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第一部
その380 オリハルコンズの真価
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「キッカ、牽制頼む!」
「ライトシュート!」
ラッツがゴブリンチャンピオンの攻撃範囲に入る事で、ムシュフシュもラッツへの警戒を見せる。しかし、そこへムシュフシュに対し、キッカの魔法を入れれば、ゴブリンチャンピオンまでの道が完成する。
目の前に敵が現れたゴブリンチャンピオンは、これに対応するしかない。ムシュフシュの尻尾の死角から意識が逸れた時、ハンが動く。
「双猛剣、双十斬っ!」
「ガァッ!?」
そう、威力が変わろうと、やる事はかわらない。
冒険者ギルドの総括ギルドマスター【アーダイン】が出した判断は間違いじゃない。たとえランクAパーティでも、ランクSダンジョンの低階層の攻略は可能である。命の危険がない限り、俺が動く事はない。
だが、それが必要なのかそうでないのか、最終判断を査定官の俺が出すまでには、いくつものパーティ判断がある。
攻撃に派手さはなくとも、やってる事はほぼ変わりないのだ。
ならば、必然的に結果は見えてくる。
――あの時のアリスの判断は、確かに素晴らしかった。
◇◆◇ ◆◇◆
「ラッツさん、一度三階層まで戻りましょう」
「……ふむ、なるほど作戦会議だな」
進み続けるダンジョン、撤退ではなく一時撤退という判断。
それは、進み続けるためのもの。攻略した階層ならば、モンスターの出現頻度もそこまで高くはないし、四階層の攻略情報を深く練るには悪い場所ではない。
いいぞ、アリス。着実に成長しているじゃないか。
俺も負けていられないな。
◇◆◇ ◆◇◆
査定はたった一度しかない。
だからこそ、限られた状況下での試行錯誤が求められる。
だがまさか、そういった思い切った判断が出来るまでに成長しているとは俺も思わなかった。
これは、俺から目が離れた後、アリス自身が経験し、学んだ事。
学び、実践し、挫け、諦めずに何度も実践し、培った強い意思。
子供だからではない。オリハルコンズのパーティの一員として、緋焔をまとめるラッツに進言し、勝ち取った決断。
【聖加護】という技術だけではない成長が、俺の目を通して、肌を通して感じられるというのは、何とも嬉しいものだ。
「何ですか、その目?」
戦闘終了後、アリスは俺にそう言った。
「査定官の厳しい目つき、してません?」
「……厳しい?」
駄目だ、欠片も思っちゃいないみたいだ。
するとキッカが、くすりと笑ってから言った。
「今のは完全に子供の成長を喜ぶお父さんの目でしょう」
三歳児ですけど?
まぁ、俺の年齢を知ってる者はあまり多くない。
デュークという姿だって、ミナジリ共和国の身内や、アーダイン、法王クルスとアイビス皇后くらいしか知らないのだ。
……このオリハルコンズには気付かれてしまったけどな。
「……お父さん?」
駄目だ、微塵も思っちゃいないみたいだ。
「ないです」
更なるダメ押し。
「絶対ありえません」
最早、死体蹴りと言っても過言じゃない。
「ないったらないです」
墓まで暴きにきたぞ。
「……ないです」
ホルマリン漬けにしたな。
だが、最後の一言はどこかしおらしかった。何故かはわからないけどな。
「あははは、まぁそうだよねー。あ、ミケラルドさん」
「デュークです、キッカさん」
「いけないいけない。ミケラルドさん」
正す気がない事がわかった。
まぁ、外では気を付けてくれるんだろうけどな。
俺は溜め息を吐いた後、キッカに聞く。
「デュークですが……何でしょう?」
「この後の五階層って、これまでのモンスターが襲ってくるところでしょう?」
「えぇ、そうですね」
「こういうところって結構あるじゃないですか。やっぱり理由ってあるんですかね?」
「そうですね……私はこの世界を管理している者からの挑戦、と思ってます」
「挑戦?」
とキッカが小首を傾げたところでアリスが前に出てくる。
「管理している者って、もしかして神様の事でしょうか?」
「もしくは、それに準ずる何者か……ですね」
「そ、それは余りにも怖い発言だと思います」
天啓と天恵を受けたであろう勇者エメリー。
それと時代を同じくして現れる新たな聖女。
更には余りにも人工的なダンジョン――各階での功績に応じて現れる宝箱、攻略毎に現れる攻略報酬、攻略毎にリセットされるようにモンスターが湧くゲーム的仕様。
頭が正常であれば、誰かしらの仕業であるという判断は間違いじゃないはずだ。
「人為的、或いは作為的な世界からの挑戦。つまり、ダンジョンはある意味では高度な冒険者養成所と言えます」
「ダンジョンが養成所……?」
ラッツがそう聞きながらハンと見合う。
「冒険者が裕福になるためだけじゃなく、しっかりと成長出来るようになってるんですよね。報酬で強くなれるし、階層報酬でも同じ事が言えます。まるでいつかやってくるであろう災厄に備えて、戦える人材の質を上げるために」
「それは……やっぱり魔王という事でしょうか」
アリスの質問する声には震えも交じっていた。
だが、そう結論付けるにはまだ早いとも言えた。
俺は首を横に振ってから肩を竦めた。
「ま、一介の冒険者が全てを知るには情報が足りないですからね。まだ何とも言えません」
そう言いながら苦笑した後、アリスが先程まで見ていた目を再び俺に向けた。
「……一介の冒険者?」
どうやら彼女は、俺をミケラルドと信じてやまないようだ。
「ライトシュート!」
ラッツがゴブリンチャンピオンの攻撃範囲に入る事で、ムシュフシュもラッツへの警戒を見せる。しかし、そこへムシュフシュに対し、キッカの魔法を入れれば、ゴブリンチャンピオンまでの道が完成する。
目の前に敵が現れたゴブリンチャンピオンは、これに対応するしかない。ムシュフシュの尻尾の死角から意識が逸れた時、ハンが動く。
「双猛剣、双十斬っ!」
「ガァッ!?」
そう、威力が変わろうと、やる事はかわらない。
冒険者ギルドの総括ギルドマスター【アーダイン】が出した判断は間違いじゃない。たとえランクAパーティでも、ランクSダンジョンの低階層の攻略は可能である。命の危険がない限り、俺が動く事はない。
だが、それが必要なのかそうでないのか、最終判断を査定官の俺が出すまでには、いくつものパーティ判断がある。
攻撃に派手さはなくとも、やってる事はほぼ変わりないのだ。
ならば、必然的に結果は見えてくる。
――あの時のアリスの判断は、確かに素晴らしかった。
◇◆◇ ◆◇◆
「ラッツさん、一度三階層まで戻りましょう」
「……ふむ、なるほど作戦会議だな」
進み続けるダンジョン、撤退ではなく一時撤退という判断。
それは、進み続けるためのもの。攻略した階層ならば、モンスターの出現頻度もそこまで高くはないし、四階層の攻略情報を深く練るには悪い場所ではない。
いいぞ、アリス。着実に成長しているじゃないか。
俺も負けていられないな。
◇◆◇ ◆◇◆
査定はたった一度しかない。
だからこそ、限られた状況下での試行錯誤が求められる。
だがまさか、そういった思い切った判断が出来るまでに成長しているとは俺も思わなかった。
これは、俺から目が離れた後、アリス自身が経験し、学んだ事。
学び、実践し、挫け、諦めずに何度も実践し、培った強い意思。
子供だからではない。オリハルコンズのパーティの一員として、緋焔をまとめるラッツに進言し、勝ち取った決断。
【聖加護】という技術だけではない成長が、俺の目を通して、肌を通して感じられるというのは、何とも嬉しいものだ。
「何ですか、その目?」
戦闘終了後、アリスは俺にそう言った。
「査定官の厳しい目つき、してません?」
「……厳しい?」
駄目だ、欠片も思っちゃいないみたいだ。
するとキッカが、くすりと笑ってから言った。
「今のは完全に子供の成長を喜ぶお父さんの目でしょう」
三歳児ですけど?
まぁ、俺の年齢を知ってる者はあまり多くない。
デュークという姿だって、ミナジリ共和国の身内や、アーダイン、法王クルスとアイビス皇后くらいしか知らないのだ。
……このオリハルコンズには気付かれてしまったけどな。
「……お父さん?」
駄目だ、微塵も思っちゃいないみたいだ。
「ないです」
更なるダメ押し。
「絶対ありえません」
最早、死体蹴りと言っても過言じゃない。
「ないったらないです」
墓まで暴きにきたぞ。
「……ないです」
ホルマリン漬けにしたな。
だが、最後の一言はどこかしおらしかった。何故かはわからないけどな。
「あははは、まぁそうだよねー。あ、ミケラルドさん」
「デュークです、キッカさん」
「いけないいけない。ミケラルドさん」
正す気がない事がわかった。
まぁ、外では気を付けてくれるんだろうけどな。
俺は溜め息を吐いた後、キッカに聞く。
「デュークですが……何でしょう?」
「この後の五階層って、これまでのモンスターが襲ってくるところでしょう?」
「えぇ、そうですね」
「こういうところって結構あるじゃないですか。やっぱり理由ってあるんですかね?」
「そうですね……私はこの世界を管理している者からの挑戦、と思ってます」
「挑戦?」
とキッカが小首を傾げたところでアリスが前に出てくる。
「管理している者って、もしかして神様の事でしょうか?」
「もしくは、それに準ずる何者か……ですね」
「そ、それは余りにも怖い発言だと思います」
天啓と天恵を受けたであろう勇者エメリー。
それと時代を同じくして現れる新たな聖女。
更には余りにも人工的なダンジョン――各階での功績に応じて現れる宝箱、攻略毎に現れる攻略報酬、攻略毎にリセットされるようにモンスターが湧くゲーム的仕様。
頭が正常であれば、誰かしらの仕業であるという判断は間違いじゃないはずだ。
「人為的、或いは作為的な世界からの挑戦。つまり、ダンジョンはある意味では高度な冒険者養成所と言えます」
「ダンジョンが養成所……?」
ラッツがそう聞きながらハンと見合う。
「冒険者が裕福になるためだけじゃなく、しっかりと成長出来るようになってるんですよね。報酬で強くなれるし、階層報酬でも同じ事が言えます。まるでいつかやってくるであろう災厄に備えて、戦える人材の質を上げるために」
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だが、そう結論付けるにはまだ早いとも言えた。
俺は首を横に振ってから肩を竦めた。
「ま、一介の冒険者が全てを知るには情報が足りないですからね。まだ何とも言えません」
そう言いながら苦笑した後、アリスが先程まで見ていた目を再び俺に向けた。
「……一介の冒険者?」
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