上 下
353 / 566
第一部

◆その352 新生オリハルコンズ

しおりを挟む
 ここは法王国。
 法王国とリプトゥア国の国境付近。
 地面から這い出て来る異形のモンスターが土煙を上げる。

「出たなモグラ野郎……!」

 象の如く巨大なランクAモンスター【ジャイアントモール】を前に双剣を構える男、ハン。
 ハンに突進するジャイアントモール。しかし、その脇腹を狙い真横から剛剣が振り下ろされる。

「ぬんっ!」

 ラッツの大剣による強力な一撃により、ジャイアントモールの勢いが落ちる。
 ニヤリと笑ったハンがその真上へ跳び上がる。

「キッカ!」
「任せて! 【パワーアップ】!」

 後衛で杖を掲げたキッカがハンの力を底上げする。
 ジャイアントモールの首に双剣を突き立てたハン。

「ギィイイイイイッ!?」」

 苦しむジャイアントモールが痛みに仰け反る。これに更なる追撃が起こる。
 胴体に降り落ちる光弾こうだん、光魔法の【ライトシュート】。

「ナイスだ、アリス」

 仰け反った事による頭部下の空間。ここに潜り込んでいたラッツが、ジャイアントモールの顎下から叫ぶ。

「猛剣、獣斬じゅうざん!」

 とどめの一撃により、ジャイアントモールが断末魔すら発さずこと切れる。

「よっと」

 跳び下りて来たハンとラッツがハイタッチすると、キッカが微笑む。

「なーにカッコつけてんだか」

 そしてアリスに向く。

「アリス、どうしたの?」

 キッカの問いにアリスが小声で言う。

「いえ、また視線が……」
「あー、また闇ギルドでしょ? いいのいいの。あんな奴らはただ監視してるだけなんだし」
「それでも、私が原因である事には変わりないです」

 しゅんとするアリスの肩に、ラッツの手がポンと置かれる。

「心配する事はない。我々の実力は既にランクSパーティとも言える。あちらもそう簡単には手を出せないだろう」
「ラッツの言うとおりだぜ、アリスちゃん。大丈夫、何かあったら逃がしてやっから」

 ラッツ、そしてハンの言葉に、アリスが小さく頭を下げる。

「すみません……だけど、ハンさんの厚意に甘える訳にはいきません。いざとなった時は、私も一緒に戦いますから」

 自身の杖をギュッと握って気合いを見せたアリスに、キッカがくすりと笑う。

「だよね~、ハンの言い方だと何か重いよねー? うんうん、皆で一緒に戦おうじゃない。このオリハルコンズ、、、、、、、でさ!」

 ミケラルドとアリスが作ったパーティ【オリハルコンズ】。そのパーティに加入したのがラッツ、ハン、キッカの【緋焔ひえん】だった。

「しっかし、一時的とはいえよくギルドが許可したよな」

 ジャイアントモールの討伐後の帰り道、ハンが言った。

「アーダイン殿の配慮だろう。原則、パーティから脱退しなければ別のパーティには臨時で入る事しか出来ない。世界的に見て重要度の高い聖女のいるパーティ【オリハルコンズ】だ。ギルドとしてもその名は残したいところだろう。そして俺たちとしても愛着のある【緋焔】もな。どちらも欠けさせずに依頼にのぞむのであれば、特殊事例も仕方のない事だ」
「臨時パーティでもよかったんだけどな」
「だから言ったろう、アーダイン殿の配慮だと。実績の積んだパーティを消すのは惜しいという判断だ」
「なるほどねぇ~」

 緋焔というパーティを残しつつ、緋焔のメンバーをオリハルコンズに加入させる。超法規的な対応ではあるが、それには今後予定されている聖騎士学校入学への選別が理由にあった。ミケラルドはパーティを脱退した訳ではないが、現状戦線を離脱している。オリハルコンズに残ったメンバーは聖女アリスのみ。
 この状態では、聖女アリスも緋焔のメンバーも選別に参加する事が出来ないのだ。かつて、冒険者ギルド総括ギルドマスターであるアーダインは、ミケラルドに言った。

 ――――パーティメンバーは四~五人。それとミケラルドだ。

 選別を受けるためにはパーティメンバーは最低でも四人必要なのだ。それも、ランクSダンジョンに潜れる程の実力を持ったパーティでなくてはならない。つまり、それにはより練達したチームワークが必要となる。
 オリハルコンズにはアリス一人、そして緋焔にはラッツ、ハン、キッカの三人のみ。これでは最初から選別から漏れてしまう。
 だからこそミケラルドは緋焔を法王国へと向かわせた。そしてアリスと接触させたのだ。
 法王国の首都に戻った皆は、ギルドへの報告後、打ち上げの後、部屋へと戻る。当然、アリスとキッカの部屋とラッツとハンの部屋は別だが、四人が集ったのはラッツとハンの部屋だった。

「アリス、宿の生活は慣れたか?」
「えぇ。アイビス様も言ってました! 『何事も経験じゃ』って!」

 ラッツの質問に元気に返答したアリス。
 部屋のドアに対し魔法を放っていたキッカが戻る。

「オッケー、これで外に情報はれないよ」
「風魔法【エアフィルター】……便利ですよね」

 アリスが言うと、ハンが肩をすくめる。

「特殊能力の【聞き耳】は厄介だからな。連中、監視専門みたいだし、用心に越した事はないだろう」
「ですね」

 アリスが頷き、

「さ、いいぜ。ラッツ」

 ハンの言葉によって皆がラッツに向く。

「では会議を始める」
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

辺境の農村から始まる俺流魔工革命~錬金チートで荒れ地を理想郷に変えてみた~

昼から山猫
ファンタジー
ブラック企業に勤め過労死した俺、篠原タクミは異世界で農夫の息子として転生していた。そこは魔力至上主義の帝国。魔力が弱い者は下層民扱いされ、俺の暮らす辺境の農村は痩せた土地で飢えに苦しむ日々。 だがある日、前世の化学知識と異世界の錬金術を組み合わせたら、ありふれた鉱石から土壌改良剤を作れることに気づく。さらに試行錯誤で魔力ゼロでも動く「魔工器具」を独自開発。荒地は次第に緑豊かな農地へ姿を変え、俺の評判は少しずつ村中に広まっていく。 そんな折、国境付近で魔物の群れが出現し、貴族達が非情な命令を下す。弱者を切り捨てる帝国のやり方に疑問を抱いた俺は、村人達と共に、錬金術で生み出した魔工兵器を手に立ち上がることを決意する。 これは、弱き者が新たな価値を創り出し、世界に挑む物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

最弱テイマーの成り上がり~役立たずテイマーは実は神獣を従える【神獣使い】でした。今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティーに所属するテイマーのカイトは使えない役立たずだからと追放される。 さらにパーティーの汚点として高難易度ダンジョンに転移され、魔物にカイトを始末させようとする。 魔物に襲われ絶体絶命のピンチをむかえたカイトは、秘められた【神獣使い】の力を覚醒させる。 神に匹敵する力を持つ神獣と契約することでスキルをゲット。さらにフェンリルと契約し、最強となる。 その一方で、パーティーメンバーたちは、カイトを追放したことで没落の道を歩むことになるのであった。

処理中です...