上 下
320 / 566
第一部

その319 ミナジリ大会議4

しおりを挟む
 勇者エメリーの肩が震える。
 隣に立つ剣聖レミリアの俺を見る目がきつくなる。

「ミケラルド殿、それは流石に酷いのではありませんか?」
「えぇ、酷い事を言っている自覚はあります。そもそも、エメリーさんを連れて来たのは私ですからね」
「では何故っ?」

 レミリアがそう聞くも、俺は毅然とした態度でエメリーを見続けた。

「確認ですよ、レミリアさん」
「確認……?」
「ここに来たという事は、お二人共この戦争に参加するおつもりでしょう」
「それがわかっていて何故……」
「『魔族の手に落ちた勇者』」
「っ!」
「今後エメリーさんは多かれ少なかれそうやってさげすまれる事になります。勇者エメリーがミナジリ共和国の食客として戦争に参加した時、リプトゥア国は何と言うでしょう? 十中八九じゅっちゅうはっく、『魔族が勇者を操っている』等と吹聴ふいちょうし、軍の士気を上げる。しかし戦争が終わった時、勇者に課せられる汚名は? 私はこの段階で引き返さないとそれが付き纏うようになると言っているんです。勇者が味方するのです。当然、我々としては有難い申し出です。しかし、それに伴う対価は……エメリー殿、貴方にはまだ重いのではありませんか?」

 するとレミリアは、静かに目を伏せ押し黙ってしまった。
 そう、これはエメリーにしか決められない事。
 俺は彼女に選択肢を提示してやる事しか出来ない。

「……ミケラルドさん」

 俯きながら俺の名を呟くように言ったエメリーは、強く拳を握っていた。
 震える身体に震える声。彼女が絞り出した俺への質問は、意味のわからない事だった。

「私は……何でしょう」
「……随分と抽象的な質問ですね」
「私は、人間ですか、、、、、?」

 益々意味がわからなかった。だが、はっきりと答えられる事はある。

「いいえ」

 直後、エメリーの表情が暗くなる。

「では、私は一体何なんでしょう……」

 俺は深く溜め息を吐き、超巨大なブーメランを彼女に投げた。

「三歳の私が言うのも何ですが……子供、、ですよ。半人前です」

 怒ったのだろう。エメリーの震えがピタリと止まった。

「そもそも、一人前の大人ならここで私に質問せず、イヅナさんのように自分で自分の行先を決められるんです。半人前も半人前。半端者ですよ」
「そう……ですか」

 気のせいか、その言葉に怒気は感じられなかった。
 怒りを通り越して冷静になったのか。そう思うや否や、エメリーはついに俺を見たのだ。
 おかしい。何だあの表情は?
 何がおかしいのかエメリーは俺を微笑みながら見ていたのだ。

「では、私がいる場所はこちら側です」
「へ?」

 けちょんけちょんにけなしたというのに、何故エメリーは微笑み、ミナジリ共和国への協力を申し出たのだろう。
 首を捻る俺に、エメリーは言葉を続けた。

「リプトゥア国のゲオルグ王は、私を【兵器】と呼びました」
「「っ!?」」

 儚く微笑んだエメリーの口から聞こえたソレは、俺にとって吐き気のするものだった。ナタリーは絶句し、エメラは顔をしかめ、レミリアに至っては額に青筋まで立てていた。
 十四、五の乙女に何て事ぬかすんだ、リプトゥアの王は。

「ミケラルドさんが言う通り、私は……子供です。剣の腕をいくら磨こうとも、中身は子供。半人前です」

 エメリーは少し俯き、恥ずかしそうに、少し嬉しそうにそう言った。
 そして顔を上げ、力強く続けた。

「でも、私は兵器じゃない! 兵器じゃないんです! 半人前が……半人前がいいです!」

 そう、涙を堪えながら。

「だから、だから私は……こっち側がいいです……」

 涙を拭うエメリーの肩をレミリアが抱く。
 レミリアは何か言いたげな様子だったが、何故か俺に目を向けた瞬間、そんな様子は霧散していた。

「これ、ボン」

 イヅナが俺に何かを伝えた。まるで俺をいさめるような物言いだ。

「何か?」
「抑えよ。私はともかく、上の従業員に失神者が出るぞ」

 一瞬、イヅナが言っている事が理解出来なかった。
 その答えを示したのはドゥムガだった。

「へっ、何ちゅう重圧プレッシャーだよ……! それとその顔。今からリプトゥア国に行って王の首でも摘んで、、、来そうな顔だな」

 俺はリィたんに向き、質問した。

「……もしかして魔力漏れてた?」
「殺気と怒気と一緒にな」
「……………………これは失礼しました」

 俺が静かにそう言うと、ジェイルとイヅナの言葉が被った。

「「これは、面白くなってきたな」」

 互いの視線が合わずとも、一瞬空気が凍ったのを皆感じ取った事だろう。
 俺は一度深呼吸してからエメリー、そしてレミリアを見た。

「ではお二人にもこの戦争に参加して頂きます。ご助力感謝致します」
「はい!」

 エメリーが元気よく返事をし、

「今はミナジリ共和国に身を預けているだけの事。それに、ミケラルド殿。感謝はこちらの台詞です」
「え?」
「これで私は、また強くなれる」

 何とも向上心逞しい剣聖様だ事。
 俺が苦笑してレミリアを見ると、その後ろのドアが大きく開かれた。
 入って来たのは、ミナジリ邸の門番――ダイモン。

「失礼しやす、旦那!」
「ダイモン? どうしたの?」
「屋敷の【テレフォン】に入信! リーガル国のブライアン王からです!」

 なるほど、リプトゥア国が周辺諸国に圧力を掛け始めたか。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

最弱テイマーの成り上がり~役立たずテイマーは実は神獣を従える【神獣使い】でした。今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティーに所属するテイマーのカイトは使えない役立たずだからと追放される。 さらにパーティーの汚点として高難易度ダンジョンに転移され、魔物にカイトを始末させようとする。 魔物に襲われ絶体絶命のピンチをむかえたカイトは、秘められた【神獣使い】の力を覚醒させる。 神に匹敵する力を持つ神獣と契約することでスキルをゲット。さらにフェンリルと契約し、最強となる。 その一方で、パーティーメンバーたちは、カイトを追放したことで没落の道を歩むことになるのであった。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

処理中です...