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第二部
その432 奇襲
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「「はぁはぁはぁ……」」
仰向けになって倒れるオリハルコンズたち。
ケロリとした様子の俺に小首を傾げたナタリーが挙手する。
「先生!」
「はいナタリーさん」
「ランクAのパーティだったら、ランクSの一人くらい倒せそうだと思うですけど」
「とてもいい質問です。答えは簡単です。単純にオリハルコンズのチームワークが私の実力に届いていなかっただけです」
地面に胡座をかいたハンが言う。
「はぁはぁ……まじか。結構な錬度だと思ったんだけどな」
次にラッツが、
「凄まじかった。こちらの癖を全て理解しているように流れるような動きだった」
そしてキッカが、
「全部紙一重で避けてたね」
最後にアリスが、
「うぅ……完全に大振りでした……」
まぁ、アリスの攻撃は確かに大振りだった。
剣より拳を振り回してたからな。
「このように、通常負けるような状況でも打破出来ない訳ではないと理解してください。もしあなた方が絶体絶命に陥ったと思ったら、私を思い出してください。必ず活路がありますから。次に……そうですね、エメリーさんお願いします」
「わ、私ですかっ?」
エメリーが自分を指差し驚く。
「こちらのエメリーさんは世間を賑わす救世主とも言うべき勇者。生徒の皆さんには周知の事実かと思います」
照れるエメリーが剣を握り構える。
「私の実力は先程と変えません。今のは多対一、今回は一対一の相手が自分より強い強者の場合の対応方法です」
「「っ!?」」
ざわつく広場。
何故なら相手はSS相当の実力を有した勇者エメリー。
ランクSがこれに勝てるのであれば、冒険者ギルドのランクSなどあてにならない事になる。当然、そういう訳でもないし、俺の狙いはそこにない。
「ではエメリーさん。いつでもどうぞ」
「はい! ――はっ!」
攻撃に入ったエメリー。
俺はエメリーの横なぎ払い攻撃を剣で受け、その剣に乗った。
剣と剣の衝撃と同時に跳躍し、横に逃れた俺。
それを追うエメリーだが、
「っ!?」
俺の常軌を逸した行動を見て、観戦していたアリスが叫ぶ。
「ちょ、ちょっとミケラルドさーん!?」
ナタリーもポカンと口を開けて中々のアホ面である。
「ミック?」
俺が入ったのは生徒たちの人垣の中。
縫うように動きこれをかわし、再度人垣から出ると、そこには俺を追うように探すエメリーがいた。
飛び出た俺がエメリーの背後を狙う。
周囲は未だ驚きの渦中。俺一人だけの気配、音を察知する事は不可能である。
エメリーの背後に向かって剣を投げる。大地に刺さった剣の音に反応してエメリーが後方に警戒した瞬間、この模擬戦の勝敗は決した。
跳躍し、エメリーの前方に着地した俺は、背後の剣に意識をとられたエメリーの背中を一瞬で羽交い締めにした。
「はい、一本」
「うぇ?」
呆気にとられたエメリーだが、首元に当てられた剣の冷たい感触にようやく気付き両手をあげて降参の意を示した。
「「おぉ……」」
感嘆の声が漏れる中、エメリーが目の前で大地に刺さっている剣を見る。
「これは木剣……」
「そうです。ナタリーさんのを拝借して投げました。殺傷能力のあるこちらの剣じゃないと勝ったとわかりづらいので」
「そこまで考えてたんですか?」
「先生ですから」
俺が微笑みながら言い、エメリーを解放する。
中央に戻った俺とエメリー。
「今回のこれはだまし討ちのようなものです。誰も初手で逃げるという選択は想定出来なかったでしょう。だからこそ奇襲が成り立ちます。私が人垣に入った時、皆さんは驚き、声という雑音を出しました。これによりエメリーさんは私を発見しづらくなったのです。強者への奇襲。結果としてはそれだけですが、今回の場合、エメリーさんは決して油断していませんでした。ですが、奇襲が成功した。限定的ではありますが、こういった状況を作り出す事も可能だという事を皆さんに覚えていて欲しいですね」
「「はい!」」
「今回は模擬戦でしたが、強者相手にそうそう奇襲は決まりません。ですから、もし自分の思い通りに奇襲が決まったのであれば――」
皆がキョトンとする中、俺は声を落として言った。
「躊躇した瞬間、立場は逆転してしまいます。だから、一気に止めを刺しましょう」
そう微笑みながら言うと、皆は引きつった顔をしながらも納得してくれた。
そして、パチンと手を叩き空気を変える。
「ま、聖騎士の信条に反する場合もありますが、勝ち戦を捨てるよりかはマシです。実力という名の刃を磨いている時点で、弱者にとってはズルいんですから。この際です、正しい狡猾さを学んでいきましょう」
笑う冒険者組と、笑顔を引きつらせる正規組。
冒険者組の中では、イマイチ納得していないアリスだったが、最終的には「まぁ、いつものミケラルドさんだし」という顔で自分を納得させていた。
そんな中、ゲラルドが俺の前へやってきた。
「おや、珍しいですね」
ある意味、俺はゲラルドの仇と言える。
ゲラルドの表情からは何も読み取れないが、彼は一体何をしたいのだろうか。
「どうしましたか、ゲラルドさん」
すると、ゲラルドは予想外な事を口にした。
「……あなたの全力を見せて欲しい」
これはある意味、ゲラルドの奇襲と言えるのではなかろうか?
