【完結】喪女は、不幸系推しの笑顔が見たい ~よって、幸せシナリオに改変します! ※ただし、所持金はゼロで身分証なしスタートとする。~

つこさん。

文字の大きさ
上 下
127 / 247
 そして、和平協議へ

127話 やっぱり、よくわかりません

しおりを挟む
 ミュラさんがわたしの言葉を聞いてはっと気づいたような感じで、わたしとサルちゃんの間へにじり入りました。守るみたいにわたしを背後にかばってくれます。ときどきイケメンですよねミュラさん。

「あーあー、公使くんに警戒されちゃったじゃない。だいじょうぶだよー、僕こわくないおっさんだよー、にらまないでー」

 両手をぷらぷらさせてサルちゃんが言いました。余計うさんくさいです。

「僕が説明するよりさ。たぶん、クロヴィスくんの話を聞いたほうが理解できるよ」

 にこにこしながらサルちゃんは言います。サルちゃんの口からはなにも出てこないな、と察して、わたしもミュラさんもそれ以上はなにも言いませんでした。
 誘導されたお部屋は当然室内なので、鶏さんとはまたおさらばです。めっちゃいっしょに入って来ようとしていたので、黒服さんのひとりに遠くへ連れて行かれていました。ごほうびのエサあげられなくてごめんよ。達者で暮らせ。
 西館側の、正面玄関に近いところのお部屋だと思います。促されて入ると、クロヴィスがいました。「まずは謝らせてくれ」と座っていた椅子から立ってわたしたちに向き直ります。

「結果として、あなた方を巻き込むことをよしとしたこと。それによって、ボーヴォワール宰相閣下に大きな怪我をさせてしまった。先ほどご本人を見送ったが、まさか逆賊どもが決闘騒ぎまで起こすとは考えなかった。私の誤判断だ。申し訳なかった」

 すっと頭を下げるクロヴィスへ、ミュラさんが「謝罪を受け取ります。どうか状況を説明してくださいませんか」とおっしゃいました。うなずいてクロヴィスはわたしたちへ席に着くよううながしました。

「どこから話せばいいだろうか……まず、昨夜のことを伝えよう。私あてに速達で手紙が届いた。差出人はミタ嬢、あなたの名前だった。中を見ればそうではないことがすぐにわかったのだが」

 ミュラさんがびっくりして目をまんまるにしています。わたしもびっくりです。「そうですね、たしかに、わたしからではないですね」と言いました。

「匿名では手紙を破棄される恐れがあるために騙った、と書かれていた。内容は先ほどの爆破について。その計画が、マディア軍内にあるとの報告だった。あまりにも具体的すぎる情報で、主要な成員の名前すら列挙されていた。内部告発だ。告発者の名はなかった」

 考え込むようにクロヴィスが沈黙しました。気を取り直したように、もう一度口を開きます。わたしの名前を使って、内部告発……アベルかな? 大きい仕事残ってるみたいに言ってたし。っぽいな。

「――じつを言うと、私の方でも不穏な動きを把握していた。なので、その情報が信ずるに足るものだというのもすぐにわかった。挙げられた名の者たちと関わりの少ない者たちを秘密裡に集め、事が起きたときにすぐに捕縛できるよう組織した。あなたたちを連行した者は名こそ記されてはいたが、末端の者でこちらが後手に回ってしまったことを申し訳なく思う」

 またクロヴィスが頭を下げようとしたので、ミュラさんが「公、ボーヴォワール閣下も、幸いに命を取られたわけではない。こちらからことさら言い立てることはいたしません。それよりも今は事態の収拾について考えましょう」とおっしゃいました。

「……感謝する。爆発物については、しかけられる場所として言及されていたのはメラニーの部屋前廊下だった。なので昨日のうちに彼女は違う部屋に移動していたし、今朝のヴィゴ医師の件ののち、外部の病院へ避難させた」
「よかった!」
「心配をかけた。こちらに人的被害はひとつもないので安心してほしい。その後は、知っての通りだ。実行犯、そしてそれに組みしている者たちをあぶり出し、捕まえた。まだ残党はいるかもしれないが、全員特定するのも時間の問題だろう」
 
