【完結】喪女は、不幸系推しの笑顔が見たい ~よって、幸せシナリオに改変します! ※ただし、所持金はゼロで身分証なしスタートとする。~

つこさん。

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王都ルミエラ編

16話 計算なんてきらい

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 ところでわたし、通っていたの私服校だったんですよ。群馬じゃないですけど。毎朝毎朝服を考えるのが面倒だしお金がかかるので、『エセいふく』と呼んでいたものを着ていました。紺色プリーツスカートにセーラー襟のシャツ。安っぽい生地でもリアルJKが着るとちゃんと制服に見える不思議。仕事着にした深緑のマキシ丈ボックスプリーツを穿きながら、なんとなくそのときのことを思い出していました。
 
 交通量調査のお仕事を始めて二週間目です。アベルは半分ついてきて、半分ついて来ない感じです。なんか他にもお仕事あるでしょうしね。旅行記とかね。わたしの観察日記の進捗はどうなんでしょうかね。気になりますね。

 先週末、お給料を初めて受け取って感動しました。これですよこれ。労働して対価を得る。最高。
 その足で王宮まで行って約束の日誌一週間分を届けたんですが、門衛さんがなぜか中に入るようにと促してきました。いやです。とは言えないので入りまして、通されたのは小さめの窓がある部屋でした。座っていたら、ミュラさんが不機嫌そうに入ってきました。入り口には衛兵さんがひとり立っていました。

「仕事を始めたと聞きました」
「お耳が早い」
「あなたみたいに目立つ容姿の人が、街角で座っていたら話題にもなりますよ」

 ミュラさんは丸メガネを外して、右手で目頭のあたりをもみます。あれっ、ジル報告じゃないんでしょうか。

「警ら中の警察官から、定期的にあなたの目撃情報が上がってきます。なんだってあんな仕事を選んだのです」
「えっ、わたし外国人ですし」

 この人なに言ってるんでしょうかね。書記官だと市井のことがあんまりわからないんでしょうか。他の仕事なんかできませんて。てゆーかやたら警察官さんが敬礼してってくれるなーと思っていたんですが(左カチッしながら敬礼返ししてました)、あれ全部報告されてたんですね……まあいいんですけど。

「身分証ありませんので。他のお仕事はそもそも面接すら受け付けてもらえません」

 とてもとても長い沈黙のあと、「なるほど」とミュラさんはおっしゃいました。納得いただけて幸いです。

 そんなこんなで、今日も懐が広い人手不足交通局のお仕事です。今は朝の数時間の後にお昼担当の方に交代して、午後からまた数時間という感じで、週五勤務です。これでだいたい週給50リゼです。カレンダーは地球と同じなんでしょうか? 月に四週あるとして、月収200リゼ! これが日本円でどれくらいかを考えてみました!

 前にワンピースを古着屋さんに売ったとき、7000リゼで、ざっくり肌感覚で「一般人の年収くらいかなー」って思ったんですよ。軍配備の塩梅とかと兼ね合わせて。半年くらい前群馬にいるときにぐぐった知識によると、たしか日本での20代の平均年収って、440万円切るくらいだって書いてあったんですね。うそつけ。わたしは必死に早出して残業して200万切ってたぞ。それはそれとして、そういう感じで、昨日寝る前に計算してみました。

 ……たぶん1円が16リゼくらい! たぶん!

 7000リゼを440万円で割ってみます。15.9090でした。
 なんかわかりづらいので16っていうことにします!
 ところでこの16ってなんの数字でしょうか。そもそもわたしはなぜ7000を440で割ろうとしたのでしょうか。計算したノートを見ると、その後に100割1600ってやってるんですよ。なぜなの。わたしはその数字に何を見出そうとしたの。どうして。わからない。
 でもとりあえず昨日のわたしは1円16リゼ、と判断していました。いいでしょう、昨日のわたしを信じます。ありがとう昨日のわたし。

 数字、苦手なんです。

 見方を変えましょう。
 あのですね、リゼの下にラリ、という通貨単価があるんです。これは1リゼ1000ラリに相当するのですが、普段の生活ではほとんどこちらの硬貨ばかり授受します。ちなみにリゼはお札です。なんか初代王様の顔が描いてある。
 てことは、月収200000ラリ。ゼロがいっぱい!
 で、下の雑貨屋さんで石鹸が130ラリ。朝食は500ラリくらい。一日で使うのがだいたい2000ラリ、ということは2リゼ。
 毎日外食しても、62リゼしか使わない! ということは62000ラリ! 残るのは138000ラリ! たくさん! 物価安っ! どうりでキッチンが簡易なわけだ!

 ……え、普通に良くね? てゆーか、アウスリゼだいじょうぶ? 不景気日本より危なくない? 知らんけど。

 ちなみにお家賃は先払いで半年900リゼでした。その他に保証金で200リゼ。こんなもんなんでしょうか、わかりません。

 と、いうことで‼
 交通局に面接に来る他の若い人たちが、なぜ給料安いと嘆いて去っていくのかわかりません! 十分生活できるし余裕あるじゃん! ありがとう交通局、ありがとうカチカチ!

 そう思いながらカチカチしていました。ときどき近所のガキ……いえ、お子さまがやってきて冷やかして行きますが適当に相手したら放っておきます。この子たちは、トビくんやオレリーちゃんみたいに働かなくても生活できるお宅に生まれたんですね。と考えたら、ちょっとだけ二人の顔が見たくなりました。お昼休み三時間あるしオレリーちゃんのお店に行ってこよう。

 お昼の方と交代します。ジャン=マリー・シャリエさん。早朝市場の卸しの仕事をされていて、掛け持ちでカチカチをされています。無心になれる時間が数時間あると寝付きが良くなるんだそうです。それにお子さんが進学したいと言ったときのために、こっそり貯金もしたいとのこと。いいお父さん。すてきです。

 カチカチは、こうやって他のお仕事がメインの方が多くされているみたいで、わたしみたいに「いつでもどこでもいいでーす」とかいう人間はまれらしいですね。そりゃそうだ。短期間じゃなくて長期希望したら、面接のおじさんも驚いていましたしね。そのときもらったクッキーはその場で食べましたが、わたしはあのおじさんのお孫さんが六歳だと知っているので知らない人じゃないです。食べていいと思います。

 お昼休憩のために歩きだしたら、すっと隣にアベルが現れます。なんなんでしょう。いっつもどこで見張ってるんでしょうかね。ちなみに昨日はわたしがおごったので今日はアベルのおごりです。ぜったいわたしより稼いでいるから遠慮はいりません。

 行きたい店がある、と言ってオレリーちゃんのところに来ました。混んでます。しかたがない。
 ちょっと待ってから中に入ると、くるくるとオレリーちゃんが働いていました。かわいい。
 こっちを見て「いらっしゃいませー!」と言い、目を見開きます。そして叫びました。

「ソノコー‼」

 はい園子です。
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