【完結】喪女は、不幸系推しの笑顔が見たい ~よって、幸せシナリオに改変します! ※ただし、所持金はゼロで身分証なしスタートとする。~

つこさん。

文字の大きさ
上 下
56 / 247
マディア公爵領編

56話 MA JI KA ☆

しおりを挟む
 ――みなさん、罪を犯したことはありますか。

 刑法で裁かれるもの、そうでないもの。表層に見えるもの、そうでないもの。日々わたしたちは、大きくても小さくても、罪を犯す。
 たとえば、殺人。それはすべからく法律に則り扱われるべき罪。たとえば、偽証。それも明らかになれば裁かれるでしょう。たとえば、怠惰。それは罪に含まれますか? 自身の怠惰ゆえに生じた不利益は、あなたを咎めるでしょうか。……場合によってはあなたは罪に定められないでしょう。
 そう。罪とは、とてもあやふやでありながら、そのじつ確かな手触りを持つ深みの泥濘。はまってしまえば、這い出せそうでそうではない。力を込めてあがけばあがくほど、深く沈み込んでしまう、泥濘。
 わたしは、罪を犯しました。それはだれかにとっては笑い事で、だれかにとっては蔑むことで、だれかにとっては取るに足りないことなのでしょう。……知っています。
 それでも。わたしは、罪を犯しました。そう告白します。そのあがきは、あるいはわたしの心のため。わたしの奥底にある気持ちの救済のため。――そうやって生きていくほかない。そう思ったことはありませんか。
 ……わたしは、嘆く。その泥濘の深さを思い。

「――たべものを粗末にしてしまったああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 七回表のトイレタイムで、わたしは個室で叫びました。隣の個室からガタンと音がしました。もったいないおばけはアウスリゼにもいるのでしょうか。わかりません。生息区域ではない気がします。しかしそもそもが生息をしていない気もします。ということは区域も関係ないのではないでしょうか。まじか。……来る。きっと、来る。あああああああああああああ。
 いえ信じてないですよ? べつにおばけとか。寝ぼけた人が見間違えたに決まっているじゃないですか。ははは。
 手を洗っていると、肩になにかがそっと触れました。

「ぎゃああああああああああ」
「……なぜ?」

 レアさんでした。まぎらわしいなあーもうー。今日はいっしょの部屋で寝る刑に処します。しかたないなあーもうー。

「下のお店に、おいしそうなの売ってた! 行こ!」
「いいですね~」

 ……三回裏に粗末にしてしまったお好みピザのお店でした。だよねー、おいしそうよねー、わかるー。さっきとは違う方向のお手洗いに来たはずなのにー。なんででしょうねー。スタジアムの造りがきっと左右対称なんですねー。はいー。
 何人か並んでいたのでその後ろにつきます。レアさんが「なんかねー、さっきそこら辺にいた人が言ってたんだけどー」とおっしゃいました。

「四回くらい? のときにー、三塁側のプレミアムシートに居た子どもがー、誘拐未遂されたんだってー」
「……へええええええええ!」
「それでー、観客の黒髪女性が助けたらしいんだけどー、なんか名乗り出てないとかでー」
「ソウナンダー」
「なんか、被害者いいとこのお嬢様だったみたいよ? 尋ね人になるかもねー」
「ヘエエエエエエエ」

 可及的速やかに帰宅したいです。いま三対三でめちゃくちゃこの後気になりますけど。そんな民間のごたごたに関わっているヒマはわたしにはないわけですよ。わたしにはグレⅡシナリオを書き換えるという使命があるのです。はい。とりあえず席に戻ってお好みピザを食べました。んまい。チーズたっぷりのもちもちお好み焼きっぽいピザでした。結果は引き分けで延長戦にもつれ込んだのですが(ファピーは七回で終了ですが、オープン戦でも延長戦はやるみたいです)、最後までいたら帰りの道が渋滞になりそうですねーみたいなことを言ったら、「あらあ、そうねえ。結果は新聞でわかるし、今のうちに帰っちゃう?」とレアさんがおっしゃいました。よっしゃ。売店でコメッツブルーエーローズのティミー選手のユニフォーム……は売り切れだったので、この前練習場でいっしょに肉巻きおにぎりを食べた、背番号24番リュシアン・ポミエ選手のを買いました。いっぱいありました。
 やっぱりわたしたちみたいに早めに帰ろうとされる方は少なくないみたいです。駐車場へ向かう人がけっこういました。なにごともなくぶーんとお家に帰りました。ぶーん。
 アシモフたんが荒ぶっていました。ちょっとお出かけでひとりにしすぎたでしょうか。お庭で遊ぼー、とマディア父さんを使って言ってもご機嫌を直してくれません。お怒りが解けるのを待ちましょう。
 いっしょにごはんを作りながら、レアさんに今日は三階の屋根裏部屋で一緒に寝ましょうと提案しました。きょとん、としてから「いいわねえ! そうしよう!」と言ってくれました。やった。

 おはようございます! 昨日はお布団を三階に持ち寄って、キャンプみたいにレアさんといっしょに寝ました。朝起きたらアシモフたんもいました。かわいい。ついでにお布団干そうかなーと思ってルーフバルコニーに出ました。めっちゃ広いんですよ、たぶんダンスパーティができる。嘘です、できません。ああー、新しい朝が来た感じがしますねー。希望の朝ですねー。端っこの日だまりに、にゃんこが丸まっていました。黒にゃんこ。にゃんこー。なにも興味なさそうにそっぽを向きながらちょっとずつ近づいていくと、なにもかもを見透かしたかのような瞳でじっと見つめられました。ちょっと心をえぐられました。そっぽ向いたまんま撫でようと手を伸ばしたらすっと歩いて行ってしまいました。つれない。ねこ太さんつれない。
 布団を干しました。レアさんもごそごそ起きていらして、「あたしもー」とおっしゃって隣に干しました。風も強くないのでこのままでだいじょうぶだと思います。
 ところでラ・リバティ新聞社はこちらにも支店があって、そこから朝刊を配達していただいています。顔を洗ってから外のポストまで新聞を取りに行きました。ちょうどお隣のポールくんがお散歩から帰って来たところだったのでごあいさつ。おはようございますー。
 レアさんがちゃっちゃと手早く朝食の用意をしてくれていました。「ソノコー、昨日の試合の結果なんて書いてあるー?」と聞かれたので、スポーツ欄を見ようと新聞を開きました。
 で、そのまま硬直しました。

----------

 休日の午後にあらわれた黒髪の天使‼
 ――少女を救って球場を去った、女性の素性を探る――

----------
しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

(完結)王家の血筋の令嬢は路上で孤児のように倒れる

青空一夏
恋愛
父親が亡くなってから実の母と妹に虐げられてきた主人公。冬の雪が舞い落ちる日に、仕事を探してこいと言われて当てもなく歩き回るうちに路上に倒れてしまう。そこから、はじめる意外な展開。 ハッピーエンド。ショートショートなので、あまり入り組んでいない設定です。ご都合主義。 Hotランキング21位(10/28 60,362pt  12:18時点)

月が隠れるとき

いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。 その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。 という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。 小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

(完結)私より妹を優先する夫

青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。 ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。 ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

処理中です...