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第二部

その536 聖騎士団の帰還

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『法王国に聖騎士団が帰還した』

【テレフォン】越しにリィたんが言った言葉。
 それを聞き、俺はリィたんにある質問を投げかけた。

「……被害は?」

 俺の問いかけにナタリーは驚き目を見開く。

「っ! ミック、それって……!」
「リプトゥア国からラジーンを走らせて聖騎士団の様子を見に行かせ、結果、聖騎士団は発見出来なかった。戦争が終わってまだ二時間。聖騎士団が法王国に帰還したって事は、法王国にかなり近い場所で聖騎士団が何らかに遭遇した……そう考えるのが妥当だよ」
『そういう事だ、ナタリー』
「だとしたら聖騎士団は……」
『全滅は免れた。半壊というところだ』
「「っ!?」」

 半壊……だと?
 正直、リィたんの言葉を疑いたくなった。
 しかし、リィたんが冗談を言う訳がない。ならば、聖騎士六百人が半壊した状態で法王国に戻ったという事実は、それ以上の真実、、、、、、、を教えてくれるだろう。

「リィたん、頼みがあるんだけど――」
『ん、何だ?』

 俺は、リィたんに頼み事をした後、ナタリーに最後のリンゴを口に突っ込まれ……そして深い眠りについた。
 何ともおかしな事が起こっている。
 ミナジリ共和国では、俺の分裂体で作ったエメラが攫われ、ミナジリ邸に賢者プリシラが転がり込んだ。
 リプトゥア国では不死王リッチが率いる魔族軍と世界の連合軍が衝突。
 法王国では聖騎士団が半壊……か。
 これほどまでに闇ギルドと魔族の繋がりが厄介だとは……正直、どちらの動きを追えばいいのか。まぁ、適宜対応しつつ、動けるところは動くしかない訳だが、これは……なかなかに……キツイ…………――。

 ◇◆◇ ◆◇◆

「……ん」

 深夜……だろうか、俺はふと目を覚ました。
 何を隠そうもよおしたからである。パチリと目を開け、起き上がって欠伸あくびをする。伸び、、をしようと何となく手を伸ばしてみる。……ふむ? かなり痛みは引いたみたいだ。
 これなら、と思いトイレに向かおうと立ち上がり、扉を開ける。

「ん?」

 しかし、扉は開かなかった。
 鍵がかかっている訳ではない。押しながら開く扉だが、その扉が奥へ開いてくれない。どうやら向こう側にナニカあるようだ。
 仕方なしと思い【壁抜け】を使って廊下に出ると――、

「……マジか」

 出てしまった声を落とすように口を塞ぎ、扉の前にいる少女を見下ろす。
 体育座りで静かな寝息を零す少女アリス。
 どうやら彼女の接近に気付けないくらいには熟睡していたようだ。
 おそらくラジーンも気付いてはいただろうが、アリスならという判断か。
 俺は屈み、アリスの顔を覗き込む。

「アホ毛発見」

 神速で情緒を台無しにする系男子のミケラルドは、疲れ切ったアリスの顔とアホ毛を見、くすりと笑った。
 すると、背後から小さな足音が聞こえた。

「あ、ミック起きたんだ。腕の調子はどう?」

 そこには、毛布を持ったナタリーがいた。見たところ、アリスの分もあるようだ。

「腕はかなり良くなったよ。朝には完全回復だな」
「うんうん、よかったぁ」

 ほっと胸を撫でおろしたナタリー。
 色々心配かけているみたいで、本当に申し訳ない。

「……で、これはどういう状況?」
「あれ? アリスちゃん寝ちゃった? 毛布を取りに行く前まで起きてたんだけど」

 なるほど、二人でここのをしていると。何とも有難い事である。

「ミックはどうしたの?」
「んー、トイレ」
「すぐ戻って来てよね」
「わかったけど……何で?」
「これはある意味女子会なの」

 理由になってない気がする。
 首を傾げた俺だったが、ナタリーの意気込みは変わらないようだ。

「もう俺起きたから、二人とも別に部屋に戻っても――」
「――ミックがもう一回寝れば話は解決するでしょう?」

 なるほど、アリスがどうかはわからないが、ナタリーはアリスを数えて意見している。つまり、二対一で俺の意見は通らない。
 今日、戦争には勝ったが民主主義には負けてしまった訳だ。

「そう……だね……」
「うん。早く戻って来てね」

 ナタリーは嬉しそうにそう言い、扉前合宿を決め込んでしまったのだった。
 用を足しトイレから帰ると、ナタリーとアリスは頭を寄せ合い、気持ちよさそうに寝ていたのだった。
 一瞬、【テトラ・ビジョン】の録画機能を使い、この尊い光景を刻み込みたかったが、二人にバレた時が怖いので諦めるしかなかった。

 ――翌朝、二度寝の甲斐かいもあってか、俺の腕はナタリーに宣言した通り、完全に回復していたのだった。
 両手を強く握り、開く。うむ、何ともない。
 強力な【聖加護】を宿した攻撃が、これだけ重篤なダメージを負うと考えると、やはり勇者と聖女の覚醒は必須であると言える。
 しかし、今回の戦争ではそれが叶わなかった。
 不死王リッチか……戦力以上に厄介な知恵を持っている。
 聖騎士団も半壊だったらしいが……こちらの連合軍こそ半壊だったと言える。
 俺は再び両手を強く握り、消えていった命に深い敬意を込めた。
 そして、小さく呟く。

「……次こそは必ず……」
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