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第二部
その520 揺れる心
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◇◆◇ アリスの場合 ◆◇◆
「ほ、法王国から来ましたアリスです! 宜しくお願いしますっ!」
「同じく法王国より、エメリーです。宜しくお願いします」
凄いなエメリーさんは。
私と違って余裕があるように見える。
ミケラルドさんに言われて自己紹介の場が設けられたのはいいけど、緊張で何も考えられない……。
「法王国騎士団、団長のアルゴスだ」
「リーガル国戦騎団、団長の【ネルソン】です」
アルゴス団長より高齢の白髪頭の渋いネルソンさん。でも、隆起した筋肉は強い力を感じさせる。弱小国家とは言われてても、リーガル国には凄い猛者がいたんだ。それでも、やはり他国と比べると見劣りはしてしまうのかもしれない。
「ガンドフ陸戦隊より、戦隊長の【ジュウザ】であります」
ドワーフ国家ガンドフからはジュウザさん。身長は私やエメリーさんと余りかわらないけど、豊かな髭とギラついた眼光が物凄い。アルゴスさんもそうだけど、どの人も歴戦の勇士という風格があって凄い。
私なんかがこんなところにいて本当にいいのだろうか。
「ミケラルド様の近衛部隊を率いるラジーンです。手前から情報部のドノバン、イチロウ、ジロウ。それに外交官のコバック。そして、中隊を率いるドゥムガです」
そして彼ら。
ドゥムガさんを最初に見た時に思ったけど、彼らは……とても強い魔力を保有している。
特にあのラジーンという人……もしかしてアルゴス団長よりも。
そして――、
「ブライアン王よりこの場の指揮を任されたミケラルドです。皆さんが知っているミケラルド・オード・ミナジリ……というより、その武力を買われてここにいます」
すると、アルゴス団長がくすりと笑って言った。
「ふっ、我らの知っているミケラルド・オード・ミナジリ様は武力ありきの御仁だったかと」
この発言に皆がくすりと笑った。
そうだった、ここにいる人たちは、皆ミケラルドさんに助けられた人ばかり。
ガンドフの国境で起きた戦争、リーガル国の国難、この場にいなくとも後方支援のため物資の提供をしているシェルフだってそうだ。リプトゥアの奴隷解放、法王国に巣くう闇ギルド排除の貢献。どれをとってもこの場にいる方々がミケラルドさんを謗るはずもない。
「ミケラルド様、リーガル王は、決して武力だけであなたに指揮権を委ねたのではありませんぞ?」
リーガル国戦騎団のネルソン団長が言った。
「知勇に優れなければこの場は任せられますまい」
ガンドフ陸戦隊長のジュウザさんもそれに同意を示した。
私はそれを聞きちらりとミケラルドさんを見た。
正直、他国からの評価がこんなに高いとは思わなかった。曰く多種族国家、曰く魔族の国。未だに国の存在自体認めない人が多い中、これだけの評価。……いえ、これがミケラルドさんの実績。わかってる。わかってはいるけど――、
「え、そうなんですか? 恐縮してしまいますね~」
あの剽軽な顔を見ていると、どうしてもそう思えない私もいる。というかそっちの私のが多い。沢山だ。
「しかし助かりました」
ドワーフのジュウザさんが言った。
「よくぞ勇者と聖女を動かしてくれました」
「「え?」」
私とエメリーさんの言葉が被る。
すると、アルゴス団長がその理由を教えてくれた。
「新兵から古参まで、魔族との戦闘経験がある者は非常に少ない。この前線基地へ向かう前の彼らの士気は低いと言わざるを得なかった。しかしどうだ? 勇者エメリー、聖女アリスの参戦が決まった事で彼らの士気に劇的な変化が起こったのだよ」
続けてネルソンさんが言う。
「リプトゥア国は彼らにとって他国。自国ならまだしも、他国に対して命を賭けられるかと問われた時、彼らは首を縦に振れないだろう」
最後にジュウザさんが、
「つまり、命を賭ける意味を二人に見出せたという事だ」
それを聞いた時、私は言葉に詰まってしまった。
それはつまり、私たちの成長のために彼らの命を――。
エメリーさんの複雑そうな顔。これを見てもアルゴス団長たちは目を変える事はなかった。私たちを追い込むために言っている訳ではない。これは、私たちを試すために言っているのだ。
「覚悟、揺れてますよ?」
「「っ!」」
私たちの耳に届いたのは、くすりと微笑を浮かべる吸血鬼。
相変わらず困った人だ、この人は。
けれど、一番の悪役を買って出るのもこの人だという事に気付いている。
だから……なのかもしれない。私とエメリーさんは示し合わずともその場に立っていたのだった。
「「精一杯頑張ります」」
それは、体裁や恐怖、あらゆる言い訳を呑み込んだ覚悟の言葉だったのかもしれない。
それを聞いた時、ドゥムガさんから軽い口笛の音が届いた。
「人間界の女も捨てたもんじゃねぇな」
「じゃ、魔界のダイルレックスが捨てたもんじゃないところを見せてもらおうか」
そう言ったのは、ドゥムガさんが絶対に逆らえない相手――ミケラルドさんだった。
「オススメは左翼の切っ先なんだけど、どう?」
「あぁっ!?」
「大丈夫大丈夫、この内側に聖騎士団が入る予定だから。え、何? 出来ないの?」
「っ!! や、やれるわそんくらいっ!」
ミケラルドさんって、人によって態度というより人が変わるような気がする。
