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マディア公爵邸にて
115話 なに話せばいいんでしょうか、こういう場
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次の日。おはようございます。朝からちょっと騒がしい。と言いますのも、カヤお嬢様のおうち、ディアモンさんからお手紙が届いていまして。園子さんたら読まずに食べた。わけではなくて。まあとてもきらびやかなご招待状でしたのよ。公使殿、宰相閣下、そしてそのご家族も含めてご招待したいと。レアさんは。オリヴィエ様がみえたのでご意向を伺いました。「ディアモン財閥の……そうですね、つなぎを取るのもわるくはないでしょう」とのこと。
で、『非公式』という名目の、まあ規模的にいうと公式オリヴィエ様歓迎パーティーみたいのがカヤお嬢様のおうちで開かれることになりました。レテソルの主立った人が何人か来るようです。はい。それで朝からわやわやしているわけです。
「僕も行かなきゃだめなの?」
美ショタ様がいやーそうな顔ながら急きょ仕立てた紺色のスリーピースを着こなして、袖のあたりの調整をされています。襟付きのダブルベストで、一番下のボタンは外して。完璧身支度しときながらなに言っているんでしょうかこの美ショタは。グレⅡ世界のこちらでは、ネクタイはクラバットに近い形をしています。アスコットタイって言うんですかね。それをお兄さんのオリヴィエ様を真似てか、首に直接巻くスタイルで襟元を飾っています。ご自身の赤い髪色を少し抑えた感じのワインカラーで。かっこいいじゃないですか。
「そんなかっこいい服着たんですから、見せびらかしてくればいいじゃないですか。お似合いですよ」
わたしがそう言うと「まあ僕だからね。当然だろ」とおっしゃいました。そうですね。美ショタ様ですからね。
わたしは、クロヴィスのおうちからもらったオリーブグリーンのワンピース。それに、レアさんが貸してくれた真っ赤なベルト、わたしがアクセサリー苦手なので、首元に白と赤のスカーフ。スカーフって『布の宝石』って言うんですって。意外と合う……! 「あなた、こっちに来てから買った赤い靴、結局一度も履いていないじゃない。せっかくだし履いてあげなさいよ」とのこと。そうなんですよー。バラの花のパイピングが入った赤のエナメルヒール! やったー、なんかうれしい。小ぶりのきらきらしたシャンパンゴールドのハンドバッグも貸してくださいました。かわいい。本当にハンカチと口紅しか入らない。髪型はやっぱりハーフアップでお嬢様ごっこです。はい。
レアさんは、お昼だからかちょっと抑えめな色合いでした。イエローベージュのアイラインワンピースに、真珠の二連ネックレス。白のヒールに黒のラインが入った白いクラッチバッグ。それにさっと髪を巻いただけなんですけど、すてき。さすが。
ミュラさんはクロヴィスのおうちに王様のお手紙を届けたときみたいに文官の白い典礼服みたいので行くのかと思ったのですけど、ああいうのは儀礼訪問とかで使うだけなんですって。薄い茶色のダブルスーツに、ミュラさんの瞳と同じキレイな空色のタイ。チーフも同じ色。タイリングとフラワーホールのチェーン付き飾りピンは、ダイヤっぽい石がはまっているお高そうなやつでした。はい。嫌味なく着こなせるあたりがミュラさんもいいとこのご出身なのをうかがわせますね。とてもお似合い。
そして――。
いつもすてきなのですけれど。いつもすてきなのですけれど。あの、最初に断っておいた方がいいかな、と思うので述べておくのですが、いつもすてきなのですけれど。オリヴィエ様が。ええ、いつもすてきなのですけれど。とてもすてきで。いつもすてきなのですけれど。あの、黒ジャケットにグレーのベストのスリーピースで。あの、いつもすてきなのですけれど。タイは濃緑。飾りピンはたぶんプラチナとかで、アクセントでオリヴィエ様の瞳と同じ紫の石が入っていました。すてき。あまりにもすてき。やっぱり公使館専属写真家は必要では。ミュラさんに却下されましたけど私費で雇っては。なんでわたしは今ごろそんなことに気づくのか。根回しへたっぴか。あああああああこのお姿を、このお姿を後世に残せないいいいいいいいいい。
移動の自動車は二台に分かれました。ミュラさんの自動車とレアさんの自動車。両方ともお呼ばれに恥ずかしくない車種だそうで。今回は運転手さんがつきます。はい。お酒が出るかもしれないですし。そもそも公使自ら運転するなっていう話も出ましたし。はい。なので、男性三人がミュラさんの自動車に、わたしとレアさんがレアさんの自動車に、という感じです。
