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第二部
その442 正体
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商人ギルドの本部には、商人ギルドに認められた名高い商人たちが集い、自分の仕入れた商品、開発した商品、今後商品展開する物などをアピールする場がある。我がミケラルド商店も、当然いくつかの商品を置かせてもらっている。
そんな展示スペースは毎日商人や新しいもの好きな客で賑わっている。
リィたんを護衛とし、ナタリーたちにはそこで待ってもらい、俺はギルド長室へと入った。
そこで不服そうに待っていたのが、白き魔女と呼ばれるロリババ――
「――リルハだ」
リルハさんです。
「ルークと申します」
簡単な挨拶をすませ、俺はリルハの前に立った。
相変わらずの華奢な体躯。
これで保有している魔力が飛び抜けているのだから驚きだ。
さて、彼女がこれだけ不服そうな顔をしているのは何故か。
聖騎士学校の生徒とはいえ、見知らぬルークという男がリルハに面会を求めた事が原因か。それともそのルークが水龍リバイアタンであるリィたんを商人ギルド本部に連れて来た事が原因か。
どちらも違う。
その理由は、俺より先に入室していた彼に原因があるのだ。
ちらりと横を見ると、そこには腕を組んで仁王立ちするリルハとはあまりにも対照的な爺さんがいたからだ。
「さぁ、我らをここに呼んだ理由を聞こう」
俺の正体を知っているそこのアーダイン爺さんは不思議そうに聞く。
ギヌロと鋭い視線を向けるのは、リルハ。
そしてリルハはアーダインにもその視線を向けた。
「やはりお前も知らないじゃないか、アーダイン」
「だから言っただろう。いずれわかる、と」
「お前に何も知らせず顎で使える程、この坊やは偉いのか? ん?」
「クルスの友人だからな」
「クルスの?」
そういう紹介しちゃう?
怪訝な目を向けるリルハだが、その視線をまたアーダインに戻し、そしてほんの少し視線を落とした。何やら考え込んでいるようだ。
「無論、私の友人でもある」
アーダインの言葉など聞こえていないようだ。
何やらリルハがブツブツ呟き始めた。すると、アーダインが口を尖らせたのだ。
「ほぉ」
そんな呟きに俺が首を傾げると、アーダインが俺を見て言った。
「もうしばらくすると、何故リルハが白き婆なんて呼ばれてるかわかるぞ」
「へ?」
直後、リルハが視線を俺へと戻した。
「……なるほどな」
何がなるほどなのか。
「失礼した、座ってくれ」
アーダインが口の端を上げ、また俺を見る。
これはつまり――もしかして?
リルハに言われるまま応接用のソファに腰掛ける俺。
立ったままの応対ではなく、俺を座らせたという事は、やはりそういう事なのだ。
俺がアーダインを見ると、彼は目を伏せて「ふっ」と笑った。
ならば最初から間違っていたという訳だ。
「お久しぶりですね、リルハ殿」
話の切り出しはこれが正解なのだろう。
「久しぶりだな。随分と難儀な生活を送っているようだな。北から世界に出回ったアレは上手く使わせてもらっている」
まったく、姿カタチを変えていても、俺をミケラルドだと断定してしまうとはね。難儀な生活とは、元首と生徒、そして講師もしている俺への労い。そして北から世界に出回ったのは活版印刷機の事だ。
それはつまり、リルハが俺をミケラルドだと見抜いたという事に他ならない。
リィたんたちを連れ、アポにはエメラ。クルスの友人という情報と、アーダインの態度。それらを照らし合わし、結論に行き着いた。
「それは何よりです。ですが、商業利用以上に教育への投資もお願い致します」
「無論だ」
俺が名乗らない以上、彼女は俺の名を言えない。
そして言わない理由を詮索する気はないのだろう。
「それで、今日は何の用だ?」
「聖騎士学校に我々以外の魔族と思しき存在を確認しました」
「……確かにそれはクルスから聞き及んでいる。つまり、今回はその件か」
「いえ、それとは別の話です」
リルハとアーダインが見合い、俺に視線を戻す。
「今回、その生徒を聖騎士学校に入学させたのは我が父でした」
「魔族四天王が聖騎士学校入学に関与? それ程重要な魔族という事か」
「その点についてはこれから調査し、追っていくつもりです。今回はその情報共有をと思い、お二人を集めました」
「それはありがたい事だな。魔族の情勢がわかれば、いざという時我々も動きやすい」
そう、彼らは法王国の重要人物という他に、法王国の戦力でもある。
両ギルドマスターはSSSと呼べる実力者。
彼らに情報を渡す事は、この国で生きる上で大事な事なのだ。
「その情報を仕入れた時、別の気になる情報を掴みまして」
「それが別の話というやつか」
「実は私、別件で人探しをしておりまして、情報を聞きまとめてみると、私の頭にリルハ殿が浮かびました」
「どういった情報だ?」
「魔法を使える幼女」
直後、リルハは強い視線を俺に向けた。
当然、俺の発言は彼女にとって失礼に当たる。
だが、この前情報がなければ、その後の話が出来ないのだ。
俺はリルハの視線を受け流しながら続けた。
「髪、瞳は黒。双黒の少女と呼ぶべきでしょうか」
俺がそう言うと、リルハがピタリと止まった。
「彼女は【闇空間】を発動し、骨董屋にこれを売ったそうです」
俺は折れた打刀を【闇空間】から取り出し、リルハに見せる。
するとリルハは打刀を取り、しばらく眺めた後、その打刀を俺に向けた。
おや? これはもしや?
