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第二部
その459 にらめっこ2
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「ちょ! ちょっ! ちょっ!? くっ!」
立ち上がって腰を落としリィたんの殺気に耐えるオベイル。
だが、流石だな。彼の行動は全て意識的。防衛本能とは言い難い。
まさか自分がターゲットになると思っていなかったのだろう。オベイルには正に奇襲というべき一撃をお見舞いしたリィたん。
だがだが、流石リィたんなのだろう。オベイルに準備をさせるべく、この殺気は彼女の本気ではない。
オベイルの準備も整ったようだし、ここからがリィたんの見せ場である。
「オベイル、まだSSSになった祝いを送ってなかったな」
「んなもんいらねぇよ!」
彼らは一応リプトゥア国との戦争で一緒に戦った、戦友とも呼べる仲だ。
これくらいの軽口は言い合うだろう。
がしかし、オベイルの声は若干上ずっている。当然だ、これはオベイル君のテストのようなものなのだから。
ここでリィたんがSSSを超える本物の殺気を見せる事で、皆も勉強出来る。なるほど、リィたんが聖騎士学校に入ったのは強さの頂の一部を見せるためでもあったのかもしれない。
直後、リィたんの殺気の質が変わる。
「ル、ルーク……あれ!」
隣にいたレティシア嬢が指差したのはオベイルの更に奥にある樹木だった。
その指先を皆で追った時、リィたんが放っている殺気、オベイルが受けている殺気がどれ程のものかを知った。
「うわぁ……」
俺がこんな言葉を零す時は、大体ファンタジー世界に呆れている時だったりする。
レティシア嬢が指差した樹木の葉が、著しく変色し始めたのである。緑から……あ、もう枯れ葉ですね、あれ。
やがて、葉は落ち樹木はミシミシと音を発し始めた。
自然破壊まで三、二、一……はい。
ずしんと折れてしまった樹木を見て、レティシア嬢も、ナタリーも目を丸くした。
「「……倒れちゃった……」」
植物だって生きている、なんて言ってもリィたんにはわからないだろうが、何の防衛策もないままリィたんの殺気を受け続けるとあぁなるとだけは皆理解したようだ。
「くっ! くそっ!」
オベイルの顔が歪み始める。
制限時間まで後少し。リィたんはルナ王女を倒す気はあるのだろうか。
次にオベイルがとった行動はオベニズムとでも言うべきか、実に彼らしい行動だった。
彼はすっと腰を伸ばし、少しずつリィたんに近付き始めたのだ。
数歩で広場の中央までやってきたオベイルは、顔をヒクヒクさせながらリィたんに笑いかけた。
直後、彼は彼でリィたんに殺気を向けたのだ。
それはもう変顔とも言うべきおかしな顔だった。
眼付ける事に慣れていない中学一年生みたいな目つきだ。とてもSSSの冒険者とは思えない。だが、それだけリィたんの殺気が強いのだ、仕方ないだろう。傍から見たら正規組の睨めっこ勝負と大差ない。
「そ、そろそろ時間だぜぇ? そんななまっちょろい殺気で大丈夫かよ、リィたん……!?」
つよがりおぶつよがりである。
正直、腹を抱えて笑いたいくらいだ。
「安心しろオベイル、まだそよ風程度だ」
「お、おぉ! だったら見せてみろよ!」
やせがまんおぶやせがまんである。
だが、おそらくこれで決着がつくだろう。
リィたんはとても優しいが、事勝負においては負ける事が嫌いである。
従って、この勝負も決して捨てた訳ではない。制限時間もちゃんと気にしているし、これがルナ王女との勝負だって事も忘れていない。
オベイルも倒しつつ、ルナ王女も倒す。これを可能にするのは殺気を指向型から範囲型へ切り替える事だ。
リィたんが広場全体に向けて放った殺気ウェーブは、オベイルだけではないその場にいる皆に尻もちにまで追い込んだのだった。
俺も皆に合わせて尻もちを突くと、ポカンとリィたんを見上げるオベイルとルナ王女の姿があった。
ルナ王女を見ながらリィたんは言った。
「殺気に魔力を飛ばすとより効果的だ」
殺気を使えばいいからね。ルールには抵触していないだろう。
苦笑する俺に、リィたんはウィンク一つ送って広場中央から離れた。
あの子を見ると、やはり俺はヒロインで彼女がヒーローなんじゃないかと思う。
はてさて、オベイルがショックを受けている中、誰が勝敗の合図を送るのか。
そう思うも、この場を仕切る人間は誰もいないのだ。俺は皆の回復を待ちながら空を見上げるのだった。
◇◆◇ ◆◇◆
不服そうなオベイル君が再び胡坐をかきブツブツ愚痴を零している中、俺は遂に【ファーラ】の前に立った。
先程まで気に掛けていたが、リィたんの殺気に対するファーラの防衛本能は確かなものだった。ならば、このファーラという吸血鬼の実力はリィたん以下という事になる。とはいえ相手は吸血鬼。【呪縛】の能力を持っている事には違いない。
血を吸い始めたら止まらないのが通常の吸血鬼だが、俺と同じで吸血衝動を抑えられる理性があるとしたら、彼女は強敵になりかねない。
見た感じ素朴で可愛い女の子。
