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そして、和平協議へ
126話 わたし、この人がよくわかりません
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「ブリアンくん、ちょっとやりすぎちゃったねえ」
のんびりとした声で剣をさやに納めたのは軍服サルちゃんでした。むだにかっこいいですけどオリヴィエ様の命の恩人効果でさらに後光が射して見えます。ちなみにそいつはブリアンじゃなくてブリアックです。本当に顔と名前覚えるの苦手なんですね。鶏さんがこっけこっこーしています。
「宰相くん、だいじょうぶかい」
「……ありがとう、ラ・サル将軍。命拾いをした」
「――ラ・サル将軍⁉」
ブリアックが弾かれた腕を押さえながら驚いた声をあげました。そして気をつけみたいな休めみたいな敬礼をします。
「お初にお目にかかります、ブリアック・ボーヴォワールと申します。このたびは我が隊へのご援助、感謝いたします」
「んー? なにそれ。僕、あなたを捕まえにきたんだけど」
「は……?」
言うが早いが、サルちゃんはブリアックの腕をとってひねりあげました。「なにをなさるのです⁉」と、抗議の声があがります。
「いや、だからあなたを捕まえにきたんだって」
「なぜです⁉ あなたは私たち側の人間のはずだ!」
ブリアックの主張に、空気が一瞬で冴え渡りました。「だからなに? それ。あなたたちと仲良くなった記憶はないんだけど。とりあえずうるさいし、黙っててよ」とサルちゃんが言うと、ブリアックが脱力してうなだれました。なにしたんでしょうか。こっこっこっこっこけー!!!
わたしたちの後方から、わらわらと黒服さんたちが入って来ました。そして、ここにいる、自分たちと同じ軍服を着ている人たちを捕縛していきます。えっ、なに、どういうこと? 捕まっている人たちもちょっと呆然としていて事態が把握できていなさそうです。オリヴィエ様はその場で、腕章をしている方から応急処置を受けていらっしゃいました。
「そして、ずっとソナコにくっついてるあなた。いいかげん放しなよ」
ブリアックを複数の黒服さんに渡しながらサルちゃんがいかにも嫌そうに言いました。そういやミュラさんを捕まえていた人は捕まって、ミュラさんは解放されましたが、わたしはそうじゃありません。「いやあ、役得なんで」と聴き慣れた声が降ってきました。
「……アベルじゃん……」
「そう。ずーっと俺」
なんだ、だからわたしだけ縛られなかったんだ。放してくれたので、周りを見渡しました。いかにも一斉検挙といった体の光景です。方々で抵抗の声があがっています。同じマディア軍の人たち同士での捕縛劇なので、なにがなにやら。ミュラさんが「いったいなんだ、なんなんだ?」とわたしの心を代弁してくれました。
サルちゃんが「んー、最近マディアに転向してきたやつらがね、なんかろくでもないこと考えてるって内部告発があったんだって。昨日の夜だかに。で、全員あぶりだして捕まえるために、泳がせたの。それで、今」と簡潔に状況を教えてくれました。はー、なるほどー!
「……ええっ、じゃあ、メラニーは⁉」
「マディア邸の外に避難してるよ。お医者さんたちといっしょに」
「よかっっったああああああああああああ!!!!」
叫んでその場にしゃがみこんでしまいました。よかった、本当によかった! 安心して涙がこみあげてきます。でもがまんして、オリヴィエ様の方を見ます。担架が運ばれてきていて、ちょうどそこへ横になられるところでした。立ち上がってそこに駆け寄りました。
「ソノコ」
わたしをご覧になって、青ざめた顔で少しだけ困ったような笑顔をオリヴィエ様は浮かべました。運ばれていくのにわたしもついて歩きます。
「あなたが捕まったときから、この流れになることは気づいていた。悲しい思いをさせてしまった、すまない」
「いやいやいやいやいやいやいやそんなことありませんぜんぜんだいじょうぶです問題ないですわりといけます最高です」
全力で自分でもよくわからないことを口走りました。たぶんあとでもだえますがどうして後悔って先に立たないんでしょうか。オリヴィエ様は笑って、すっと目を閉じられました。ミュラさんも駆け寄ってきました。病院に運ばれるそうで、わたしたちはそれを見送りました。
「さてー。なんか一味はみんなとっ捕まったみたいだし、一件落着かねえ」
サルちゃんの声がひびきました。その言葉の通り、がやがやとしていた広場にはもうほとんど人影がありません。わたしはサルちゃんに、「もうー、なんでもっと早く介入してくれなかったんですかー! オリヴィエ様、怪我しちゃったじゃないですかー!」と言い募りました。
「いやあ、そんなこと言ったって。鶏がうるさいから気になって、僕が覗いたときにはもう斬り結んでたもん。それからみんな呼んでさ。文句言うならあなたを捕まえてたその若作りくんに言いなよ。動こうと思えばいつだって動けたのは彼だよ」