「おい、リルハ……?」
「黙ってろアーダイン、私はこの者に聞かなければならない事がある」
「そりゃ質問じゃなくて脅しだろうが」
「無論、こんな脅しがこの者に通じるとは思っていない。だがな、相手が我が師を追ってるとなれば話は別だ」
まさか、白い幼女と黒い幼女の繋がりが師弟関係とは、驚きだね。
そんな展示スペースは毎日商人や新しいもの好きな客で賑わっている。
リィたんを護衛とし、ナタリーたちにはそこで待ってもらい、俺はギルド長室へと入った。
そこで不服そうに待っていたのが、白き魔女と呼ばれるロリババ――
「――リルハだ」
リルハさんです。
「ルークと申します」
簡単な挨拶をすませ、俺はリルハの前に立った。
相変わらずの華奢な体躯。
これで保有している魔力が飛び抜けているのだから驚きだ。
さて、彼女がこれだけ不服そうな顔をしているのは何故か。
聖騎士学校の生徒とはいえ、見知らぬルークという男がリルハに面会を求めた事が原因か。それともそのルークが水龍リバイアタンであるリィたんを商人ギルド本部に連れて来た事が原因か。
どちらも違う。
その理由は、俺より先に入室していた彼に原因があるのだ。
ちらりと横を見ると、そこには腕を組んで仁王立ちするリルハとはあまりにも対照的な爺さんがいたからだ。
「さぁ、我らをここに呼んだ理由を聞こう」
俺の正体を知っているそこのアーダイン爺さんは不思議そうに聞く。
ギヌロと鋭い視線を向けるのは、リルハ。
そしてリルハはアーダインにもその視線を向けた。
「やはりお前も知らないじゃないか、アーダイン」
「だから言っただろう。いずれわかる、と」
「お前に何も知らせず顎で使える程、この坊やは偉いのか? ん?」
「クルスの友人だからな」
「クルスの?」
そういう紹介しちゃう?
怪訝な目を向けるリルハだが、その視線をまたアーダインに戻し、そしてほんの少し視線を落とした。何やら考え込んでいるようだ。
「無論、私の友人でもある」
アーダインの言葉など聞こえていないようだ。
何やらリルハがブツブツ呟き始めた。すると、アーダインが口を尖らせたのだ。
「ほぉ」
そんな呟きに俺が首を傾げると、アーダインが俺を見て言った。
「もうしばらくすると、何故リルハが白き婆なんて呼ばれてるかわかるぞ」
「へ?」
直後、リルハが視線を俺へと戻した。
「……なるほどな」
何がなるほどなのか。
「失礼した、座ってくれ」
アーダインが口の端を上げ、また俺を見る。
これはつまり――もしかして?
リルハに言われるまま応接用のソファに腰掛ける俺。
立ったままの応対ではなく、俺を座らせたという事は、やはりそういう事なのだ。
俺がアーダインを見ると、彼は目を伏せて「ふっ」と笑った。
ならば最初から間違っていたという訳だ。
「お久しぶりですね、リルハ殿」
話の切り出しはこれが正解なのだろう。
「久しぶりだな。随分と難儀な生活を送っているようだな。北から世界に出回ったアレは上手く使わせてもらっている」
まったく、姿カタチを変えていても、俺をミケラルドだと断定してしまうとはね。難儀な生活とは、元首と生徒、そして講師もしている俺への労い。そして北から世界に出回ったのは活版印刷機の事だ。
それはつまり、リルハが俺をミケラルドだと見抜いたという事に他ならない。
リィたんたちを連れ、アポにはエメラ。クルスの友人という情報と、アーダインの態度。それらを照らし合わし、結論に行き着いた。
「それは何よりです。ですが、商業利用以上に教育への投資もお願い致します」
「無論だ」
俺が名乗らない以上、彼女は俺の名を言えない。
そして言わない理由を詮索する気はないのだろう。
「それで、今日は何の用だ?」
「聖騎士学校に我々以外の魔族と思しき存在を確認しました」
「……確かにそれはクルスから聞き及んでいる。つまり、今回はその件か」
「いえ、それとは別の話です」
リルハとアーダインが見合い、俺に視線を戻す。
「今回、その生徒を聖騎士学校に入学させたのは我が父でした」
「魔族四天王が聖騎士学校入学に関与? それ程重要な魔族という事か」
「その点についてはこれから調査し、追っていくつもりです。今回はその情報共有をと思い、お二人を集めました」
「それはありがたい事だな。魔族の情勢がわかれば、いざという時我々も動きやすい」
そう、彼らは法王国の重要人物という他に、法王国の戦力でもある。
両ギルドマスターはSSSと呼べる実力者。
彼らに情報を渡す事は、この国で生きる上で大事な事なのだ。
「その情報を仕入れた時、別の気になる情報を掴みまして」
「それが別の話というやつか」
「実は私、別件で人探しをしておりまして、情報を聞きまとめてみると、私の頭にリルハ殿が浮かびました」
「どういった情報だ?」
「魔法を使える幼女」
直後、リルハは強い視線を俺に向けた。
当然、俺の発言は彼女にとって失礼に当たる。
だが、この前情報がなければ、その後の話が出来ないのだ。
俺はリルハの視線を受け流しながら続けた。
「髪、瞳は黒。双黒の少女と呼ぶべきでしょうか」
俺がそう言うと、リルハがピタリと止まった。
「彼女は【闇空間】を発動し、骨董屋にこれを売ったそうです」
俺は折れた打刀を【闇空間】から取り出し、リルハに見せる。
するとリルハは打刀を取り、しばらく眺めた後、その打刀を俺に向けた。
おや? これはもしや?
「おい、リルハ……?」
「黙ってろアーダイン、私はこの者に聞かなければならない事がある」
「そりゃ質問じゃなくて脅しだろうが」
「無論、こんな脅しがこの者に通じるとは思っていない。だがな、相手が我が師を追ってるとなれば話は別だ」
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