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第二部

その552 吸吸血血鬼鬼2

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 そういえば殺気大会の時に教えたな。
 それにしても、ルークの名前を言った時のファーラの表情は、この特別講師室に入ってから一番いい表情をしていた。なるほど、気に入られているようですよ、ルークさん。
 まぁ、あの時はシギュンのご褒美が目当てでファーラに近付いたんだけどな。
 この子の顔を見てたら褒美そんなものはどうでもよくなってしまう。でも、明日になったらまたご褒美第一主義に戻ってるかもしれない。

「私は……退学ですか?」
「えぇ、そうです。何か問題を起こしたらですけど」
「え? ……で、でも私は――」
「――聖騎士学校の退学に該当する規則には『当校の信用を失墜させる行為をした場合に限り、ライゼン学校長の判断で退学させる事が出来る』とあります。確かにファーラさんは魔族で、吸血鬼です。しかし、存在イコール行為にはなりません。いるだけで退学してしまうなら、それは学校ビジネスとして成り立ってないですよ。それに、私はライゼン学校長じゃありませんから」

 俺がそう言うと、ファーラは安堵した様子でホッと息を吐いた。

「ところでファーラさん」
「は、はいっ」

 ぴっと背筋せすじを伸ばしたファーラ。
 先程より緊張の色はない。もしかして、生きてこの場所から出られないと思っていたのかもしれない。ファーラの実力を考えれば、Z区分ゼットくぶんと一緒に密室に入る緊張は……かなりの恐怖だったろう。

「今後、どうするおつもりですか? あぁ、これからって意味ではなく卒業後の話です。魔界へ帰るおつもりで?」

 そう言うと、ファーラはまた黙ってしまった。
 そんなに詰めたつもりはないんだが、どういう事だ? 何故こんな簡単な質問で言葉に詰まってしまうんだ?
 いや…………まてよ? 吸血鬼?

「あぁ、そういえば同族の吸血鬼は父上以外で初めて見ましたよ。確かに我々だけだと種族としておかしな話ですからね。吸血鬼が暮らす地域とか別にあるんですか? 魔界にいる期間が短くてそういう話聞かないんですよねぇ」

 などと、俺が言っている間にファーラの表情は徐々に険しくなっていった。
 呼吸がやや荒くなり、身体は震え、脂汗すら見えるこの異常事態。もしかしてファーラは、俺のなんちゃって四歳児の一年より、過酷な五年を送っていたのではないだろうか。

「仲間は……皆焼かれてしまいました」
「……何故?」
「知りません。突然人間が現れて……それで、生き残った私をスパニッシュ様が保護してくれました」
「魔界に人間が?」

 コクリと頷くファーラ。
 だとしたら人間に対し敵意を持っていそうなものだが、彼女からはそういった感情は読み取れない。益々不可解である。

「保護された直後も、人間はまだ周囲を探し回ってて……それで見つかってしまい、スパニッシュ様がその人間を説得して――」
「――は?」
「え?」
「父上が人間を説得?」
「私はまだ子供だからって」

 誰だそれ? スパニッシュって書いてアリスって読むんじゃないだろうな?
 いや、待てよ? 人間という事は――、

「その人間って……――」
「――っ!?」
「こーんな顔、してませんでした?」

 俺は、自分の顔を変えてファーラに見せた。
 ファーラは顔を恐怖に引きらせ、俺を指差す。

「そ、そう……その顔です……っ!」

 先日の戦争、ゲオルグ王以外にもう一人人間がいた。
 それこそが俺と戦い引き分け、俺の腕を最先端黒焦げスタイルに変えた張本人――魔人という訳だ。
 俺は顔を戻し、溜め息を吐く。
 そして、手で目を覆い顔を揉んだ。

「……なるほど、わかってきましたよ」
「な、何がでしょう……?」
「今のは先日の戦争で私と戦った魔人と呼ばれている男です」
「戦う? 人間が魔族側に……?」
「えぇ、父上たちと仲良さそうにしてましたよ」

 直後、ファーラが硬直する。
 それは、知りたくなかった事実を自覚した顔。
 それが見えたからこそ、俺はえてそれを口にした。

「つまり、魔人が吸血鬼たちを焼いた件は、父上が仕組んだ事でしょうね」
「っ!」
「魔人と結託し、同族である吸血鬼を消し、ファーラさんを保護した。全ては、ファーラさんを聖騎士学校へ送るために」
「な……何で私なんかを……」
「それは、私が先程説明した通りです。父上は、ファーラさんが私に見逃されるとわかっていたからですよ。一つ、何もしない魔族。二つ、女性。三つ、子供。その上、私と同族であれば、これ以上ない保険となる」
「そんな……!」

 何とも残酷でいやらしい手を使ってくるじゃないか……スパニッシュ。
 吸血鬼を滅ぼした理由は、おそらく俺の能力が原因だ。魔王と同じ能力を持った俺という吸血鬼が生まれてしまった以上、スパニッシュはそうする他なかった。これ以上【血の連鎖ブラッドコントロール】を持った存在を世に出さないために。もしかしたらこれは魔族四天王の総意かもしれない。
 そして、人間を憎まないようにファーラへ魔族の基本である弱肉強食思想を植え付け、法王国へ送った。いや、俺の下へ……か。

「っ!」

 俺は、形容しがたい声を漏らしそうになった。いつの間にかファーラの手の甲にポタポタと落ちていた雫は、彼女の心を表しているかのようだった。正に純粋。彼女の心はまだ子供なのだ。美しく、未来に溢れ、脆く、壊れやすい。

 だからこそ……危険。
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