そんな事を考えながら作戦会議は進行していったのだった。
「ほ、法王国から来ましたアリスです! 宜しくお願いしますっ!」
「同じく法王国より、エメリーです。宜しくお願いします」
凄いなエメリーさんは。
私と違って余裕があるように見える。
ミケラルドさんに言われて自己紹介の場が設けられたのはいいけど、緊張で何も考えられない……。
「法王国騎士団、団長のアルゴスだ」
「リーガル国戦騎団、団長の【ネルソン】です」
アルゴス団長より高齢の白髪頭の渋いネルソンさん。でも、隆起した筋肉は強い力を感じさせる。弱小国家とは言われてても、リーガル国には凄い猛者がいたんだ。それでも、やはり他国と比べると見劣りはしてしまうのかもしれない。
「ガンドフ陸戦隊より、戦隊長の【ジュウザ】であります」
ドワーフ国家ガンドフからはジュウザさん。身長は私やエメリーさんと余りかわらないけど、豊かな髭とギラついた眼光が物凄い。アルゴスさんもそうだけど、どの人も歴戦の勇士という風格があって凄い。
私なんかがこんなところにいて本当にいいのだろうか。
「ミケラルド様の近衛部隊を率いるラジーンです。手前から情報部のドノバン、イチロウ、ジロウ。それに外交官のコバック。そして、中隊を率いるドゥムガです」
そして彼ら。
ドゥムガさんを最初に見た時に思ったけど、彼らは……とても強い魔力を保有している。
特にあのラジーンという人……もしかしてアルゴス団長よりも。
そして――、
「ブライアン王よりこの場の指揮を任されたミケラルドです。皆さんが知っているミケラルド・オード・ミナジリ……というより、その武力を買われてここにいます」
すると、アルゴス団長がくすりと笑って言った。
「ふっ、我らの知っているミケラルド・オード・ミナジリ様は武力ありきの御仁だったかと」
この発言に皆がくすりと笑った。
そうだった、ここにいる人たちは、皆ミケラルドさんに助けられた人ばかり。
ガンドフの国境で起きた戦争、リーガル国の国難、この場にいなくとも後方支援のため物資の提供をしているシェルフだってそうだ。リプトゥアの奴隷解放、法王国に巣くう闇ギルド排除の貢献。どれをとってもこの場にいる方々がミケラルドさんを謗るはずもない。
「ミケラルド様、リーガル王は、決して武力だけであなたに指揮権を委ねたのではありませんぞ?」
リーガル国戦騎団のネルソン団長が言った。
「知勇に優れなければこの場は任せられますまい」
ガンドフ陸戦隊長のジュウザさんもそれに同意を示した。
私はそれを聞きちらりとミケラルドさんを見た。
正直、他国からの評価がこんなに高いとは思わなかった。曰く多種族国家、曰く魔族の国。未だに国の存在自体認めない人が多い中、これだけの評価。……いえ、これがミケラルドさんの実績。わかってる。わかってはいるけど――、
「え、そうなんですか? 恐縮してしまいますね~」
あの剽軽な顔を見ていると、どうしてもそう思えない私もいる。というかそっちの私のが多い。沢山だ。
「しかし助かりました」
ドワーフのジュウザさんが言った。
「よくぞ勇者と聖女を動かしてくれました」
「「え?」」
私とエメリーさんの言葉が被る。
すると、アルゴス団長がその理由を教えてくれた。
「新兵から古参まで、魔族との戦闘経験がある者は非常に少ない。この前線基地へ向かう前の彼らの士気は低いと言わざるを得なかった。しかしどうだ? 勇者エメリー、聖女アリスの参戦が決まった事で彼らの士気に劇的な変化が起こったのだよ」
続けてネルソンさんが言う。
「リプトゥア国は彼らにとって他国。自国ならまだしも、他国に対して命を賭けられるかと問われた時、彼らは首を縦に振れないだろう」
最後にジュウザさんが、
「つまり、命を賭ける意味を二人に見出せたという事だ」
それを聞いた時、私は言葉に詰まってしまった。
それはつまり、私たちの成長のために彼らの命を――。
エメリーさんの複雑そうな顔。これを見てもアルゴス団長たちは目を変える事はなかった。私たちを追い込むために言っている訳ではない。これは、私たちを試すために言っているのだ。
「覚悟、揺れてますよ?」
「「っ!」」
私たちの耳に届いたのは、くすりと微笑を浮かべる吸血鬼。
相変わらず困った人だ、この人は。
けれど、一番の悪役を買って出るのもこの人だという事に気付いている。
だから……なのかもしれない。私とエメリーさんは示し合わずともその場に立っていたのだった。
「「精一杯頑張ります」」
それは、体裁や恐怖、あらゆる言い訳を呑み込んだ覚悟の言葉だったのかもしれない。
それを聞いた時、ドゥムガさんから軽い口笛の音が届いた。
「人間界の女も捨てたもんじゃねぇな」
「じゃ、魔界のダイルレックスが捨てたもんじゃないところを見せてもらおうか」
そう言ったのは、ドゥムガさんが絶対に逆らえない相手――ミケラルドさんだった。
「オススメは左翼の切っ先なんだけど、どう?」
「あぁっ!?」
「大丈夫大丈夫、この内側に聖騎士団が入る予定だから。え、何? 出来ないの?」
「っ!! や、やれるわそんくらいっ!」
ミケラルドさんって、人によって態度というより人が変わるような気がする。
そんな事を考えながら作戦会議は進行していったのだった。
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