 クロヴィスは深い息をつきました。言葉を探すように少しだけ視線をさまよわせ、そして顔をあげました。

「動機は、わかりきっている。マディア領と王政派の決裂を狙ったものだ。どのような思考回路でそうなるのか皆目見当がつかないが、あなた方に爆発の責任をかぶせればいいと考えたらしい。私自身がとてもなめられているのをひしと感じたよ。そこまで愚かな人間だと目されていたとは」
「王政派と、戦争させたいってことですか?」
「……そういうことだろう。ひとりひとりの動機は、それぞれ違うかもしれない。が、争いを引き起こすこと、そして私を王位に据えることが、目的のひとつとされていることは間違いない」

 そう述べるクロヴィスの表情は、どこかさみしそうでした。悲しいというより、さみしい。そう感じたんです。

「メラニーのことで……私が多くの時間を盲目に過ごしたことを認める。宣戦布告を出すに至ったことも、私があまりに身勝手な願いを重視しすぎていたからだ。それを進言してきた二名の者の名も、告発文に記されていたよ。和平協議にも参加していた。なので、協議の場は安全が担保されていた。それで予定を変更せずにあなた方を招き入れた」
「なるほど」

 ミュラさんがうなずきました。わたしもうなずいておきました。クロヴィスは少し笑いました。そしてちょっとだけあきらめたような泣きそうな声色で、「ラ・サル将軍」と言いました。まっすぐにサルちゃんをみつめて。

「――どうか、私たちに知らせてほしい。あなたの名が、告発文に記されていた理由を」

 奥の壁に寄りかかって立っていたサルちゃんは、かっこいいまま窓際の空気感をまとうなんていう器用なことをして、にこっと笑いました。わたしは、驚いていない自分に驚いていました。

「僕としては、だれとも組んだつもりはないけどねー。いつの間にか僕が親玉ってことになってた。そもそも僕、二年はリッカー=ポルカに居たんだけど」
「あなたが手引きしていたのではないのか?」
「するわけないじゃない、めんどうくさい。話は振られたけど、返事しないで放っておいたら知らない間に勝手に担がれてた。まあ、気づいても止めもしなかったけどね」

 じっとサルちゃんを見ていたら、目が合いました。にこやかなその様子は、わたしには探り難く、理解できないものでした。わたしを見たまま、サルちゃんは続けました。

「どっちに転んでも、まあ、いいかなって。でもソナコが、『行かないで』って追いすがって僕に言うものだから。かわいい子のお願いを無下にはできないからね」

 にっこにこで言われました。追いすがってよかったです。ミュラさんが「ちょっと意味わかんない」て感じの表情をしていました。クロヴィスはやっぱり泣きそうで、ちょっとなにかを言おうとして口を閉ざして、大きく息を吸い、吐きました。

「――お師様。私はあなたを疑いたくなかった」
「なつかしいね、その呼び方。あなたはあなたのすべきことをすればいい」
「ラ・サル将軍――あなたを、叛逆の容疑で拘束します」
「よくできました」

 入り口に控えていた二人の黒服さんとアベルが、サルちゃんを取り押さえました。
 サルちゃんは鼻歌でも歌いそうな様子で、部屋の外へと連れ出されていきました。
しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

月が隠れるとき

いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。 その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。 という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。 小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

(完結)王家の血筋の令嬢は路上で孤児のように倒れる

青空一夏
恋愛
父親が亡くなってから実の母と妹に虐げられてきた主人公。冬の雪が舞い落ちる日に、仕事を探してこいと言われて当てもなく歩き回るうちに路上に倒れてしまう。そこから、はじめる意外な展開。 ハッピーエンド。ショートショートなので、あまり入り組んでいない設定です。ご都合主義。 Hotランキング21位(10/28 60,362pt  12:18時点)

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました

お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

処理中です...