【完結】喪女は、不幸系推しの笑顔が見たい ~よって、幸せシナリオに改変します! ※ただし、所持金はゼロで身分証なしスタートとする。~

つこさん。

文字の大きさ
上 下
73 / 247
 領境の街・リッカー=ポルカ

73話 とりあえず言い訳は寝て考えます

しおりを挟む
「離婚だって言われたわあ」
「うちもー」
「あらー、うちもうちもー」

 なんでもないことのようにみなさんおっしゃってますけど、笑顔が作れていないのはひと目でわかります。きっとみんなおんなじ状況だ、ということで気持ちを保てているんじゃないかな。どうしたらいいだろう。わたしが焚き付けちゃったこと。責任感じるなっていう方がむりです。着られてうれしかったかわいい服も、なんだか重たく感じてきました。

「――理由がどうあれ、女に手を上げた時点でそいつは最低男よ」

 レアさんが吐き捨てるようにおっしゃって、カウンター席に着きました。「胸くそ悪いわね。ママ、うんと強いのちょうだい」と言ったレアさんに、「わかったわ。ちょっと待って」とコラリーさんがカウンター内に戻ってお仕事を始めました。わたしは、マダムたちとおじいちゃんが座っているボックス席に行って、コラリーさんが座っていたひとりがけ椅子に座ります。座る場所がなかったので、サルちゃんはカウンター席へ。

「あの…………ごめんなさい」

 他に言葉がみつかりません。みなさん一瞬しんとなってから、口々に「ソナコが謝る必要ないわ」「そうよ、うちのじじいが最低男なだけよ」「そうそう、うちのも」とおっしゃいました。

「でも、わたし、考えなしにみなさんといっしょにお出かけしてしまいました。かわいい服も、蒸気バスも、いい気持ちで受け止めてもらえないかもって、わかってたのに」
「あのね、そこであんたがへこむのはおかしいよ。あたしらはね、あたしらの判断で、着て、乗ったんだ」

 赤毛丸顔のマダムがきっぱりとおっしゃいました。黒髪長身マダムもうなずいて、「半分、こうなるかもなあ、て思っていたしね」と眉を八の字にしました。

「半分……どうにかならないかなあって、期待もしてはいたけれど」

 白髪マダムが頬を冷やしながらつぶやいて、みなさん諦めたような笑顔を浮かべました。それぞれのご家庭のことだから、もちろんわたしが踏み込めるようなことじゃないです。それに、なにかお手伝いできるようなことも思いつきません。どうしたらいいんでしょうか。どうしたら。
 コラリーさんがお盆にみんなの分のドリンクを乗せて持ってきてくれました。わたしの前にはオレンジジュース。頭を下げて受け取って、口に運びました。甘いけど、少しだけ苦く感じました。

「……みなさん、これからどうされるんですか?」

 聞いていいのかわからなかったけれど、お尋ねしました。わたし、ここの住人ではないから、なにかお手伝いできる期間だってあと一カ月もないんです。幸いお金だけはたくさんあるので……ほとんどレテソルのお家に置いてきちゃいましたけど、なんかカヤお嬢様の一件でもらっちゃった、日本円で三千万くらいのリゼが。なので、もしその方向で不安があるならこっそり必要分くらいお渡ししちゃだめかなって考えました。今の手持ちがなくなっても平気ですし。お金の使い道って他によくわかりませんし。わたしが持ってて、いいお金にも思えませんし。――でも、問題の根本ってそこじゃないんですよね。
 まさか、リッカー=ポルカまできて、他人様のお宅の離婚問題に関わることになるなんて思いもしませんでした……。

「うちは……まあ。離婚、かなあ……」

 黒髪マダムが、たぶんお家の方角を眺めながらおっしゃいました。びっくりして、ショックで、わたしはその顔を見ます。感情が抜け落ちたような表情で、マダムは言葉を続けました。