仰向けになって倒れるオリハルコンズたち。
ケロリとした様子の俺に小首を傾げたナタリーが挙手する。
「先生!」
「はいナタリーさん」
「ランクAのパーティだったら、ランクSの一人くらい倒せそうだと思うですけど」
「とてもいい質問です。答えは簡単です。単純にオリハルコンズのチームワークが私の実力に届いていなかっただけです」
地面に胡座をかいたハンが言う。
「はぁはぁ……まじか。結構な錬度だと思ったんだけどな」
次にラッツが、
「凄まじかった。こちらの癖を全て理解しているように流れるような動きだった」
そしてキッカが、
「全部紙一重で避けてたね」
最後にアリスが、
「うぅ……完全に大振りでした……」
まぁ、アリスの攻撃は確かに大振りだった。
剣より拳を振り回してたからな。
「このように、通常負けるような状況でも打破出来ない訳ではないと理解してください。もしあなた方が絶体絶命に陥ったと思ったら、私を思い出してください。必ず活路がありますから。次に……そうですね、エメリーさんお願いします」
「わ、私ですかっ?」
エメリーが自分を指差し驚く。
「こちらのエメリーさんは世間を賑わす救世主とも言うべき勇者。生徒の皆さんには周知の事実かと思います」
照れるエメリーが剣を握り構える。
「私の実力は先程と変えません。今のは多対一、今回は一対一の相手が自分より強い強者の場合の対応方法です」
「「っ!?」」
ざわつく広場。
何故なら相手はSS相当の実力を有した勇者エメリー。
ランクSがこれに勝てるのであれば、冒険者ギルドのランクSなどあてにならない事になる。当然、そういう訳でもないし、俺の狙いはそこにない。
「ではエメリーさん。いつでもどうぞ」
「はい! ――はっ!」
攻撃に入ったエメリー。
俺はエメリーの横なぎ払い攻撃を剣で受け、その剣に乗った。
剣と剣の衝撃と同時に跳躍し、横に逃れた俺。
それを追うエメリーだが、
「っ!?」
俺の常軌を逸した行動を見て、観戦していたアリスが叫ぶ。
「ちょ、ちょっとミケラルドさーん!?」
ナタリーもポカンと口を開けて中々のアホ面である。
「ミック?」
俺が入ったのは生徒たちの人垣の中。
縫うように動きこれをかわし、再度人垣から出ると、そこには俺を追うように探すエメリーがいた。
飛び出た俺がエメリーの背後を狙う。
周囲は未だ驚きの渦中。俺一人だけの気配、音を察知する事は不可能である。
エメリーの背後に向かって剣を投げる。大地に刺さった剣の音に反応してエメリーが後方に警戒した瞬間、この模擬戦の勝敗は決した。
跳躍し、エメリーの前方に着地した俺は、背後の剣に意識をとられたエメリーの背中を一瞬で羽交い締めにした。
「はい、一本」
「うぇ?」
呆気にとられたエメリーだが、首元に当てられた剣の冷たい感触にようやく気付き両手をあげて降参の意を示した。
「「おぉ……」」
感嘆の声が漏れる中、エメリーが目の前で大地に刺さっている剣を見る。
「これは木剣……」
「そうです。ナタリーさんのを拝借して投げました。殺傷能力のあるこちらの剣じゃないと勝ったとわかりづらいので」
「そこまで考えてたんですか?」
「先生ですから」
俺が微笑みながら言い、エメリーを解放する。
中央に戻った俺とエメリー。
「今回のこれはだまし討ちのようなものです。誰も初手で逃げるという選択は想定出来なかったでしょう。だからこそ奇襲が成り立ちます。私が人垣に入った時、皆さんは驚き、声という雑音を出しました。これによりエメリーさんは私を発見しづらくなったのです。強者への奇襲。結果としてはそれだけですが、今回の場合、エメリーさんは決して油断していませんでした。ですが、奇襲が成功した。限定的ではありますが、こういった状況を作り出す事も可能だという事を皆さんに覚えていて欲しいですね」
「「はい!」」
「今回は模擬戦でしたが、強者相手にそうそう奇襲は決まりません。ですから、もし自分の思い通りに奇襲が決まったのであれば――」
皆がキョトンとする中、俺は声を落として言った。
「躊躇した瞬間、立場は逆転してしまいます。だから、一気に止めを刺しましょう」
そう微笑みながら言うと、皆は引きつった顔をしながらも納得してくれた。
そして、パチンと手を叩き空気を変える。
「ま、聖騎士の信条に反する場合もありますが、勝ち戦を捨てるよりかはマシです。実力という名の刃を磨いている時点で、弱者にとってはズルいんですから。この際です、正しい狡猾さを学んでいきましょう」
笑う冒険者組と、笑顔を引きつらせる正規組。
冒険者組の中では、イマイチ納得していないアリスだったが、最終的には「まぁ、いつものミケラルドさんだし」という顔で自分を納得させていた。
そんな中、ゲラルドが俺の前へやってきた。
「おや、珍しいですね」
ある意味、俺はゲラルドの仇と言える。
ゲラルドの表情からは何も読み取れないが、彼は一体何をしたいのだろうか。
「どうしましたか、ゲラルドさん」
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