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領境の街・リッカー=ポルカ
65話 園子は見たかもしんない
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「えっとぉ……ごめんなさい!」
「……え?」
……まじ?
こんにちは。園子です。今コブクロさんの後ろの森にいるの。
気になるじゃないですか。応援したいじゃないですか。フラグしっかり折れる場面確認したいじゃないですか。でも正面切って「見に行ってい?」とは聞けないじゃないですか。なのでどうにか先回りしてお隣のチダルス村へ行こうと奮闘したわけです。それには馬車を上回る馬力で移動するほかないわけです。蒸気バスお願いできないかなーってちょっと思ったわけですよ。でもさすがに。さすがに「隣村まで出歯亀に行きたいんでバス出してください♡」とか言えないじゃないですか。ノエミさんお休みの日ですし。
ので、ちょうど先ほどいらした女王にお願いできないかなって。ぜったい退屈してるし。娯楽施設とかほとんどない上に休業してるし。ベリテさんの宿、温泉があるわけでもないし。ので、「ちょっとドライブしませんか」ってお誘いにいきました。すっごい渋ってましたけど、アシモフたんがスカート引っ張って「いこっいこっ」をしたので女王も折れてくれました。かわいい。アシモフたんかわいい。
で、隣村までぶーん。コブクロさんより早くぶーん。で、来てみたら森の中に集落がいくつか点在するようなところみたいで。コブクロさんの彼女さんはいったいどこに。わからないのでみつけた村の入り口のひとつに自動車を置いて、てんてんと見ていこうと思ったわけです。はい。そしたらですね。駐車して、降りて、鍵を閉めたら。どこからかうわぁあああああっと。うわぁあああああっと。子どもたちがたくさんやってきてですね。レアさんのかっこいい自動車を取り囲みました。そして無遠慮にぺたぺた触りまくります。
「わああああああ‼ なにすんのよあんたたち‼」
うわ貴重! レアさんのおっきい声貴重! めっちゃあわてて子どもたちを捕まえようとします。が、みんなきゃっきゃしながら逃げまくる。アシモフたんもなにかの遊びだと思ったのか、同じくおっきい声で「ぅわん!」と鳴いてぴょんぴょんしました。子どもたち爆笑。その上「のせてー!」コールが始まりました。
「だめに決まってんでしょう!」
「えー、やだー、のりたいー!」
フロント部分に乗り上げようとする子もいて。ああああ。さすがにそれは、とわたしも抱きとめて引き戻しました。結局レアさんが根負けして、ぜったい傷つけたりしない、余計なところを触らない、と固く厳命して中に座らせてあげていました。みんな乗った。後部座席に六人。と一匹。助手席に三人。なんかかわいい。ちょうかわいい。
「うごいてー!」
「だめに決まってんでしょう!」
レアさんが翻弄されている! レアですね! レアだけに! そうこうしていたら助手席にいたひとりの子がハンドルに手を伸ばしました。「だめ!」とさすがにレアさんとわたしの声が重なります。びくっとして手を引っ込めたんですけど、ちょっと泣きそうになってます。ぐずぐずいって。泣きました。えっ、なにこの罪悪感。
で、なんかみんな泣き出しそうな雰囲気になってしまったわけです。しかたがなく、レアさんがゆーっくり。ゆーっくり、村を半周することであやすことになりました。本当に危険だからぜったいに動いちゃだめよ! と厳命していました。みんなうんうんとうなずいて、息までひそめています。わたしはゆーっくり動く自動車のうしろを、ゆーっくり歩いてついていきました。ら、領境警備隊の名前がお腹に入った馬車が違う入り口に停まっていたのを見つけてしまったわけですよ。はい。
で、目撃してしまったわけです。コブクロさんのフラグ……もとい、心が折れる瞬間を。
「うーんとぉ。そもそもあたしたち、付き合ってたわけでもないし? 突然そんなこと言われてもっていうかぁ」
なん……だと……。コブクロさんの勘違い? たぶん両思い的ななにかで話していらしたが? いたたまれなくなってわたしは直視できません。と言いつつ見ます。「それに、領境警備隊って言っても、一番下でしょ? ……うーん、ないかなぁ」うっわ……。硬直するコブクロさんの背中に、わたしは手を合わせます。
「それにあたし、レテソルでディアモン商会に務めてる彼がいるのよねー。来年、彼のところに行くつもり!」
きゃはぁ! と声を上げて笑って、コブクロさんの心の彼女さんは手を振り捨て台詞とともに去っていきました。
「じゃあ、ブグローさんも、いい人見つけてね! がんばって!」
立ち尽くす姿にもちろんかける言葉などなく、すみやかにわたしはその場を立ち去ったのでした。
――なんか、もう、すまんかった。
「ソノコー‼」
最初の入り口付近に戻ってみたら、自動車が戻ってきていてレアさんがたいへんおかんむりでした。すみません。
「あたしに子ども押し付けてどこ行って……あっ、こら、だめよ! そこはだめ!」
アシモフたんは子どもたちと遊べてめっちゃくちゃテンション上がってます。たぶん自分も同類だと思ってるんだと思います。子犬ですからね。夕方になって、どの子かのお母さんが「ごはーん!」と言いに来たのを合図に、みんな一斉にじゃあねー! と去って行きました。嵐のようでした。
で、コブクロさんにバレないようにリッカー=ポルカへ戻ってきたわけです。なんだか濃い一日でした。はい。
「……え?」
……まじ?
