上 下
412 / 566
第二部

その411 新たなる任務

しおりを挟む
 ホーリーキャッスルから戻った俺は、人目を忍んで分裂体と合流し、皆が待つ席に戻った。

「ゴブリン討伐?」

 元の俺に戻ったと知ったリィたんが俺に教えてくれたのは、次の授業内容を教えてくれた。

「まだ実戦には早いでしょう?」
「何でも、毎年このタイミングで行うそうだ」

 リィたんの言葉に嘘はない。
 というか彼女が俺に嘘を言うはずもないし、メリットもない。

「どこからの情報ですか?」
「マスタングがさっきな」

 マスタングか。講師の一人が言ってるなら間違いないが……――、

「それって死人が出るのでは?」
「護衛の同行が許されているから問題はないそうだ。しかし、その内、任意の単独任務があるそうだ」
「っ! 単独任務となると、護衛の同行が許されないですね。でも……任意?」
「それが聖騎士になるための壁と聞いたな」

 それを聞いていたルナ王女が俺を見る。

「ルーク、どう思いますか?」
「聖騎士になるための必須単位ってところでしょうか。なる必要がなければ断っても問題ない。ならば、学生たちの目標によって変わりますね。それと勿論任務内容……」
「身の丈に合わない任務であれば、それは死を意味するという事ですね」

 ルナ王女の言葉から、彼女の複雑な心境がうかがえた。
 彼女の性格であれば、任務を受けたいところだろうが、その立場故受けられない場合もある。そういった時、俺がしてやれる事は限りなく少ない。
 が、彼女は俺の生徒とも言える。ならば、出来る限りサポートするのが筋だろう。

「まぁ、その時がきてみないとわかりませんよ。まずはこの後のゴブリン討伐に集中しましょう」

 ◇◆◇ ◆◇◆

 マスタング講師の授業の時間。
 リィたんの事前情報通り、やはりこの時間はゴブリン討伐の授業となった。

「任務はゴブリン討伐。討伐目標は一匹。討伐数に応じて成績を考慮するのであーる」

 そこで、これまで目立ってこなかったゲラルドが挙手をする。

「うむ、そこ」
「上限は?」
「最大三匹! それ以上討伐したからといって、最高得点以上を与えるものではないのである!」

 意外と良心的……でもないか。
 聖騎士学校が始まって間もないというのに、もう生き死にが関わる討伐任務だ。そして、この任務の難しいところはまた別にある。
 まぁ、これまでいた冒険者の世界が過酷なだけか。

「他に質問は!? ……うむ、では任務開始であーる!」

 と同時、正規組以外の連中がスタートダッシュをするかのように駆け出した。
 その中にはゲラルド含む幾人かの正規組の姿もあった。
 呆気にとられていた正規組。隣のレティシア嬢が俺に聞く。

「え? え? どういう事なんです?」
「ゴブリンは非常に多い個体ですが、これだけの人数が動くとなればその数は限られます。ランクA冒険者であれば当然三匹の討伐を狙います。つまり、この任務は、完全にゴブリンの取り合いになるんですよ」

 そう、百人の学生が三匹のゴブリンを倒すとなると、しめて三百匹のゴブリンが必要。ゴブリンの群れは一つにつき二十匹から三十匹。これを探すのも一苦労なのだ。
 俺の説明を聞いていた貴族の一人が立ち上がる。

「ど、どうするんだよ! このままじゃ俺たち任務完了出来ないぞ!?」

 腕を組み、ただ静観しているマスタング講師。
 なるほど、アドバイスは無しか。教室内には学生と講師しか立ち入れない。
 護衛は外で待機だからアドバイスも難しい。
 ざわつく教室内。さて、そろそろ自分が特別な人間じゃないと自覚出来た正規組。彼等も俺の生徒たち。ならば、これも助け船が必要か。
 そう思い、俺はルナ王女に耳打ちした。

「ルナ殿下、ちょっと場の指揮をお願いします」
「……何か考えがあるのですね?」

 頷いた俺に、ルナ王女も頷く。
 直後、ルナ王女が机を叩き立ち上がる。

静粛せいしゅくに! 狼狽うろたえる必要はありません!」

 ルナ王女の言葉に、皆ピタリと止まる。

「こ、これでいいのでしょう?」

 不安そうに俺に聞くルナ王女。
 普段は勝気だが、こういう時はやはり子供らしく可愛いと思ってしまう。

「勿論です」
「わ、私に考えがあります!」

 ◇◆◇ ◆◇◆

「嘘でしょ……?」

 どこかの姫の言葉だ。

「あれって……ホブゴブリンだよな?」

 どこぞのおぼっちゃんの言葉である。
 風下からのゴブリン集落の偵察。
 ゴブリンはどこにでも湧くゴキブリ体質な存在だ。
 法王国のモンスターレベルが高いとはいえ、ゴブリンがいない国はない。
 だからこそ、多くの冒険者たちはゴブリン集落の情報を集め、そこに向かっているはずだ。
 しかし、そこが狙えないとなると別の場所を探すしかない。
 ゴブリンだけで群れを成しているのであれば対処は楽。
 しかし、ゴブリンようする群れが他にない訳ではない。
 たとえばそう、ホブゴブリンの群れにも、少なからずゴブリンはいるのだ。
 これが、今回の作戦の肝。上位モンスター率いる群れにいるゴブリンの討伐である。
 ゴブリン討伐は一匹であればランクG、十匹であればランクFとなる。
 先日の薬草採取任務の後は、それ以上の事をさせる。聖騎士学校の指導方法は何となくわかってきたが、これでは脱落者が多くなってしかるべきだ。
 ならば、俺が聖騎士になる者たちを増やしてやろう。
 そのためにはまず、正規組の育成が必要不可欠だろう。
 レティシアが心配そうに俺を見る。

「ル、ルーク……本当にやるんですの?」

 だから俺は答えてやるのだ。

「安心してください、レティシア。私は聖女をゴリラに、勇者をバケモノにした男ですよ? 貴族を精鋭にする事くらい……朝飯前ですよ」

 聖騎士学校か。
 ちょっと楽しくなってきたじゃないか。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

最弱テイマーの成り上がり~役立たずテイマーは実は神獣を従える【神獣使い】でした。今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティーに所属するテイマーのカイトは使えない役立たずだからと追放される。 さらにパーティーの汚点として高難易度ダンジョンに転移され、魔物にカイトを始末させようとする。 魔物に襲われ絶体絶命のピンチをむかえたカイトは、秘められた【神獣使い】の力を覚醒させる。 神に匹敵する力を持つ神獣と契約することでスキルをゲット。さらにフェンリルと契約し、最強となる。 その一方で、パーティーメンバーたちは、カイトを追放したことで没落の道を歩むことになるのであった。

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

処理中です...