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第一部

その357 真実

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「さて、ミケラルド様。イヅナ殿もいらっしゃったようなので、是非お話をお願いします」

 イヅナがバルトとドマークに依頼し作った約款やっかん
 真実立会人という意味不明な項目に名を連ねたのは、他でもないこの二人。
 彼らはいつも俺の事を「ミケラルド殿」と呼ぶ。
 それは、彼らと俺が商人として顔を突き合わせているからだ。しかし、今回は立場が違う。
 おそらくこの二人は、シェルフとリーガル国の使いとしてここに来ているのだ。だから俺の事を「元首」として話している。
 貴族では介入しづらいこういった場は、商人であり俺の知人であり友人である二人にうってつけなのだ。
 俺はジェイルを見、一つ頷く。

「ジェイルさん」
「あぁ」

 ジェイルが立ち上がり、イヅナを見る。

「……勇者レックスは私が殺した」
「「っ!!」」

 ジェイルは、ただ結論だけを述べ、それを聞いた二人の商人はただ驚きを露わにしていた。
 イヅナはそれを予期していただけに、表情こそ揺るがないものの、本人の告白によって目つきが鋭くなる。

「イヅナ、お前の背に傷を付けたのもな」
「……そうか」

 そう、イヅナとしてもここまではわかっていた事。
 当然、それは俺もナタリーもリィたんも同じである。
 問題なのはその先だ。

「あれは、よく晴れた日だった。その日は妻の誕生日だった。最高の獲物を約束し、私は狩りに出かけた。上等な猪を仕留めた私は、妻のアイーダの下へ戻った。だが、そこにあった、、、ものは妻と呼ぶには余りにも無残な姿だった」

 ジェイルの表現……気になるな。
 勇者がそれほどまでに残忍な事を?

「そして奴は現れた。下種びた笑みを浮かべ、この私に襲いかかってきたのだ」
「レックスが?」

 イヅナの疑問はもっともだ。
 勇者という清廉潔白のイメージから程遠い話ともとれるからだ。

「驚いたのはこちらの方だ。あの時、勇者に遅れアイビス、ヒルダ、そしてイヅナが追いついて来た。その瞬間、レックスの表情が一変した。正に勇者。飛ばす檄、立ち振る舞い、皆を逃がす勇気、どれをとっても勇者と言えた。だが、私も若かった。そう見えたのは、怒りが私を通り過ぎた後だったからだ。怒りの収束とはすなわち……」

 勇者の死。

「勇者レックスを殺し、その遺体を魔界へ持ち帰った。リザードマン種は厚遇で魔族四天王に迎えられ、私はそれを機に魔界を出た。戦いはこりごりだとな。人間を憎み殺してやろうとも思った。しかし、彼らを観察すればするほど、私と何ら変わりなかった。そして私は気づいた。人間を殺してもアイーダが戻ってくる訳でも、喜ぶ訳でもない事に」

 中々にハードな過去である。
 ナタリーは自分の事のようにジェイルを哀れんでいる。気になるのはやはりイヅナ。

「イヅナさん」
「何だ?」
「今の話の前半部分、勇者レックスの二面性についてお心当たりは?」
「ないな。無論、ジェイルが真実を語っているならば……だが」

 その言葉を受け、ジェイルは何も答えなかった。

「かと言って、ここで水掛け論をするつもりはイヅナさんにもないでしょう」
「確かに。ジェイルにレックスが殺されたというのも、言ってしまえば私の狂言きょうげんともとれる」
「その通りです。私はジェイルさんを信じていますが、イヅナさんも信じています。どちらの言葉も真実だと思っています。ただ、その経緯だけは謎に包まれている。ならば、勇者レックスの変貌こそ、この事件の謎。イヅナさんが求める真実は、私が求める真実でもあるという事です」

 イヅナの片眉がピクリと動く。

「それはどういう事だ、ボン?」
「魔族四天王スパニッシュがこの三人に言ったそうです」
「……何をだ?」
「我が力は魔王の魔力、我が身体は勇者の肉体であると」
「「っ!?」」
「私自身、その情報を信じた訳ではありません。しかし、それを説明し得るだけの実績が、この身体にはあるのです」

 俺の説明がひとしきり終わると、ドマークが顎を揉みながら言った。

「確かに、ミケラルド様の力を考えると、現代の戦士や魔法使いより、勇者や魔王のソレに近い」

 続きバルトが述べる。

「いやはや……これは何と報告すればよいのか」

 この情報が悪い方向に転がらなければいいが、どうなる事やら。

「二つ聞きたい」

 イヅナが見る先は、やはりジェイルだった。

「何だ?」
「一つ、先の言葉に嘘偽りはないか?」
「ない」
「……そうか」

 イヅナとしても歯痒いところだろう。
 勇者レックスの仇とも言える存在が、勇者レックスを仇としていた。ならば、そこにイヅナが立ち入る隙はない。何故なら、それはレックスとジェイル当人同士の問題となるからだ。
 だが、もう一つの質問とは一体?

「もう一つは何だ?」

 ジェイルから切り出すと、イヅナは緊張からか一つ深呼吸をした。
 そして、再びジェイルを見つめ聞いたのだ。

「……私は……私は、強くなったか?」

 それは、余りにも意外で、余りにも場にそぐわず、余りにもイヅナ的な質問だった。
 ジェイルはイヅナを真っ直ぐ見つめ、いつも通り淡々と、

「見違えた」

 イヅナの成長を称えたのだ。
 それ以上でもそれ以下でもなく、それはそれでジェイル的とも言えた。

「……そうか」

 真実は未だ藪の中。
 しかし、イヅナを見るジェイルの目と、ジェイルを見るイヅナの目に、ほんの少しだけ和解の色が見えたのは、きっと俺だけじゃないだろう。
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