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第一部

◆その337 闇ギルドの脅威

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「ぬぅん!」
「くっ! 流石は表の世界でSSダブルになるだけはある!」

 鬼剣で拳鬼の身体を吹き飛ばした剣鬼オベイル。

「そりゃこっちの台詞だ。普通なら数十メートルは吹っ飛ぶのによ、完全に流されちまってる。かなり鍛えこんでるじゃねぇか。闇ギルドってのはお前みたいのばっかりなのか?」
「私など末席の一人に過ぎない」
「上から数えた方が早そうだが?」
「確かに、サブロウ殿とナガレ殿はそう言えるだろう」

 オベイルがサブロウと戦う勇者エメリーと剣聖レミリア、拳神ナガレと戦う剣神イヅナをちらりと見る。

(一人は前にミックが報告してたやつと風貌が一致するな。あっちはギリギリの戦闘をしている。しかしおかしい。あのサブロウって男、どこか手を抜いているようにも見える。対して爺の相手はまた化け物だな。拳に交ぜる虚実の数が尋常じゃねぇ。ま、それを受け切る爺も爺で十分化け物か)
「よそ見とはいただけないな! はっ!」

 一瞬で迫った拳鬼の攻撃は、オベイルの胸元へ決まる。
 しかし、オベイルはそれを待っていたかのようだった。

「何だこの鎧は……! まさかっ!?」
「おうよ、出来たばかりのオリハルコンの鎧、だ!」

 オベイルはあえて鎧の丈夫な箇所で受ける戦闘法を選んだ。
 隙を見せたのは拳鬼を誘い込むためだったのだ。
 拳鬼が両手で受けた攻撃は非常に重く、腕に鈍痛を残した。

「ぐっ! ……その鎧は情報になかったな」
「新情報だろ、くれてやる」
「残念、製作者の名が聞けると思ったのだが」
「誰が言うかよ」

 オベイルが鼻息をすんと吐く。

「まぁ、大方予想はつくが」
「なら探りを入れる必要はないだろうが」
「こちらは情報の正確性を重視しているのでな」
「そりゃ良い情報ありがとよ」
「サービスだ」
「……んだよ、回復したのかよ?」

 拳鬼の腕に震えが見えなくなり、オベイルはそれを指摘したのだ。

「ほぉ、よく気付いたな?」
「あからさまに時間を稼いでたからな。何だそりゃ? 魔法じゃねぇな?」
「言うと思ったか?」
「サービスはどうした?」
「もう終わった」

 ニヤリと笑い合う拳鬼と剣鬼。
 二人が激しくぶつかり合う攻撃の余波は、エメリーとレミリアの下まで届いていた。

「はっはっはー! 爆連打破ばくれんだはっ!」

 サブロウから無数の掌底しょうていが放たれる。
 二人はそれを全てかわすしかなかった。一度ひとたびそれを受ければ――、

「くっ!」
「レミリアさん!?」

 余りの衝撃により、一瞬くの字、、、になったレミリアが吹き飛ぶ。
 サブロウの実力は二人を優に凌駕していた。二人の内一人でも欠けてしまえば、残ったエメリーは多くの攻撃を受ける事となる。

(ここじゃ……!)

 サブロウがここぞとばかりに手数を増やす。

「だだだだだだっ!」

 サブロウによる正確無比な拳の嵐。その攻撃はエメリーの顔をかすめ、腹を打つ。当然その中にある虚実。エメリーの速度はサブロウに追いつけるものではない。エメリーは虚の拳を可能な限り切り捨て、実の拳だけを何とか受けた。

「っ! そりゃ!」

 殺意溢れる拳が狙うは、エメリーの二つの眼球。

「っ!?」

 身をよじりかわすも、サブロウの攻撃が止まる事はない。
 エメリーの動きに合わせ、滑り込むようにエメリーの背中へ移動したサブロウの五指ごしが、頭部を打つ。五点の攻撃と中央の掌底が、エメリーの脳に大きなダメージを残す。

「……ぁ?」

 直後、エメリーの鼻から、目から。耳からどろりとした血液が流れる。
 小円で反転し、エメリーの正面へ回ったサブロウの肘鉄がエメリーの胸部を穿つ。

「……お……かっはっ!?」

 巻き散らす吐しゃ物と血液。エメリーはその場に倒れ、溺れているかのようにもがき苦しんだ。事実エメリーは溺れていた。自らの体液で喉を詰まらせ、呼吸する事が出来ないのだ。
 闇人やみうどサブロウは、顔色一つ変えずにエメリーに言う。

「ちと地獄をみてもらうぞ」

 サブロウはエメリーに近づき、まずは首元にあった右手をけ、それを折った。

「っ!? ~~~~~っっ!!!!」

 悶絶しビクンと跳ねるエメリーの勢いを利用し、肩を外す。
 次に左手へ。のたうちまわるエメリーの両手が使い物にならなくなった時、ようやくレミリアが戦線に復帰する。

「くっ! はぁあああっ!」

 斬撃を飛ばしたレミリアだったが、サブロウはそれをいとも簡単にけてしまった。
 未だ騎士団を相手にするリィたんとジェイルは、ここへ助けには来られない。
 だからこそレミリアは決死の覚悟でサブロウへ挑んだ。

「だぁあっ!」

 上段からの変則の突き。

「まだ下方への力が残っている。雑だ」

 サブロウは上からそれを叩き落とし、レミリアの腹部を蹴り飛ばす。
 矢の如く勢いで飛んだレミリアは、朦朧とした意識の中で思った。

(やはり……私は弱い……!)

 腹部への痛み、それ以上の悔しさから涙を流すレミリア。
 大地へ剣を突き立てブレーキを掛けるも、その間、サブロウは次の行動を起こしていた。

「さて」

 まず行われたのは足の健の切断。

「芋虫の完成じゃな」

 淡々と言うサブロウがエメリーに跨る。
 マウントポジションをとったサブロウの拳が、エメリーの顔にめり込む。
 声も息も出来ぬ状態から、サブロウは何度もエメリーの顔を殴った。
 エメリーが意識を失えば――、

「寝ている場合ではないぞ」

 気付けの如く頭を叩きエメリーを叩き起こす。
 反射行動か痙攣けいれんか、それとも震えか。ピクピクと反応しか出来ないエメリーは、ただ次の衝撃を覚悟するしかなかった。そう、涙を流しながら。
 レミリアが救援に駆けつけるも、やはり先程と同様に簡単にさばかれ、大地に叩き伏せられる。

「続きだ」

 サブロウの強烈な殺意と威圧は、ついに勇者の心を折る。
 ガタガタと震えたエメリーは失禁し大地を濡らし、サブロウが一歩進む毎に小さく、掠れた悲鳴をあげた。
 その時、サブロウの足がピタリと止まったのだ。

「くっ!? もう来おったか、化け物めっ!」

 サブロウがバッと振り返ると、そこには怒りを露わにしたミケラルドが迫っていたのだ。
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