「もうさ。会話だってずっとないような夫婦だったんよ。嫁に行った娘もね、母さんよくいっしょにいられるね、ってずっと言ってた。普段こっちになんの関心もないくせに、我だけは通したいっていう。いやになっちゃうわ。いい機会」
「そうねー。アネちゃんとこ、ケンカもしないって言ってたもんねー」
「そうそう。それが突然怒鳴ってメンツがどーのこーの。あの人の声たぶん十年ぶりで聞いたわー。話せたのねー」

 もう気持ちが固まっているのでしょうか。わたしは自分で話を振っておきながら、なにも言えなかったです。黒髪マダムが赤髪丸顔マダムへ、「リっちゃんとこはどうなん」と尋ねました。

「豚がみっともないことするな! だってよ!」
「はああああああ⁉」
「ひどーい! なにそれー!」
「ひっどーい!」

 腕を組んで鼻を鳴らしながら、赤髪マダムはおっしゃって、わたしも思わず声を上げてしまいました。

「だいたい、二十三のときに『いっぱい食べる君が好き』ってプロポーズしてきたのはあっちなのにさ。ここまで育てておきながらなに言ってるんだって話よ」
「リっちゃんの旦那、ほっそいもんねえ」
「そうよ、あれであたしと同じくらい食べるんよ。ふざけんなってえ話よね。ムカついたし、おん出て来てやったわ!」

 赤髪マダムは、「どうせあたしがいないと家のことなんにもできない人。そのうち泣きついてくる」とおっしゃって、「コリちゃん、それまで世話になってもいいかい?」とおっしゃいました。

「当然じゃないの。みんな、うちで養うわよ。そのくらいの甲斐性はあるつもり」

 コラリーさん、かっこいい……。「たのもしい!」「いいねえ、女四人でいっしょに住んじゃう⁉」と、黒髪マダムと赤髪マダムが盛り上がります。白髪マダムはどこか心ここにあらずで、ただじーっと頬にタオルを当てていました。

「シューちゃん。ほら、新しいタオル。もうぬるいでしょ、それ」

 コラリーさんがしぼったタオルを差し出しました。白髪マダムははっとしてそれを受け取りました。

「シューちゃん。どうするんだい」

 コラリーさんが、しゃがんで顔を見て、そう尋ねました。白髪マダムのシューちゃんさんは、揺れる瞳をコラリーさんに向けて、おびえたような声で「――わっ……わかんない、わかんない」とおっしゃいました。

「……わかったよ。シューちゃん、今日はもう休もう。上に寝床作るから、ゆっくり休んで。……立てる?」

 コラリーさんが手を引いて、シューちゃんさんをカウンター奥の扉向こうへ連れて行きました。お店の中は静まり返って、黒髪マダムが「……シューちゃんは、べた惚れだからねえ」とつぶやきました。

「覚えてるよお。かっこよかったもんなあ、木こりのバラケの長男シモン」
「今や頭髪に逃げられた頑固ジジイだけどねえ」
「シューちゃんの目には、まだあんときのままなんだろうさ。……うらやましいよ、ホントさ」
「あたしらの旦那のグチにも、きっとノリを合わせてくれてたんだろうねえ。シューちゃんが旦那にたてつくとこなんか、見たことも聞いたこともない」
「あっはっは、ないない。……きっと今回が、初めてだったんじゃないかい」

 マダムたちはちょっと悲しそうな表情で、渡されたグラスを口に運びました。

「酒なんてひさしぶりだわ。家じゃ飲まない」
「あたしもだよ」
「じゃあ、今日は飲むかー!」
「のものもー!」
「ほらソナコも!」
「あっはいいただいてます!」

 マダムスパワーで、その日はわたしへのサルちゃんレアさんによる詰めが実施されなかったことをお伝えします。はい。
しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

(完結)「君を愛することはない」と言われて……

青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら? この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。 主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。 以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。 ※カクヨム。なろうにも時差投稿します。 ※作者独自の世界です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

月が隠れるとき

いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。 その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。 という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。 小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。

処理中です...