【完結】喪女は、不幸系推しの笑顔が見たい ~よって、幸せシナリオに改変します! ※ただし、所持金はゼロで身分証なしスタートとする。~

つこさん。

文字の大きさ
上 下
6 / 247
王都ルミエラ編

6話 邂逅は突然に

しおりを挟む
 くっるーんと手のひらを返されました。わかりやすくていいですね。商売人は嫌いじゃないです。お名刺いただきました。ガエタン・レスコーさんです。これ、集めてコンプしたら(ry。
 大金なので今は持ち合わせから二カ月分だけ払いますね、とポシェットから出します。財布も買わなきゃだめですね。とりあえず、ラ・リバティ社の方たちがいいって言ってくれた地域の物件のうち、女性が単身で住めるところを三箇所見せていただくことになりました。

「はい、ここに決めます」
「早っ」

 エンタメはテンポが大事ですからね。ええ。雑貨店が入っているビルの二階部分で、人通りが多く見通しも良くていい感じです。お隣さんは若いご夫婦だそうで。いいんじゃないでしょうか。
 しかも群馬のわたしの2DKのマンション(3.4万円)より採光が良くて、仕切りがないワンルームなので広く見えます。たぶん十二帖くらい。お手洗いは共用とのことですが、たぶんそんなものだと思うのでしかたがありません。洗面所っぽいキッチンはあります。ストーブを兼ねた石窯もあります。そして前の住人さんが置いていった文机と椅子がありました。ぎーって開けるやつです。かっこいい。

 ちょっとだけ、群馬の生活のことを考えてしまいました。仕事はサボったことになっていると思います。初めてのことなのでちょっと騒ぎになっているかもしれません。帰っても菓子折りでは済まなさそうです。それともわたしが消えてもなにも問題はなくて、誰も心配しないでしょうか。そんな気もします。
 ただ、あのマンションを借りるに当たって保証人になってくれた友人に迷惑がかかりそうなのが気がかりです。合い鍵を渡しているので、わたしが消えたことに気づくのはきっと彼女なんでしょう。いつ帰れるでしょうか。いい友だちじゃなくてごめん。

 即日入居でお願いしました。金払いが良さそうな客に見えたのでしょう、二つ返事でした。お布団とかなにもないですけど、とりあえず安心して横になれる場所があれば上々です。明日残りの前金お持ちしますね、と約束して、鍵を受け取り契約書にサイン。
 なぜかこちらの言語がわかるわたしですが(書けることもわかりました)、異国から来た人っぽく英語でサインしました。かっこいいので中学時代に筆記体を練習しましたのでそれっぽく。めちゃくちゃ手元見られましたね。読めてなさそう。念のために拇印も求められました。指紋認証の概念があるんですね、グレⅡ世界‼
 
 ひとまず、一階にある雑貨店へご挨拶がてら買い物に行ってみました。まさかグレⅡやりこんだ経験がいろいろな小売価格を把握するのに役立つとは思いませんでしたが、これまでの売買でぼられたことはありません。
 雑貨屋さんは食料品も少しだけ扱っているみたいで、とても助かる感じでした。レジのお兄さんへ上に引っ越してきました、と会計時にご挨拶すると、目を真ん丸にしてしげしげと見られました。すみませんロードス島の血が薄くて。

 買ったのはお財布と晩ごはんにするビスケット、名刺入れになりそうなケースとブランケット、タオルっぽいものとハンカチそれぞれ二枚。クッションもひとつ。そしてご近所とアウスリゼ全体の地図ですね! それと筆記具一式を買いました。カーテンはありますか、とお尋ねしたら、カタログを出してくれてオーダー生産だって言われました。上の部屋のは寸法わかるのですぐ作れるとのことだったので、群馬の部屋と同じペールグリーンにしました。後払いでいいそうです。
 今後のことと、これまでのことを考えて、がらんとした部屋でちょっと泣いて寝ました。

 おはようございます。朝です。エンタメはテンポが(ry。お腹が空きました。朝ごはん調達しがてら、散策などしたいと思います。お隣さんにご挨拶する用意も必要ですし。
 なにはともあれやりこんだゲームの世界というのは強いですね。地図を確認して、行ってみたいところの名前と住所をメモしました。カフェと、公園と、ちょっと大きい百貨店みたいなお店と、アウスリゼを巡る蒸気バスの停車場です。すごいでしょ、グレⅡの世界には蒸気バスがあるんですよ。機関車はないのに‼
 それと、女性警察官エメリーヌさん(かっこいい)に教えていただいた古着屋さんの場所と、ラ・リバティ社と、不動産屋さんの住所を確認してメモしました。午後に全部回ります。どうだろう、同じ区内だから行けると思うんだけどなー。公衆浴場の場所も確認。寄れたら行きたい。今日は無理そう。

 顔を洗うために水道の蛇口をひねりました。当然ながら最初は汚い水が出て、これを飲用に使っていいものか悩んで、結局飲みませんでした。こもっていたらメソメソしそうな予感があったので、調べ終えたらすぐに外に出ます。

 快晴‼ いいですね。あんまり暑くならないでいただけるとありがたいですが。

 コンビニとかありませんので、さすがにすぐに朝食ゲットとかはできませんでした。その代わり街行く人たちをたくさん観察できてたのしかったです。わたしが見ていると街の人も視線を返してきます。すみませんロードス島の血が薄くて。
 気を利かせて、道に迷っているのではないかと声をかけてくれた方がいました。それ以前にどこに向かっているのかわからないんですがね! とりあえず、近場でもう開いている食事ができる店はないか尋ねました。すぐそばにあって、お店のおすすめという鶏胸肉のリゾットみたいのをいただきました。おいしかったです。生水はちょっと怖かったので、紅茶をたくさんいただきました。

 それでですね、バスに乗りました! 蒸気で動くバス! エコ! たぶんSDGs! これで中央警察署までびゅーんと行けてしまいます。事務所まで通していただきましたがエメリーヌさんがいらっしゃらなかったので、とりあえず住所が定まったことを言付けました。そしてお手洗いを借りました(ちゃんと手を洗う洗面台がありました)。そこからハンカチで手を拭きながら出たときです。

 入り口付近が騒がしいような静かなような、ちょっとへんな空気感でした。なんでしょうか。
 入り口から中庭へと真っ直ぐに伸びている廊下沿いに、制服警官さんたちが立ち止まって敬礼体勢で止まります。わたしはその背後から、むしろその長い脚のすきまから、しゃがんで廊下側を見ました。なんかよく見えませんでした。
 仕方がないのでちょっと離れてその背中を観察していると、ほどなくその高い位置にある制帽の頭を超える高さの金髪頭が通り過ぎます。そして思わず叫びました。

「リシャール‼」
しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

(完結)王家の血筋の令嬢は路上で孤児のように倒れる

青空一夏
恋愛
父親が亡くなってから実の母と妹に虐げられてきた主人公。冬の雪が舞い落ちる日に、仕事を探してこいと言われて当てもなく歩き回るうちに路上に倒れてしまう。そこから、はじめる意外な展開。 ハッピーエンド。ショートショートなので、あまり入り組んでいない設定です。ご都合主義。 Hotランキング21位(10/28 60,362pt  12:18時点)

月が隠れるとき

いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。 その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。 という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。 小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました

お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

処理中です...