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第二部
その546 ナガレデータ
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「では、【ノエル】の失われし位階からは、もうお前の失われし位階は離れているのか」
「……そうだよ」
チャンスだ。【刻の番人】である【ノエル】の失われし位階は、いつナガレと接触するかわからなかったから手を出せずにいたが、今ならば可能だという事か。
ノエル、そしてナガレの失われし位階を吸血出来れば、場合によっては事を起こしても……いや、慎重を期すに越した事はない。
まずは二人の失われし位階からの処理だな。
それにしても――、
「不服そうだな」
「けっ、そりゃそうだろうよ」
自我こそとらないが、ナガレへの命令はナガレにとって苦痛以外の何物でもないだろう。俺への忠誠、自衛以外の殺害禁止……これらの命令を不服と思わない闇人だったらそれこそおかしな話だからな。
ナガレは木に寄りかかり、不満気な目を俺に向ける。
「で、他に何を知りたいってんだ」
そう、俺の質問はまだ終わっていない。
聞きたい事は山積みだが、何から聞けばいいか……。
【刻の番人】だけで言えば、既に【ノエル】、【サブロウ】、【ナガレ】、【パーシバル】がこちらに付いた。つまり、俺を入れると五人。
残る七人は【シギュン】、【クイン】、【カンザス】、【メディック】、【ホネスティ】、【エレノア】……そして【魔人】か。
さて、まず聞かなくちゃいけない事は……、
「分裂体はどこにいる?」
「カンザスが闇空間に入れた後の事なんて知らないね」
だよな、分裂体からの反応がない以上、まだ闇空間の中にいる。
「エレノアの正体は?」
「さあね」
この質問も、
「魔人の正体は?」
「さあね」
この質問も、
「地龍の子供はどこにいる?」
「エレノアが知ってるだろうよ」
この質問もダメ……か。
闇ギルド、何とも厄介な組織だな。
「メディックは魔皇ヒルダに付いてる事がわかってるが、ホネスティの居場所がわからない。知ってるか?」
「ホネスティ? 確か今は商人ギルドに潜んでたはずだね」
「リルハのところに?」
「あんな危ないところにいられるかい。各地を渡り歩いて闇ギルドに金を落としてるんだよ」
「せこいが堅実だな」
刻の番人の窃盗、強盗事件か。あまり考えたくないな。
俺のところに情報が来てない以上、上手くやってるのだろう。
「ハンドレッド以下の序列から金が上がってこないからね。単なる失敗続きかと思ってたら、アンタが噛んでたとは……こりゃ闇ギルドも終わりかねぇ」
「随分と他人事だな」
「アタシャ楽しいからあそこにいるだけだよ。楽しみがないなら消えるだけ。そういう事さ」
「再就職先が見つかってよかったじゃないか」
「けっ、虫唾が走るよ」
「自力で【血の呪縛】を覆せたら解放してやるよ」
「…………っ」
何も言えないか。
まぁ、あるはずもない事だが、もしそんな事が起こった場合、俺はナガレを躊躇する事なく殺すだろう。奴もそれがわかっているから無言の抵抗しか出来ないのだ。
その後、俺はナガレにいくつかの質問をしたが、奴が知っている情報はサブロウと然程変わらなかった。一番近い身内にこれだけの情報規制……エレノアの手腕は見事と言わざるを得ない。
「……最後の質問だ」
「はっ、耳が腐るところだったよ」
耳を小指でほじりながら悪態を吐くナガレ。
「闇ギルドは何の目的で動いている?」
そう、これを聞かずにはいられないのだ。
「【混沌の秩序】……昔エレノアがそう言ってたね」
「また随分と抽象的な表現だな」
「アタシャそんな事に興味ないからね、詳しくは聞かなかったよ」
「自分が所属している組織の目的を聞かない?」
「わかってないね、【刻の番人】ってのは各々の利害が一致しているから成り立ってるんだよ」
「各々の……利害」
そういえば、サブロウたちが闇ギルドに所属した理由を聞いた事がなかった。
ナガレは楽しいから、とか根っからの悪人発言だったが、それぞれに目的があるのだろうか。
パーシバルは……そういえば俺への復讐のために力を付けに入ったんだっけ。
残りはサブロウとノエルか。後程聞いてみるか。
だがしかし、気になる事がある。
俺だけが特殊なのか。エレノアは急務として人員不足からの穴埋めとして俺を刻の番人に迎えた。つまり、エレノアは俺に提供するものがない。しなくていいからだ。使いやすい手駒……だからナガレは俺に言ったのだ。
エレノアに気に入られている、と。
確かに、忠誠や命令だけで動かせる手駒程嬉しいものはない。
それだけに、最初俺への接近を避けたのだ。俺の目的や性格を知るために。
本当に抜け目のない女だ。もしエレノアが真人間だったら、手の平の上で転がされたい気分である。
「わかった、これからどうする?」
「別に、法王国に戻るだけだよ」
口をへの字にしながらナガレが言う。
「そうか、それじゃあなナガレ婆ちゃん」
「っ! アンタ……ろくな死に方しないよ」
と、ナガレが皮肉たっぷりで言うも、
「既にクソみたいな死に方した後だよ」
