【完結】喪女は、不幸系推しの笑顔が見たい ~よって、幸せシナリオに改変します! ※ただし、所持金はゼロで身分証なしスタートとする。~

つこさん。

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マディア公爵領編

60話 けっこう疲れました

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 結局おうちに帰れたのはお昼くらいでした。カヤお嬢様と約束したんで、ということが、なんかわたしがわがまま言ったみたいにおっさんに伝わったっぽくて時間がかかりました。ふざけんな。家帰れ。娘と毛根だいじにしろ。
 二枚目の書類は作り直されて(訂正ではだめっぽかったです)、文言が『カヤお嬢様が望んだ場合に限り』接触が許される? 的ななにかに変わりました。問題ありません。はい。
 帰ったら、お手紙が届いていました! ミュラさんからです。あの人は筆まめそうですもんね。「無事レテソルに到着しましたよー」とこちらの絵葉書でお知らせしたら、三枚の便箋でお返事が。レアさんと連名で。わたしの名前で出したんだけど。気が利きませんでした、次からはレアさんにも一筆いただきますね。はい。
 そして、前にアベルに計算してもらった、リゼを円に換算したやつを確認したんです。ノート引っ張り出して。十万リゼって、62800000……いちじゅうひゃくせんま……ぎゃあああああああああああああああああ‼
 半分ももらっちまったあああああああああああああああああ‼ どうしよおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼
 あまりのことに怖くなって、レアさんに保管してもらうことにしました。ちょっと呆れたように苦笑されていました。すみません、本当にすみません。

 で、本論に戻ります。ええ、わたしでも冷静に状況を見ることはできるんです。すごいでしょう。ほめていいですよ。わたしは今レテソルにいて、今はクロヴィスシナリオの中盤くらいで、内紛のきっかけとなるマディア領北東部事変を未然阻止するために動かなくてはなりません。マディア領の全体地図を開きます。こちらに来てからすぐに波乗りロランスさんからもらった、交通局単発バイト一覧を片手に。よーし、じゃあこれで。

「ソノコー、なにー、次どこ行く気なのお?」

 レアさんがどこかたのしげです。わたしの後ろから地図を覗き込んで、わたしが指で押さえている場所を見ました。

「ちょっとくらい雪を見るのもいいかと思ってー。北東部のお仕事してこよーかなーってー」

 にこっと笑って、レアさんが「いいわねえ、いこいこー」とおっしゃいました。

 領境の街・リッカー=ポルカ。さてー、やってやりましょうかね!

「ああー、そっち方面かー。今、単発のは差し止めしてるんだよねえ」

 ガーン。という効果音が聴こえた気がします。わたしはショックを受けて絶句しました。レテソル交通局にて。そんな。とりあえず現地に行っとけばどうにかなるだろというわたしの完璧な計画が。行くこともできずに頓挫する……だと……。
 わたしがよほどショックな顔をしていたのでしょうか。波乗りロランスさんが「ちょっと待ってて、確認してくるから」とおっしゃいました。いつまでも待ちますので可及的速やかにお願いいたします。十分ほどで戻ってこられました。

「ソノコちゃん、バスの車掌やってみない?」
「えっ」
「できるできる。今ねー、新しい路線導入するところでさー」
 
 えっという間に話が進んでいきました。リッカー=ポルカ、今再開発が進んでいるところだそうで。試験的に新路線導入するにあたり、基本はワンマン運転のところしばらくツーマンにするんだそうです。で、どんな人が乗るのか、需要があるのかも把握しなくちゃいけなくて。それによってバス停の位置も調整して。地域の人に馴染んでもらうにも、乗口で応対するのは若い女の子のがいいよねー、という話みたいです。本数も、プレ走行のうちは朝昼夕の三本だけ。そして平日の三日間のみ。お金の払い方とかわからない人ばっかりだから、やり方お知らせしたり、乗降手伝いしたり。

「……それって正社員さんの仕事ではないです?」
「いけるいけるー」

 いけてもだめな気がしますが。なんでそんなにゆるっとしているんでしょうか。いやまあわたしはリッカー=ポルカへ行ける口実ができてありがたいですけども。ありがとうございます。人前に出る仕事、正直気が進みませんし嫌ですが。でも、背に腹は代えられない、ので。がんばります。……人命かかってるんですから。
 期間はきっかり一カ月。週三の勤務。研修もするからすぐ行って! と言われてしまい、あわてて準備しました。交通局の寮があるので、そこへ滞在できるようにしてくれるそうです。今入っている人いないんですって。ちょっと安心。信任状と経緯を記したお手紙を持たされました。いいんですかね本当に。行っちゃいますよわたし。

「ええー! ソノコ、ひとりで行くのおー⁉」

 レアさんが全力で抗議してきました。し、引き止められました。でももうなんか決まっちゃったし……。「いいもん、あたしもアシモフといっしょに行くもん。ソノコなんかしらないもんー!」と言われました。かわいい。レアさんかわいい。
 で、次の日の朝には、着替えをパンパンに詰めたボストンバッグを持って遠距離蒸気バスに乗っていました。知らないとかいいながら、このバッグを貸してくれたのはレアさんです。ありがとう。途中休憩時間が二回ありましたけど、夕方までほとんど乗ってました。おしり痛い。腰も痛い。クッション持ってくればよかった……。

 で、到着したわけです。リッカー=ポルカ。再開発中というだけあって、いろいろな建物に囲いがあったり、道路が舗装されていなかったり。バスが停まったのは中央広場というところでしたけれど、それもレテソルやルミエラで見てきたような光景ではありません。雰囲気としては田舎のシャッター街に近いなにかです。シャッターないけど。人通りがそもそも都会とは違います。夕方だからっていうのもあるからでしょうけど。
 それでも、バスから降りた人たちはそれぞれの目的地へと迷うことなく無言で散って行きました。わたしは交通局を探さなくては。『ようこそ! リッカー=ポルカへ!』と書かれた立て看板にある、地域地図を見ました。……現在地からわりと遠いですね、交通局事務所。
 必死。必死に歩きました。だってあんまり遅いとみんな帰っちゃうし。道の端っこに白いものがちょっとだけあります。雪だー。冬靴履いてきて正解だった。積もるほどは降らないって話ですけど。たぶん四十分くらい道なりに進んだところで、交通局の名前が見えました。あああー、よかった、まだ人がいる……。
 たのもー! とは言いませんでしたけども。もちろん。気持ち的にはそんな感じで受け付けの中へ「こーんにーちはー!」と声をかけました。しーん。人。たのむ人。

「ぁあああーーーーい!」

 もう一度声をかけようとしたところで奥の方から返事が。女性の声。よかった。路頭に迷うところだった。
 ところで来る途中、お店とかぜんぜんなかったんですけど、ごはんとかどうしたらいいんでしょうかね……。
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