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第一部
その294 不思議な存在
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◇◆◇ アリスの場合 ◆◇◆
冒険者風の身なりだが、やたら品のいい顔をしている彼はキョトンとした顔で私を見た。
もしかして彼は、このダンジョンは一人で入ってはいけないと知らないのではないか。そう思った私は、注意するように彼に言った。
「そこは侵入禁止のダンジョンですよ!」
未だ彼は首を傾げている。
よく見れば端正な顔立ちをしている。足運びからして只者ではないのはわかるけど、このダンジョンに来るくらいだ。それなりの実力はあるのだろう。
彼は目を見開き、ポンと手を打った。
「許可ならありますけど?」
ランクS冒険者に出される許可証を読まないタイプか、冒険者ギルド員の説明を聞かないタイプ。もしくはそのどちらもか。この人、よくこれまで生きてこられたな。仕方ない、面倒だけど説明してあげよう。
身勝手な人がダンジョンに入って亡くなったとなれば、入場規制が厳しくなってしまうかもしれないから。
「たとえランクSでもパーティは四人以上じゃないと――」
「――SSですけど?」
彼の言った言葉も、ペラリと見せられたそれも、一瞬理解の出来ない事だった。そう、今度は私が首を傾げる番だった。
冒険者ギルドの印に……これは、アーダインさんのサイン?
「へ? えぇええええ!? 何で? 嘘!? どうして!? 貴方がSS!?」
そんなはずはない。
だって現在世界で存在するSSは剣鬼オベイルと魔皇ヒルダのみ。なら引退した冒険者? ……いえ、どう見ても私より五つか六つ上くらい。
「まさか偽造!?」
私の言葉にビクっとした彼は、やはり怪しかった。
「ちょっと付いてきてください!」
これは、真実を問いたださなくてはならない。
「えぇ……」
困った様子の彼だったが、そんな表情をしたのはほんの一瞬。
以降、私に連れられるがままに彼は動いてくれた。
ほんの少し歩調が合わなかったのは何故? 彼の方が遅いのは何故?
私が急いているという理由もあるのだろう。そして彼はいつもゆっくり歩くのだろう。けど気になる。何でこれから冒険者ギルドに突き出される彼は、あんなに鼻の下を伸ばし、だらしのない表情をしているのだろう。…………不思議な人。
「見覚えのある顔だな」
まさかギルド本部長のアーダインさんが、ここへ来ていると思わなかった。
けどおかしい。アーダインさんは私より彼を見ている?
たとえランクS冒険者だろうと、ギルド本部長と面識のある冒険者はそう多くないはず。
「それで? 何でミケラルドが【聖女アリス】と一緒にいるんだ?」
ミケラルド? それが彼の名前。
どこかで聞いた事のある名前だけど、今はそんな事より重要な事がある。
「アーダインさん!」
バシンとテーブルを叩く。
……少し強く叩き過ぎたかもしれない。
「この人は本当にSSなのですか!?」
「さっき付でな」
嘘。新たなSSが誕生したって言うの?
「あー、何だ? もしかしてダンジョンの件か?」
なら、話は早い。
彼なら、ミケラルドさんなら、私をダンジョンに連れて行ける資格がある。
「そうです!」
「だとよ」
アーダインさんは確認するように、ニヤリと笑ってミケラルドさんを見た。
「…………まぁ、薄々気付いてましたけど、SS一人で連れ歩いていいんですか?」
「アリスは特別だ。ランクAだろうが、ダンジョンの侵入許可を持ったヤツが一緒なら、ランクSダンジョンに入る事が出来る。それでもランクAの資格は必要だがな」
「中々危うい橋ですねぇ」
「そんな事はないさ。……本来ならな」
私は、こう言うギルド本部長が嫌いではない。
アーダインさんは、歯に衣着せぬ言い方でハッキリ言ってくれるからだ。そして彼にはそれを言うだけの実力がある。
陰でグチグチ言われるより百倍マシだ。
「それはまた、過去の聖女と照らし合わせていると?」
……そう言えば、このミケラルドさんも意外とズケズケ言ってくる気がする。
「そういう事だ。聖女と一緒にダンジョンに侵入すれば、本来であれば冒険が格段に楽になる。当然それは聖女の固有能力【聖加護】が理由だ」
……それを開花させるためのダンジョンなんだから。
「【聖加護】のコントロールが上手くいけば、どの冒険者パーティからも引っ張りだこなんだがな」
「彼女、私を引っ張って連れてきましたよ」
この人、本当に何でも言うんだ。
……そっか、経緯はどうあれ、私……この人とずっと手を引っ張って……。
「モテモテだな」
「わ、私はただこの人が本当にSSなのか確かめたくて……」
まただ。この人、あの許可証を厭味ったらしく私に……見せない?
アーダインさんに見せてる?
「この許可証、公文書として本当に効果あるんですか?」
凄い、ギルド本部長にここまで言う人なんて初めて見た。
彼の実力は剣神イヅナに近いとされている。
強面という理由も勿論だけど、アーダインさんにこんなに食ってかかる人なんて……?
「勿論だ、ただ相手が悪かったな」
アーダインさんはそう言った後、ミケラルドさんの耳に顔を近づけた。
……あぁ、これも隠す気がないみたい。
彼が私に面と向かって言わない時は、必ず私の悪口を言っているのだから。
「相手が子供じゃ通じない事もある」
しっかり聞こえてますからね。
冒険者風の身なりだが、やたら品のいい顔をしている彼はキョトンとした顔で私を見た。
もしかして彼は、このダンジョンは一人で入ってはいけないと知らないのではないか。そう思った私は、注意するように彼に言った。
「そこは侵入禁止のダンジョンですよ!」
未だ彼は首を傾げている。
よく見れば端正な顔立ちをしている。足運びからして只者ではないのはわかるけど、このダンジョンに来るくらいだ。それなりの実力はあるのだろう。
彼は目を見開き、ポンと手を打った。
「許可ならありますけど?」
ランクS冒険者に出される許可証を読まないタイプか、冒険者ギルド員の説明を聞かないタイプ。もしくはそのどちらもか。この人、よくこれまで生きてこられたな。仕方ない、面倒だけど説明してあげよう。
身勝手な人がダンジョンに入って亡くなったとなれば、入場規制が厳しくなってしまうかもしれないから。
「たとえランクSでもパーティは四人以上じゃないと――」
「――SSですけど?」
彼の言った言葉も、ペラリと見せられたそれも、一瞬理解の出来ない事だった。そう、今度は私が首を傾げる番だった。
冒険者ギルドの印に……これは、アーダインさんのサイン?
「へ? えぇええええ!? 何で? 嘘!? どうして!? 貴方がSS!?」
そんなはずはない。
だって現在世界で存在するSSは剣鬼オベイルと魔皇ヒルダのみ。なら引退した冒険者? ……いえ、どう見ても私より五つか六つ上くらい。
「まさか偽造!?」
私の言葉にビクっとした彼は、やはり怪しかった。
「ちょっと付いてきてください!」
これは、真実を問いたださなくてはならない。
「えぇ……」
困った様子の彼だったが、そんな表情をしたのはほんの一瞬。
以降、私に連れられるがままに彼は動いてくれた。
ほんの少し歩調が合わなかったのは何故? 彼の方が遅いのは何故?
私が急いているという理由もあるのだろう。そして彼はいつもゆっくり歩くのだろう。けど気になる。何でこれから冒険者ギルドに突き出される彼は、あんなに鼻の下を伸ばし、だらしのない表情をしているのだろう。…………不思議な人。
「見覚えのある顔だな」
まさかギルド本部長のアーダインさんが、ここへ来ていると思わなかった。
けどおかしい。アーダインさんは私より彼を見ている?
たとえランクS冒険者だろうと、ギルド本部長と面識のある冒険者はそう多くないはず。
「それで? 何でミケラルドが【聖女アリス】と一緒にいるんだ?」
ミケラルド? それが彼の名前。
どこかで聞いた事のある名前だけど、今はそんな事より重要な事がある。
「アーダインさん!」
バシンとテーブルを叩く。
……少し強く叩き過ぎたかもしれない。
「この人は本当にSSなのですか!?」
「さっき付でな」
嘘。新たなSSが誕生したって言うの?
「あー、何だ? もしかしてダンジョンの件か?」
なら、話は早い。
彼なら、ミケラルドさんなら、私をダンジョンに連れて行ける資格がある。
「そうです!」
「だとよ」
アーダインさんは確認するように、ニヤリと笑ってミケラルドさんを見た。
「…………まぁ、薄々気付いてましたけど、SS一人で連れ歩いていいんですか?」
「アリスは特別だ。ランクAだろうが、ダンジョンの侵入許可を持ったヤツが一緒なら、ランクSダンジョンに入る事が出来る。それでもランクAの資格は必要だがな」
「中々危うい橋ですねぇ」
「そんな事はないさ。……本来ならな」
私は、こう言うギルド本部長が嫌いではない。
アーダインさんは、歯に衣着せぬ言い方でハッキリ言ってくれるからだ。そして彼にはそれを言うだけの実力がある。
陰でグチグチ言われるより百倍マシだ。
「それはまた、過去の聖女と照らし合わせていると?」
……そう言えば、このミケラルドさんも意外とズケズケ言ってくる気がする。
「そういう事だ。聖女と一緒にダンジョンに侵入すれば、本来であれば冒険が格段に楽になる。当然それは聖女の固有能力【聖加護】が理由だ」
……それを開花させるためのダンジョンなんだから。
「【聖加護】のコントロールが上手くいけば、どの冒険者パーティからも引っ張りだこなんだがな」
「彼女、私を引っ張って連れてきましたよ」
この人、本当に何でも言うんだ。
……そっか、経緯はどうあれ、私……この人とずっと手を引っ張って……。
「モテモテだな」
「わ、私はただこの人が本当にSSなのか確かめたくて……」
まただ。この人、あの許可証を厭味ったらしく私に……見せない?
アーダインさんに見せてる?
「この許可証、公文書として本当に効果あるんですか?」
凄い、ギルド本部長にここまで言う人なんて初めて見た。
彼の実力は剣神イヅナに近いとされている。
強面という理由も勿論だけど、アーダインさんにこんなに食ってかかる人なんて……?
「勿論だ、ただ相手が悪かったな」
アーダインさんはそう言った後、ミケラルドさんの耳に顔を近づけた。
……あぁ、これも隠す気がないみたい。
彼が私に面と向かって言わない時は、必ず私の悪口を言っているのだから。
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