「――ごあいさつですね将軍。若作りじゃなくて若いんですよ。ぴっちぴちですよ。あなたといっしょにしないでください」
「僕は年相応だよー、恥ずかしくて新兵ごっこなんかできないー」
「は? こちらも年相応ですが? ソノコと釣り合いのとれる年齢の若者ですが?」
「よく言うよねー。動きがぜんぜん雑兵じゃないのにさー」
初対面っぽいのになんか仲良しですね。にこにこでにらみ合うという要素がなければね。ミュラさんが「なんだ、どういうことだ、説明してくれ。あなたはだれだ」とアベルに言いました。そうでした、ミュラさんてジルの存在知らないんでした。
「はじめまして、公使さん。アベル・メルシエです。ソノコに魅了された哀れな男です」
「はー? 僕の方が先にソナコに骨抜きにされてるんだけどー?」
「そんな折れそうもない体でなに言ってるんですか。若い女性に熱を上げるには二十年遅いですよ」
「あなたそこそこ失礼だね。そう言うあなたも十年は遅いでしょう」
「耳が遠いんですか将軍? さっきも言いましたよね? 俺、若者です、ぜんぜん若者です」
ミュラさんは二人のそのやりとりをながめてからわたしをご覧になり、「たいへんだね、ソノコ」とおっしゃいました。はい。
現場検証みたいなのをする方たちが入ってきました。わたしたちは追い立てられつつ、重要参考人みたいな扱いで爆発の影響をうけていないところへの移動を頼まれました。鶏さんはわたしたちの姿を見ると突進してきました。ずっと外で騒いでくれたおかげでサルちゃんに見つけてもらえたということで、今回の功労鶏ですね。いっぱいエサあげなくちゃ。
サルちゃんがついてきてわたしの隣をぴったり歩いていたので、わたしは声をかけました。
「サルちゃん」
「なんだい僕のソナコ」
うやむやにされないように。はっきりと。
「ブリアックが、サルちゃんを自分の仲間だと思っていたのは、なぜですか」
サルちゃんはうれしそうに笑って、「だから、僕はソナコが大好きだよ」と言いました。
のんびりとした声で剣をさやに納めたのは軍服サルちゃんでした。むだにかっこいいですけどオリヴィエ様の命の恩人効果でさらに後光が射して見えます。ちなみにそいつはブリアンじゃなくてブリアックです。本当に顔と名前覚えるの苦手なんですね。鶏さんがこっけこっこーしています。
「宰相くん、だいじょうぶかい」
「……ありがとう、ラ・サル将軍。命拾いをした」
「――ラ・サル将軍⁉」
ブリアックが弾かれた腕を押さえながら驚いた声をあげました。そして気をつけみたいな休めみたいな敬礼をします。
「お初にお目にかかります、ブリアック・ボーヴォワールと申します。このたびは我が隊へのご援助、感謝いたします」
「んー? なにそれ。僕、あなたを捕まえにきたんだけど」
「は……?」
言うが早いが、サルちゃんはブリアックの腕をとってひねりあげました。「なにをなさるのです⁉」と、抗議の声があがります。
「いや、だからあなたを捕まえにきたんだって」
「なぜです⁉ あなたは私たち側の人間のはずだ!」
ブリアックの主張に、空気が一瞬で冴え渡りました。「だからなに? それ。あなたたちと仲良くなった記憶はないんだけど。とりあえずうるさいし、黙っててよ」とサルちゃんが言うと、ブリアックが脱力してうなだれました。なにしたんでしょうか。こっこっこっこっこけー!!!
わたしたちの後方から、わらわらと黒服さんたちが入って来ました。そして、ここにいる、自分たちと同じ軍服を着ている人たちを捕縛していきます。えっ、なに、どういうこと? 捕まっている人たちもちょっと呆然としていて事態が把握できていなさそうです。オリヴィエ様はその場で、腕章をしている方から応急処置を受けていらっしゃいました。
「そして、ずっとソナコにくっついてるあなた。いいかげん放しなよ」
ブリアックを複数の黒服さんに渡しながらサルちゃんがいかにも嫌そうに言いました。そういやミュラさんを捕まえていた人は捕まって、ミュラさんは解放されましたが、わたしはそうじゃありません。「いやあ、役得なんで」と聴き慣れた声が降ってきました。
「……アベルじゃん……」
「そう。ずーっと俺」
なんだ、だからわたしだけ縛られなかったんだ。放してくれたので、周りを見渡しました。いかにも一斉検挙といった体の光景です。方々で抵抗の声があがっています。同じマディア軍の人たち同士での捕縛劇なので、なにがなにやら。ミュラさんが「いったいなんだ、なんなんだ?」とわたしの心を代弁してくれました。
サルちゃんが「んー、最近マディアに転向してきたやつらがね、なんかろくでもないこと考えてるって内部告発があったんだって。昨日の夜だかに。で、全員あぶりだして捕まえるために、泳がせたの。それで、今」と簡潔に状況を教えてくれました。はー、なるほどー!
「……ええっ、じゃあ、メラニーは⁉」
「マディア邸の外に避難してるよ。お医者さんたちといっしょに」
「よかっっったああああああああああああ!!!!」
叫んでその場にしゃがみこんでしまいました。よかった、本当によかった! 安心して涙がこみあげてきます。でもがまんして、オリヴィエ様の方を見ます。担架が運ばれてきていて、ちょうどそこへ横になられるところでした。立ち上がってそこに駆け寄りました。
「ソノコ」
わたしをご覧になって、青ざめた顔で少しだけ困ったような笑顔をオリヴィエ様は浮かべました。運ばれていくのにわたしもついて歩きます。
「あなたが捕まったときから、この流れになることは気づいていた。悲しい思いをさせてしまった、すまない」
「いやいやいやいやいやいやいやそんなことありませんぜんぜんだいじょうぶです問題ないですわりといけます最高です」
全力で自分でもよくわからないことを口走りました。たぶんあとでもだえますがどうして後悔って先に立たないんでしょうか。オリヴィエ様は笑って、すっと目を閉じられました。ミュラさんも駆け寄ってきました。病院に運ばれるそうで、わたしたちはそれを見送りました。
「さてー。なんか一味はみんなとっ捕まったみたいだし、一件落着かねえ」
サルちゃんの声がひびきました。その言葉の通り、がやがやとしていた広場にはもうほとんど人影がありません。わたしはサルちゃんに、「もうー、なんでもっと早く介入してくれなかったんですかー! オリヴィエ様、怪我しちゃったじゃないですかー!」と言い募りました。
「いやあ、そんなこと言ったって。鶏がうるさいから気になって、僕が覗いたときにはもう斬り結んでたもん。それからみんな呼んでさ。文句言うならあなたを捕まえてたその若作りくんに言いなよ。動こうと思えばいつだって動けたのは彼だよ」
「――ごあいさつですね将軍。若作りじゃなくて若いんですよ。ぴっちぴちですよ。あなたといっしょにしないでください」
「僕は年相応だよー、恥ずかしくて新兵ごっこなんかできないー」
「は? こちらも年相応ですが? ソノコと釣り合いのとれる年齢の若者ですが?」
「よく言うよねー。動きがぜんぜん雑兵じゃないのにさー」
初対面っぽいのになんか仲良しですね。にこにこでにらみ合うという要素がなければね。ミュラさんが「なんだ、どういうことだ、説明してくれ。あなたはだれだ」とアベルに言いました。そうでした、ミュラさんてジルの存在知らないんでした。
「はじめまして、公使さん。アベル・メルシエです。ソノコに魅了された哀れな男です」
「はー? 僕の方が先にソナコに骨抜きにされてるんだけどー?」
「そんな折れそうもない体でなに言ってるんですか。若い女性に熱を上げるには二十年遅いですよ」
「あなたそこそこ失礼だね。そう言うあなたも十年は遅いでしょう」
「耳が遠いんですか将軍? さっきも言いましたよね? 俺、若者です、ぜんぜん若者です」
ミュラさんは二人のそのやりとりをながめてからわたしをご覧になり、「たいへんだね、ソノコ」とおっしゃいました。はい。
現場検証みたいなのをする方たちが入ってきました。わたしたちは追い立てられつつ、重要参考人みたいな扱いで爆発の影響をうけていないところへの移動を頼まれました。鶏さんはわたしたちの姿を見ると突進してきました。ずっと外で騒いでくれたおかげでサルちゃんに見つけてもらえたということで、今回の功労鶏ですね。いっぱいエサあげなくちゃ。
サルちゃんがついてきてわたしの隣をぴったり歩いていたので、わたしは声をかけました。
「サルちゃん」
「なんだい僕のソナコ」
うやむやにされないように。はっきりと。
「ブリアックが、サルちゃんを自分の仲間だと思っていたのは、なぜですか」
サルちゃんはうれしそうに笑って、「だから、僕はソナコが大好きだよ」と言いました。
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