俺にはとっておきで、とっても残念な返しが出来るのだ。
「はぁ?」
ポカンと首を傾げるナガレを背に、俺はミナジリ邸へと戻るのだった。
「……そうだよ」
チャンスだ。【刻の番人】である【ノエル】の失われし位階は、いつナガレと接触するかわからなかったから手を出せずにいたが、今ならば可能だという事か。
ノエル、そしてナガレの失われし位階を吸血出来れば、場合によっては事を起こしても……いや、慎重を期すに越した事はない。
まずは二人の失われし位階からの処理だな。
それにしても――、
「不服そうだな」
「けっ、そりゃそうだろうよ」
自我こそとらないが、ナガレへの命令はナガレにとって苦痛以外の何物でもないだろう。俺への忠誠、自衛以外の殺害禁止……これらの命令を不服と思わない闇人だったらそれこそおかしな話だからな。
ナガレは木に寄りかかり、不満気な目を俺に向ける。
「で、他に何を知りたいってんだ」
そう、俺の質問はまだ終わっていない。
聞きたい事は山積みだが、何から聞けばいいか……。
【刻の番人】だけで言えば、既に【ノエル】、【サブロウ】、【ナガレ】、【パーシバル】がこちらに付いた。つまり、俺を入れると五人。
残る七人は【シギュン】、【クイン】、【カンザス】、【メディック】、【ホネスティ】、【エレノア】……そして【魔人】か。
さて、まず聞かなくちゃいけない事は……、
「分裂体はどこにいる?」
「カンザスが闇空間に入れた後の事なんて知らないね」
だよな、分裂体からの反応がない以上、まだ闇空間の中にいる。
「エレノアの正体は?」
「さあね」
この質問も、
「魔人の正体は?」
「さあね」
この質問も、
「地龍の子供はどこにいる?」
「エレノアが知ってるだろうよ」
この質問もダメ……か。
闇ギルド、何とも厄介な組織だな。
「メディックは魔皇ヒルダに付いてる事がわかってるが、ホネスティの居場所がわからない。知ってるか?」
「ホネスティ? 確か今は商人ギルドに潜んでたはずだね」
「リルハのところに?」
「あんな危ないところにいられるかい。各地を渡り歩いて闇ギルドに金を落としてるんだよ」
「せこいが堅実だな」
刻の番人の窃盗、強盗事件か。あまり考えたくないな。
俺のところに情報が来てない以上、上手くやってるのだろう。
「ハンドレッド以下の序列から金が上がってこないからね。単なる失敗続きかと思ってたら、アンタが噛んでたとは……こりゃ闇ギルドも終わりかねぇ」
「随分と他人事だな」
「アタシャ楽しいからあそこにいるだけだよ。楽しみがないなら消えるだけ。そういう事さ」
「再就職先が見つかってよかったじゃないか」
「けっ、虫唾が走るよ」
「自力で【血の呪縛】を覆せたら解放してやるよ」
「…………っ」
何も言えないか。
まぁ、あるはずもない事だが、もしそんな事が起こった場合、俺はナガレを躊躇する事なく殺すだろう。奴もそれがわかっているから無言の抵抗しか出来ないのだ。
その後、俺はナガレにいくつかの質問をしたが、奴が知っている情報はサブロウと然程変わらなかった。一番近い身内にこれだけの情報規制……エレノアの手腕は見事と言わざるを得ない。
「……最後の質問だ」
「はっ、耳が腐るところだったよ」
耳を小指でほじりながら悪態を吐くナガレ。
「闇ギルドは何の目的で動いている?」
そう、これを聞かずにはいられないのだ。
「【混沌の秩序】……昔エレノアがそう言ってたね」
「また随分と抽象的な表現だな」
「アタシャそんな事に興味ないからね、詳しくは聞かなかったよ」
「自分が所属している組織の目的を聞かない?」
「わかってないね、【刻の番人】ってのは各々の利害が一致しているから成り立ってるんだよ」
「各々の……利害」
そういえば、サブロウたちが闇ギルドに所属した理由を聞いた事がなかった。
ナガレは楽しいから、とか根っからの悪人発言だったが、それぞれに目的があるのだろうか。
パーシバルは……そういえば俺への復讐のために力を付けに入ったんだっけ。
残りはサブロウとノエルか。後程聞いてみるか。
だがしかし、気になる事がある。
俺だけが特殊なのか。エレノアは急務として人員不足からの穴埋めとして俺を刻の番人に迎えた。つまり、エレノアは俺に提供するものがない。しなくていいからだ。使いやすい手駒……だからナガレは俺に言ったのだ。
エレノアに気に入られている、と。
確かに、忠誠や命令だけで動かせる手駒程嬉しいものはない。
それだけに、最初俺への接近を避けたのだ。俺の目的や性格を知るために。
本当に抜け目のない女だ。もしエレノアが真人間だったら、手の平の上で転がされたい気分である。
「わかった、これからどうする?」
「別に、法王国に戻るだけだよ」
口をへの字にしながらナガレが言う。
「そうか、それじゃあなナガレ婆ちゃん」
「っ! アンタ……ろくな死に方しないよ」
と、ナガレが皮肉たっぷりで言うも、
「既にクソみたいな死に方した後だよ」
俺にはとっておきで、とっても残念な返しが出来るのだ。
「はぁ?」
ポカンと首を傾げるナガレを背に、俺はミナジリ邸へと戻るのだった。
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