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第一部

その369 初任務

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 案外……思ったより……予想以上に……粒がいない。
剣弓斧魔けんきゅうふま】、【青雷せいらい】ときて多くの冒険者を見ているはずなのだが、粒揃いというのは、基本的にアーダインがある程度選別しているのだ。
 当然、その中に闇人やみうどもいるが、血をぺろっとしてみれば、皆、俺より序列が低い事がわかった。まぁ、タヒムの実力を考えれば、それ以上を望むのは難しいのだろう。
 がしかし、解せない点もある。それは、ランクSに該当する実力者タヒムが序列四百台である事だ。聞いてみたところ、序列にも当然抜けた番号こそあるものの、百人近く在籍しているとの事。それはどの序列も同じだそうだ。ちなみに、ミケラルドの偽名「デューク」の序列は【四百五十】である。
 つまり、序列四百より上は、ほぼ同数に近い実力者がいるのだ。当然、下位の序列も同じなのだが、それ以上にランクS以上の実力者が五百人近くいるとなると、おじさんは眩暈めまいがするのである。

「気疲れか?」

 と、溜め息を吐いていると、冒険者ギルド本部長室でアーダインが俺に言った。

「闇ギルド員、多過ぎません? オベイルさんとそこそこ良い勝負してた拳鬼でさえ【序列百ハンドレッド】って事がビックリですわ」
「だが、その拳鬼は序列百ハンドレッドの中でも上位だったそうじゃないか。となれば、その上は【ときの番人】の十二人だろう」
「その間がいなければいいですねぇ」
「現状、確認はされてないのだ。いる、いないではなく、不確定要素と割り切るのがいいだろう。安心しろ、ミックのおかげで助かっている。どうだ、今夜慰労を兼ねて食事でも?」
「ありがたい申し出ですが、今夜は予定があるのです」
「一国の元首に無理を言ったか」
「いえ、闇ギルドの初任務が」

 ピクリと反応するアーダイン。

「内容は?」
「商人ギルド襲撃の補助……?」
「なっ! 何でそれを報告しない!」
「今してるじゃないですか。これでも任務が入ってすぐに来たんですよ? それに、商人ギルドには商人ギルドのマスターもいるんでしょう? あの人、アーダインさん並みに強いですよ?」
「あ、会ったのか!? あの【白き魔女リルハ】にっ?」
「こっちに来た時、ミナジリの貨幣を広めてもらうために一度。別途注文もあったので」
「注文? い、いや、今それを聞いている場合ではない。早速リルハに連格――」
「――お待ちください、既に手は打ってあります」
「……何だと?」

 ◇◆◇ ◆◇◆

「もう一度言ってみろ?」

 目を鋭くさせ、殺気を放つ目出しフードの男。

「嫌だと言ったんだ。何故俺がこんなチンケな仕事をしなくちゃならない? 商人ギルドの襲撃補助? ただの強盗のバックアップじゃないか。それも俺の上席がこんな雑魚とくれば、悪態も吐きたくなるものだ」
「序列四百五十がめた口を……!」

 襲撃補助の任、当然俺が強盗に参加する訳も、その補助に参加する訳にもいかないし、したくもない。大きいお金はバルト商会のバルトとか、ドマーク商会のドマークにイイモノを売れば手に入るのだ。そもそも、何故悪人が現金を必要とするのか。モノを盗んだり、踏み倒したりしないのか。がしかし、「闇組織の超大物! 食い逃げ!!」とかの見出し新聞は確かに嫌だな。逆に見てみたい気もするが、必要に応じて金は使うという事だな。
 その多くは表で活動する資金……といったところか。
 まぁ、今回は場所が場所だけに、俺も強硬手段をとらざるを得ない。
 補助メンバーは俺を含め五人。主な任務は主要メンバーの脱出経路の確保、周囲の監視である。主要メンバーは実行犯だからおそらくハンドレッドが動いているのだろう。俺もあちらに行きたかった。

「命令違反は重罪、入る時に審査官に聞いたよな?」

 ジリと構える四人。
 重罪とはすなわち即刻処刑の意味。それを知らない俺ではない。
 しかし、これは非常に有用なリクルート機会。
 こんなところに、優秀な人材が転がっているじゃないか……!

「ひっ! お、おい、こんな気味悪い奴、さっさとっちまおう! 任務に支障が出る!」

 そんなに酷い笑みを浮かべていたのか、俺は。
 何て事だ、威嚇に使えるじゃないか。

「仕方ない、るぞ!」

 ◇◆◇ ◆◇◆

「「ご命令を」」

 こういうのをてのひらドリルというかもしれない。
 いやまぁ、俺のせいなんだけどな。
 まぁ、俺も吸血鬼が板についてきたって事だろう。

「主要メンバーの脱出経路の候補地を教えろ」

 補助班のリーダーを介し知った情報を元に、内部で護衛を担っている仲間に連絡。追い出し方を工夫してもらえれば……!
 必然的に、俺が張っていた脱出経路にハンドレッドの連中が通る訳だ。
 なるほど、どれもランクS上位といったところか。
 お、一人SSダブルと言えるだけの実力者が交じってるな。
 まぁ、リルハには帰ってもらってるからこれで事足りるという判断か。
 それだけに拳鬼が優秀だった事が窺える。
 今度イチロウとジロウ、ラジーンに詳しい話を聞いてみるか。

「何だ、あの化け物たちは!?」
「青雷だけって話じゃなかったのか!?」

 青雷のパーティメンバーであるタヒムは闇人やみうどである。
 当然、今回の襲撃要員でもある。がしかし、それは青雷のメンバーとしての参加だ。戦闘中、味方のフォローをするはずの仲間が、本来の力を出さなければ……、それは青雷にとって強い毒となる。
 つまり、青雷は彼等を前に負けるはずだった。
 しかし、そうはならなかった。

「こちらです! 安全な場所へ誘導します!」

 等と、デュークミケラルドが言うも、

「助かる!」

 通された路地裏には……ミナジリ共和国の守護者たち。

「な、何故ここに……!?」
「さて、どうしてだろうな」

 一枠一番、水龍リバイアタンことリィたん。

「お前はさっきの……!?」
「お前たちのおかげで我が国が潤うらしいぞ」

 二枠二番、リザードマンのジェイル。

「お前! 何故笑っている!? ま、まさか裏切ったのかっ!?」
「いやいや、真っ当な生き方を裏切ってるのはあなたたちでしょう」

 三枠三番、オレ。

「簡単な話です、ちょっと血を恵んでくれません?」

 さぁ、デッドヒートの始まりです。
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