【完結】喪女は、不幸系推しの笑顔が見たい ~よって、幸せシナリオに改変します! ※ただし、所持金はゼロで身分証なしスタートとする。~

つこさん。

文字の大きさ
上 下
11 / 247
王都ルミエラ編

11話 のーさんきゅーです

しおりを挟む
 ノックがあってドアを開けると、衛兵さんが困ったような顔をしました。「どうされました?」と聞かれたのですがわたしはどうされたのでしょう。

「泣いていらっしゃいますよ」
「なんとぉお⁉」

 ブラウスの袖で拭いました。ぐいっと。すっぴんなのでぐいっと。
 モブ衛兵さんが連れてきたのは丸眼鏡をかけた若い男性と、いかにも几帳面そうな詰め襟ドレスの壮年女性でした。ゲーム内では見かけなかったと思います。おふたりともわたしに対して略式の礼をとりました。なにそれこわい。なんかお客様として扱われてませんか。なにそれこわい。

 男性はわたしの事情聴取のために遣わされたリシャール付き秘書官さんのひとりだそうです。なにそれこわい。エルネスト・ミュラさん。お名刺はくださいませんでした。女性は名乗らなかったので、きっと男性と二人きりにすることはできないのでいっしょに連れてこられた女官さんかなにかではないでしょうか。異世界テンプレには詳しいんです。任せてください。

 オイルランプひとつでは部屋が暗いので、女官さんが壁掛けのランプに火を入れていきます。壁紙がちょっとだけ上に向かってすすけていますね。ゲームでは背景画像が暗いなんてことは、そういう演出ではないかぎりあり得なかったので、ああ、やっぱり現実世界なんだなあ、などと実感しました。それと、グレⅡ世界ではまだ電球が発明されてないんですかね。蒸気バスはあるのに。これはあれですか、歴史は一方向に進むわけではない、とかそういう感じですかね。

 窓の近くにテーブルクロスのかかった丸テーブルがあったのですが、ミュラさんがそこに座るようにとわたしを促しました。席に着くと、ミュラさんは反対側に座って状況説明をしてくれました。

「リシャール殿下が、あなたを客人として迎えるとおっしゃいました」
「え、やです」

 ミュラさんが目をおっきくしました。女官さんはなにも聞いていないかのように壁側に立っています。すみません本音が。わたしの本音が失礼しました。建前の練習しておきますので許してください。そもそもわたしそれほどリシャール好きじゃないんですよ。

「……断られる、と?」
「いえいえいえいえいえいえとんでもございません。あまりにも恐れ多いことに口が滑りました」
「…………。まあ、もちろんあなたが拒否することはできませんが。――あなたのことを調べましたし、『反省文』も読みました。また、先刻の殿下の質問への解答も把握しております」

 外から聞いていたんでしょうか。と思ったら、わたしの言葉が丸々記された紙を持っていました。え、速記者とかがいたんですかね。あれマジモンの尋問だったんですね。こわっ。
 ミュラさんは少し怒ったような口調で言葉を続けます。なんか目が怖いんですけど。

「私自身は、あなたを危険人物ではないと考えるには情報が足りないと思っています。殿下の温情によってこのような扱いになったことをゆめゆめお忘れなきよう。いくつか確認したいことがありますので、正直に答えてください」

 聞かれたのは、わたしの所属国 (グンマー)についてと、わたしがそこにおいてどのような身分であるか。

「群馬県前橋市大手町3丁目です。平民です」
「……そのグンマーの情報を、書き出してください」
「こちらの言語でですか、わたしの言語でですか」
「両方を」

 出された用紙にペンを走らせます。こちらの言語は反省文で少しは書き慣れましたが、日本語の音をそのまま表記するのにちょっと手間取りました。番地は書きません。番地はちょっと。書き終えて手渡すと、なにかを考え込むように長いことミュラさんはそれを凝視していました。

「見たことのない言語ですね」
「でしょうね」

 グレⅡで日本っぽい国は出てこなかったですからね。そもそも世界地図には、ああいう感じの列島ありませんでしたし。
 今まで考えたことなかったですけど、もしかしたらグレⅡ世界に東洋っぽい国ないかも? だからですかね、モンゴロイドっぽい人が珍しいの。そして小人族とか未知の人種っぽい感じで言われたの。知らんけど。

「あなたは、アウスリゼ王国のことをどのように調べたのですか」

 ミュラさんの眼光がさらに強くなったような気がします。怖いんですけど。ゲームやりこんだだけです。あと公式ファンブックと攻略サイト。というのをそのまま伝えて良いものでしょうか。だめですね、はい。

「若い頃……成人前に読んだ本が、アウスリゼ王国に関するものでした。以来、大好きです」
「それはどうも。本の著者名、タイトルは」
「おぼえていません!」

 ええ、とんでもなく大量の薄い本がありましたからね‼ 覚えているわけがありませんね‼ 捨てられちゃいましたけど‼
 ミュラさんは胡散臭そうな顔でわたしを見ました。やめて、そんな目で見ないで! この人おもしろいくらい表情豊かですね。機密事項とか扱うでしょうに、ちゃんと秘書官務まるんでしょうか。

「異国の土地で発行された本を読んで学んだだけだとするには、あなたの『反省文』は具体的すぎます。軍の編成についても、その本から情報を得たというのですか」

 あー、そこ。そこですかー。書きました、たしかに書きました。ざっくりと「いいかんじだよねー。すごいと思うー」みたいなことを。はい。ゲームの性質上軍備とか把握していなきゃ進められないので、そこつっこまれるとは思いませんでしたわー。あらー。盲点ですわー。
 はいそうです、と言っても納得してもらえなさそうですね。わたしはちょっと考えて、「あれ、わたしの想像も含めて書いたんですけど、当たっちゃいました?」と言いました。
 ミュラさん、絶句。

「いや、想像でとかあり得なくないですか」
「わたし、いろいろな国の軍記とか読むの好きだったんですよねー。それでなんとなく、アウスリゼではこんな感じかなあ、みたいに考えていたことを、勢いで書いちゃったみたいです! ごめんなさい!」

 壁の向こうから爆笑が聴こえました。リシャールですね。さくっとドアから入ってきました。この部屋も監視窓どこかにあったんですかね。王宮こわい。おうち帰りたい。ミュラさんが立ち上がって迎えたので、わたしもそうします。わたしたちを立たせたままで、リシャールはミュラさんが座っていた椅子に座りなっがーい足を組みました。

「いやあ、おもしろい。実におもしろいよ。あんなに濃厚なアウスリゼへのラブレター、想像で書けたって? 君、今スパイ容疑かけられているのわかってる? わかってないよね? おもしろいね、君」

 いただきました「おもしれー女」‼ ちょう嫌‼ わたしリシャールそんなに好きじゃないんですってば‼

「恐縮です」
「全然恐縮そうじゃないね? ねえ君、僕の秘書官ならない?」
「え、いや」
しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

(完結)王家の血筋の令嬢は路上で孤児のように倒れる

青空一夏
恋愛
父親が亡くなってから実の母と妹に虐げられてきた主人公。冬の雪が舞い落ちる日に、仕事を探してこいと言われて当てもなく歩き回るうちに路上に倒れてしまう。そこから、はじめる意外な展開。 ハッピーエンド。ショートショートなので、あまり入り組んでいない設定です。ご都合主義。 Hotランキング21位(10/28 60,362pt  12:18時点)

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

月が隠れるとき

いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。 その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。 という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。 小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...