同じ市内なのでそんなに遠くないですね。自動車だと片道十分くらいです。それでも護衛の方が乗った自動車が前後につきましたけども。まあこれはしかたがないです。
と、いうことで、ひさしぶりのカヤお嬢様のおうちです! あいかわらずでかい。正面玄関前に立ってお出迎えしてくれたのは、執事のルークさん。他大勢。
中に入ると帰宅拒否症のカヤお嬢様のお父さんが出迎えてくれました。ええ、わたしじゃなくてオリヴィエ様をですけど。家に居ました。できるじゃないか。握手とあいさつがもろもろすむと、入ったことのなかった大きいパーティールームみたいなところに通されました。めっちゃ人いるやん。カヤお嬢様はそちらにいらして、とてもていねいな淑女の礼でわたしたちを迎えてくれました。お嬢様って感じ! 装いも、丈をふくらはぎまで伸ばした薄いピンクのドレス。かわいい。わたしを見て笑顔になって、そのあとはちらちらと美ショタ様をご覧になっているのでした。かわいい。
オリヴィエ様の少し後ろには絶えず護衛の王宮騎士さんがふたりつきます。オリヴィエ様に渡される飲食物の毒見役もかねているみたいです。いちおうね。なにかあってからでは困るからね。みんなへのあいさつを求められて、オリヴィエ様はちょっと高くなっている台のところへ行きました。
「お集まりの皆様。本日は私ボーヴォワール、そして公使であるミュラをお招きいただきありがとうございます。昨日こちらへ来たとき、マディアの人々が歓迎してくれているのを見てとてもうれしく思いました。同じ国にある者として、これからも手を取り合って参りましょう。皆様と、そして皆様とともにある人々がこれからも健勝で幸福でありますように」
みなさん「そうありますように」と唱和されました。不意をつかれたので遅れをとりましたが小声でまねっこしました。それが合図みたいになって、ざわざわとホールに話し声が広がっていきます。ミュラさんはレアさんと、わたしは美ショタ様と、みたいな感じで分かれました。オリヴィエ様は言うまでもなく、ミュラさんにもすぐに人だかりができました。
で、美ショタ様ですが。
「とりあえずなんか食べようよソノコ」
いいんでしょうか。このおぼっちゃんの毒見役はわたしなんでしょうか。と思ったらわたしたちの後ろにも警護の方がいらして、「お持ちします」とすっと取りに行かれました。で、戻られる前にはわたしたちもいろいろな人に囲まれていました。はい。主に若者たちに。
で、『非公式』という名目の、まあ規模的にいうと公式オリヴィエ様歓迎パーティーみたいのがカヤお嬢様のおうちで開かれることになりました。レテソルの主立った人が何人か来るようです。はい。それで朝からわやわやしているわけです。
「僕も行かなきゃだめなの?」
美ショタ様がいやーそうな顔ながら急きょ仕立てた紺色のスリーピースを着こなして、袖のあたりの調整をされています。襟付きのダブルベストで、一番下のボタンは外して。完璧身支度しときながらなに言っているんでしょうかこの美ショタは。グレⅡ世界のこちらでは、ネクタイはクラバットに近い形をしています。アスコットタイって言うんですかね。それをお兄さんのオリヴィエ様を真似てか、首に直接巻くスタイルで襟元を飾っています。ご自身の赤い髪色を少し抑えた感じのワインカラーで。かっこいいじゃないですか。
「そんなかっこいい服着たんですから、見せびらかしてくればいいじゃないですか。お似合いですよ」
わたしがそう言うと「まあ僕だからね。当然だろ」とおっしゃいました。そうですね。美ショタ様ですからね。
わたしは、クロヴィスのおうちからもらったオリーブグリーンのワンピース。それに、レアさんが貸してくれた真っ赤なベルト、わたしがアクセサリー苦手なので、首元に白と赤のスカーフ。スカーフって『布の宝石』って言うんですって。意外と合う……! 「あなた、こっちに来てから買った赤い靴、結局一度も履いていないじゃない。せっかくだし履いてあげなさいよ」とのこと。そうなんですよー。バラの花のパイピングが入った赤のエナメルヒール! やったー、なんかうれしい。小ぶりのきらきらしたシャンパンゴールドのハンドバッグも貸してくださいました。かわいい。本当にハンカチと口紅しか入らない。髪型はやっぱりハーフアップでお嬢様ごっこです。はい。
レアさんは、お昼だからかちょっと抑えめな色合いでした。イエローベージュのアイラインワンピースに、真珠の二連ネックレス。白のヒールに黒のラインが入った白いクラッチバッグ。それにさっと髪を巻いただけなんですけど、すてき。さすが。
ミュラさんはクロヴィスのおうちに王様のお手紙を届けたときみたいに文官の白い典礼服みたいので行くのかと思ったのですけど、ああいうのは儀礼訪問とかで使うだけなんですって。薄い茶色のダブルスーツに、ミュラさんの瞳と同じキレイな空色のタイ。チーフも同じ色。タイリングとフラワーホールのチェーン付き飾りピンは、ダイヤっぽい石がはまっているお高そうなやつでした。はい。嫌味なく着こなせるあたりがミュラさんもいいとこのご出身なのをうかがわせますね。とてもお似合い。
そして――。
いつもすてきなのですけれど。いつもすてきなのですけれど。あの、最初に断っておいた方がいいかな、と思うので述べておくのですが、いつもすてきなのですけれど。オリヴィエ様が。ええ、いつもすてきなのですけれど。とてもすてきで。いつもすてきなのですけれど。あの、黒ジャケットにグレーのベストのスリーピースで。あの、いつもすてきなのですけれど。タイは濃緑。飾りピンはたぶんプラチナとかで、アクセントでオリヴィエ様の瞳と同じ紫の石が入っていました。すてき。あまりにもすてき。やっぱり公使館専属写真家は必要では。ミュラさんに却下されましたけど私費で雇っては。なんでわたしは今ごろそんなことに気づくのか。根回しへたっぴか。あああああああこのお姿を、このお姿を後世に残せないいいいいいいいいい。
移動の自動車は二台に分かれました。ミュラさんの自動車とレアさんの自動車。両方ともお呼ばれに恥ずかしくない車種だそうで。今回は運転手さんがつきます。はい。お酒が出るかもしれないですし。そもそも公使自ら運転するなっていう話も出ましたし。はい。なので、男性三人がミュラさんの自動車に、わたしとレアさんがレアさんの自動車に、という感じです。
同じ市内なのでそんなに遠くないですね。自動車だと片道十分くらいです。それでも護衛の方が乗った自動車が前後につきましたけども。まあこれはしかたがないです。
と、いうことで、ひさしぶりのカヤお嬢様のおうちです! あいかわらずでかい。正面玄関前に立ってお出迎えしてくれたのは、執事のルークさん。他大勢。
中に入ると帰宅拒否症のカヤお嬢様のお父さんが出迎えてくれました。ええ、わたしじゃなくてオリヴィエ様をですけど。家に居ました。できるじゃないか。握手とあいさつがもろもろすむと、入ったことのなかった大きいパーティールームみたいなところに通されました。めっちゃ人いるやん。カヤお嬢様はそちらにいらして、とてもていねいな淑女の礼でわたしたちを迎えてくれました。お嬢様って感じ! 装いも、丈をふくらはぎまで伸ばした薄いピンクのドレス。かわいい。わたしを見て笑顔になって、そのあとはちらちらと美ショタ様をご覧になっているのでした。かわいい。
オリヴィエ様の少し後ろには絶えず護衛の王宮騎士さんがふたりつきます。オリヴィエ様に渡される飲食物の毒見役もかねているみたいです。いちおうね。なにかあってからでは困るからね。みんなへのあいさつを求められて、オリヴィエ様はちょっと高くなっている台のところへ行きました。
「お集まりの皆様。本日は私ボーヴォワール、そして公使であるミュラをお招きいただきありがとうございます。昨日こちらへ来たとき、マディアの人々が歓迎してくれているのを見てとてもうれしく思いました。同じ国にある者として、これからも手を取り合って参りましょう。皆様と、そして皆様とともにある人々がこれからも健勝で幸福でありますように」
みなさん「そうありますように」と唱和されました。不意をつかれたので遅れをとりましたが小声でまねっこしました。それが合図みたいになって、ざわざわとホールに話し声が広がっていきます。ミュラさんはレアさんと、わたしは美ショタ様と、みたいな感じで分かれました。オリヴィエ様は言うまでもなく、ミュラさんにもすぐに人だかりができました。
で、美ショタ様ですが。
「とりあえずなんか食べようよソノコ」
いいんでしょうか。このおぼっちゃんの毒見役はわたしなんでしょうか。と思ったらわたしたちの後ろにも警護の方がいらして、「お持ちします」とすっと取りに行かれました。で、戻られる前にはわたしたちもいろいろな人に囲まれていました。はい。主に若者たちに。
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