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第一部

その382 報酬

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「なるほど、ミックの思惑おもわく通りになったという事か」

 書類の束をトンと机の上でまとめたアーダインが言う。

「はて? 思惑とは?」
「アリスの力をここまで解放したのはお前だ」
緋焔ひえんの皆のお力があってこそですよ」
「その緋焔ひえんに出した依頼がふざけている。『法王国の闇を探れ』だと?」
「私からの依頼を覗き見る事が出来るのは、ギルド本部長特権ですね」
「否定するつもりはない」

 なるほど、引くつもりはないという事か。

「緋焔がオリハルコンズに加入したところで、彼等が闇ギルドに迫るにはいかんせん実力が伴っていない。闇ギルドの金策を利用し、商人ギルドを利用し、オリハルコンズの向上心を利用し、オベイルとグラムスをオリハルコンズに付けた」
「はて?」
「オリハルコンズの結束には十分と言える材料だ。そして、【聖加護】の力の解放にもな」

 まったく、どこまで見抜いているのやら。

「【聖加護】の能力解放には聖女自身の人類への愛が必要だ。これまでアリスが【聖加護】を使いこなせなかったのは、単純にその逆だったからだ。我々大人の都合で子供のアリスが戦場へと引っ張られる。嫌いになって当然だ。だが、それに我々が気付いた時にはもう遅かった。アリスの大人への疑心暗鬼は凝り固まっていた。どうしようもない程にな。しかし――」

 すんごい見られてる。

「ミック、アリスはお前と出会った」
「出会った? ランクSダンジョンへの強制同行の件ですか?」

 すると、アーダインは俺の言葉を鼻で笑った。

「はっ、ぬかせ。アリスがミックをここへ連れてくれば、そうなる事くらいわかっただろう? しかし、お前はアリスの手を振り解かなかった」

 女の子の手が柔らかかったから、なんて言えないからな。

「どんな経緯だろうと、結果としてアリスは人類ではなく一個の存在を信じる事は出来た。それがアリスにとっての大きな一歩だった。人類の中にも信じる事の出来る者がいると、お前はアリスに教えたんだ」
「魔族ですけどね」
「それはアリスにとって関係ない」
「でしょうね」

 俺は肩をすくめ、アーダインの言葉に同意せざるを得なかった。

「更にはあの戦争だ」
「どの戦争でしょうね」
「人間のみにくい部分を世界に見せると同時に、魔族の良い部分を見せた。それが結果としてアリスに理解させた。己の判断は間違いではないと。個を重んじる事が決して悪い事ではないとアリスに教えたんだ」
「はははは」
「わかるか、ミック? 【聖加護】の能力解放の陰には、常にお前がいるんだよ」
「凄いですね、まるで私がヒーローみたいじゃないですか」
「道化の間違いだろう」

 まぁ、個人的にはそちらのが好きだな。
 何で現代地球のなりたい職業ランキングに「道化」が入っていないのか、ミケラルド君ははなはだ疑問である。

「まぁ、これでオリハルコンズが選考から漏れる事はないだろう」
「それは何よりです」
「人選に間違いはなかったようだな」

 ニヤリと笑うアーダインに、俺はそれは見事な作り笑顔を返した。

「報酬の法王白金貨三千枚は応接室に用意している。この後寄って持って行くといい」

 俺は真の笑顔を見せた。

「マジすか」
「大事な国家事業だ、失敗する訳にはいかないだろう。安心しろ、クルスからちゃんと手数料込みで貰っている」

 やっべぇな。一個に渡される額じゃないだろうに。
 がしかし、SSダブルの依頼でほぼ一ヶ月拘束されたと考えると、そう高くもないような気がする。

「で、次の依頼だ」

 歩いていないのに転ぶ。こんな事が自身の身に起きるとは思わなかった。

「え、正気ですか? 【真・世界協定】間近だってのに?」
「安心しろ、その話だ」
「自分は中枢人物だったと思うんですけど?」
「法王白金貨、もう三千枚だ」
「やります。やらせてください。おや、こんなところにほこりが? 掃除しておきますね、舌で」
「それはやめろ」
「あ、はい。それで、どんな依頼なんです?」
「知れた事。法王クルスの警護、、、、、、、、だ」
「え、それって聖騎士団が請け負うって話じゃないんですか?」
「クルスからの伝言をそのまま伝えよう。『まことに信のある者にしか頼めない仕事だ』と」
「そりゃ有難い事で」

 がしかし、法王クルスがそう言うって事は、信の置けない者も同行するという事だ。それはつまり……聖騎士の中に? 何それ、法王国怖い。

「無論、私も付く。ミックはその能力を活かし、陰ながらクルスを守って欲しい」
「わかりました。あ、けどホーリーキャッスルに残るアイビス様、、、、、はどうするので?」
「無論、護衛の依頼を出した」
「イヅナさんですか?」
「イヅナはガンドフのウェイド王の護衛だ」
「じゃあ誰が?」
「ランクSの冒険者だ」
「それは心もとないですね」
「名をリィたん」
「前言撤回します。え、リィたんですか?」
「依頼額を提示したら快く受けてくれたぞ、お前程じゃないがな」

 確かに、リィたんは埃なんか舐めない。
 白金貨三千枚って調味料を加えれば大抵の人は舐めるだろう。
 俺は大抵の中にいるから問題ない。

「けど、そうなると聖騎士の面子を潰す事になるのでは?」
「当然、先程言ったように頭に「陰ながら」が付く」
「確かに、リィたんなら出来る……か」
「私は名目上、クルスのアドバイザーだ。まぁ、これもクルスが強引にねじ込んだんだがな」

 なるほど、だがそうなるとデュークの顔でも、ミケラルドの顔でもやりにくいな。となると、第三の顔が必要になる……か。

「問題なければ後程、日時と集合場所の連絡を入れる」
「わかりました」

 着実に進んではいるが、どこもかしこも危険だらけとは、まったく困った世界である。
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