【完結】喪女は、不幸系推しの笑顔が見たい ~よって、幸せシナリオに改変します! ※ただし、所持金はゼロで身分証なしスタートとする。~

つこさん。

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マディア公爵領編

59話 約束は守りますよわたしは

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「呼び立ててすまなかった。わたしがカヤの父、ジョシュア・ディアモンだ。謝礼はここに用意した。検めてくれ」

 執務室? みたいなところに通されて、顔もわからないうちに開口一番めっちゃ低いええ声でそう言われました。省エネしてるのか、オイルランプがあんまり点いてないんですよ。ダンディな感じの、茶髪ツーブロックのメンズだということはわかりました。
 中身確認しろって感じで、ミュラさんがいつも持ち歩いているようなブリーフケースを開けて見せられたので、覗きました。リゼ札いっぱい。じーっと見ていたら「十万リゼ入っている」と言われました。十万。十万リゼっていくらですか。
 ねむくてしかたがありません。十万リゼがどうしたのでしょうか。よくわかりません。そのままぼーっとしていたら、ルークさんの声で「……主人からミタ様へお支払いする謝礼金でございます」と聞こえました。あ、ルークさんいたんだ。謝礼金? なんで? 上まぶたと下まぶたが七夕直前の織姫と彦星みたいになってます。もうくっついちゃえよ。でもまだだめっぽいです。あくびが。あくびが出そう。出ました。
 
「あの……謝礼とかいらないんで……」

 噛みころし損ねたあくびといっしょに言いました。ら、なんか舌打ちっぽい音が聞こえました。

「なんだ、金でなければなにが望みだと言うんだ。目的のものを言ってくれ。一両日中に用意させよう」

 は? なに? とりあえずええ声なのは認識しましたが、寝ぼけているため理解が追いつきません。寝たい。ねむい。
 ルークさんが壁際に控えているっぽかったのでそっちを見ました。この人なに言ってるんですか。ちょっと困ったような薄いほほえみで「ミタ様は、なにをご所望ですか、と主人はお尋ねしています」と言われました。

「え……べつになにも」

 あくびをあふあふ分散しながら言いました。ちょっと鼻の穴がふくらんだかもしれません。それを威嚇と思われたのでしょうか、カヤお嬢様パパさん(名前忘れた)が、こちらをにらんできました。

「――なにが目当てだ。カヤに取り入ったつもりだろうが、それでディアモンを動かせると思うなよ」

 ……なに言ってるのこのおっさん。
 ねむくてよくわかりません。「えーあのー、ごあいさつしようかと思って来ましたけど、なんかよくおっしゃってることがわからないので、あした起きてからにしてもらっていいですか? 部屋戻っていいです?」と言いました。めっちゃあくびしちゃいました。なんか一言二言いってた気がしますが、半分寝ていたのでとりあえずうんうんとうなずいておきました。
 その後のことよく憶えてないんですが、ルークさんが部屋まで連れて行ってくれたことはおぼえてます。はい。

 おはようございます! めっちゃいい布団で寝たのでメイドさんが起こしにくるまで夢も見ずに熟睡していました。たぶん枕がよだれまみれなので謝ったらメイドさんが無表情で吹き出しました。器用な人ですね。
 朝ごはん前にルークさんから「昨夜のことは憶えておいでですか」とこっそり声をかけられて、こっそり「正直さっぱり」と答えたら残念な子を見る瞳を向けられました。そんな目で見ないで。「のちほど二人でお話できるでしょうか」と小声で言われたので、「いいっすよー」と小声で返しました。はい。
 カヤお嬢様は、朝ごはんの場所でそわそわしていて、ルークさんに「パパはいつ来るの?」と尋ねていました。

「御館様は、昨晩遅くに一度いらっしゃいましたが、早朝に仕事へ戻られました」

 ガーン。という音が聴こえた気がします。カヤお嬢様がショックを受けて絶句しました。……あー、会いたかったのかあ。パパに会いたかったのかあ。なんだか気の毒でしかたがないですね。あのええ声のおっさんも、朝ごはんくらいゆっくりいっしょに食べてあげればいいのに。睡眠時間削ってまで仕事なんかせんでもいいでしょうに。頭皮ダメージ蓄積して抜け毛ひどいですよきっと。
 わたしが見つかったので、今日は学校に行くそうです。誘拐未遂なんていうたいへんな目にあったんですから、休んでも文句は言われないとは思いますけど。たぶんパパが家にいたら休んだんだろうなあ。「みんなにソノコ様のことを話すのよ!」とちょっと空元気っぽく声を張り上げていました。他人様のおうちのこととやかく言う気はないけどさー……なんかさー……おっさんがんばれよいろいろ。つーか家庭を顧みろ。
 自動車で登校するカヤお嬢様を見送ります。「ソノコ様、また遊びに来てくださる?」と言われて、なんか断りづらくて「はいー」と答えました。めっちゃうれしそうに笑ってくれるの見ると、なんか健気で泣けてきますね。
 レアさんはそのままアシモフたんのところへ。わたしは別室に呼ばれてルークさんとお話しです。ディアモン財閥の顧問弁護士さんだっていう方も同席されて、お名刺くださいました。女性弁護士かっけー。ベリテ・アイヤゴンさん。

「まずは、昨夜主人からお渡しできなかった、こちらをお受け取りください」

 ブリーフケースです。十万リゼです。十万リゼっていくら。アベルそこらへんにいないかな。ずっしりとしたバッグに、「いやー……正直、これはまじでいただけないですねえ……」と言いました。さすがに大金だってことはわかりますよ。今寝ぼけてないんで。たぶんリシャール側の駐屯地ひとつの年間維持費とかに匹敵する額くらい? ゲーム中で総額どんぐらいだったかちょっと覚えてないなー。ルークさんが苦笑されました。

「はい、ミタ様が金銭を目的としていないことは、ご様子を拝見していて理解しております。ですが、受け取っていただけないとまずは私たちの首が飛びます。どうか人助けと思っていただけませんか」
「んんー……」

 交渉の末、半額までまけてもらいました。それでも重かったです。受け取りのサインをする書類に修正が必要でした。お手数おかけします。その他に二枚の書類にサインを求められました。昨日寝る前になんかおっさんが言ってたのはこれのことみたいです。内容は、このお館内で知ったことを決して他言しないこと、それと、今後一切ディアモン家と関わらないこと、の二点でした。

「えーっと、他言はしませんけど。この、『一切関わらない』方の書類は、サインできませんねえ。さっきカヤお嬢様と、また遊ぶ約束しました」

 ルークさんと弁護士さんがきょとんとしました。
 約束は約束ですよ。
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