【完結】喪女は、不幸系推しの笑顔が見たい ~よって、幸せシナリオに改変します! ※ただし、所持金はゼロで身分証なしスタートとする。~

つこさん。

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 マディア公爵邸にて

102話 さすがにそれはやめとけ

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 お昼ごろにはミュラさんからと、レアさんと美ショタ様連名の手紙の二通をいただきました。手元に届いたときにはすでに開封済みでした。はい。ミュラさんからは、こうした事態を招いてしまったことへのねんごろな謝罪と、可及的速やかに解放してもらえるように働きかけていく旨が三枚の長文で書かれていました。たて読みとかは仕込まれていませんでした。レアさんからは便せんの半分くらいで心配していることと、動けない環境でも健康のためにできるだけ体操をしておくようにということが記されていました。残り半分は美ショタ様のスペース。『たいへんだね。がんばって。あと、ファピーのスクラップブック借りた。』とのことでした。はい。お言いつけ通り体操をすることにしました。まじでやることがなにもなくて。

「ラジオ体操だいいちー!」

 声を出してやり始めました。順番とかわかりませんけど、体が覚えているものですね。わたし小五の夏休みは皆勤でラジオ体操へ行ったんですよ。まさかそのときの経験が今に生きるとは。人生なにがあるかわかりませんね。なにごとも自分のできる全力を尽くせば巡り巡って結果がついてくるということを学べました。そして「たん、たららららららん」と言い終わるくらいに、ドアががっと開きました。全身よろいの騎士さんです。

「――なにをしているのですか」
「ラジオ体操です」

 沈黙が落ちて、そのまま騎士さんがフリーズしました。それ以上なにもなかったので両足とびの体操に移りました。そして腕と足のうんどーう。深呼吸で両手をあげたあたりでそっとドアの向こうに去って行かれました。なんだったんでしょうか。
 夕食の前に家令さんがいらっしゃいました。「珍妙な踊りをしていたとのことですが」と。失礼な。ラジオ体操です。「ひまなので体操をしていました」とお伝えしました。とても微妙な表情で去って行かれました。なんだったんでしょうか。
 ごはんはやっぱり三食ともヘビー級高カロリー食でした。なので三食の終わりに今後もラジオ体操します。第二はぜんぜんわからないですけどワンツーフィニッシュで。てことを次の日もやったら、夕飯前にクロヴィスから呼び出されました。どこかの個室に、あちらは執務机みたいのについて。わたしはその前に立たされたまま。わたしはこの二日間の不当なしうちで、すっかりクロヴィスへの畏怖みたいのが消えました。堂々としていることにします。

「――どういうつもりだ」
「なにがでしょうか」
「部屋で雨乞いの儀式をしていると聞いている。天候に影響を与えて軍の進行を遅滞させようという魂胆か」
「いやそんなことしませんしできませんて。ほかにすることないし、ただ食事だけとってじっとしていたら病気になるので体動かしているだけです。いただいている身分で文句いうつもりはないですけど、こちらのお食事、偏りがあるし。おいしかったです」
「偏り? 日々の食事は軍医に監修させている。そんなわけがあるか」
「いやいやいやいや、軍医さんとか、それは軍隊向け監修でしょう! えー、そんな毎日体動かしまくってるむきむきの男性に食べさせるメニュー、わたしに出してたんですか⁉ そりゃ重たいわけだ。いくらわたしが健康体だとしても、一週間で体壊しますよ! 断固わたし専用メニューを要求します!」

 クロヴィスは黙ってわたしを見て、「……わかった。それについてはメイドにでも伝えろ。それよりも、あなたにはいろいろ尋ねねばならぬことがある」と低く言いました。

「はいなんでしょう」
「なぜわたしの婚約者のことを知っていた」

 まあ、そう来るかなーとは思っていました。病状について、むしろ病気である、という状況自体が民間に伏せられていますからね。たぶんご存じなのも一握りで、あの軍議に参加していたおじさんたちくらいのものだったのでしょう。おじさんたちだって、全員知っていたとも限りません。
 わたしは「軍議で申し上げたとおりの感じなんですが。週刊誌とかみて、クロヴィスさんと婚約者さんがいっしょに暮らしているのは知っていましたし。なんで結婚しないのかなー、と思っていたんです」と言いました。

