60 / 247
マディア公爵領編
60話 けっこう疲れました
しおりを挟む
結局おうちに帰れたのはお昼くらいでした。カヤお嬢様と約束したんで、ということが、なんかわたしがわがまま言ったみたいにおっさんに伝わったっぽくて時間がかかりました。ふざけんな。家帰れ。娘と毛根だいじにしろ。
二枚目の書類は作り直されて(訂正ではだめっぽかったです)、文言が『カヤお嬢様が望んだ場合に限り』接触が許される? 的ななにかに変わりました。問題ありません。はい。
帰ったら、お手紙が届いていました! ミュラさんからです。あの人は筆まめそうですもんね。「無事レテソルに到着しましたよー」とこちらの絵葉書でお知らせしたら、三枚の便箋でお返事が。レアさんと連名で。わたしの名前で出したんだけど。気が利きませんでした、次からはレアさんにも一筆いただきますね。はい。
そして、前にアベルに計算してもらった、リゼを円に換算したやつを確認したんです。ノート引っ張り出して。十万リゼって、62800000……いちじゅうひゃくせんま……ぎゃあああああああああああああああああ‼
半分ももらっちまったあああああああああああああああああ‼ どうしよおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼
あまりのことに怖くなって、レアさんに保管してもらうことにしました。ちょっと呆れたように苦笑されていました。すみません、本当にすみません。
で、本論に戻ります。ええ、わたしでも冷静に状況を見ることはできるんです。すごいでしょう。ほめていいですよ。わたしは今レテソルにいて、今はクロヴィスシナリオの中盤くらいで、内紛のきっかけとなるマディア領北東部事変を未然阻止するために動かなくてはなりません。マディア領の全体地図を開きます。こちらに来てからすぐに波乗りロランスさんからもらった、交通局単発バイト一覧を片手に。よーし、じゃあこれで。
「ソノコー、なにー、次どこ行く気なのお?」
レアさんがどこかたのしげです。わたしの後ろから地図を覗き込んで、わたしが指で押さえている場所を見ました。
「ちょっとくらい雪を見るのもいいかと思ってー。北東部のお仕事してこよーかなーってー」
にこっと笑って、レアさんが「いいわねえ、いこいこー」とおっしゃいました。
領境の街・リッカー=ポルカ。さてー、やってやりましょうかね!
「ああー、そっち方面かー。今、単発のは差し止めしてるんだよねえ」
ガーン。という効果音が聴こえた気がします。わたしはショックを受けて絶句しました。レテソル交通局にて。そんな。とりあえず現地に行っとけばどうにかなるだろというわたしの完璧な計画が。行くこともできずに頓挫する……だと……。
わたしがよほどショックな顔をしていたのでしょうか。波乗りロランスさんが「ちょっと待ってて、確認してくるから」とおっしゃいました。いつまでも待ちますので可及的速やかにお願いいたします。十分ほどで戻ってこられました。
「ソノコちゃん、バスの車掌やってみない?」
「えっ」
「できるできる。今ねー、新しい路線導入するところでさー」
えっという間に話が進んでいきました。リッカー=ポルカ、今再開発が進んでいるところだそうで。試験的に新路線導入するにあたり、基本はワンマン運転のところしばらくツーマンにするんだそうです。で、どんな人が乗るのか、需要があるのかも把握しなくちゃいけなくて。それによってバス停の位置も調整して。地域の人に馴染んでもらうにも、乗口で応対するのは若い女の子のがいいよねー、という話みたいです。本数も、プレ走行のうちは朝昼夕の三本だけ。そして平日の三日間のみ。お金の払い方とかわからない人ばっかりだから、やり方お知らせしたり、乗降手伝いしたり。
「……それって正社員さんの仕事ではないです?」
「いけるいけるー」
いけてもだめな気がしますが。なんでそんなにゆるっとしているんでしょうか。いやまあわたしはリッカー=ポルカへ行ける口実ができてありがたいですけども。ありがとうございます。人前に出る仕事、正直気が進みませんし嫌ですが。でも、背に腹は代えられない、ので。がんばります。……人命かかってるんですから。
期間はきっかり一カ月。週三の勤務。研修もするからすぐ行って! と言われてしまい、あわてて準備しました。交通局の寮があるので、そこへ滞在できるようにしてくれるそうです。今入っている人いないんですって。ちょっと安心。信任状と経緯を記したお手紙を持たされました。いいんですかね本当に。行っちゃいますよわたし。
