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第二部

その468 剣神イヅナの授業

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「という訳で、パーシバルと一緒に仲良く木龍を探す事になったんですけど、ご一緒されます?」
「……ときの番人、か」

 その夜、俺はミナジリ共和国に帰還していた。
 険しい面持おももちをしている眼前の翁は、すけべ爺もとい魔帝グラムス。パーシバルの師であり、SSダブル相当の実力者。

「儂が付いて行けば、あやつは逃げるじゃろうて」
「拘束しましょうか?」
「はっ血を吸うか」

 吐き捨てるように言ったグラムス。
 だが、これは抗議のようにも思える。
 彼はそれを望まないが、望める立ち位置にもいない。
 だからこそ、態度でそう示したのだ。

「ご安心を、そのつもりはありません」
「ほぉ……? ではどうやってあの馬鹿弟子を捕える?」
「力くで」
「腕力で?」
「冒険者っぽいでしょう?」
「……なるほど、しかし大人しく捕まってくれるか?」
「大丈夫です。SSSトリプル程度なら傷付けず拘束するくらい訳ありません」
「……わかった」
「【歪曲の変化】、私が掛けましょうか?」
「ふん、弟子に見破られる程、儂の魔法は甘くないのじゃ!」

 何とも、気の強い爺さんだ。
 まぁ、これくらいでなくちゃ、元悪人たちで構成されたミナジリ共和国の守備隊は任せられないからな。

「出発はいつじゃ?」
「明日、イヅナさんの授業が終わってから」
「ディノ大森林か……ガンドフの支店で待つ」
「はい、では明日」

 ◇◆◇ ◆◇◆

 剣神イヅナとは、冒険者のいただきにして憧れである。その武名は冒険者だけではなく各国の貴族たちにも響き渡っている。
 当然、聖騎士学校の生徒たちから見れば彼は神のような存在とも言える。
 だからこそ、イヅナは多少の無理を通す事が出来る。
 その「無理」とは、オベイル家に生徒たちを招き、炎龍ロイスの警護範囲にいながらも授業をするという、一石二鳥的なアイディアの事だ。
 だからこそとでも言おうか。皆はロイスを見ればいいのか、剣鬼オベイルを見ればいいのか、剣神イヅナを見ればいいのかわからなくなっているようだ。
 ガーディアンズが授業中は、どうしてもロイスの警護が甘くなる。オベイルとイヅナ二人ならまだしも、一人が欠けては厳しいという判断は間違いじゃない。
 ロイスも人に馴染む良い機会だし、一石三鳥くらいはあるかもしれない。

「ほっほっほ、例年に比べると残っているな」

 そりゃ意識改革から始めたからな。
 と言っても、それを自覚している者はいないだろう。

「ふむふむ……」

 イヅナが読んでるあれは、俺が書いた成績表じゃないか?
 顔の特徴とか勝手にニックネーム付けたりしてた成績表じゃないか?
 確かゲラルドのニックネームはムキムキコング。
 ライゼン学校長が呆れ眼で俺を見るという結果を残した、あの成績表じゃないか?

「面白い、とてもよくまとまっている」

 それはおかしい。
 イヅナは目がおかしくなっているのではなかろうか?
 あんなもの持ち出してどうするつもりだ?

「ゲラルド、ルーク……前へ」

 イヅナが呼んだのは、何故か俺だった。
 そして相手は、シギュンとの授業で試合をしたゲラルド君。
 ゲラルドは俺が手を抜いて戦った事を知っている。それが理由だろう。それが理由じゃなかったら一体何なんだって問いたいところだが、つまるところ彼が最近俺を見る視線が、かなり鋭いのだ。ナイフ未満カッターナイフ以上と言ったところだろうか。
 そして今、彼は明らかに俺を敵視している。
 目の前に待つイヅナが二本の木剣を持っているからだろう。
 何故イヅナは俺が書いた成績表を見ただけでゲラルドは兎も角、俺を指名したのか疑問でならない。ルークの項目には「いたって普通。平々凡々。超普通」としか書いてないのに。

「初回は技の授業といくかな」

 初回の授業にしては飛ばし過ぎでは? そう思った俺は何も間違っていない。彼の言う技とは最早もはや神技とすら呼べるものばかりだ。

「両人、これを持ち力を抜け」
「……こうでしょうか?」

 俺は肩の力を抜き脱力し、プランと腕を垂らした。
 ゲラルドも怪訝な面持ちながらもイヅナの言葉になぞった。

「もっと……もっと、水のように脱力し剣に重みを感じろ」

 俺は勿論、ゲラルドクラスが聖騎士の剣に模した木剣を持っても、それは木の枝を振るのに等しい。しかし、イヅナは自身のペナルティをイメージにより課せと言っている。
 確かに今までこういった授業はなかった。……しくもこの訓練は過去ジェイルと共に行ったものだ。
 やはりイヅナも剣に生きる者。訓練も似通るのだろう。

「ルーク、そのまま。ゲラルド、もっと力を抜け」

 剛剣を操るゲラルドには難しい身体操作だろうが、これを学べばゲラルドの剣は一段階高みに上がる。

「……ふむ、まぁいいだろう」

 木剣が重い。立っている事すら苦に感じる脱力の極致。
 イヅナはニコリと微笑み、俺たちに剣を上げさせた。

「この試合、力を使う事は許さぬ。動き、剣の重さ、技のみで戦うように」

 技術勝負。
 過去通った道ではあるが、最近はサボっていた技術向上訓練。
 血を吸っただけではわからない、剣神の技術というのを体験するのも悪くない。
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