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第二部
その421 古の賢者
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「【メルキオール】。それが古の時代を生きた賢者の名だ」
法王クルスが言うには、【メルキオール】なる賢者は数百年昔を生きた大賢者で、全ての魔に通じていたそうだ。当然、こういった付与魔法も得意だったのだろう。
そして、賢者メルキオールは冒険者ギルドに【ギルド通信】を提供し、その見返りとして、多大なるレンタル料を徴収していた。
レンタル料は毎月所定の場所に置く事。それが過去の盟約である。
「その場所に金銭を置くと、いつの間にか消えている事から賢者メルキオールはまだ生きているのではないかという噂もあるが、メルキオールは長命なエルフではなく人間。人間が数百年も生きられる訳がない」
「でも、実際にお金は消えていた……」
アリスの言葉に頷いた法王クルス。
「それで、その所定の場所とは?」
俺が聞くと、法王クルスはそれこそが本題という顔をして俺に言った。
「ここから南へ十数キロにある火竜山の麓」
「火竜? 炎龍ではないので?」
「火竜レッドドラゴンと炎龍はまったくの別物だ。だが、それでも強力な個体でな。冒険者ギルドで言うと、一匹の討伐難度はSランク。そんな連中がウヨウヨしているとなると……」
「SSSじゃないとキツイですね」
「だからこれまではアーダイン自らが金銭を届けていた。新たな【テレフォン】の導入が決まり、ギルド通信用の水晶をそこへ届けた後、盟約は終わりを告げた……と、これだけで済めば話は簡単だ」
なるほど、それが本題か。
「火竜山に何か異変でも?」
俺が聞くと、法王クルスが静かに答えた。
「不気味な程静かになった。火竜すらも見かけない程にな」
するとアリスが、小首を傾げる。
「それは別に悪い事ではないのでは?」
「いえ、そうも言ってられません」
「どうしてです?」
「群れと成せばSSSにもなり得る火竜レッドドラゴンがいなくなったという事は、火竜山によくない事が起きているという可能性も考えられるからです」
「た、たとえば……?」
「噴火の予兆……いや、高温に強いレッドドラゴンがそれを回避するという事は考えにくい。だとすると――」
「――外敵の出現、だな? ミック」
法王クルスの言葉にアリスが驚愕し、俺も言葉に詰まった。
法王国内でも糞忙しい時に外敵出現の可能性か。ホント、俺の将来設計を上手く立てさせてくれないものだ、この世界は。
「それで、私に何か依頼でも?」
「ミナジリ共和国の戦力を当てにしたい」
「という事は……リィたんですか?」
「うむ、彼女ならば火に対し有効な対処法を有しているし、戦力としても申し分ない。国家間の問題もある故、先にミックに話を通しておきたかった」
法王国からの依頼って事は、これは冒険者ギルドを通さない依頼になるのだろう。まぁそういう事なら聖騎士学校も特別休暇くらいは出るだろう。
「わかりました。火竜山の調査という事で、リィたんには私からお願いしておきます。報酬は期待しておきますよ」
「無論だ。これで賢者メルキオールの件は、多少なりとも進展するだろう。それで、ミックからは何かあるかね?」
「闇ギルドの中枢――【刻の番人】の糸口を掴みました」
「「っ!?」」
二人が驚きを見せる。
その後、アリスは困惑しながら言った。
「わ、私、ここにいていいのか不安になってきました……」
「大丈夫です、アリスさんも知っておくべき事ですから」
「そ、そうですか? そもそも刻の番人って……?」
「闇ギルドを直接動かしている十二人の大物の事ですよ。半年前から色々探ってたんですが、ようやく尻尾を掴みましてね」
「どうやって掴んだか知りたいのに……ミケラルドさんの顔を見てると知りたくなくなります……」
聖女の勘……女の勘の上位互換か何かだろうか?
法王クルスが声を落とし聞く。
「何がわかった?」
「刻の番人の内、これまでサブロウと拳神ナガレの二人のみでしたが、更に一人の名前がわかりました」
二人が沈黙し、俺の言葉を待つ。
「名は【シギュン】。聖騎士団最強の神聖騎士が刻の番人です」
限りなく黒に近いと踏んでいたシギュンの色が確定した。
アリスは言葉を失い、法王クルスは目を瞑ったまま静かに事実を受け入れていた。
「どうやら【刻の番人】にはSSクラスの部下が何人か付き、それらを手ごまとして動き回っているようです。ハンドレッドに属さない序列。【失われし位階】は、決まった【刻の番人】に仕え、他の【失われし位階】との接点を持たないようです。今回私が見つけたのはシギュンに仕える【失われし位階】だったという事です」
「そんな……シギュン様が……」
未だ事実を受け入れられないアリス。
「まずいな……」
法王クルスの言葉に頷く俺。
すると、アリスが俺に肉薄した。
「こ、これ以上何がまずいんですかっ!」
「聖騎士団がシギュンの手の内にあるという事は……」
ちらりと法王クルスを見る俺。
その視線に誘導されるようにアリスも法王クルスを見る。
「つまり、私とアイビスはいざという時の保険という事だな」
深い部分にまで食い込んでいるとは思っていたが、まさかここまでとはな。
法王クルスが言うには、【メルキオール】なる賢者は数百年昔を生きた大賢者で、全ての魔に通じていたそうだ。当然、こういった付与魔法も得意だったのだろう。
そして、賢者メルキオールは冒険者ギルドに【ギルド通信】を提供し、その見返りとして、多大なるレンタル料を徴収していた。
レンタル料は毎月所定の場所に置く事。それが過去の盟約である。
「その場所に金銭を置くと、いつの間にか消えている事から賢者メルキオールはまだ生きているのではないかという噂もあるが、メルキオールは長命なエルフではなく人間。人間が数百年も生きられる訳がない」
「でも、実際にお金は消えていた……」
アリスの言葉に頷いた法王クルス。
「それで、その所定の場所とは?」
俺が聞くと、法王クルスはそれこそが本題という顔をして俺に言った。
「ここから南へ十数キロにある火竜山の麓」
「火竜? 炎龍ではないので?」
「火竜レッドドラゴンと炎龍はまったくの別物だ。だが、それでも強力な個体でな。冒険者ギルドで言うと、一匹の討伐難度はSランク。そんな連中がウヨウヨしているとなると……」
「SSSじゃないとキツイですね」
「だからこれまではアーダイン自らが金銭を届けていた。新たな【テレフォン】の導入が決まり、ギルド通信用の水晶をそこへ届けた後、盟約は終わりを告げた……と、これだけで済めば話は簡単だ」
なるほど、それが本題か。
「火竜山に何か異変でも?」
俺が聞くと、法王クルスが静かに答えた。
「不気味な程静かになった。火竜すらも見かけない程にな」
するとアリスが、小首を傾げる。
「それは別に悪い事ではないのでは?」
「いえ、そうも言ってられません」
「どうしてです?」
「群れと成せばSSSにもなり得る火竜レッドドラゴンがいなくなったという事は、火竜山によくない事が起きているという可能性も考えられるからです」
「た、たとえば……?」
「噴火の予兆……いや、高温に強いレッドドラゴンがそれを回避するという事は考えにくい。だとすると――」
「――外敵の出現、だな? ミック」
法王クルスの言葉にアリスが驚愕し、俺も言葉に詰まった。
法王国内でも糞忙しい時に外敵出現の可能性か。ホント、俺の将来設計を上手く立てさせてくれないものだ、この世界は。
「それで、私に何か依頼でも?」
「ミナジリ共和国の戦力を当てにしたい」
「という事は……リィたんですか?」
「うむ、彼女ならば火に対し有効な対処法を有しているし、戦力としても申し分ない。国家間の問題もある故、先にミックに話を通しておきたかった」
法王国からの依頼って事は、これは冒険者ギルドを通さない依頼になるのだろう。まぁそういう事なら聖騎士学校も特別休暇くらいは出るだろう。
「わかりました。火竜山の調査という事で、リィたんには私からお願いしておきます。報酬は期待しておきますよ」
「無論だ。これで賢者メルキオールの件は、多少なりとも進展するだろう。それで、ミックからは何かあるかね?」
「闇ギルドの中枢――【刻の番人】の糸口を掴みました」
「「っ!?」」
二人が驚きを見せる。
その後、アリスは困惑しながら言った。
「わ、私、ここにいていいのか不安になってきました……」
「大丈夫です、アリスさんも知っておくべき事ですから」
「そ、そうですか? そもそも刻の番人って……?」
「闇ギルドを直接動かしている十二人の大物の事ですよ。半年前から色々探ってたんですが、ようやく尻尾を掴みましてね」
「どうやって掴んだか知りたいのに……ミケラルドさんの顔を見てると知りたくなくなります……」
聖女の勘……女の勘の上位互換か何かだろうか?
法王クルスが声を落とし聞く。
「何がわかった?」
「刻の番人の内、これまでサブロウと拳神ナガレの二人のみでしたが、更に一人の名前がわかりました」
二人が沈黙し、俺の言葉を待つ。
「名は【シギュン】。聖騎士団最強の神聖騎士が刻の番人です」
限りなく黒に近いと踏んでいたシギュンの色が確定した。
アリスは言葉を失い、法王クルスは目を瞑ったまま静かに事実を受け入れていた。
「どうやら【刻の番人】にはSSクラスの部下が何人か付き、それらを手ごまとして動き回っているようです。ハンドレッドに属さない序列。【失われし位階】は、決まった【刻の番人】に仕え、他の【失われし位階】との接点を持たないようです。今回私が見つけたのはシギュンに仕える【失われし位階】だったという事です」
「そんな……シギュン様が……」
未だ事実を受け入れられないアリス。
「まずいな……」
法王クルスの言葉に頷く俺。
すると、アリスが俺に肉薄した。
「こ、これ以上何がまずいんですかっ!」
「聖騎士団がシギュンの手の内にあるという事は……」
ちらりと法王クルスを見る俺。
その視線に誘導されるようにアリスも法王クルスを見る。
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