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第二部
その485 先手
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「シギュン殿が?」
ミケラルド先生をこなした俺は、ライゼン学校長に呼び止められてしまった。
そしてライゼン学校長から出た名前は【刻の番人】の一角だったのだ。
「……早くも動いてきたという事ですな」
彼のシギュンへの怒りは計り知れない。この伝言も彼としては憤りを感じているのだろう。拳を強く握るライゼン学校長を見、俺は緊張を露わにしたのだった。
◇◆◇ ◆◇◆
「二年生? 何だそれは?」
「あのねリィたん。ここは聖騎士学校で、二年制。私たちは聖騎士学校の一年生で、当然、私たちより一年早く習い始めてる生徒もいるって事だよ」
キョトンと首を傾げるリィたんを前に、ナタリーがその意味を教える。
事のあらましはこうである。
存在感の薄い聖騎士団長オルグが、講師の定例講師会議で提案を出した。
――――特別講師の中でも人気の高いミケラルド・オード・ミナジリの授業を二年生にも組み込んではどうか、と。
聖騎士団長オルグが~とは言うも、その裏では当然【刻の番人】であるシギュンが、糸というか縄というか鞭を引いている。
幸いにして特別講師枠の授業はカリキュラム的に足しやすく、聖騎士学校としても聖騎士団としてもこれを採用しない手はない。
人気が高い――というのも方便で、オベイルやイヅナ、ヒルダの授業は二年生にもあるし、法王クルスだって行う事がある。
ここでジェイルの名が挙がらなかったのは、多分――、
「ジェイルは何故声がかからない?」
「読めないからじゃない?」
リィたんの疑問に、ナタリーがズバッと答える。
言い方は疑問形でも、答えは正確であり俺を見るナタリーの目は確かである。
そう、つまり俺の方が御し易いと見られた訳だ。
まぁ、こんなちゃらんぽらんな講師なんて、シギュンが一年間育て上げた二年生にかかればちょろいヒロインである。みたいに思われた訳だ。
やはり世界のヒロインを総括するのは俺なんだなと思いつつも、頭を抱えているミケラルド君である。
「それで、受けたのか?」
「受けたよ。今ならシギュンの【呪い】を解けるかもしれないしね」
「嘘だな」
「うん、あれは嘘の顔だね」
リィたんもナタリーも真顔で俺の言葉を突いてきた。
すると、聖女アリスがじーっと俺の顔を覗き込んで来た。というか、リィたんの部屋に入り浸るようになったな、この子。
「ん~~……半分だけ本当の事を言ってますね」
「凄い眼力ですね」
「努力の賜物ですっ」
ふんっと鼻息を吐きながらアリスが言う。
お~、と口を尖らせるナタリーはアリスの事を感心しているようだ。
なるほど、ナタリーも気付いていたか。
「ふむ、もう一つの理由は何だ、ミック?」
「断れる雰囲気じゃなかった」
「なるほど、ミックらしいな」
「いや、だってライゼン校長が重々しい雰囲気で『時は来た』みたいに言うんだよっ? 断れる訳ないじゃん! 『どうされますか? 断る事も出来ますが……』なんて言われたって無理! 無理寄りの無理だよ!」
「そうか」
と言ってくれたのはリィたんだけで、ナタリーとアリスはしら~っと冷たい雰囲気である。おやおや~? ここは雪国かな?
「ふ~~ん、で、スケジュールは大丈夫なの?」
「なんとか……」
ナタリーは何だかんだで心配してくれているようだ。
「……身体壊さないでくださいよ」
「はい……」
アリスは優しいというより子供に言い聞かすように言ってくる。
これではどちらが年上かわかったものではない。
「ミック、ぬかるなよ」
「合点……」
リィたんの忠言には頭が下がる思いである。
三人の乙女を前にいつの間にか小さくなっていた俺は、ルークの部屋に戻った。
ドマークとの待ち合わせまではまだ二日も時間がある。
ルナ王女とレティシア嬢の警護も出来るだけ手を抜けないからな。
という訳で、失われし位階とヒミコを控えさせ、俺とルナ王女、レティシア嬢で自主練と称し外で訓練をする事になった。
長く……とは言えないが聖騎士学校の生活に慣れてきた皆は、地獄の筋肉痛を通り越し、日々適度な筋肉痛と戦いながら訓練をするだけの余力が出て来た。
こうして見ると、人の精神力や慣れというものは恐ろしいものであると共にとても優れていると思える。
「やっ!」
「いいですよレティシア様、そこから斬り返しです」
「やぁ!」
レティシア嬢の剣を受けながらその成長を目の当たりにする。
冒険者ランクで言えば、レティシア嬢はまだランクF程度であるが、既にランクEに近い動きをするようになってきた。
これは当然この聖騎士学校の成果であり、レティシア嬢自身の努力の結果でもある。
「はぁ!」
「良い目です。そのタイミングを忘れないように、ルナ王女殿下!」
「わかりました! ふっ!」
と、ルナ王女の実力もランクCに差し掛かっている。
この勢いで成長を続ければ、ルナ王女クラスの才能の持ち主であれば聖騎士の実力まで届くだろう。
二年生……か。一年間ここで育った生徒たちは、シギュンにどんな指令を受け、どんなやり方で俺を虐めてくるのだろうか。
ミケラルド先生をこなした俺は、ライゼン学校長に呼び止められてしまった。
そしてライゼン学校長から出た名前は【刻の番人】の一角だったのだ。
「……早くも動いてきたという事ですな」
彼のシギュンへの怒りは計り知れない。この伝言も彼としては憤りを感じているのだろう。拳を強く握るライゼン学校長を見、俺は緊張を露わにしたのだった。
◇◆◇ ◆◇◆
「二年生? 何だそれは?」
「あのねリィたん。ここは聖騎士学校で、二年制。私たちは聖騎士学校の一年生で、当然、私たちより一年早く習い始めてる生徒もいるって事だよ」
キョトンと首を傾げるリィたんを前に、ナタリーがその意味を教える。
事のあらましはこうである。
存在感の薄い聖騎士団長オルグが、講師の定例講師会議で提案を出した。
――――特別講師の中でも人気の高いミケラルド・オード・ミナジリの授業を二年生にも組み込んではどうか、と。
聖騎士団長オルグが~とは言うも、その裏では当然【刻の番人】であるシギュンが、糸というか縄というか鞭を引いている。
幸いにして特別講師枠の授業はカリキュラム的に足しやすく、聖騎士学校としても聖騎士団としてもこれを採用しない手はない。
人気が高い――というのも方便で、オベイルやイヅナ、ヒルダの授業は二年生にもあるし、法王クルスだって行う事がある。
ここでジェイルの名が挙がらなかったのは、多分――、
「ジェイルは何故声がかからない?」
「読めないからじゃない?」
リィたんの疑問に、ナタリーがズバッと答える。
言い方は疑問形でも、答えは正確であり俺を見るナタリーの目は確かである。
そう、つまり俺の方が御し易いと見られた訳だ。
まぁ、こんなちゃらんぽらんな講師なんて、シギュンが一年間育て上げた二年生にかかればちょろいヒロインである。みたいに思われた訳だ。
やはり世界のヒロインを総括するのは俺なんだなと思いつつも、頭を抱えているミケラルド君である。
「それで、受けたのか?」
「受けたよ。今ならシギュンの【呪い】を解けるかもしれないしね」
「嘘だな」
「うん、あれは嘘の顔だね」
リィたんもナタリーも真顔で俺の言葉を突いてきた。
すると、聖女アリスがじーっと俺の顔を覗き込んで来た。というか、リィたんの部屋に入り浸るようになったな、この子。
「ん~~……半分だけ本当の事を言ってますね」
「凄い眼力ですね」
「努力の賜物ですっ」
ふんっと鼻息を吐きながらアリスが言う。
お~、と口を尖らせるナタリーはアリスの事を感心しているようだ。
なるほど、ナタリーも気付いていたか。
「ふむ、もう一つの理由は何だ、ミック?」
「断れる雰囲気じゃなかった」
「なるほど、ミックらしいな」
「いや、だってライゼン校長が重々しい雰囲気で『時は来た』みたいに言うんだよっ? 断れる訳ないじゃん! 『どうされますか? 断る事も出来ますが……』なんて言われたって無理! 無理寄りの無理だよ!」
「そうか」
と言ってくれたのはリィたんだけで、ナタリーとアリスはしら~っと冷たい雰囲気である。おやおや~? ここは雪国かな?
「ふ~~ん、で、スケジュールは大丈夫なの?」
「なんとか……」
ナタリーは何だかんだで心配してくれているようだ。
「……身体壊さないでくださいよ」
「はい……」
アリスは優しいというより子供に言い聞かすように言ってくる。
これではどちらが年上かわかったものではない。
「ミック、ぬかるなよ」
「合点……」
リィたんの忠言には頭が下がる思いである。
三人の乙女を前にいつの間にか小さくなっていた俺は、ルークの部屋に戻った。
ドマークとの待ち合わせまではまだ二日も時間がある。
ルナ王女とレティシア嬢の警護も出来るだけ手を抜けないからな。
という訳で、失われし位階とヒミコを控えさせ、俺とルナ王女、レティシア嬢で自主練と称し外で訓練をする事になった。
長く……とは言えないが聖騎士学校の生活に慣れてきた皆は、地獄の筋肉痛を通り越し、日々適度な筋肉痛と戦いながら訓練をするだけの余力が出て来た。
こうして見ると、人の精神力や慣れというものは恐ろしいものであると共にとても優れていると思える。
「やっ!」
「いいですよレティシア様、そこから斬り返しです」
「やぁ!」
レティシア嬢の剣を受けながらその成長を目の当たりにする。
冒険者ランクで言えば、レティシア嬢はまだランクF程度であるが、既にランクEに近い動きをするようになってきた。
これは当然この聖騎士学校の成果であり、レティシア嬢自身の努力の結果でもある。
「はぁ!」
「良い目です。そのタイミングを忘れないように、ルナ王女殿下!」
「わかりました! ふっ!」
と、ルナ王女の実力もランクCに差し掛かっている。
この勢いで成長を続ければ、ルナ王女クラスの才能の持ち主であれば聖騎士の実力まで届くだろう。
二年生……か。一年間ここで育った生徒たちは、シギュンにどんな指令を受け、どんなやり方で俺を虐めてくるのだろうか。
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