「ええー! ソノコ、ひとりで行くのおー⁉」
レアさんが全力で抗議してきました。し、引き止められました。でももうなんか決まっちゃったし……。「いいもん、あたしもアシモフといっしょに行くもん。ソノコなんかしらないもんー!」と言われました。かわいい。レアさんかわいい。
で、次の日の朝には、着替えをパンパンに詰めたボストンバッグを持って遠距離蒸気バスに乗っていました。知らないとかいいながら、このバッグを貸してくれたのはレアさんです。ありがとう。途中休憩時間が二回ありましたけど、夕方までほとんど乗ってました。おしり痛い。腰も痛い。クッション持ってくればよかった……。
で、到着したわけです。リッカー=ポルカ。再開発中というだけあって、いろいろな建物に囲いがあったり、道路が舗装されていなかったり。バスが停まったのは中央広場というところでしたけれど、それもレテソルやルミエラで見てきたような光景ではありません。雰囲気としては田舎のシャッター街に近いなにかです。シャッターないけど。人通りがそもそも都会とは違います。夕方だからっていうのもあるからでしょうけど。
それでも、バスから降りた人たちはそれぞれの目的地へと迷うことなく無言で散って行きました。わたしは交通局を探さなくては。『ようこそ! リッカー=ポルカへ!』と書かれた立て看板にある、地域地図を見ました。……現在地からわりと遠いですね、交通局事務所。
必死。必死に歩きました。だってあんまり遅いとみんな帰っちゃうし。道の端っこに白いものがちょっとだけあります。雪だー。冬靴履いてきて正解だった。積もるほどは降らないって話ですけど。たぶん四十分くらい道なりに進んだところで、交通局の名前が見えました。あああー、よかった、まだ人がいる……。
たのもー! とは言いませんでしたけども。もちろん。気持ち的にはそんな感じで受け付けの中へ「こーんにーちはー!」と声をかけました。しーん。人。たのむ人。
「ぁあああーーーーい!」
もう一度声をかけようとしたところで奥の方から返事が。女性の声。よかった。路頭に迷うところだった。
ところで来る途中、お店とかぜんぜんなかったんですけど、ごはんとかどうしたらいいんでしょうかね……。
二枚目の書類は作り直されて(訂正ではだめっぽかったです)、文言が『カヤお嬢様が望んだ場合に限り』接触が許される? 的ななにかに変わりました。問題ありません。はい。
帰ったら、お手紙が届いていました! ミュラさんからです。あの人は筆まめそうですもんね。「無事レテソルに到着しましたよー」とこちらの絵葉書でお知らせしたら、三枚の便箋でお返事が。レアさんと連名で。わたしの名前で出したんだけど。気が利きませんでした、次からはレアさんにも一筆いただきますね。はい。
そして、前にアベルに計算してもらった、リゼを円に換算したやつを確認したんです。ノート引っ張り出して。十万リゼって、62800000……いちじゅうひゃくせんま……ぎゃあああああああああああああああああ‼
半分ももらっちまったあああああああああああああああああ‼ どうしよおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼
あまりのことに怖くなって、レアさんに保管してもらうことにしました。ちょっと呆れたように苦笑されていました。すみません、本当にすみません。
で、本論に戻ります。ええ、わたしでも冷静に状況を見ることはできるんです。すごいでしょう。ほめていいですよ。わたしは今レテソルにいて、今はクロヴィスシナリオの中盤くらいで、内紛のきっかけとなるマディア領北東部事変を未然阻止するために動かなくてはなりません。マディア領の全体地図を開きます。こちらに来てからすぐに波乗りロランスさんからもらった、交通局単発バイト一覧を片手に。よーし、じゃあこれで。
「ソノコー、なにー、次どこ行く気なのお?」
レアさんがどこかたのしげです。わたしの後ろから地図を覗き込んで、わたしが指で押さえている場所を見ました。
「ちょっとくらい雪を見るのもいいかと思ってー。北東部のお仕事してこよーかなーってー」
にこっと笑って、レアさんが「いいわねえ、いこいこー」とおっしゃいました。
領境の街・リッカー=ポルカ。さてー、やってやりましょうかね!
「ああー、そっち方面かー。今、単発のは差し止めしてるんだよねえ」
ガーン。という効果音が聴こえた気がします。わたしはショックを受けて絶句しました。レテソル交通局にて。そんな。とりあえず現地に行っとけばどうにかなるだろというわたしの完璧な計画が。行くこともできずに頓挫する……だと……。
わたしがよほどショックな顔をしていたのでしょうか。波乗りロランスさんが「ちょっと待ってて、確認してくるから」とおっしゃいました。いつまでも待ちますので可及的速やかにお願いいたします。十分ほどで戻ってこられました。
「ソノコちゃん、バスの車掌やってみない?」
「えっ」
「できるできる。今ねー、新しい路線導入するところでさー」
えっという間に話が進んでいきました。リッカー=ポルカ、今再開発が進んでいるところだそうで。試験的に新路線導入するにあたり、基本はワンマン運転のところしばらくツーマンにするんだそうです。で、どんな人が乗るのか、需要があるのかも把握しなくちゃいけなくて。それによってバス停の位置も調整して。地域の人に馴染んでもらうにも、乗口で応対するのは若い女の子のがいいよねー、という話みたいです。本数も、プレ走行のうちは朝昼夕の三本だけ。そして平日の三日間のみ。お金の払い方とかわからない人ばっかりだから、やり方お知らせしたり、乗降手伝いしたり。
「……それって正社員さんの仕事ではないです?」
「いけるいけるー」
いけてもだめな気がしますが。なんでそんなにゆるっとしているんでしょうか。いやまあわたしはリッカー=ポルカへ行ける口実ができてありがたいですけども。ありがとうございます。人前に出る仕事、正直気が進みませんし嫌ですが。でも、背に腹は代えられない、ので。がんばります。……人命かかってるんですから。
期間はきっかり一カ月。週三の勤務。研修もするからすぐ行って! と言われてしまい、あわてて準備しました。交通局の寮があるので、そこへ滞在できるようにしてくれるそうです。今入っている人いないんですって。ちょっと安心。信任状と経緯を記したお手紙を持たされました。いいんですかね本当に。行っちゃいますよわたし。
「ええー! ソノコ、ひとりで行くのおー⁉」
レアさんが全力で抗議してきました。し、引き止められました。でももうなんか決まっちゃったし……。「いいもん、あたしもアシモフといっしょに行くもん。ソノコなんかしらないもんー!」と言われました。かわいい。レアさんかわいい。
で、次の日の朝には、着替えをパンパンに詰めたボストンバッグを持って遠距離蒸気バスに乗っていました。知らないとかいいながら、このバッグを貸してくれたのはレアさんです。ありがとう。途中休憩時間が二回ありましたけど、夕方までほとんど乗ってました。おしり痛い。腰も痛い。クッション持ってくればよかった……。
で、到着したわけです。リッカー=ポルカ。再開発中というだけあって、いろいろな建物に囲いがあったり、道路が舗装されていなかったり。バスが停まったのは中央広場というところでしたけれど、それもレテソルやルミエラで見てきたような光景ではありません。雰囲気としては田舎のシャッター街に近いなにかです。シャッターないけど。人通りがそもそも都会とは違います。夕方だからっていうのもあるからでしょうけど。
それでも、バスから降りた人たちはそれぞれの目的地へと迷うことなく無言で散って行きました。わたしは交通局を探さなくては。『ようこそ! リッカー=ポルカへ!』と書かれた立て看板にある、地域地図を見ました。……現在地からわりと遠いですね、交通局事務所。
必死。必死に歩きました。だってあんまり遅いとみんな帰っちゃうし。道の端っこに白いものがちょっとだけあります。雪だー。冬靴履いてきて正解だった。積もるほどは降らないって話ですけど。たぶん四十分くらい道なりに進んだところで、交通局の名前が見えました。あああー、よかった、まだ人がいる……。
たのもー! とは言いませんでしたけども。もちろん。気持ち的にはそんな感じで受け付けの中へ「こーんにーちはー!」と声をかけました。しーん。人。たのむ人。
「ぁあああーーーーい!」
もう一度声をかけようとしたところで奥の方から返事が。女性の声。よかった。路頭に迷うところだった。
ところで来る途中、お店とかぜんぜんなかったんですけど、ごはんとかどうしたらいいんでしょうかね……。
1
お気に入りに追加
299
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
月が隠れるとき
いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。
その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。
という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。
小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
(完結)王家の血筋の令嬢は路上で孤児のように倒れる
青空一夏
恋愛
父親が亡くなってから実の母と妹に虐げられてきた主人公。冬の雪が舞い落ちる日に、仕事を探してこいと言われて当てもなく歩き回るうちに路上に倒れてしまう。そこから、はじめる意外な展開。
ハッピーエンド。ショートショートなので、あまり入り組んでいない設定です。ご都合主義。
Hotランキング21位(10/28 60,362pt 12:18時点)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
(完結)私より妹を優先する夫
青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。
ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。
ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる