【完結】喪女は、不幸系推しの笑顔が見たい ~よって、幸せシナリオに改変します! ※ただし、所持金はゼロで身分証なしスタートとする。~

つこさん。

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 そして、和平協議へ

122話 どういう展開ですかこれ

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「西館⁉」

 声がひっくり返ったみたいになりました。「西館の、どこですか⁉」つかみかかりそうになったのをすんでで抑えて、わたしはその侍従さんに尋ねます。「わかりません。こちらには、まだ爆発した、という情報しか」と、青ざめた顔でおっしゃいました。きっとわたしも同じ顔色です。血の気が引くってこういうことを言うんですね。侍従さんの気持ちが痛いほどわかりました。
 西館――とても広いのは知っています。わたしが滞在していた東側でさえ、知らない場所がたくさんあるんですから。それでもわたしが一番最初に思い浮かべて、吐きそうなくらいめまいを覚えているのはしかたがないことだと思います。

 ……わたしが行ったことのある唯一の西館のお部屋の主は――メラニー。

 いてもたってもいられなくて、わたしは近くの部屋の扉を開けて中に入りました。外。外が見たい。どこ。どこが爆発したの。
 窓に駆け寄って、解錠して、開け放ちました。窓の外はちょうど大きな建物と建物の境目、コの字型のおなか、三階あたり。あっちはどっち? 北? 南? 下を見たら兵隊さんが何人もあっち側に走って行きます。あっちはどっち? 身を乗り出すと、かすかにもわもわと煙があっちに見えます。だからあっちってどっち。わかんない、どこ? 後ろから両肩を引かれて「危ないです、ソノコ!」と言われました。ぎゃああああああオリヴィエ様のみ手がわたしの肩に!!!!

「安全なところへ行きましょう、とりあえず正門側に向かえばよさそうだ」
「ええっと、じゃああの煙は正門側じゃないってことですか⁉」
「そうですね。日の傾き方からいって、逆方向でしょう」
「さっすがオリヴィエ様! じゃあ、いってきます!」
「どちらへ?」
「煙のところへ!」

 走り出そうと扉の側を向いたところでまたしてもがっしりと両肩がつかまれました。なにこの背後霊未来永劫愛せる。「……私は安全なところへ行きましょう、と、言ったばかりですね?」じゃっかん手の力が強い気がするのですが。わたし肩こりはない方なんですが。「なんで火元に行こうとするんだ、危ないだろう」とミュラさんがあまりにももっともなことをおっしゃいます。えーっと。

「あの、もしかして、メラニーさんのお部屋じゃないかと思って」

 その言葉に一瞬でミュラさんの瞳が険しくなりました。「……なるほど」後ろから聴こえたオリヴィエ様の声も、とても鋭いものです。

「だからといって、いや、だからこそ、行ってはならない。わかりますよね、ソノコ?」

 うしろから言い聞かせるような麗しいみ声が。近い近い近い近い‼ 耳が‼ 耳が融ける‼ イケボで鼓膜融ける‼ 「はい幸せですありがとうございます‼」と、とっさに叫ぶと肩の手の圧が減りました。「それはよかった」と肩から手が外されます。

「控室は……北側か。正面玄関へ避難しましょう」

 廊下ではばたばたと音がします。いろんな人が走り回っているのでしょう。わたしはメラニーの無事を確認したくて、どうにかオリヴィエ様の目をかいくぐってあちら側に行く方法はないか考えました。そのとき。
 がんっ! と大きな音がして、わたしたちは一斉に窓を見ました。バタバタバタバタ! ……まじで?
 開けっ放しだった窓から、あの黒い卵を産む鶏……の雄。だからフォアグラ用の大きい成鳥が入ってきました。いやここ三階。ばたばたばたと大混乱で部屋を走り回ります。

「なんで鶏が空飛ぶの⁉」

 わたしが言うと、「バレアヴェック種は、元は渡りをする鳥だったという説がある。そのときのなごりで、緊急時などに飛ぶことが稀にある」とミュラさんが解説してくれました。そうね、今緊急時だもんね!

「どうどうどうどう!」

 掛け声はこれで合っているのかわかりませんが、わたしはフォアグラ鶏さんを隅に追い詰めてそう言いました。任せてください、ばあちゃんが亡くならなかったら野上養鶏場に履歴書を持っていくつもりだったんですよ。なので高校時代に鶏の扱い方はぐぐりました。頭と首のあたりをなでてあげれば落ち着くはず。たぶん。とさかを触らないように首筋をひとさし指でなでていきます。わりとさくっとおとなしくなってくれました。よかった。

「ソノコ……あなたは鶏使いなのですか?」
「えっ、あっ、そういう資格は持ってないです」

 鶏さんの背後に回ってそっと抱き上げたら、オリヴィエ様がまん丸の目でおっしゃいました。えっかわいいなにそれだれか写真を、写真を!!!! わたし資格はMOSと医療請求事務検定しか持ってません! 医療秘書実務検定一級は落ちました! あっ、上級救命講習は定期的に受けてましたよ! かわいい系オリヴィエ様貴重すぎてつらい。もうわたし鶏使いになる、今から鶏マスター名乗るよろしく!!!!

 避難ついでにお外へ連れて行こうということで、正面玄関へ向かいました。せわしなく人が行ったり来たりしていますが、一瞬みなさん「なぜ鶏?」という顔をされますね。鶏マスターなので。玄関ホールにはメイドさんたちが集まっていて、ざわざわと不安そうにしています。その間を突っ切って玄関を出て、「鶏小屋あちらなので、帰してきますね!」と言うと、「私も行きます。危険がないとは言えない」とオリヴィエ様がおっしゃり、ミュラさんもうなずきました。えー、わたしの身柄よりあなたたちの安全のがお国的にとっても重要なんですがそれは。……帰してくるついでに西側へ潜入して確認してこようと思ったのに。だめだったか。
 東側の、わたしがよくうろちょろしていたところまでは、本館の喧騒は届いていませんでした。庭師さんが「なんかあったんですー?」と聞いてこられたので、「西館で爆発があったみたいですー! それ以外わかりません!」と言ったら、びっくりして「おーい、爆発したってよぉ!」と叫びながら奥の方に走って行かれました。わたしもそれに続くように早足で鶏小屋に向かおうとしたら、「もういいでしょう、鶏はだれかに任せて、わたしたちは一度公使館へ戻った方がいい」とオリヴィエ様に言われてしまいました。

「でも……せめて、爆発した場所がどこかだけでも、確認しちゃいけませんか?」
「心配な気持ちはわかります。が、私たちになにかあったら、違う問題が発生します。わかりますね?」

 わたしはうなずいて、鶏さんを預けられそうな方がいないかあたりを見回しました。いない。みんな走って行っちゃいましたね。鶏さんに帰巣本能ってあるんでしょうか。「……やっぱりわたしが連れて行ったら」「だめです、置いて行きなさい」……はい承知しました。

 鶏さんに「あっち! わかる? ちゃんと帰ってね」と言い聞かせてお庭に放ちました。こっこっこっこ。正面玄関のロータリーのあたりへ戻ろうとしたときです。

「――ボーヴォワール宰相殿とミュラ公使とお見受けします。どうか私たちについてきていただきたい。抵抗は無駄です。そちらのお嬢さんを預からせていただきます」

 たくさんの黒服の兵士――マディア軍の制服の人たちに取り囲まれ、わたしはうしろから両腕を拘束されました。
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