上 下
547 / 566
第二部

その544 新たな依頼

しおりを挟む
 さて、闇ギルドにとってファーラが敵でない事がわかった。闇ギルドの仲間である以上、俺たちの敵であるファーラに今後注視するとして、シギュンが俺をここへ呼んだ理由はまだあるはずだ。
 何故なら彼女はファーラの話題を振った時、俺にこう言ったからだ。
 ――まずはそれ、と

貴方あなた、勇者エメリーと聖女アリスと仲が良いそうね」
「は?」

 ミケラルドとしてならエメリーとは仲が良いと思う。
 しかし、ルークとしてはそこまででもないはずだ。
 更に言えば、アリスは先程までそのルークを汚物を見るような目で見ていたというのに、仲が……良い?

「う~ん……」
「何を真剣に悩んでいるのかしら」
「仲が良いのでしょうか……?」

 俺の言葉で一瞬沈黙したシギュンはこめかみをトンと押さえ呆れた顔を見せた。

「……傍から見ればそういう事になっているそうです」

 シギュンの子飼い、、、から聞いた情報か? 二年? だとすれば、そんなところまで見られないはず。ならば一年? ふむ、操られていなくともそれくらいの情報なら渡す……か。

「はい、仲が良く見えるそうです」
「どこか引っかかる言い方だけれど……まぁいいでしょう。今後はその二人に監視を絞ってください」
「何故でしょう?」
「理由が必要?」
「モチベーションにも必要かと」
「上手い逃げ方ですね。貴方だったら今すぐにでも聖騎士団に通用するでしょう。……わかりました。先の連合軍と魔族軍の戦争は聞き及んでいる事でしょう。どうやらあの時の魔族軍は、リプトゥア国の占領以外にも勇者エメリー、聖女アリスを狙っていたという情報が入りました。勇者と聖女は魔王の天敵……ならば魔族の狙いもその二人になります。覚醒前であれば何かと不都合がない、という事です」
「つまり、私が二人を監視し危険が及ばないように努めろ……と?」
「本業の学業もある事でしょうし、全てを担えという訳ではありません。二人が……それこそ一人になるような事があれば、私か……そうですね、マスタング講師に連絡をお願いします」

 なるほど、本格的に二人に狙いを定めたという事か。

「……かしこまりました。勇者エメリー、聖女アリスを注視し、当該人物が危険の及ぶ行動をとった際、シギュン様、マスタング講師に報告致します」
「結構です」
「ではご褒美を――」
「――もう出て行って構いませんよ」

 ◇◆◇ ◆◇◆

「あんの女狐めぎつねめぇええええええええええええっ!! ご褒美の! ご褒美の約束はどうしたんだぁああああああああああああああ!! くそ! くそっ!!」

 純情なミケラルド君は、部屋に戻るなりベッドに顔をうずめて悲しみを露わにしていた。

「くそぉ……」

 世界は時として残酷だ。特に俺には。

つらい……」

 ささくれをえてさかむけに剥くくらい辛い。
 心の保養を求め、そしてシギュンとの密談を報告するために、俺は分裂体を部屋に残し、ナタリーの部屋へと転移した。
 勿論、いきなりナタリーの部屋に転移し、ラッキーなシーンを見られるという保養は得られない。何故なら、ナタリーに事前に確認をとらなければならないからだ。このシステムは完璧で、俺のDNAに生まれる前から書き込まれているくらいには完璧だ。
 この約束システムを破った場合、俺はダークナタリーに聖水漬けにされて、聖加護の宿った縄でがんじがらめにされ、重りを付けられて聖水で満たされた湖に沈められてしまうだろう。
 この拷問のキツイ点は、聖水も聖加護の宿った縄も、重りも、聖水で満たされた湖も、俺自身が用意しなければならない点だろう。

「あ、ミック。どうだった?」
「ファーラの監視を解除、代わりにエメリーさんとアリスさんの監視だってさ」
「え?」
「なっ!?」

 この「え?」と「なっ!?」は、ナタリーから発された言葉ではなかった。何故かはわからないが、「え?」の人は、どこかエメリーっぽくて、「なっ!?」の人はどこかアリスっぽかった。というかエメリーとアリスだった。

「……遊びに来てたんですね」

 俺が二人にそう言うと、ナタリーがその理由を補完してくれた。

「あんなに堂々とシギュンに呼ばれたんだから、皆気になるでしょう?」

 言いながら、ナタリーが周囲を見渡すよう俺に促した。
 驚いた事に、ここにはメアリィもクレアも、そして剣聖レミリアもいたのだ。
 ん? レミリア?
 俺は首を傾げ、レミリアを見る。そのレミリアは俺に近付き、顔を覗き込むように見た。

「なるほど、ルークさんはミケラルドさんでしたか」
「そうだった、レミリアさんにはまだ教えてませんでしたもんね」
「面白いものが見られると聞き、ナタリーさんに誘ってもらったのですが……なるほど、本当に面白い」
「はははは……」

 乾いた笑いを浮かべ、俺はナタリーを見る。
 そして、ここまでの重要人物たちが集まる部屋に不可解を感じたのだ。

「でも、ラッツさんたちは呼ばなかったんだ?」

 俺がそう言うと、ナタリーは肩をすくめて言った。

「ラッツさんはともかく、キッカさんやハンさんがルークの事黙っていられると思う?」
「思わない」

 自分が思っているより即答だった気がする。
 確かに三人の事は信頼している。しかし、外部にバレる可能性があると判断するのも、ある意味では彼らへの信頼なのかもしれない。
 そう思う事にしたミケラルド君だった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

辺境の農村から始まる俺流魔工革命~錬金チートで荒れ地を理想郷に変えてみた~

昼から山猫
ファンタジー
ブラック企業に勤め過労死した俺、篠原タクミは異世界で農夫の息子として転生していた。そこは魔力至上主義の帝国。魔力が弱い者は下層民扱いされ、俺の暮らす辺境の農村は痩せた土地で飢えに苦しむ日々。 だがある日、前世の化学知識と異世界の錬金術を組み合わせたら、ありふれた鉱石から土壌改良剤を作れることに気づく。さらに試行錯誤で魔力ゼロでも動く「魔工器具」を独自開発。荒地は次第に緑豊かな農地へ姿を変え、俺の評判は少しずつ村中に広まっていく。 そんな折、国境付近で魔物の群れが出現し、貴族達が非情な命令を下す。弱者を切り捨てる帝国のやり方に疑問を抱いた俺は、村人達と共に、錬金術で生み出した魔工兵器を手に立ち上がることを決意する。 これは、弱き者が新たな価値を創り出し、世界に挑む物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

最弱テイマーの成り上がり~役立たずテイマーは実は神獣を従える【神獣使い】でした。今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティーに所属するテイマーのカイトは使えない役立たずだからと追放される。 さらにパーティーの汚点として高難易度ダンジョンに転移され、魔物にカイトを始末させようとする。 魔物に襲われ絶体絶命のピンチをむかえたカイトは、秘められた【神獣使い】の力を覚醒させる。 神に匹敵する力を持つ神獣と契約することでスキルをゲット。さらにフェンリルと契約し、最強となる。 その一方で、パーティーメンバーたちは、カイトを追放したことで没落の道を歩むことになるのであった。

処理中です...