502 / 566
第二部
その500 コゾモフ村
しおりを挟む
約束の時間まで三十分。三十分前行動をする系元首ことミケラルド。
【コゾモフ村】に着いた俺は、村にただ一つの雑貨店を前に驚きを隠せずにいた。
「お、おぉ……」
それは、店というにはあまりにもアレだった。
これは屋台と言うべき建物である。店主には悪いけどな……。
そんな店主は虚空を見つめ、また目を伏せる感じの落ち着いた印象を抱く翁である。
……ふむ、時間的にまだ早いし、五分前くらいになったら話し掛けるか。
ガンドフはドワーフの国。この農村の畦道を歩くのは皆ドワーフである。
ドワーフが農業をやっているイメージはこれまでなかったが、彼らも輸入だけで食っている訳ではない。狩りもするし、農業もするだろう。
皆、俺が珍しいのか、通り過ぎながら目で追っていく。
人間の姿だが、どうやらこの村では俺の顔を知っている者はいないようだ――などと思っていたら、目の前から見覚えのある人間が歩いてきた。
どうやら、彼女は珍しくないようだ。皆挨拶をしている。
……挨拶?
微笑んだ彼女が小さく会釈する。
「こんにちはミケラルド様」
「こちらにいらしてたんですね、【ヒルダ】殿」
「師から依頼がありましたから」
依頼……ねぇ。
「その依頼、伺っても?」
「ミケラルド殿から荷を受け取るように、と」
「へぇ、じゃあ受け取りはヒルダ殿に?」
「えぇ、構いませんわ」
彼女が明るくそう言うと、俺は【闇空間】を発動し荷を取り出した。
時間は約束の正午五分前。
俺は手に持った荷をヒルダに渡す。
「……確かに」
ヒルダはそう言うと、またニコリと微笑んだ。
「あれ、中身を確認しないんですか?」
俺が言うと、ヒルダは一瞬ピクリと止まった。
「師から開封の許可は頂いておりませんので」
「え、でも中身を確認しないと、それが本物かわかりませんよね?」
「……それもそうですね」
そう言いながら、ヒルダは荷の封を解く。
簡易的な紐で留められていただけの中身のわからない荷物。
ヒルダは……それを開封した。
「そうですそうです。やっぱりそうしないと荷物が本物かわからないし、もしかしたら私が偽物かもしれないですからね」
「っ!」
直後、ヒルダは俺を凝視する。その目は、疑いよりも驚きに偏っていた。
何故なら荷の中に、【彼女】の知らない物が入っていたからだろう。
「……手紙?」
「荷は最初から空だった。そうではありませんか? ヒルダ殿」
「荷を開けたのですか……?」
「いいえ滅相もない」
「ではこれは?」
「依頼内容は『コゾモフ村の雑貨店へ荷を持って行く事』。ならば、この場でヒルダ殿に渡すのはおかしい。そうでしょう、ヒルダ殿?」
「……ではこの手紙は……荷の偽物?」
「一応、あなたへのラブレターになってますよ」
言いながら俺は、【闇空間】から取り出した本物の荷を、予定通り正午に雑貨屋の店主に渡そうとした。
しかし、店主は手を差し伸べて受け取ろうとはしてくれなかったのだ。
……やはりな。
「一応合格……という事でよろしいでしょうか、ヒルダ殿。いや……【プリシラ】殿?」
俺がそう言うとヒルダはすんと鼻息を吐いた。
瞬間、目の前にあった雑貨屋はパッと消えてしまったのだ。
俺を見てヒソヒソ話していた住民も、映像が消えるかのようにシュンと消えてしまった。
ヒルダの表情がニヤリ。直後それはグニャリと消えていく。
「このような大規模の【歪曲の変化】は初めてですよ。村は入口付近のあの一帯だけ。それ以外は全てアナタが創った世界を俺に見せていた」
ヒルダだった面影はなく、それは正に双黒の幼女。もとい賢者と言えた。
白く透き通る肌、黒い髪に黒い瞳――商人ギルドの長、白き魔女リルハ以上に小さな肢体。
先刻会話していたコリンに近い体躯ながらも、目に宿る芯は子供のソレではなかった。
「初めまして、というべきでしょうか」
「初めましてだね、ミケラルド・オード・ミナジリ」
両肩を竦めながら言った彼女の声。それは、甲高くもブレない真っ直ぐな声だった。
「まさかこんな簡単にバレるなんて思ってなかったよ」
「それどころか、まるで終始私を疑うような行動だったと言えますね」
俺は【土塊操作】を発動し、その場にベンチを造った。
そこに座りながら俺が言うと、彼女は観念したように溜め息を吐いてから同じベンチに腰を下ろした。
「そうだよ、私は君に会いたくなかった」
俺に会いたくない理由……気になるな。
「……だが会ってしまった」
俺がそう続けると、彼女は中空を見つめながら言った。
「さっきの魔法、【歪曲の変化】以外の魔法名を付けるとしたら……君は何と名付ける?」
なるほど、これは彼女からのテストなのだろう。
「……【立体映像】」
言うと、彼女の瞳が静かにこちらに向いた。
そして小さく「やはりか」と言うと、彼女は小さな右手を俺に差し出したのだ。
「プリシラだ」
こうして、俺は双黒の賢者プリシラと出会ったのだった。
【コゾモフ村】に着いた俺は、村にただ一つの雑貨店を前に驚きを隠せずにいた。
「お、おぉ……」
それは、店というにはあまりにもアレだった。
これは屋台と言うべき建物である。店主には悪いけどな……。
そんな店主は虚空を見つめ、また目を伏せる感じの落ち着いた印象を抱く翁である。
……ふむ、時間的にまだ早いし、五分前くらいになったら話し掛けるか。
ガンドフはドワーフの国。この農村の畦道を歩くのは皆ドワーフである。
ドワーフが農業をやっているイメージはこれまでなかったが、彼らも輸入だけで食っている訳ではない。狩りもするし、農業もするだろう。
皆、俺が珍しいのか、通り過ぎながら目で追っていく。
人間の姿だが、どうやらこの村では俺の顔を知っている者はいないようだ――などと思っていたら、目の前から見覚えのある人間が歩いてきた。
どうやら、彼女は珍しくないようだ。皆挨拶をしている。
……挨拶?
微笑んだ彼女が小さく会釈する。
「こんにちはミケラルド様」
「こちらにいらしてたんですね、【ヒルダ】殿」
「師から依頼がありましたから」
依頼……ねぇ。
「その依頼、伺っても?」
「ミケラルド殿から荷を受け取るように、と」
「へぇ、じゃあ受け取りはヒルダ殿に?」
「えぇ、構いませんわ」
彼女が明るくそう言うと、俺は【闇空間】を発動し荷を取り出した。
時間は約束の正午五分前。
俺は手に持った荷をヒルダに渡す。
「……確かに」
ヒルダはそう言うと、またニコリと微笑んだ。
「あれ、中身を確認しないんですか?」
俺が言うと、ヒルダは一瞬ピクリと止まった。
「師から開封の許可は頂いておりませんので」
「え、でも中身を確認しないと、それが本物かわかりませんよね?」
「……それもそうですね」
そう言いながら、ヒルダは荷の封を解く。
簡易的な紐で留められていただけの中身のわからない荷物。
ヒルダは……それを開封した。
「そうですそうです。やっぱりそうしないと荷物が本物かわからないし、もしかしたら私が偽物かもしれないですからね」
「っ!」
直後、ヒルダは俺を凝視する。その目は、疑いよりも驚きに偏っていた。
何故なら荷の中に、【彼女】の知らない物が入っていたからだろう。
「……手紙?」
「荷は最初から空だった。そうではありませんか? ヒルダ殿」
「荷を開けたのですか……?」
「いいえ滅相もない」
「ではこれは?」
「依頼内容は『コゾモフ村の雑貨店へ荷を持って行く事』。ならば、この場でヒルダ殿に渡すのはおかしい。そうでしょう、ヒルダ殿?」
「……ではこの手紙は……荷の偽物?」
「一応、あなたへのラブレターになってますよ」
言いながら俺は、【闇空間】から取り出した本物の荷を、予定通り正午に雑貨屋の店主に渡そうとした。
しかし、店主は手を差し伸べて受け取ろうとはしてくれなかったのだ。
……やはりな。
「一応合格……という事でよろしいでしょうか、ヒルダ殿。いや……【プリシラ】殿?」
俺がそう言うとヒルダはすんと鼻息を吐いた。
瞬間、目の前にあった雑貨屋はパッと消えてしまったのだ。
俺を見てヒソヒソ話していた住民も、映像が消えるかのようにシュンと消えてしまった。
ヒルダの表情がニヤリ。直後それはグニャリと消えていく。
「このような大規模の【歪曲の変化】は初めてですよ。村は入口付近のあの一帯だけ。それ以外は全てアナタが創った世界を俺に見せていた」
ヒルダだった面影はなく、それは正に双黒の幼女。もとい賢者と言えた。
白く透き通る肌、黒い髪に黒い瞳――商人ギルドの長、白き魔女リルハ以上に小さな肢体。
先刻会話していたコリンに近い体躯ながらも、目に宿る芯は子供のソレではなかった。
「初めまして、というべきでしょうか」
「初めましてだね、ミケラルド・オード・ミナジリ」
両肩を竦めながら言った彼女の声。それは、甲高くもブレない真っ直ぐな声だった。
「まさかこんな簡単にバレるなんて思ってなかったよ」
「それどころか、まるで終始私を疑うような行動だったと言えますね」
俺は【土塊操作】を発動し、その場にベンチを造った。
そこに座りながら俺が言うと、彼女は観念したように溜め息を吐いてから同じベンチに腰を下ろした。
「そうだよ、私は君に会いたくなかった」
俺に会いたくない理由……気になるな。
「……だが会ってしまった」
俺がそう続けると、彼女は中空を見つめながら言った。
「さっきの魔法、【歪曲の変化】以外の魔法名を付けるとしたら……君は何と名付ける?」
なるほど、これは彼女からのテストなのだろう。
「……【立体映像】」
言うと、彼女の瞳が静かにこちらに向いた。
そして小さく「やはりか」と言うと、彼女は小さな右手を俺に差し出したのだ。
「プリシラだ」
こうして、俺は双黒の賢者プリシラと出会ったのだった。
0
お気に入りに追加
447
あなたにおすすめの小説
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
最弱テイマーの成り上がり~役立たずテイマーは実は神獣を従える【神獣使い】でした。今更戻ってこいと言われてももう遅い~
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティーに所属するテイマーのカイトは使えない役立たずだからと追放される。
さらにパーティーの汚点として高難易度ダンジョンに転移され、魔物にカイトを始末させようとする。
魔物に襲われ絶体絶命のピンチをむかえたカイトは、秘められた【神獣使い】の力を覚醒させる。
神に匹敵する力を持つ神獣と契約することでスキルをゲット。さらにフェンリルと契約し、最強となる。
その一方で、パーティーメンバーたちは、カイトを追放したことで没落の道を歩むことになるのであった。
現代ダンジョンで成り上がり!
カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる!
現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。
舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。
四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる