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マディア公爵領編
58話 ねむい……
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「この人よ! 間違いないわ!」
金髪ツインテのカヤお嬢様が高らかに宣言されました。今日は平日だと思うんですが学校はどうされたんでしょうか。速やかにルークさんとは違う執事さんっぽい人がどこかへ報告に向かわれました。
「主人は業務中のため別の場所におります。少々お時間をいただきたいのですが、この後のご予定はいかがでしょうか」
「問題ないわ。アシモフはどうしてる?」
「こちらの中庭で遊んでいます」
「そう」
レアさんはわたしの同居者で、名乗り出ることを説得した美人ということでかなり丁重に扱われています。わたしがないがしろにされているってわけではありませんが、おどおどしているわたしに悠々としたレアさんなら、自然とそういう空気感になります。はい。
「ソノコ様! わたしの、わたしの部屋を見て!」
腕を引かれてカヤお嬢様に言われました。「あらあ、行ってきたら。あたしはここで待ってるわね」とレアさんがひらひらと手を振ります。なんで懐かれているんでしょうかわたし。しかも様って。
廊下を移動中、メイドっぽい方と執事っぽい方がそれぞれひとりずつわたしたちに着いてきました。カヤお嬢様の話によると、レアさんの予想通り新聞に載せた窓口には新聞記者やらたくさんの黒髪女性やらが殺到したようです。カヤお嬢様といっしょにわたしを目撃した係員さんはそちらの窓口で女性の面談をしているそうで。その作業も終わるようにさきほど通達したようです。
「犯人はね、パパの仕事をよく思っていないやつだったんですって! わたし、ひどい目にあわされるところだったわ! ありがとう、ソノコ様!」
「あのー……その、『様』っていうの、むずがゆいのでやめていただけませんかね……ソノコでいいので」
「ソノコ様は、ソノコ様よ!」
カヤお嬢様がまた高らかに宣言されました。こっぱずかしい……。
お部屋は白とピンクで統一された、めちゃくちゃかわいい感じでした。これは自慢したくなりますね、わかる。おもちゃというか、コレクションという感じのドールハウスを見せてくれました。ジオラマっぽい感じで周辺のお庭とかもあって。湖畔ですね。ちょっとここのお屋敷と似た、白亜の豪邸です。中にはカヤお嬢様に似せたお人形と、男性と女性のお人形が食卓を囲んでいました。お父さんとお母さんかな。女性がカヤお嬢様と同じ金髪だし。
「これはね、お母様が住んでいたお家なのよ! 特別に作ってもらったの!」
「そうなんですねえ。今もあるお家なんですか?」
「あるって聞いたわ!」
ちょっとだけ、んん? とひっかかるものがありましたが、とくにつっこみませんでした。他人様のご家庭のこと詮索する気もありませんし。
他にもたくさんカヤお嬢様の好きなものを紹介していただきました。それぞれに「かわいー」とか「繊細な作りですねえ」とかコメントしていたのですが、途中でちょっともじもじしながら「あのね……ソノコ様のお人形も、作ってもらってもいい?」と言われました。家族団らんにわたしが潜り込むということでしょうか。それはお人形として肩身が狭くないでしょうか。「うーんっと……ちょっと嫌かもしれません……」と正直に言うとめちゃくちゃ落ち込まれてしまったので、最終的に「いいですよー」とこちらが折れました。はい。
ルークさんがいらっしゃって、「主人は、今日中にこちらへ到着するのが難しいとのことです。よろしければ本日はお泊りいただけませんでしょうか。お連れ様は問題ないとおっしゃいましたが、ミタ様のご意向を伺います」とのこと。カヤお嬢様がわたしのことを期待に満ちた瞳で見つめました。
「……ええ、ああ、はい。だいじょうぶです」
「やったわ! ソノコ様、いっしょにお食事しましょうね!」
手放しで喜ばれてしまいました。「ヤトに……コック長に、美味しいもの作るように言ってくるわね!」と部屋を飛び出して行かれます。ら、すぐ戻ってきました。
「ソノコ様の好きなものを教えて!」
ということで、お夕飯です。三人ですが。カヤお嬢様とわたしとレアさんですが。あのー……これ二十人前くらいありませんかね。ぜったい食べきれないけれど目移りするくらいキレイでおいしそうなものが並んでいます。それぞれに給仕がついて、ほしいものを伝えて取り分けてもらう感じみたいです。はい。あまりにもVIP扱いで冷や汗が出てきました。「あの、その……手前のやつお願いします……あ、ちょっとで」みたいな感じでしかお願いできません。アシモフたんは、玄関先のお部屋でごはんを食べてそこで過ごすようです。わんこ好きの職員さんが着いてくれているそうで。ありがとうございます。