こんにちは。園子です。今コブクロさんの後ろの森にいるの。
気になるじゃないですか。応援したいじゃないですか。フラグしっかり折れる場面確認したいじゃないですか。でも正面切って「見に行ってい?」とは聞けないじゃないですか。なのでどうにか先回りしてお隣のチダルス村へ行こうと奮闘したわけです。それには馬車を上回る馬力で移動するほかないわけです。蒸気バスお願いできないかなーってちょっと思ったわけですよ。でもさすがに。さすがに「隣村まで出歯亀に行きたいんでバス出してください♡」とか言えないじゃないですか。ノエミさんお休みの日ですし。
ので、ちょうど先ほどいらした女王にお願いできないかなって。ぜったい退屈してるし。娯楽施設とかほとんどない上に休業してるし。ベリテさんの宿、温泉があるわけでもないし。ので、「ちょっとドライブしませんか」ってお誘いにいきました。すっごい渋ってましたけど、アシモフたんがスカート引っ張って「いこっいこっ」をしたので女王も折れてくれました。かわいい。アシモフたんかわいい。
で、隣村までぶーん。コブクロさんより早くぶーん。で、来てみたら森の中に集落がいくつか点在するようなところみたいで。コブクロさんの彼女さんはいったいどこに。わからないのでみつけた村の入り口のひとつに自動車を置いて、てんてんと見ていこうと思ったわけです。はい。そしたらですね。駐車して、降りて、鍵を閉めたら。どこからかうわぁあああああっと。うわぁあああああっと。子どもたちがたくさんやってきてですね。レアさんのかっこいい自動車を取り囲みました。そして無遠慮にぺたぺた触りまくります。
「わああああああ‼ なにすんのよあんたたち‼」
うわ貴重! レアさんのおっきい声貴重! めっちゃあわてて子どもたちを捕まえようとします。が、みんなきゃっきゃしながら逃げまくる。アシモフたんもなにかの遊びだと思ったのか、同じくおっきい声で「ぅわん!」と鳴いてぴょんぴょんしました。子どもたち爆笑。その上「のせてー!」コールが始まりました。
「だめに決まってんでしょう!」
「えー、やだー、のりたいー!」
フロント部分に乗り上げようとする子もいて。ああああ。さすがにそれは、とわたしも抱きとめて引き戻しました。結局レアさんが根負けして、ぜったい傷つけたりしない、余計なところを触らない、と固く厳命して中に座らせてあげていました。みんな乗った。後部座席に六人。と一匹。助手席に三人。なんかかわいい。ちょうかわいい。
「うごいてー!」
「だめに決まってんでしょう!」
レアさんが翻弄されている! レアですね! レアだけに! そうこうしていたら助手席にいたひとりの子がハンドルに手を伸ばしました。「だめ!」とさすがにレアさんとわたしの声が重なります。びくっとして手を引っ込めたんですけど、ちょっと泣きそうになってます。ぐずぐずいって。泣きました。えっ、なにこの罪悪感。
で、なんかみんな泣き出しそうな雰囲気になってしまったわけです。しかたがなく、レアさんがゆーっくり。ゆーっくり、村を半周することであやすことになりました。本当に危険だからぜったいに動いちゃだめよ! と厳命していました。みんなうんうんとうなずいて、息までひそめています。わたしはゆーっくり動く自動車のうしろを、ゆーっくり歩いてついていきました。ら、領境警備隊の名前がお腹に入った馬車が違う入り口に停まっていたのを見つけてしまったわけですよ。はい。
で、目撃してしまったわけです。コブクロさんのフラグ……もとい、心が折れる瞬間を。
「うーんとぉ。そもそもあたしたち、付き合ってたわけでもないし? 突然そんなこと言われてもっていうかぁ」
なん……だと……。コブクロさんの勘違い? たぶん両思い的ななにかで話していらしたが? いたたまれなくなってわたしは直視できません。と言いつつ見ます。「それに、領境警備隊って言っても、一番下でしょ? ……うーん、ないかなぁ」うっわ……。硬直するコブクロさんの背中に、わたしは手を合わせます。
「それにあたし、レテソルでディアモン商会に務めてる彼がいるのよねー。来年、彼のところに行くつもり!」
きゃはぁ! と声を上げて笑って、コブクロさんの心の彼女さんは手を振り捨て台詞とともに去っていきました。
「じゃあ、ブグローさんも、いい人見つけてね! がんばって!」
立ち尽くす姿にもちろんかける言葉などなく、すみやかにわたしはその場を立ち去ったのでした。
――なんか、もう、すまんかった。
「ソノコー‼」
最初の入り口付近に戻ってみたら、自動車が戻ってきていてレアさんがたいへんおかんむりでした。すみません。
「あたしに子ども押し付けてどこ行って……あっ、こら、だめよ! そこはだめ!」
アシモフたんは子どもたちと遊べてめっちゃくちゃテンション上がってます。たぶん自分も同類だと思ってるんだと思います。子犬ですからね。夕方になって、どの子かのお母さんが「ごはーん!」と言いに来たのを合図に、みんな一斉にじゃあねー! と去って行きました。嵐のようでした。
で、コブクロさんにバレないようにリッカー=ポルカへ戻ってきたわけです。なんだか濃い一日でした。はい。
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