリアージュでおいしかったです。

 その後。クロヴィスから「寄ってほしい」と言われていました。病院へメラニーのお見舞いではなく、公爵邸へ。カヤお嬢様と別れたあと、幾人かの警備さんたちといっしょに向かいました。移動中に自動車の中で、美ショタ様からもらった新聞をチェックします。四面読むように言われたので。ぱっと目に入ってきた記事見出しでわたしは車内で崩折れました。

----------

 黒髪の少女へ捧げたホームラン
 リュシアン・ポミエ選手が語る、ファンとの心の交友

「ファピーはひとりで戦うものではないと教えてくれた」

 打撃コーチが見たポミエの覚醒
 現役続行の決め手
 
----------

 どうやらポミエ選手はラキルソンセン国のチームと、アウスリゼ国のチーム両方からのオファーが数件来たようです。おめでとうございます。本当によかった。お役に立てたならなによりです!
 マディア邸での侍従さんたちのお出迎えはいつもの通りでした。クロヴィスも玄関ホールで待っていてくれました。

「よく来てくれた、案内しよう」

 連れて行かれたのは、これまでまったく立ち入ったことがない場所です。ブリアックの一味に捕まって連行されていたときに、近場を横切りましたけど。練兵場です。めっっっっっっっっちゃ広い。だだっ広いグラウンドみたいなところで、一面黒服騎士さんたち。クロヴィスとわたしが、そして着いてこられた警備さんたちが、演舞台みたいなところに上がると、こちらを向いて整列した一群の人々がざっと休めの姿勢を取りました。うっわー、壮観。

「本日講師として来ていただいた、ミタ嬢だ。皆、心して話を伺うように」
「ちょーーーっとまてまてまてまてまてまて」

 なに⁉ 講師ってなに⁉ めっちゃ高い位置のクロヴィスの顔を後首を鋭角にしながら見上げて「いったいなんのことですか⁉」と尋ねました。

「あなたに講師を頼みたいことを相談したら、バズレール嬢が『講師って言ったら逃げちゃうから、とりあえず呼んでどさくさでやってもらえばいいんじゃないかしらあ?』と言ったのでな」
「れあさんんんんんんんんんんんんん」

 いや、なにを。わたしがムキムキメンズたちになにを講師しろと! 「むりです、一体なにを教えろって言うんですか⁉」と言い募ったら、めまいのする言葉が返ってきました。

「メラニーからも聞いている。それに病院へ詰めていた警護担当からも報告があった。すばらしい設計の運動方法だと。ぜひ私たちに教えてほしい、『だいちー』を」

 全力で拒否したところ「このために休日出勤している者もいるんだ」というブラック企業なことをクロヴィスから告白されました。視線、視線が痛い。どうしろと。え、どうしろと。じりじりと無言の時間が過ぎていきます。

 ――じいちゃん、ばあちゃん。あのね、園子はね、推しのいる世界に来て、ラジオ体操を布教することになったよ。

「――ラジオ体操、だいいちーーーーーー!!!!」

 もうやけくそでやってやりました。さすが軍隊、みなさん覚えが早かったです。はい。
しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

(完結)王家の血筋の令嬢は路上で孤児のように倒れる

青空一夏
恋愛
父親が亡くなってから実の母と妹に虐げられてきた主人公。冬の雪が舞い落ちる日に、仕事を探してこいと言われて当てもなく歩き回るうちに路上に倒れてしまう。そこから、はじめる意外な展開。 ハッピーエンド。ショートショートなので、あまり入り組んでいない設定です。ご都合主義。 Hotランキング21位(10/28 60,362pt  12:18時点)

月が隠れるとき

いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。 その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。 という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。 小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

処理中です...