410 / 566
第二部
その409 気になるあの子
しおりを挟む
これ以上はまずいとでも思ったのか、正規組の女は、そこで魔力の放出を抑えた。微細な魔力の変化といっても、俺とリィたんは見逃さない。
あのショートボブの女、名前は【ファーラ】といったか。出身は……リーガル国? 貴族でも大商人でもないとしたら一体?
身元保証人の欄にある【ギャレット】という名前、どこかで聞いた事がある。
今度ドマークあたりに聞いてみるか。
次々と自身の壁に衝突し、土塊人形相手に手を痺れさせている状況下、ナタリーとエメリィは、そのファーラと同じくランクCで止まった。
彼女たちはランクAパーティから選出されたものの、まだまだ成長途中だ。
そして、彼女たちの腕力では本来であればランクFにすら届かない。
ただ、木剣の刃先に魔力を纏わせるという魔力の扱いに長けているだけの話なのだ。
そして、ランクD+には――、
「へぇ、君が【サッチ】さんの娘さんだね?」
「は、はい! 父がいつもお世話になってます! 【サラ】と申しますっ!」
気になるあの子、二人目。
ミナジリ共和国に新人冒険者を集めるため、俺は武闘大会で戦った熟練のランクA冒険者サッチをミナジリに招いた。そのサッチが求めた対価が、この【サラ】の聖騎士学校入学に要する資金提供だ。
むさくるしいおっさんことサッチに似ても似つかぬ健康的な柔肌。短い茶髪、ボーイッシュな風貌と凛々しく輝く瞳。年はナタリーと同じく十三。
流石に冒険者個人が子供を聖騎士学校に入れるには無理がある。だが、サッチは俺というスポンサーを上手く使い、見事娘を入学させた。
ランクCには届かぬまでも、成長は期待出来そうだ。
「そんなにかしこまらなくても結構ですよ。気軽にミっちゃんとでも呼んでください」
「ミ、ミっ?」
耳は良いようだ。
そんなサラの反応にくすりと笑っていると、その後ろからルナ王女がやって来た。
「現時点で、私はここのようですね」
「いえいえ、入学して間もないのにランクD+は素晴らしい事ですよ」
「だといいのですが」
言いながらルナ王女は高ランク者が並ぶ方を見た。
単純な力比べでこれだけの差がある。力という点においては、正規組から見れば、冒険者は雲の上の存在と言える。
しかし、二年間みっちり鍛えれば、それが覆る事だってあり得る。正規組の対抗心を煽って、冒険者の更なる実力向上も狙える。
場合によっては卒業者全員が聖騎士になる事も夢じゃない。
まぁ、それには多くの弊害もあるだろうけどな。
◇◆◇ ◆◇◆
「はい、とても興味深い結果でした。これから皆さんは、力を付け、魔力の扱いも学んでいくでしょう。そして、力を付けた後には、その力を試したいとも思うでしょう。ですが忘れないでください。その力は簡単に皆さん自身を壊す諸刃の剣だという事を。それでも力試しがしたいというのであれば、この私がいくらでも付き合います。そして、是非、その力の正しい使い方を学んでください」
「「はいっ!」」
概ね、俺の言いたい事は伝わったようだ。
……概ねな。
「では次に戦略ゲームをしましょう」
その言葉を聞き、ビクリと反応する者は、この中で一人しかいない。
「はい、アリスさん。とてもいい反応ですね。是非実験台になってください」
「……今、実験台って言いましたよね?」
「言ってませんよ?」
「言いました」
「じゃあ実験台になってください」
「開き直らないでください!」
とても可愛い。
彼女は天性のツッコミ体質のようだ。
成績表の備考欄に「ツッコミ担当」と書いておこう。
「はぁ、それで、私は何をすればいいのでしょう?」
「レベル0を皆さんに見せますので、ご協力を」
「私はレベル8でもいいんですよ?」
なるほど、レベル7を最後にクリアしてから半年以上。
最早それを超えられる段階まで強くなったと言いたげだな。
「わかりました。では、それは後程。まずは手本という事で」
「はい!」
俺が指を鳴らすと、皆が斬り倒していた土塊人形が集まり、二十の人形に分かれて行く。
「「うわぁ……」」
聖女アリス、そしてナタリーから聞こえてきた声。
出現したのは、ミケラルド像二十体。
怒ったミケラルド、泣いたミケラルド等、喜怒哀楽をモチーフに造られた像の他、傲慢なミケラルド、軟弱なミケラルド、考えるミケラルドみたいな芸術的な像もある。中でも、〇指を立てて挑戦者を煽る像が今回のお気に入り作品である。
「アリスさん、わかりやすいように魔法はなしでお願いします」
「大丈夫です、あれは殴る前提の像です。そういう顔です」
彼女が何を言ってるのか、皆目見当もつかなかったが、俺の「開始」の合図により、聖女アリスが吼えた。
「はぁああああああ!」
吼えてる。
「この! このっ! このっ!!」
重点的に顔が破壊され、ミケラルド像の首から上が消えていく。
普段のストレスが原因なのか、嬉々として壊している気がするのだが、気のせいだろうか。
最後のミケラルド像の首を刈り取った聖女アリスは、手の甲で額の汗を拭いながら言った。
「いい汗かいたぁ」
レベル0なのだ。今のアリスなら目を瞑ってでもクリア出来るというのに、余程熱心にやったのだろう。正に皆の手本というべきだろう。
何にせよ、ゲーム感覚で楽しみながら実力を付けられるのは良い事だ。
その内、聖騎士学校は、本格的な討伐任務を学生に課すだろうからな。
あのショートボブの女、名前は【ファーラ】といったか。出身は……リーガル国? 貴族でも大商人でもないとしたら一体?
身元保証人の欄にある【ギャレット】という名前、どこかで聞いた事がある。
今度ドマークあたりに聞いてみるか。
次々と自身の壁に衝突し、土塊人形相手に手を痺れさせている状況下、ナタリーとエメリィは、そのファーラと同じくランクCで止まった。
彼女たちはランクAパーティから選出されたものの、まだまだ成長途中だ。
そして、彼女たちの腕力では本来であればランクFにすら届かない。
ただ、木剣の刃先に魔力を纏わせるという魔力の扱いに長けているだけの話なのだ。
そして、ランクD+には――、
「へぇ、君が【サッチ】さんの娘さんだね?」
「は、はい! 父がいつもお世話になってます! 【サラ】と申しますっ!」
気になるあの子、二人目。
ミナジリ共和国に新人冒険者を集めるため、俺は武闘大会で戦った熟練のランクA冒険者サッチをミナジリに招いた。そのサッチが求めた対価が、この【サラ】の聖騎士学校入学に要する資金提供だ。
むさくるしいおっさんことサッチに似ても似つかぬ健康的な柔肌。短い茶髪、ボーイッシュな風貌と凛々しく輝く瞳。年はナタリーと同じく十三。
流石に冒険者個人が子供を聖騎士学校に入れるには無理がある。だが、サッチは俺というスポンサーを上手く使い、見事娘を入学させた。
ランクCには届かぬまでも、成長は期待出来そうだ。
「そんなにかしこまらなくても結構ですよ。気軽にミっちゃんとでも呼んでください」
「ミ、ミっ?」
耳は良いようだ。
そんなサラの反応にくすりと笑っていると、その後ろからルナ王女がやって来た。
「現時点で、私はここのようですね」
「いえいえ、入学して間もないのにランクD+は素晴らしい事ですよ」
「だといいのですが」
言いながらルナ王女は高ランク者が並ぶ方を見た。
単純な力比べでこれだけの差がある。力という点においては、正規組から見れば、冒険者は雲の上の存在と言える。
しかし、二年間みっちり鍛えれば、それが覆る事だってあり得る。正規組の対抗心を煽って、冒険者の更なる実力向上も狙える。
場合によっては卒業者全員が聖騎士になる事も夢じゃない。
まぁ、それには多くの弊害もあるだろうけどな。
◇◆◇ ◆◇◆
「はい、とても興味深い結果でした。これから皆さんは、力を付け、魔力の扱いも学んでいくでしょう。そして、力を付けた後には、その力を試したいとも思うでしょう。ですが忘れないでください。その力は簡単に皆さん自身を壊す諸刃の剣だという事を。それでも力試しがしたいというのであれば、この私がいくらでも付き合います。そして、是非、その力の正しい使い方を学んでください」
「「はいっ!」」
概ね、俺の言いたい事は伝わったようだ。
……概ねな。
「では次に戦略ゲームをしましょう」
その言葉を聞き、ビクリと反応する者は、この中で一人しかいない。
「はい、アリスさん。とてもいい反応ですね。是非実験台になってください」
「……今、実験台って言いましたよね?」
「言ってませんよ?」
「言いました」
「じゃあ実験台になってください」
「開き直らないでください!」
とても可愛い。
彼女は天性のツッコミ体質のようだ。
成績表の備考欄に「ツッコミ担当」と書いておこう。
「はぁ、それで、私は何をすればいいのでしょう?」
「レベル0を皆さんに見せますので、ご協力を」
「私はレベル8でもいいんですよ?」
なるほど、レベル7を最後にクリアしてから半年以上。
最早それを超えられる段階まで強くなったと言いたげだな。
「わかりました。では、それは後程。まずは手本という事で」
「はい!」
俺が指を鳴らすと、皆が斬り倒していた土塊人形が集まり、二十の人形に分かれて行く。
「「うわぁ……」」
聖女アリス、そしてナタリーから聞こえてきた声。
出現したのは、ミケラルド像二十体。
怒ったミケラルド、泣いたミケラルド等、喜怒哀楽をモチーフに造られた像の他、傲慢なミケラルド、軟弱なミケラルド、考えるミケラルドみたいな芸術的な像もある。中でも、〇指を立てて挑戦者を煽る像が今回のお気に入り作品である。
「アリスさん、わかりやすいように魔法はなしでお願いします」
「大丈夫です、あれは殴る前提の像です。そういう顔です」
彼女が何を言ってるのか、皆目見当もつかなかったが、俺の「開始」の合図により、聖女アリスが吼えた。
「はぁああああああ!」
吼えてる。
「この! このっ! このっ!!」
重点的に顔が破壊され、ミケラルド像の首から上が消えていく。
普段のストレスが原因なのか、嬉々として壊している気がするのだが、気のせいだろうか。
最後のミケラルド像の首を刈り取った聖女アリスは、手の甲で額の汗を拭いながら言った。
「いい汗かいたぁ」
レベル0なのだ。今のアリスなら目を瞑ってでもクリア出来るというのに、余程熱心にやったのだろう。正に皆の手本というべきだろう。
何にせよ、ゲーム感覚で楽しみながら実力を付けられるのは良い事だ。
その内、聖騎士学校は、本格的な討伐任務を学生に課すだろうからな。
0
お気に入りに追加
447
あなたにおすすめの小説
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
二度目の異世界に来たのは最強の騎士〜吸血鬼の俺はこの世界で眷族(ハーレム)を増やす〜
北条氏成
ファンタジー
一度目の世界を救って、二度目の異世界にやってきた主人公は全能力を引き継いで吸血鬼へと転生した。
この物語は魔王によって人間との混血のハーフと呼ばれる者達が能力を失った世界で、最強種の吸血鬼が眷族を増やす少しエッチな小説です。
※物語上、日常で消費する魔力の補給が必要になる為、『魔力の補給(少しエッチな)』話を挟みます。嫌な方は飛ばしても問題はないかと思いますので更新をお待ち下さい。※
カクヨムで3日で修正という無理難題を突き付けられたので、今後は切り替えてこちらで投稿していきます!カクヨムで読んで頂いてくれていた読者の方々には大変申し訳ありません!!
*毎日投稿実施中!投稿時間は夜11時~12時頃です。*
※本作は眷族の儀式と魔力の補給というストーリー上で不可欠な要素が発生します。性描写が苦手な方は注意(魔力の補給が含まれます)を読まないで下さい。また、ギリギリを攻めている為、BAN対策で必然的に同じ描写が多くなります。描写が単調だよ? 足りないよ?という場合は想像力で補って下さい。できる限り毎日更新する為、話数を切って千文字程度で更新します。※
表紙はAIで作成しました。ヒロインのリアラのイメージです。ちょっと過激な感じなので、運営から言われたら消します!
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話
菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。
そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。
超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。
極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。
生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!?
これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる