上 下
418 / 566
第二部

その417 洗浄ヶ所

しおりを挟む
「ほぉ、君は強い光魔法を使えるようだね。内に眠る魔力もかなりのモノだ。先が楽しみだね」
「はい!」

 ナタリーは光魔法しか使えない。
 勿論、魔導書グリモワールを使って強制的に別の魔法を使う事は出来るが、自ら別属性の魔法を創る事は出来ない。それは誰にでも言える事なのだ。
 …………ん? なら何で俺は光魔法を創ったり出来たんだ?
 魔族である吸血鬼が扱える魔法属性は闇、風、雷である。これら三つの魔法以外の魔法を何故創れたんだ? ……また解せない点が増えたな。

「次、ルーク君」
「はい」

 シギュンを横切り法王クルスの前に立つ。そして俺は法王クルスの手を取った。

「ふむ、風魔法が使えるようだね。魔力も高く、その佇まいからして剣技も得意なようだ。なるほど、ルナ王女の護衛に付けられるだけはあるな」
「ありがとうございます。土魔法はどうでしょうか?」
「土魔法?」

 法王クルスが首を傾げる。
 俺は笑顔を保ちながら法王クルスの手を強く握った。

「っ!?」

 そして【テレパシー】を発動。

『土魔法はどうでしょうか?』
『おい、ミック! 痛いぞ!』
『先日皆の前で土魔法を使ってしまったんですよ、で、どうでしょうか?』
『ならば最初からそう言えばよいではないかっ!』
『知ってると思ったもので』

 俺が微笑むと、法王クルスは咳払いをひとつき、ぎこちない笑みを浮かべる。

「うむ、確かに土魔法にも強い潜在能力を感じる。多彩なようだね」
「ありがとうございます」
『では後程』
『うむ、ノックはしてくれよ』
『善処します』

 その後、皆の魔力鑑定は終わり、簡単な説明の後、魔法の初歩を皆に伝えた。
 その際、法王クルスは経験豊富な冒険者たちからのコメントを交えつつ、授業を展開した。冒険者の知見、法王クルスの知見、初心者の知見、そして龍族の知見やエルフやドワーフの知見を合わせてみると、これまで見えてこなかった事も見えてきた。
 なるほど、流石法王である。非常に面白い授業だった。

 ◇◆◇ ◆◇◆

 夕方。俺はリィたんにルナ王女たちの護衛を依頼し、ホーリーキャッスルへと向かった。
 正確には違う。向かいたかったのだ。
 俺の背中を呼び止めた人物がいたのだ。

「ルークさん」

 聞き覚えのある優しい声。
 振り返るとそこには聖女アリスがいた。

「これはアリス殿……いかがしましたか?」

 きっとこれは完全な偶然なのだろう。
 しかし、アリスに見つかってしまった。
 もっと早い段階で隠れていればと心の中で反省するも、それはもう後のカーニバルなのである。

「こんなところで何をされているんですか?」

 アリスの言葉はもっともだった。
 何故ならこの先は――、

「この先は袋小路ふくろこうじですよ」

 学校敷地内ではあるが、既に聖騎士学校には慣れる頃合い。
 学校内がどうなっているのかを知らないって言い訳は出来そうにないな。
 ましてや俺はルナ王女の護衛。護衛対象のいる場所がどうなっているかを知らないというのもおかしな話だからな。

「あいや、えーっと……」

 そして、アリスは最初から俺を怪訝な目で見ている。
 というか、完全に疑っている。そうだよな、完全に不審者だもんな。

「……では、一つだけ質問させてください」
「何でしょう?」
「お風呂で最初に洗うのはどこですか?」

 何を言ってるんだ、この小娘は?

「頭ですけど?」

 こんな事を聞いて一体何になるんだろうか。

「っ! ちょっと!」

 と、言いながら、アリスは俺の腕をとって袋小路へ連れ込んだ。
 何々? いつの間にこんなに大胆になったの、この子?
 心を踊らせながらキョロキョロと周囲を見渡すアリスを見ると……どうもそんな感じじゃないらしい。あれ? ……これ、いつものやつでは?

「何やってるんですか、ミケラルドさんっ」
「あれれー? 何でバレちゃったんだ?」
「自分で言った事を完全に忘れてますね?」
「ん? ……あ、確かに前に言ったね。最初に洗うのは頭って。でもそれだけで?」
「リーガル国から来てますし」
「それだけで?」
「さっき法王クルス様と話してた時、堂々としてましたし」
「それだけで?」
「最近、貴族のご令嬢やご子息の方々が、皆ルークさんに従じゅ――洗脳されてるようですし」
「今何で言い直したんです? でもそれだけで?」
「ルナ王女もルークさんには気を遣っているようでしたし」
「それだけで?」
「それだけあれば十分です! それにほら」
「アッツッ!?」

 何この子? 今俺に聖加護使ったぞ?

「新手の拷問か何かですか?」
「お望みとあらばしますけど? って、そうじゃありません! 何でルナ王女の護衛なんてやってるんですかっ? それに、先生やってた時、ルークさんは席にいましたよねっ!?」
「あの時のルークは影武者です。護衛は……まぁ頼まれたからですよ。特に深い意味もありません」
「じゃあ今は?」
「リィたんが代わってくれてますよ。まぁ、護衛というより仲の良い友人同士でお茶って設定ですけど」
「ミケラルドさんは何をしているんですか、って話です」

 ずいと肉薄するアリスに、俺は観念するしかなかった。

「法王クルス殿と逢い引きです」

 一瞬顔を赤らめたアリスだったが、当然それは俺の冗談だし、俺の顔を見ればアリスもそれがわかるようで、すぐに俺にジト目を向けて来た。

「……じゃあ、私も行きます」

 まぁ、アリスならいいか。
 そう思い、俺はアリスと共にホーリーキャッスルへと向かったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

二度目の異世界に来たのは最強の騎士〜吸血鬼の俺はこの世界で眷族(ハーレム)を増やす〜

北条氏成
ファンタジー
一度目の世界を救って、二度目の異世界にやってきた主人公は全能力を引き継いで吸血鬼へと転生した。 この物語は魔王によって人間との混血のハーフと呼ばれる者達が能力を失った世界で、最強種の吸血鬼が眷族を増やす少しエッチな小説です。 ※物語上、日常で消費する魔力の補給が必要になる為、『魔力の補給(少しエッチな)』話を挟みます。嫌な方は飛ばしても問題はないかと思いますので更新をお待ち下さい。※    カクヨムで3日で修正という無理難題を突き付けられたので、今後は切り替えてこちらで投稿していきます!カクヨムで読んで頂いてくれていた読者の方々には大変申し訳ありません!! *毎日投稿実施中!投稿時間は夜11時~12時頃です。* ※本作は眷族の儀式と魔力の補給というストーリー上で不可欠な要素が発生します。性描写が苦手な方は注意(魔力の補給が含まれます)を読まないで下さい。また、ギリギリを攻めている為、BAN対策で必然的に同じ描写が多くなります。描写が単調だよ? 足りないよ?という場合は想像力で補って下さい。できる限り毎日更新する為、話数を切って千文字程度で更新します。※ 表紙はAIで作成しました。ヒロインのリアラのイメージです。ちょっと過激な感じなので、運営から言われたら消します!

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...