「よ、よろしくお願いします」
ペコリと頭も下げ、とても好感の持てる相手である。
父上がどういう意図で彼女をここへ送り込んだかはわからないが、しっかりと見極めていこうと思う。
立ち上がって腰を落としリィたんの殺気に耐えるオベイル。
だが、流石だな。彼の行動は全て意識的。防衛本能とは言い難い。
まさか自分がターゲットになると思っていなかったのだろう。オベイルには正に奇襲というべき一撃をお見舞いしたリィたん。
だがだが、流石リィたんなのだろう。オベイルに準備をさせるべく、この殺気は彼女の本気ではない。
オベイルの準備も整ったようだし、ここからがリィたんの見せ場である。
「オベイル、まだSSSになった祝いを送ってなかったな」
「んなもんいらねぇよ!」
彼らは一応リプトゥア国との戦争で一緒に戦った、戦友とも呼べる仲だ。
これくらいの軽口は言い合うだろう。
がしかし、オベイルの声は若干上ずっている。当然だ、これはオベイル君のテストのようなものなのだから。
ここでリィたんがSSSを超える本物の殺気を見せる事で、皆も勉強出来る。なるほど、リィたんが聖騎士学校に入ったのは強さの頂の一部を見せるためでもあったのかもしれない。
直後、リィたんの殺気の質が変わる。
「ル、ルーク……あれ!」
隣にいたレティシア嬢が指差したのはオベイルの更に奥にある樹木だった。
その指先を皆で追った時、リィたんが放っている殺気、オベイルが受けている殺気がどれ程のものかを知った。
「うわぁ……」
俺がこんな言葉を零す時は、大体ファンタジー世界に呆れている時だったりする。
レティシア嬢が指差した樹木の葉が、著しく変色し始めたのである。緑から……あ、もう枯れ葉ですね、あれ。
やがて、葉は落ち樹木はミシミシと音を発し始めた。
自然破壊まで三、二、一……はい。
ずしんと折れてしまった樹木を見て、レティシア嬢も、ナタリーも目を丸くした。
「「……倒れちゃった……」」
植物だって生きている、なんて言ってもリィたんにはわからないだろうが、何の防衛策もないままリィたんの殺気を受け続けるとあぁなるとだけは皆理解したようだ。
「くっ! くそっ!」
オベイルの顔が歪み始める。
制限時間まで後少し。リィたんはルナ王女を倒す気はあるのだろうか。
次にオベイルがとった行動はオベニズムとでも言うべきか、実に彼らしい行動だった。
彼はすっと腰を伸ばし、少しずつリィたんに近付き始めたのだ。
数歩で広場の中央までやってきたオベイルは、顔をヒクヒクさせながらリィたんに笑いかけた。
直後、彼は彼でリィたんに殺気を向けたのだ。
それはもう変顔とも言うべきおかしな顔だった。
眼付ける事に慣れていない中学一年生みたいな目つきだ。とてもSSSの冒険者とは思えない。だが、それだけリィたんの殺気が強いのだ、仕方ないだろう。傍から見たら正規組の睨めっこ勝負と大差ない。
「そ、そろそろ時間だぜぇ? そんななまっちょろい殺気で大丈夫かよ、リィたん……!?」
つよがりおぶつよがりである。
正直、腹を抱えて笑いたいくらいだ。
「安心しろオベイル、まだそよ風程度だ」
「お、おぉ! だったら見せてみろよ!」
やせがまんおぶやせがまんである。
だが、おそらくこれで決着がつくだろう。
リィたんはとても優しいが、事勝負においては負ける事が嫌いである。
従って、この勝負も決して捨てた訳ではない。制限時間もちゃんと気にしているし、これがルナ王女との勝負だって事も忘れていない。
オベイルも倒しつつ、ルナ王女も倒す。これを可能にするのは殺気を指向型から範囲型へ切り替える事だ。
リィたんが広場全体に向けて放った殺気ウェーブは、オベイルだけではないその場にいる皆に尻もちにまで追い込んだのだった。
俺も皆に合わせて尻もちを突くと、ポカンとリィたんを見上げるオベイルとルナ王女の姿があった。
ルナ王女を見ながらリィたんは言った。
「殺気に魔力を飛ばすとより効果的だ」
殺気を使えばいいからね。ルールには抵触していないだろう。
苦笑する俺に、リィたんはウィンク一つ送って広場中央から離れた。
あの子を見ると、やはり俺はヒロインで彼女がヒーローなんじゃないかと思う。
はてさて、オベイルがショックを受けている中、誰が勝敗の合図を送るのか。
そう思うも、この場を仕切る人間は誰もいないのだ。俺は皆の回復を待ちながら空を見上げるのだった。
◇◆◇ ◆◇◆
不服そうなオベイル君が再び胡坐をかきブツブツ愚痴を零している中、俺は遂に【ファーラ】の前に立った。
先程まで気に掛けていたが、リィたんの殺気に対するファーラの防衛本能は確かなものだった。ならば、このファーラという吸血鬼の実力はリィたん以下という事になる。とはいえ相手は吸血鬼。【呪縛】の能力を持っている事には違いない。
血を吸い始めたら止まらないのが通常の吸血鬼だが、俺と同じで吸血衝動を抑えられる理性があるとしたら、彼女は強敵になりかねない。
見た感じ素朴で可愛い女の子。
「よ、よろしくお願いします」
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