【完結】喪女は、不幸系推しの笑顔が見たい ~よって、幸せシナリオに改変します! ※ただし、所持金はゼロで身分証なしスタートとする。~

つこさん。

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マディア公爵領編

52話 バケーションしつつがんばりますのよ

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 びっくりした顔でわたしを見下ろしているのはシリル・フォールさんでした。もぐもぐもぐ。総合商社『リュクレース』の一番えらい方です。経団連フォーラムでモデレーターだった。なんでこちらにいらっしゃるんでしょうか。もぐもぐもぐ。

「どこからつっこんだらいいかな? 泣きながら食べているのはなぜだい? そしてここにいるのはどうして? あと、ご一緒の素敵な淑女も僕に紹介してもらいたいんだが?」
「あら、最後のが一番早そうだわ。はじめまして、あたしソノコのルームメイトのレアって言います」
「はじめましてレア。僕はシリル。会えて光栄だよ」

 ふたりは握手をして、シリルさんはレアさんの手の甲にちゅーしました。そしてスルッとそのままレアさんの隣に座ります。さすが遊び慣れてんなー、シリルさん。見た目草食動物っぽいのに。てゆーかむしろムーミ……もぐもぐもぐ。
 
「二番目の質問にもあたしがお答えするわね。ソノコは雪が苦手なんですって。だから暖かい地方へ二人でバカンスに来たのよ」
「そこへ僕が通りがかったってわけだ。これはまさしく運命だね!」

 すごい偶然ですねー。もぐもぐ。……最後の一口を食べ終わってしまった……。悲しい……。手の中に残った油紙をじっと見ていたら、レアさんが「……もうひとつ買ってくるわね」と席を立ちました。「いやいや、僕が。君は座っていて」とシリルさんがそれを押し留めます。そこで「あら、そう?」とすっと引き下がれるのがレアさんのいい女成分です。さすがです。
 ……うーんとですね。結論から言うと。いくつかあった屋台が、わたしたちの周りを取り囲みました。はい。見学時間が終わったので帰って行かれる人々の視線が痛いです。はい。屋台の店員さんたち、ちゃんと時間外手当出るんでしょうか。わたしの元には肉巻きおにぎりが届けられました。わりとお腹いっぱいですが。いただきます。

「二人とも好きなものを頼んで。レア、お酒は?」
「あらあ、自動車で来てしまったの。せっかくだけどいただけないわ」
「置いていけばいいさ。君さえよければ、他の者に運転させて君たちの家まで届けてもいい」
「それいいわね、すてき!」

 運転代行サービスですね。はい。ということでふたりはワインを注文しました。ささっと提供されます。わたしお酒は詳しくないですけど、色からいってたぶんロゼワインとかいうやつだと思います。わたしのところにはそっとオレンジジュースが運ばれて来ました。シリルさんさすがすぎる。わたしが酒嫌いでオレンジジュース好きなこと覚えてる。記憶力はオリヴィエ様並みですね。こういう人が将軍になったら大奥も荒れないんだろうな。すっごいマメそう。
 そしてなんでこんな将軍様ごっこできるのかと思ったら、シリルさん、なんかこのキャンプとかのパトロンなんだそうです。

「うちの会社、冬季リーグの総合スポンサーなんだ。コメッツブルーは、僕が個人スポンサーしているチームの選手が所属する場所でもあるし」

 とのこと。そういやリュクレースの名前が入ったロゴ、そこかしこで見た気がしますね! オープン戦に合わせてちょっと遅い夏休みをとって来たんだそうです。ちゃんとメリハリあるお仕事、すばらしいですね。
 練習を終えて選手村へ戻る選手たちが、物見遊山な感じで何人か紛れ込んできて、いっしょに屋台ごはん食べました。「誰のファンなの?」と聞かれたので「ティミー・ロージェル選手です!」と答えたら、「やっぱねえ」と苦笑いされました。ちょう人気選手ですからね! お話してくださった方はティミー選手と同じラキルソンセン国のチームから冬季リーグに参加されたんだそうです。背番号24番リュシアン・ポミエ選手。おととし故障してしまって二軍所属になって、今回はトライアウトみたいな感じで来ているようです。「もうちょっと、現役でいたいんだよなあ」と。がんばってほしい。「たまにはぼくのことも思い出してよ」と言われました。「もちろんです、ちょう応援します!」と言ったら、「ありがとう」と握手を求められました。ちょう手がおっきい。
 そしてわたしは察しました。シリルさんのお邪魔になってはいけないと。レアさんのこの後の予定とか聞いてますし。お腹いっぱいで眠くなった、と言って、先に帰ります! と宣言しました。「わかったよ、運転手を用意しよう」とシリルさんがウィンクをくれました。上手に空気読めたようです。

 シャキっとした感じの男性ともうひとり女性がいらして、レアさんの車を代行運転で送ってくださいました。お二人ともシリルさんの秘書なんだそうです。知らない男性と車でふたりきりになるのはさすがにちょっと怖かったので、よかったです。
 お礼を言って家に入ると、アシモフたんがコンバたんといっしょに玄関先にいました。きゅんきゅん言われます。ひとりにしてごめんよおおおおおう。
 勝手にお泊りだと思っていたのですが、数時間後にはレアさんが帰って来ました。ちょっとオトナな抱擁を交わしてシリルさんとお別れしていました。ミュラさんごめんな。「今日は泊まって来られるのかとー」と言ったら「あらあ、初対面でお泊りするほど、あたし自分を安売りしたりしないわ」とのこと。かっけえ。よかったねミュラさん。
 次の日、お家にシリルさんから白いバラのゴージャスなアレンジメントが届きました。きっとレアさんをイメージしたとかそういうやつです。で、いっしょにお米も届けられたわけですよ‼ 肉つきで‼ シリルさんさいこう‼ いけめん‼ マメ将軍‼
 我が家の食卓に、白米が上ることになりました……! 泣ける……。

 そして、ショッピングのときに買いました。マディア領全体と、レテソルの地図。遊んでばかりはいられませんので。わたしのグレⅡ知識を総動員して、イベントが起こる場所と時期を特定しようと思います。今、シナリオのどこらへんなんでしょうかね。
 そしてできれば今週中に、クロヴィスが住んでいる公爵邸も見ておきたいですね。外観がかっこいいらしくて、観光名所扱いらしいですし。正門前とかに「たのもー!」はできないですけど、いい感じに全景が見えるスポットがあるんだそうです。そこ行きましょう。
 わたしはレアさんみたいに諜報訓練受けたこともない一般人ですけども、レアさんだって、ジルだって知らないことを知っています。やってやろうじゃないですか、知識チート。きっとわたしはそのために……オリヴィエ様を死なせないために、ここに来たんだと思うので。
 あのね、ゲーム内では、オリヴィエ様が笑う立ち絵はなかった。いつも真剣に自分の職務に打ち込んでいらして、笑えるような場面はなかった。エンディングにはいらっしゃらないので、すべての人が笑顔で描かれた中、オリヴィエ様だけが過去の記憶のまま。だから、経団連フォーラムでわたしのノートをご覧になって笑ってくださったとき、言葉では表せないくらい感動して、感情が追いつかなかった。オリヴィエ様だって、たのしいときには笑うんだ。あんなにきれいに。
 ずっと笑っていられたらいいのに。オリヴィエ様も。みんなも。
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