カヤお嬢様は終始テンションあげあげでした。いつもはひとりでごはんを食べるんだそうです。みんなで食事できるのが本当にうれしいみたい。ここまでくるとさすがに察しました。お母さん、亡くなっちゃったのかなあ……。
お食事後、「談話室へ行きましょう!」と言われて席を立ちましたが……九割くらい手がついていないお料理を振り返り振り返り、その場を去りました。歩きながらそっとルークさんに尋ねます。
「あの……残したお料理……捨てちゃうんですかね……」
「……ああ。そのことを気にしておいででしたか。この屋敷の従業員に下げ渡されます、ご安心ください」
ちょっと笑って言われました。あああああああああよかった……。
談話室、カヤお嬢様が使うにはちょっとオトナな雰囲気のお部屋でした。ビリヤードっぽい台がありますし、壁面のキャビネットにはお酒の瓶がいろいろ飾ってありますし。
三人でトランプっぽいカードゲームをしました。ハルハルというんだそうです。かわいいですね。数字が十まででした。やったことがないと言うと、はりきってカヤお嬢様がルールを教えてくれました。七並べならぬ四並べみたいなゲームです。わりとヒートアップしました。わりと。手加減なしのレアさんに勝てるわけもなく、わたしとカヤお嬢様が最下位を譲り合っている感じでしたが。そうこうしているうちけっこうな時間になったため、メイドさんからそろそろ就寝時間です、とのお達しが。
「パパは……明日何時ごろに来るの?」
メイドさんにカヤお嬢様が尋ねました。わかりません、とのこと。カヤお嬢様、ちょっとしょぼんとしました。
おやすみなさい、と廊下で別れました。わたしとレアさんは隣り合った客室をそれぞれ割り当てていただいたので。
「たのしかったわ、またいっしょにしましょうね!」
元気いっぱいにおっしゃいます。素直でいい子だなあ。レアさんともお部屋前でおやすみーと別れました。で、顔を洗って歯を磨いて。ひっろーいベッドでうとうとしていたんですが。控えめにノックがされました。
「はいぃ……」
完全に寝ぼけながら起き上がり、よたよたとドアに近づいて開けます。スリッパどこかわからなかった。メイドさんが「ご就寝になられるところ、申し訳ございません」と。
「主人が今こちらに到着いたしまして……ミタ様とお会いしたいとのことなのですが、いかがでしょうか」
あくびで応答しました。いいっすよー。
金髪ツインテのカヤお嬢様が高らかに宣言されました。今日は平日だと思うんですが学校はどうされたんでしょうか。速やかにルークさんとは違う執事さんっぽい人がどこかへ報告に向かわれました。
「主人は業務中のため別の場所におります。少々お時間をいただきたいのですが、この後のご予定はいかがでしょうか」
「問題ないわ。アシモフはどうしてる?」
「こちらの中庭で遊んでいます」
「そう」
レアさんはわたしの同居者で、名乗り出ることを説得した美人ということでかなり丁重に扱われています。わたしがないがしろにされているってわけではありませんが、おどおどしているわたしに悠々としたレアさんなら、自然とそういう空気感になります。はい。
「ソノコ様! わたしの、わたしの部屋を見て!」
腕を引かれてカヤお嬢様に言われました。「あらあ、行ってきたら。あたしはここで待ってるわね」とレアさんがひらひらと手を振ります。なんで懐かれているんでしょうかわたし。しかも様って。
廊下を移動中、メイドっぽい方と執事っぽい方がそれぞれひとりずつわたしたちに着いてきました。カヤお嬢様の話によると、レアさんの予想通り新聞に載せた窓口には新聞記者やらたくさんの黒髪女性やらが殺到したようです。カヤお嬢様といっしょにわたしを目撃した係員さんはそちらの窓口で女性の面談をしているそうで。その作業も終わるようにさきほど通達したようです。
「犯人はね、パパの仕事をよく思っていないやつだったんですって! わたし、ひどい目にあわされるところだったわ! ありがとう、ソノコ様!」
「あのー……その、『様』っていうの、むずがゆいのでやめていただけませんかね……ソノコでいいので」
「ソノコ様は、ソノコ様よ!」
カヤお嬢様がまた高らかに宣言されました。こっぱずかしい……。
お部屋は白とピンクで統一された、めちゃくちゃかわいい感じでした。これは自慢したくなりますね、わかる。おもちゃというか、コレクションという感じのドールハウスを見せてくれました。ジオラマっぽい感じで周辺のお庭とかもあって。湖畔ですね。ちょっとここのお屋敷と似た、白亜の豪邸です。中にはカヤお嬢様に似せたお人形と、男性と女性のお人形が食卓を囲んでいました。お父さんとお母さんかな。女性がカヤお嬢様と同じ金髪だし。
