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第二部

その500 コゾモフ村

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 約束の時間しょうごまで三十分。三十分前行動をする系元首ことミケラルド。
【コゾモフ村】に着いた俺は、村にただ一つの雑貨店を前に驚きを隠せずにいた。

「お、おぉ……」

 それは、店というにはあまりにもアレだった。
 これは屋台と言うべき建物である。店主には悪いけどな……。
 そんな店主は虚空を見つめ、また目を伏せる感じの落ち着いた印象を抱く翁である。
 ……ふむ、時間的にまだ早いし、五分前くらいになったら話し掛けるか。
 ガンドフはドワーフの国。この農村コゾモフ畦道あぜみちを歩くのは皆ドワーフである。
 ドワーフが農業をやっているイメージはこれまでなかったが、彼らも輸入だけで食っている訳ではない。狩りもするし、農業もするだろう。
 皆、俺が珍しいのか、通り過ぎながら目で追っていく。
 人間ミケラルドの姿だが、どうやらこの村では俺の顔を知っている者はいないようだ――などと思っていたら、目の前から見覚えのある人間が歩いてきた。
 どうやら、彼女は珍しくないようだ。皆挨拶をしている。
 ……挨拶?
 微笑んだ彼女が小さく会釈する。

「こんにちはミケラルド様」
「こちらにいらしてたんですね、【ヒルダ、、、】殿」
「師から依頼がありましたから」

 依頼……ねぇ。

「その依頼、伺っても?」
「ミケラルド殿から荷を受け取るように、と」
「へぇ、じゃあ受け取りはヒルダ殿に?」
「えぇ、構いませんわ」

 彼女が明るくそう言うと、俺は【闇空間】を発動し荷を取り出した。
 時間は約束の正午五分前。
 俺は手に持った荷をヒルダに渡す。

「……確かに」

 ヒルダはそう言うと、またニコリと微笑んだ。

「あれ、中身を確認しないんですか?」

 俺が言うと、ヒルダは一瞬ピクリと止まった。

「師から開封の許可は頂いておりませんので」
「え、でも中身を確認しないと、それが本物かわかりませんよね?」
「……それもそうですね」

 そう言いながら、ヒルダは荷の封を解く。
 簡易的な紐で留められていただけの中身のわからない荷物。
 ヒルダは……それを開封した。

「そうですそうです。やっぱりそうしないと荷物が本物かわからないし、もしかしたら私が偽物かもしれないですからね」
「っ!」

 直後、ヒルダは俺を凝視する。その目は、疑いよりも驚きに偏っていた。
 何故なら荷の中に、【彼女、、】の知らない物が入っていたからだろう。

「……手紙?」
「荷は最初から空だった。そうではありませんか? ヒルダ殿」
「荷を開けたのですか……?」
「いいえ滅相もない」
「ではこれは?」
「依頼内容は『コゾモフ村の雑貨店へ荷を持って行く事』。ならば、この場でヒルダ殿に渡すのはおかしい。そうでしょう、ヒルダ殿?」
「……ではこの手紙は……荷の偽物フェイク?」
「一応、あなたへのラブレターになってますよ」

 言いながら俺は、【闇空間】から取り出した本物の荷を、予定通り正午に雑貨屋の店主に渡そうとした。
 しかし、店主は手を差し伸べて受け取ろうとはしてくれなかったのだ。
 ……やはりな。

「一応合格……という事でよろしいでしょうか、ヒルダ殿。いや……【プリシラ、、、、】殿?」

 俺がそう言うとヒルダはすんと鼻息を吐いた。
 瞬間、目の前にあった雑貨屋はパッと消えてしまったのだ。
 俺を見てヒソヒソ話していた住民も、映像が消えるかのようにシュンと消えてしまった。
 ヒルダの表情がニヤリ。直後それはグニャリと消えていく。

「このような大規模の【歪曲の変化】は初めてですよ。村は入口付近のあの一帯だけ。それ以外は全てアナタが創った世界を俺に見せていた」

 ヒルダだった面影はなく、それは正に双黒の幼女。もとい賢者と言えた。
 白く透き通る肌、黒い髪に黒い瞳――商人ギルドの長、白き魔女リルハ以上に小さな肢体したい
 先刻会話していたコリンに近い体躯ながらも、目に宿る芯は子供のソレではなかった。

「初めまして、というべきでしょうか」
「初めましてだね、ミケラルド・オード・ミナジリ」

 両肩をすくめながら言った彼女の声。それは、甲高くもブレない真っ直ぐな声だった。

「まさかこんな簡単にバレるなんて思ってなかったよ」
「それどころか、まるで終始私を疑うような行動だったと言えますね」

 俺は【土塊つちくれ操作】を発動し、その場にベンチを造った。
 そこに座りながら俺が言うと、彼女は観念したように溜め息を吐いてから同じベンチに腰を下ろした。

「そうだよ、私は君に会いたくなかった」

 俺に会いたくない理由……気になるな。

「……だが会ってしまった」

 俺がそう続けると、彼女は中空を見つめながら言った。

「さっきの魔法、【歪曲の変化】以外の魔法名を付けるとしたら……君は何と名付ける?」

 なるほど、これは彼女からのテストなのだろう。

「……【立体映像ホログラム】」

 言うと、彼女の瞳が静かにこちらに向いた。
 そして小さく「やはりか」と言うと、彼女は小さな右手を俺に差し出したのだ。

「プリシラだ」

 こうして、俺は双黒の賢者プリシラと出会ったのだった。
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