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第二部

その557 木龍と法王と吸血鬼と邪龍

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 邪龍リバイアタンの話は今度お菓子でもつまみながらリィたんに聞くとしよう。
 そんな事を考えていると、法王クルスがやって来た。
 どうやら聖騎士団への説得は終わったようだ。
 オルグとシギュンの顔を見ていると、説得された顔じゃないのは一目瞭然である。

「待たせてしまったな」

 法王クルスが言うと、俺は彼に言った。

「惜しかったですね。もう少し早く来れば面白い話が聞けたのに」
「何? それは気になるな」

 こんな事を言われたら誰だって気になる。
 俺はリィたんに顔を向けるも、彼女は無言で口をパクパクさせ何かを訴えていた。

「まぁ、これはいつかリィたんから直接聞いてください。話してくれれば、ですけどね」

 くすりと笑ってそう言うと、法王クルスはすんと鼻息を吐いた。

「そんな難度の高い事をしなくとも、ミックの口を割らせた方が早いと思うが?」

 ニヤリと笑って言った法王クルスに、木龍グランドホルツが笑う。

「なるほど、ミックと似て面白き王だな」
「ははは、褒められてしまったな」
滑稽こっけいともとれるのでは?」

 ドヤ顔を向ける法王クルスをからかう俺。

「それは自身を滑稽と言ってるのと変わらないのではないか?」
「クルス殿を滑稽に出来るのであれば、この身は喜んで滑稽に染まりましょう」

 わざとらしく目礼すると、木龍とリィたんはくすりと笑ってくれた。
 それを頃合いと見たのか、法王クルスが本題を切り出した。

「……して、魔王に関する話とは?」

 そう聞くと、木龍が俺を見た。

「ミックから雷龍シュガリオンの話は聞いたな?」

 頷く法王クルス。
 はて? 雷龍シュガリオンが俺たちを襲った事と魔王が関係あるのだろうか。


「雷龍が同じ世代の龍族を叩き、成長を促すのには理由がある。それは、ヤツに魔王復活の予兆を捉える事が出来るからだ」
「「っ!?」」

 俺たちは皆、驚きを顔に見せ絶句した。

「……何故なぜ?」

 俺からかろうじて出た言葉は、率直な疑問だった。

「当然、種の保全のためだ。龍族が世界から失われれば世界の均衡は崩れる。龍族は生きているだけで世界に影響を与える存在。私もあそこにいる炎龍も、そして水龍、お前もだ」

 コクリと頷くリィたん。

「つまり、魔王の復活が近いと?」

 法王クルスが聞く。
 しかし、木龍はその太い首を横に振ったのだ。

「それがどうもおかしい」
「どういう事だ?」

 リィたんの疑問。

「本来、魔王の復活は勇者の覚醒と時期が被る。勇者の覚醒という魔力の波動を受け、魔王は復活に至る」

 それを聞き、俺と法王クルスは見合い頷く。
 やはり俺たちの判断は間違っていなかった。


「ミックと出会って以降、各地の魔素の動きを辿ってみたところ魔界に異様な動きが見られた」
「と言うと?」

 俺が聞くと、木龍は険しい顔をして俺に言ったのだ。

「異常だ。既に魔王が復活するだけの魔力が魔界に集まっている」
「「なっ!?」」

 その驚きは、かつてないものだった。

「そ、それはつまり……魔王がもう復活している事を示しているのでは!?」

 法王クルスの立ち直りが早かったのは、流石なのだろう。
 音を遮断しているとはいえ、周囲の視線はべったり張り付いている。
 彼は法王として、少しの動揺も見せられないのだろう。

「それは直接魔界へ行ってみないとわからない。だが、復活していたとしたら、魔族四天王は魔王の威を使ってリプトゥア国を攻められたはず。それをしなかったという事は……やはりまだ復活していないと見るべきか」
「……魔族四天王は何故勇者や聖女の覚醒を遅れさせようとしてるんだろうね」

 俺が言うと、木龍はピクリと反応を示した。

「確かか?」
「まぁ、十中八九そうしてる節がある」
「ふむ……一度【霊龍】と会うべきかもしれないな」

 遂に霊龍が出てきたか。
 緊張を顔に見せるリィたんと法王クルス。
 今、この世界では様々な事が起きている。
 賢者プリシラ、古代賢者、魔族四天王、闇ギルド、勇者、聖女、龍族……そして、ミナジリ共和国。もし、これらの点が線で結ばれる事態になっているとすれば、おそらく今の俺では抗う事が出来ずに濁流に巻き込まれ死ぬだろう。
 ならば、強くなるしかないのだろう。
 皆を、世界を守れる程……強く。

「そういえば、私をここまで呼んだ理由は何だ? 地龍アスランの調査でも進んだのか?」
「あぁいや、今追ってる真っ最中でさ。そっちは?」
「東には反応がなかった。これより西側の調査に入る予定だ」
「凄いね、それだけで大収穫だよ」
「風を辿れば龍族の魔力を探し出す事は簡単。時間がかかるだけだ、規模が規模なだけにな」

 世界中を探すのだ。いくら龍族でも時間はかかってしまうだろう。
 だが、この短時間でそれだけの情報を集められるのは流石と言える。

「今回は一個だけあなたに聞きたい事があってね」
「何だ?」

 この場に魔族の吸血鬼ファーラを連れて来る事は出来ない。
 何故なら、ここには多くの目があるからだ。当然、闇人やみうどシギュンの目も。俺は指先に魔力を集め、ファーラが纏っていた魔力を模倣し、更には縮小して木龍に見せたのだ。
 すると木龍は目を見開き、俺に言ったのだ。

「やめろ」

 そんな強い口調で。
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