上 下
421 / 566
第二部

その420 暗躍

しおりを挟む
「ノックはしてくれと言ったはずなんだがな」
「約束してはいなかったでしょう?」

 俺が微笑みながら法王クルスに言うと、アリスが小首を傾げて言った。

「いつそんなお話をしたのですか?」
「あぁ、そういえばアリスさんは知りませんでしたね。実は私【テレパシー】が使えるんですよ」

 俺がそう言うと、アリスはジトっとした目を俺に向けて来た。

「だったら始めから私を連れてく事を法王陛下に連絡すればよかったのでは?」

 何だ、この子は? 天才か?

「ふっ、流石は音に聞く聖女アリス。その慧眼恐れ入った」
「いえ、どう考えても普通ですよ」
「ハハハ、謙虚な聖女だね♪」
「その胡散臭い笑顔、どうにかなりません?」

 そんなやり取りを楽しそうに見る男が一人。
 法王クルスはクスクスと笑いながらアリスに言った。

「ふふふ、仲が良いようで何よりだ」

 不服そうなアリスだが、相手が法王クルスでは膨れる以外の反抗は出来ないようだ。さて、そろそろ本題に入るか。

「それで、あの水晶の出所はどこです?」

 すると、アリスが小首を傾げ聞いてきた。

「あの水晶って……あ、さっきリィたんさんが壊してしまった魔力鑑定の水晶ですか?」
「そうです。ギルド通信の水晶とまったく同じ水晶でした。冒険者ギルドの性質上、あの水晶の出所は口外しないでしょうが、クルス殿があれを持って来たという事は、今回の目的はあれを私に見せる事でしょう?」
「あのギルド通信と同じ水晶だと何か問題なんですか?」

 俺が法王クルスにアイコンタクトを送ると、彼は一つ頷いて同意を見せた。

「過去、ギルド水晶には盗聴の仕組みが施されていました」
「っ!!」
「ミケラルド商店が別途提供した【テレフォン】で、ギルド通信が一新しましたが、これまで使っていた水晶となると、似たような仕掛けがあると考えるのが普通でしょう」
「そんな、冒険者ギルドの情報網を……盗み聞きしていた存在がいるなんて……」

 驚きを隠せない様子のアリス。
 すると、法王クルスが闇魔法【闇空間】を発動した。

「闇魔法を保有してるとは驚きです」
魔導書グリモワールから覚えただけだ。ヒルダに頼んでな」

 SSダブルの冒険者――魔皇まこうヒルダ……か。
 先代勇者パーティ【聖なる翼】のメンバーの中で、彼女だけにはまだ会っていない。ヒルダもアイビスもそうだが、俺の身体が先代勇者【レックス】の肉体で出来ていると知ったら、彼女たちは一体どう思うのだろうか。
 そんな事を考えていると、法王クルスが闇空間の中から何か取り出した。それは、先程と同じ魔力鑑定用の水晶だった。

「予備の水晶だ」

 そう言って、テーブルにソレを置いた法王クルス。
 なるほど、もう一つあったのか。

「ミックに是非視て、、もらいたい」
「……ご存知でしたか」
「いや? 状況から考察した時、ミックにソレが使えないとおかしい事になるからな」

 そのやり取りを聞いていたアリスが、法王クルスに聞く。

「……ソレ、とは何でしょう?」
「【解析アナライズ】だよ、アリス」
「んなっ!?」

 咄嗟に自らの口を塞ぐアリス。

「ミケラルドさんが……光魔法【解析アナライズ】を……?」
にわかには信じられないがな」

 両肩をすくめ、法王クルスが言った。
 まぁ、この二人には隠す必要もないんだけど、黙っておくべき事もまだある。
 見せるくらいなら問題ないだろう。それに、俺もそろそろ世界の情報を牛耳っていた存在に挨拶の一つくらいかましたいからな。

「さぁ、おじさんに全て見せてちょうだいな~」
「とても【解析アナライズ】が使えるような人には見えません……」

 嘆くアリスの言葉をよそに、俺は【解析アナライズ】を発動した。
 展開される膨大な情報。俺はそれを読み込みながら、いつぞやネムの前で言ったような言葉を漏らした。

「……うわぁ」
「何が視えた?」

 法王クルスが聞くと、俺は渋くなってるであろう顔をしながら言った。

「透視、いや遠視っていうんですかね。測定された者の魔力から身体的特徴、使用可能魔法なんかがわかるような仕掛けが施されてますね」
「「っ!?」」

 一体どういうつもりだ?
 歴代聖騎士団全員の情報を網羅している事になるぞ?
 これだけの情報を集め、この水晶の作成者は一体何がしたい?

「クルス殿、教えてください。この水晶は誰からもたらされた物なのか」

 俺がそう言うと、法王クルスは自身の顎を揉みながら過去を振り返るように言った。

「……ギルド通信が古の技術だという事は知っているな?」

 俺とアリスが頷く。

「つまり、我々の知る時代には製作者がいないという事だ」
「なるほど、この水晶も古に作られたものだと」
「そういう事だ」
「しかし冒険者ギルドはギルド通信のレンタル料として誰かに多額に費用を支払い続けていました。それは一体誰に?」
「それがわかれば苦労はしない」
「どういう事です? 法王という肩書でも冒険者ギルドはそれを開示しないと?」
「いや、冒険者ギルドも誰に金銭を支払っているのか知らないのだ」
「へ? それは一体……?」

 俺の質問に、法王クルスは歯切れの悪そうに答えた。

「冒険者ギルドは過去の盟約に従い、金銭を毎月所定の場所へ届けていた」

 確かに、ネットバンキングに振込って訳にもいかない世界だしな。
 しかし、過去の盟約って何だ?
 すると、アリスがその疑問を解消してくれた。

「過去の盟約ってもしかして、古の賢者様との約束ですか?」

 盗聴して透視して多額の金をせびる賢者って……俺以上に胡散臭いのでは?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

二度目の異世界に来たのは最強の騎士〜吸血鬼の俺はこの世界で眷族(ハーレム)を増やす〜

北条氏成
ファンタジー
一度目の世界を救って、二度目の異世界にやってきた主人公は全能力を引き継いで吸血鬼へと転生した。 この物語は魔王によって人間との混血のハーフと呼ばれる者達が能力を失った世界で、最強種の吸血鬼が眷族を増やす少しエッチな小説です。 ※物語上、日常で消費する魔力の補給が必要になる為、『魔力の補給(少しエッチな)』話を挟みます。嫌な方は飛ばしても問題はないかと思いますので更新をお待ち下さい。※    カクヨムで3日で修正という無理難題を突き付けられたので、今後は切り替えてこちらで投稿していきます!カクヨムで読んで頂いてくれていた読者の方々には大変申し訳ありません!! *毎日投稿実施中!投稿時間は夜11時~12時頃です。* ※本作は眷族の儀式と魔力の補給というストーリー上で不可欠な要素が発生します。性描写が苦手な方は注意(魔力の補給が含まれます)を読まないで下さい。また、ギリギリを攻めている為、BAN対策で必然的に同じ描写が多くなります。描写が単調だよ? 足りないよ?という場合は想像力で補って下さい。できる限り毎日更新する為、話数を切って千文字程度で更新します。※ 表紙はAIで作成しました。ヒロインのリアラのイメージです。ちょっと過激な感じなので、運営から言われたら消します!

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

1枚の金貨から変わる俺の異世界生活。26個の神の奇跡は俺をチート野郎にしてくれるはず‼

ベルピー
ファンタジー
この世界は5歳で全ての住民が神より神の祝福を得られる。そんな中、カインが授かった祝福は『アルファベット』という見た事も聞いた事もない祝福だった。 祝福を授かった時に現れる光は前代未聞の虹色⁉周りから多いに期待されるが、期待とは裏腹に、どんな祝福かもわからないまま、5年間を何事もなく過ごした。 10歳で冒険者になった時には、『無能の祝福』と呼ばれるようになった。 『無能の祝福』、『最低な能力値』、『最低な成長率』・・・ そんな中、カインは腐る事なく日々冒険者としてできる事を毎日こなしていた。 『おつかいクエスト』、『街の清掃』、『薬草採取』、『荷物持ち』、カインのできる内容は日銭を稼ぐだけで精一杯だったが、そんな時に1枚の金貨を手に入れたカインはそこから人生が変わった。 教会で1枚の金貨を寄付した事が始まりだった。前世の記憶を取り戻したカインは、神の奇跡を手に入れる為にお金を稼ぐ。お金を稼ぐ。お金を稼ぐ。 『戦闘民族君』、『未来の猫ロボット君』、『美少女戦士君』、『天空の城ラ君』、『風の谷君』などなど、様々な神の奇跡を手に入れる為、カインの冒険が始まった。

処理中です...