上 下
313 / 566
第一部

◆その312 ミケラルド誕生秘話

しおりを挟む
「ミック? あぁ、ミケラルドの愛称か。くだらんな」

 スパニッシュがすんと鼻息を吐き、頬に拳を当てる。

「いいから答えて」

 毅然きぜんとした態度でナタリーが言い返すと、スパニッシュはじっとナタリーを見返した。

「あの時、泣きながら震えていた者とは思えぬ態度だ。とはいえ、屈強な龍族に守られているのであれば気も大きくなろう」

 すると、リィたんが目を鋭くさせ言った。

見縊みくびるな。私がいなくともナタリーはそんな事はしない」

 固く口を結んだナタリーが再度言う。

「答えて。ミックは一体どうやって生まれたの?」

 スパニッシュは足を組み替え、少し考えた素振そぶりを見せた後、静かに話し始めた。

「……寄生転生とは、魔力と肉体を融合させ、そこへ魂を呼び寄せる秘術だ」
「では、肉体は吸血鬼のものか?」

 ジェイルが聞く。

「違う。肉体は別のモノだ。種族の割り当てにはその種の血を使う。奴の寄生転生には我が血を使っている。従って、ミケラルドはまごうことなき我が息子、という事になる」
「魂がミックのものなら、原因は魔力及び肉体にあるという事か……」
「原因?」

 リィたんの言葉に反応したスパニッシュの片眉が上がる。

「こちらの話だ」

 対してリィたんがその情報を明かす事はなかった。

「それで、魔力は何を使った?」

 再びジェイルが聞く。

「我が魔力……と言いたいところだが、それではいささか心もとない。他の種族を従えるために必要なのは、何より強大な魔力。当然、それだけの力を持った遺物レリックを使った」
遺物レリック?」

 リィたんが眉をひそめる。

「知らぬか? 魔族四天王には、その長たるあるじから、秘宝アーティファクトを賜っている事を」

 それを聞くや否や、ジェイルが目を見開く。

「【不死王リッチ】が持つと言われる【黄昏の霊玉】、【魔女ラティーファ】が持つ【地獄の水鏡】、【牙王がおうレオ】が持つ【冥府の鎌】、そして【吸血公爵スパニッシュ】が持つ――――」
「――――【闇の勾玉まがたま】」

 ジェイルに続けたスパニッシュの言葉は、ジェイルを沈黙へと追い込んだ。
 口を手で覆うジェイルにナタリーが聞く。

「ど、どういう事……?」

 ジェイルは答えない。顔を歪ませながら答える事が出来ない様子だ。
 ナタリーがリィたんに顔を向ける。

「……秘宝アーティファクトとは、人や魔族の手によって作られた強力な人工物の事。私の持っているハルバードやナタリーの首飾りも秘宝アーティファクトと言える。そして、その秘宝アーティファクトの製作者が死ぬと、それは遺物レリックとなる」
「何が変わるの……?」
秘宝アーティファクトとしての枠から外れる。能力が向上したり、内包する魔力が増大する。平たく言えば、秘宝アーティファクトの能力が一段階上がるという事だ。そして、その秘宝アーティファクトを作ったのは、【魔王、、】」
「え? え? 何で? 魔王は今、休眠期なんじゃ……?」

 ナタリーの疑問はもっともだった。
 すると、ジェイルがようやく口を開いた。

「魔王の言う休眠期とは転生の事。【勇者】の死と共に【魔王】は眠りにつく。だが、それは文字通り生まれ変わるという意味なのだ」
「つまり……魔王が一回死んだ事になるって事……?」