「――週刊誌には戦勝後に式を挙げるとの予想を書かせたはずだ」
「そういうやつが多すぎましたね。不自然でした。そして、急すぎる開戦。――簡単な推理ですよ」

 ホームズっぽく言いました。決まった。最高にかっこよかった今のわたし。それにしても「書かせた」とか言っちゃっていいんでしょうか。お口がすべりすぎじゃないでしょうかこのクロヴィスくん。

「……ラ・サル将軍にはどうやって取り入った。色で落としたのか」
「……わたしにそれが可能だと思いますか」
「いや」
「失礼だな! 失礼だな君は!」

 即答されてじゃっかん傷つきました。ええ、わかってはいましたけど手加減してくれても。「ラ・サル将軍はあなたを軍師に取り立てたとのことだ。そのうえ、あなたがリッカー=ポルカを離れることを容認したと。これはどういうことだ」と言われました。

「そんなこと言われても……わたし自身が、なんで軍議に連れていかれたのかもわかっていないです。ご本人に聞いてくださいよ」
「本人には照会した。具体的な返答はなかった」
「あー。じゃあそれが本当じゃないですかね。サルちゃんなんか思いつきで行動しそうな人だもん」

 わたしがそう言うと、クロヴィスは目に見えて動揺し肩を揺らしました。「あなたは――ラ・サル将軍を愛称で呼んでいるのか」とおっしゃいます。

「ええ、まあ。『サルちゃんでいいよー』とご本人がおっしゃったので」

 信じられないものを見る瞳をクロヴィスはわたしに向けます。じゃっかん怯えている気配があるのはなぜなんだぜ。自分を説得するかのように「そうか、そういうことだな、そうなんだ」とうなずきつつクロヴィスはつぶやきました。

「なるほど……にわかには信じがたいが、一説にソナコ・ミタは将軍の思い人とのことだった。そのゆえか。そうか、そうなんだな。そうだ、そうに違いない……」
「それガセネタなので信じないでくださーい。わたしたちなにもありませーん」

 わたしの言葉が耳に入ったか入らなかったか、クロヴィスは少し姿勢を正して、「――明日から庭の東側の散策と図書館の使用を許可しよう。邸内も家令が許す範囲であれば移動してかまわない。しかし軍事関連施設には近寄ってはならない。わたしからの非礼は詫びよう、ミタ嬢。それで許してはいただけないだろうか」とおっしゃいました。なにを許せと。「いえ、それ以前にわたしを解放してくださいよ」と言うと、「それはならない。あなたは知りすぎている。王党派の元へ戻すわけにはいかない」とクロヴィスは首を振りました。うむー。まあメラニーのことどうにかこうにかしなきゃいけないので、それを考えたら中にいられた方がいいけども。

「ごはんの内容、決めさせてください」
「すぐに対応しよう」

 お部屋も今の軟禁室じゃないところにしてくれるみたいです。ついでにここへ来てからはいれていないお風呂もお願いしました。じゃっかん誤解は生じたままですけど、待遇良くなったのでOKです。はい。家令さんが呼ばれ、いっさいがっさいが託されました。専用メイドさんもつけてくださるとか。性格いい人だといいな。今ごはん持ってきてくれる人、あきらかにいやいやな態度なんだもん。
 万事がつつがなくすぐに手配されて、家令さんが迎えに来ました。部屋を退出するときに、ふとまさかと思いつつクロヴィスを振り返って尋ねました。

「……もしかしてなんですけど。元気すぎるわたしが食べても胸やけするメニュー……メラニーさんにも出してたりしないですよね? まさか」

 少しの沈黙ののち、「確認しよう」とクロヴィスが言いました。
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