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第一部

その354 商人ギルドの長

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 ◇◆◇ アリスの場合 ◆◇◆

 ミケラルドさんと離れ、私は彼を追いかけるため、まず自分を鍛える事に専念した。そんな時、私の前に現れたのはリプトゥア国でも名高いランクAパーティのキッカさんだった。
 キッカさんは気さくで面白く、すぐに私と仲良くなった。
 当然、きっかけというのも大事です。彼女は私を聖女と知るなり、湯舟に浸かっていた私に「付いて来て」とだけ言った。勿論、それだけで私は動きませんでした。けれど、彼女は更に一言付け加えたのだ。「存在X」からの指示だ、と。
 そんなはずない。そんなはずがないのだ。私しか知らない言葉、、、、、、、、、だというのに、それが見知らぬ冒険者からの口から出たのだ。そんなの、付いて行くしかないじゃないですか。
 城下町に出て、連れて来られた先は冒険者ギルド。そこで私はラッツさんと、ハンさんに出会った。そこで私は初めて彼らが【緋焔ひえん】というパーティだと知った。
 その身にまとうオリハルコンの武具を見て、私は確信した。これは間違いなくミケラルドさんが関与していると。何故ならその武具からは、あの人の魔力を感じ取る事が出来たからだ。
 けれど何故? 何故ミケラルドさんは私が陰でミケラルドさんの事を【存在X】と呼んでいる事を知っていたのだろう。私はそれが疑問でならない。
 存在Xからの指示は単純明快だった。法王国の闇について調べる事。
 当然、最初に頭に浮かぶのは非公式ギルド――通称闇ギルドである。
 だからこそ、ラッツさんは私に言った。「引くのも勇気だ」と。
 それでも彼らに付いて行くと決めたのは、それがミケラルドさんへの唯一の近道だとわかっていたから。そして何より、ミケラルドさんの力になれると信じていたから。
 けれど、闇ギルドは底の見えない深淵の闇。
 たとえランクAが集まったところでそう簡単に見つかるはずがない。
 藁すら掴めない現状に挫けそうになった時、ミケラルドさんはまた私に勇気をくれた。
 それが、リプトゥア国とミナジリ共和国の戦争だった。
 法王国の広場に映された戦争の一部始終いちぶしじゅう
 私の知っているミケラルドさんは、私の知らないミケラルドさんに変身していた。いいえ、あれが本当のミケラルドさんの姿。
 吸血鬼、それが彼の本当の正体。
 ミケラルドさんが去り際に残した言葉を疑わなかった訳じゃない。
 けれど、隠している事は多くとも、彼が私に嘘を吐いた事がなかったのは事実だった。
 そして、彼は行動でそれを証明した。
 吸血鬼となったミケラルドさん。私の知らないミケラルドさん。
 だけどそうじゃなかった。たとえ姿が変わろうと、その中身までは変わらなかった。
 ゲオルグ王に「ゴミ」と罵られようとも、彼は道化を演じた。
 ゲオルグ王の威圧に対しても怒りを見せ、ほまれ高い国のあるじを、私に、全世界に見せた。
 魔族の国家なのだ。人間に恐れられて当然。
 けど、私は知った。魔族かれらもまた、人間に恐れられる事を恐れているという事を。それを全世界に見せる勇気。私はまたミケラルドさんに助けられた。
 そうじゃいけないのはわかっていても、彼は見えない場所から私を助けてくれた。
 だから、私は迷う訳にはいかなかった。
 闇ギルドの調査はミケラルドさんが私たちに任せたもの。
 ならば、私もミケラルドさんの助けになりたい。
 そう心に決め、私たちは調査を再開した。
 あの破壊魔パーシバルを前に、優勢に動いていたミケラルドさん。剣神イヅナを倒したという彼の言葉は正しいのだろう。目指す先はSSダブルなれど冒険者のいただき。私もいつかきっとそこへ。その隣へ。

 緋焔は本当に優秀なパーティだった。
 キッカさんはとても優しいお姉さん。
 ハンさんは頼りになるお調子者のお兄さん。
 ラッツさんは実直で素直で熱いお父さんみたいです。
 そんな彼らが入ったのはオリハルコンズ。
 アーダインさんのおかげで、緋焔というパーティを残しつつ法王国で名の知られるオリハルコンズに三人が加入出来た。これによってオリハルコンズは更に有名になった。これも、ミケラルドさんの狙い通りなのだろうか。
 そんな事を考えながら、私たちは調査を続けた。
 そう、まずは小さな闇から手をつけ始めたのだ。
 そしてその小さな闇に触れ、ハンさんの助言によってたどり着いた結論。
 商人ギルド本部へやってきた私たちを迎えたのは、サブギルドマスターの【ペイン】さんだった。
 ラッツさんの言葉により奥へ通された私たち。
 本部長室へ入ると、そこにいたのは、私よりも背の小さな女の子だった。

「ほぉ、聖女アリス率いるオリハルコンズか」

 やたら大人びた口調。
 それもそのはずで、彼女は現代の賢者と称される人だからだ。
 またの呼び名を【白き魔女リルハ】。
 長く美しい白髪はくはつをまとめ、少女の如き若さ。しかし、その眼光は魔女と呼ばれるに相応しく強く鋭いもの。
 何よりも見た目と違うのは、その身にまとう魔力だ。凄い。まるでクルス陛下のようです。
 アーダインさんもそうだけど、ギルドのトップっていうのは皆、こんなに凄いものなのだろうか。

「リルハ殿、この度はお話があって来ました」
「ラッツ殿、それは我が商人ギルドが闇に狙われているという件についてかな?」
「「っ!?」」
「気づかなかったか? この商人ギルド本部には、あなた方とは別の魔力があった事を?」

 そうだ。
 ここに入る前に気付いたのは五つの高い魔力。
 それは未だに商人ギルド本部にある。
 これはつまり……用心棒。
 つまりリルハさんは闇ギルドがここを狙う事を予見していた。恐ろしい慧眼けいがん。だけど、それ以上に恐ろしいのは。この部屋に入るまで私たちに魔力を隠していた彼女の魔力操作能力だ。
 くすりと笑った彼女はやはり魔女と言えた。

「話くらいは聞こうか」
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