 ナタリーの疑問にスパニッシュが答える。

「左様。だから魔王陛下は休眠期に入る直前、我々にそれらを託した」
「狡猾さは正に魔王だな」

 リィたんがスパニッシュを睨みながら言った。

「あの方の深淵は誰も覗けはしない」
「じゃ、じゃあミックの寄生召喚に使われた魔力って……」

 ナタリーが自身の肩を抱く。

「【闇の勾玉】を使ったという事か。なるほど、吸血公爵スパニッシュ・ヴァンプ・ワラキエルならではの考えだな」

 リィたんの言葉を受け、スパニッシュが天井を見上げ言う。

「出来たのは確かに優秀な子供だった。生まれて一年も経たない内に、我と互角に戦える実力。そう、優秀過ぎるくらいだ」

 そんなスパニッシュの反応をよそに、ジェイルとナタリーが見合う。

(では、ミックの中にいたアレは魔王の残留思念?)
(馬鹿な、魔力に思念が宿る事などある訳がない)
(では一体?)

 ジェイルの視線の後、リィたんがスパニッシュに聞く。

「では肉体は? 魔王は休眠期に入る際、魔力の糸で紡がれたまゆに閉じ籠ると聞いた。その肉体を使う事は出来ないだろう」

 するとスパニッシュの視線がジェイルへと移る。

「【リザードマン】……今でこそ【牙王がおうレオ】の指揮下に入っているが、先の時代では我が陣営にいた種族だったな」
「それがどうした」

 ジェイルが身構えながら聞く。

「【勇者殺し、、、、】の異名を持つお前が、これだけ言ってまだわからぬか?」
「「っ!?」」

 直後、ジェイルとリィたんが気付く。
 遅れるナタリーが慌てて二人に聞く。

「ちょっと! どういう事!?」
「知っているかナタリー? 勇者レックスの墓はな、存在しないのだ」

 リィたんが、

「魔族として最大の戦果。当然、この私が魔界へ持ち帰った」

 ジェイルが言う。
 そして、スパニッシュがニヤリと笑う。

「リザードマンであるジェイルが倒した勇者レックスの遺体は、魔王陛下へ献上された。が、それを見、満足した魔王陛下がその遺体を下賜かしくださったのは当然、リザードマンを抱えていた我が陣営……ハーフエルフの小娘、わかるか? 奴の希少価値が。優秀な血統、最強の魔力……そして、神が与えた究極の肉体」

 ナタリーがゴクリと唾を呑み、掠れた声で言う。

「勇者……!」
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

辺境の農村から始まる俺流魔工革命~錬金チートで荒れ地を理想郷に変えてみた~

昼から山猫
ファンタジー
ブラック企業に勤め過労死した俺、篠原タクミは異世界で農夫の息子として転生していた。そこは魔力至上主義の帝国。魔力が弱い者は下層民扱いされ、俺の暮らす辺境の農村は痩せた土地で飢えに苦しむ日々。 だがある日、前世の化学知識と異世界の錬金術を組み合わせたら、ありふれた鉱石から土壌改良剤を作れることに気づく。さらに試行錯誤で魔力ゼロでも動く「魔工器具」を独自開発。荒地は次第に緑豊かな農地へ姿を変え、俺の評判は少しずつ村中に広まっていく。 そんな折、国境付近で魔物の群れが出現し、貴族達が非情な命令を下す。弱者を切り捨てる帝国のやり方に疑問を抱いた俺は、村人達と共に、錬金術で生み出した魔工兵器を手に立ち上がることを決意する。 これは、弱き者が新たな価値を創り出し、世界に挑む物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

最弱テイマーの成り上がり~役立たずテイマーは実は神獣を従える【神獣使い】でした。今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティーに所属するテイマーのカイトは使えない役立たずだからと追放される。 さらにパーティーの汚点として高難易度ダンジョンに転移され、魔物にカイトを始末させようとする。 魔物に襲われ絶体絶命のピンチをむかえたカイトは、秘められた【神獣使い】の力を覚醒させる。 神に匹敵する力を持つ神獣と契約することでスキルをゲット。さらにフェンリルと契約し、最強となる。 その一方で、パーティーメンバーたちは、カイトを追放したことで没落の道を歩むことになるのであった。

処理中です...