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第二部

その551 吸吸血血鬼鬼1

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 ショートボブの恥ずかしがり屋吸血鬼。それがファーラという存在である。
 以前、オベイルによる殺気大会で握手を交わした時に得た情報によると、魔力の多寡で見れば、実力はランクSの冒険者程度。
 だが、昨日、今日とその魔力量は増えこそしないものの変質していってるようだ。

「し、失礼します……」

 極度の緊張と警戒。目が泳ぎ、俯いて視線は床。
 講師という立場がなければ事案かとも思えるこの状況だが、果たして四歳児が誰かを部屋に連れ込んだとして、それは罪と言えるのか。まぁ、ファンタジー世界だからこそ言えてしまうのかもしれない。
 俺は椅子を中央へ置き、ファーラに言った。

「どうぞ掛けてください」

 そして、俺は講師用の椅子へ腰掛ける。
 大き目の机を隔てた俺たちの間にあるのは机なのか、それとも世界の明暗を分ける線引きなのか。
 挙動不審なファーラが観念したかのように椅子に座る。

「さて、ここに来てもらったのは他でもありません」

 因みにこの前置きは、生涯を通して一回は言ってみたかった台詞である。

「貴方の身元保証人であるギャレット商会について……なんかじゃなく、そのギャレット商会に依頼してきた……我が父、魔族四天王スパニッシュ・ヴァンプ・ワラキエルについてです」

 まさかファーラも、いきなり核心に迫られるとは思っていなかったのだろう。
 張り詰めた緊張が、未熟なファーラからあふれ出ている。

「何故父上はファーラさんをここへ送り込んだのでしょう?」

 ファーラは口を結ぶばかりで反応しない。

「父上も馬鹿じゃありません。私がファーラさんの正体に気付く事も織り込み済みで聖騎士学校に送っているはず。バレても構わないと判断したのは、おそらく私がファーラさんを見逃す事を知っていたからでしょう。事実、ファーラさんが魔族とわかった今も、拘束すらしていません。これは、ファーラさんが聖騎士学校の生徒をまっとうしているからです。そうすれば我々が動かない事を見込み、父上はファーラさんをここへ送り込んだ、と、ここまではわかっているんですが、どうもその先がわからなくて……今回ご足労頂きました。あ、お茶いります?」

 俯き、拳を強く握るファーラ。
 俺はお茶をれながらその沈黙を聞いていた。
 前にある机に二人分のお茶を置いたところでファーラは小さな口を開いた。

「……知りません」
「悩み、考え、時間をとった割には簡単な答えでしたね。知らないとはどういう事でしょう? 少なくともファーラさんは父上と接触し命令されてここにいるはずですが……違いますか?」

 首を横に振るファーラ。

「……命令はされている。聖騎士学校へ入学しろと。しかし、その理由は聞かされていない? そういう事で?」

 コクンと頷くファーラ。
 何故か俺が彼女を追い詰めているように感じるのは気のせいだろうか。
 いや、気のせいではない。彼女は魔族で吸血鬼というだけで、これまで何もしていない。勉学に臨み、俺の生徒として学友として過ごしてきただけだ。
 俺としても出来ればこの時間は早く終わって欲しいのだが……謎は深まるばかりだ。

「父上から何か言われましたか?」
「……いえ。ただここへ来て学校を楽しめと」

 魔族四天王が絶対に言わなそうな台詞だな。
 だが、ファーラの表情から嘘を吐いているとは思えない。
 つまり、父上スパニッシュは確かに言ったのだ。そんな微塵も思っていない事を。
 ヒミコからの情報では、ファーラの事を【毒】だと表現していたそうだが……これはつまり――常駐型の毒? ファーラはここにいるだけで何かしら目的を果たしている?

「……今日、久しぶりにファーラさんの魔力を見て驚きました。とても穏やかで美しい魔力を纏っていますね。しかし、余りにも劇的な変化と言わざるを得ません。その魔力は?」
「えっと……教わりました」
「誰に?」
「……スパニッシュ様です」
「いつ?」
「ここへ来る前です」
「何故?」
「……知りません」
「では、何故今になってそれを行使したのですか? 入学時にそうしなかった理由は?」
「知りません。ただ、『大きな戦争が起きたら、皆を驚かせてやれ』と」

 なるほどなるほど。
 入学前からリプトゥア国への侵攻は決まっていたのか。
 そして、ファーラの大樹のような魔力を戦争を発端として起動、、するよう命じた。

「女性に年齢を聞くのは愚かだとは思いますが、ファーラさん、実際の年齢は?」
「ご、五歳です……」

 あらやだ可愛い。俺の一歳上とは驚きだ。
 しかし、そんな子供に何故? いや、子供だからか?
 俺が子供に弱い事もリサーチ済みなのかもしれない。

「人間に対して敵意などありますか?」
「いえ、特には」
「聖騎士学校は楽しい? それともつまらないですか?」
「……わかりません。でも」
「でも?」
「優しい人がいました」
「優しい人?」
「私に殺気の有用性を教えてくれました」

 何だソイツ、五歳の吸血鬼こどもに対して何てこと教えてくれてんだ。最悪じゃねぇか。

「えっと……その人は?」
「……ルーク」

 知ってる名前だった。
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