「これはね、お母様が住んでいたお家なのよ! 特別に作ってもらったの!」
「そうなんですねえ。今もあるお家なんですか?」
「あるって聞いたわ!」
ちょっとだけ、んん? とひっかかるものがありましたが、とくにつっこみませんでした。他人様のご家庭のこと詮索する気もありませんし。
他にもたくさんカヤお嬢様の好きなものを紹介していただきました。それぞれに「かわいー」とか「繊細な作りですねえ」とかコメントしていたのですが、途中でちょっともじもじしながら「あのね……ソノコ様のお人形も、作ってもらってもいい?」と言われました。家族団らんにわたしが潜り込むということでしょうか。それはお人形として肩身が狭くないでしょうか。「うーんっと……ちょっと嫌かもしれません……」と正直に言うとめちゃくちゃ落ち込まれてしまったので、最終的に「いいですよー」とこちらが折れました。はい。
ルークさんがいらっしゃって、「主人は、今日中にこちらへ到着するのが難しいとのことです。よろしければ本日はお泊りいただけませんでしょうか。お連れ様は問題ないとおっしゃいましたが、ミタ様のご意向を伺います」とのこと。カヤお嬢様がわたしのことを期待に満ちた瞳で見つめました。
「……ええ、ああ、はい。だいじょうぶです」
「やったわ! ソノコ様、いっしょにお食事しましょうね!」
手放しで喜ばれてしまいました。「ヤトに……コック長に、美味しいもの作るように言ってくるわね!」と部屋を飛び出して行かれます。ら、すぐ戻ってきました。
「ソノコ様の好きなものを教えて!」
ということで、お夕飯です。三人ですが。カヤお嬢様とわたしとレアさんですが。あのー……これ二十人前くらいありませんかね。ぜったい食べきれないけれど目移りするくらいキレイでおいしそうなものが並んでいます。それぞれに給仕がついて、ほしいものを伝えて取り分けてもらう感じみたいです。はい。あまりにもVIP扱いで冷や汗が出てきました。「あの、その……手前のやつお願いします……あ、ちょっとで」みたいな感じでしかお願いできません。アシモフたんは、玄関先のお部屋でごはんを食べてそこで過ごすようです。わんこ好きの職員さんが着いてくれているそうで。ありがとうございます。
カヤお嬢様は終始テンションあげあげでした。いつもはひとりでごはんを食べるんだそうです。みんなで食事できるのが本当にうれしいみたい。ここまでくるとさすがに察しました。お母さん、亡くなっちゃったのかなあ……。
お食事後、「談話室へ行きましょう!」と言われて席を立ちましたが……九割くらい手がついていないお料理を振り返り振り返り、その場を去りました。歩きながらそっとルークさんに尋ねます。
「あの……残したお料理……捨てちゃうんですかね……」
「……ああ。そのことを気にしておいででしたか。この屋敷の従業員に下げ渡されます、ご安心ください」
ちょっと笑って言われました。あああああああああよかった……。
談話室、カヤお嬢様が使うにはちょっとオトナな雰囲気のお部屋でした。ビリヤードっぽい台がありますし、壁面のキャビネットにはお酒の瓶がいろいろ飾ってありますし。
三人でトランプっぽいカードゲームをしました。ハルハルというんだそうです。かわいいですね。数字が十まででした。やったことがないと言うと、はりきってカヤお嬢様がルールを教えてくれました。七並べならぬ四並べみたいなゲームです。わりとヒートアップしました。わりと。手加減なしのレアさんに勝てるわけもなく、わたしとカヤお嬢様が最下位を譲り合っている感じでしたが。そうこうしているうちけっこうな時間になったため、メイドさんからそろそろ就寝時間です、とのお達しが。
「パパは……明日何時ごろに来るの?」
メイドさんにカヤお嬢様が尋ねました。わかりません、とのこと。カヤお嬢様、ちょっとしょぼんとしました。
おやすみなさい、と廊下で別れました。わたしとレアさんは隣り合った客室をそれぞれ割り当てていただいたので。
「たのしかったわ、またいっしょにしましょうね!」
元気いっぱいにおっしゃいます。素直でいい子だなあ。レアさんともお部屋前でおやすみーと別れました。で、顔を洗って歯を磨いて。ひっろーいベッドでうとうとしていたんですが。控えめにノックがされました。
「はいぃ……」
完全に寝ぼけながら起き上がり、よたよたとドアに近づいて開けます。スリッパどこかわからなかった。メイドさんが「ご就寝になられるところ、申し訳ございません」と。
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