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第一部
その292 聖女と一緒
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ランクS冒険者パーティリーダーの男の言い分は尤もであった。
たとえ約束した事だとはいえ、生き残る確率を考えれば、ランクAの仲間よりランクSの仲間だ。
それは国を預かる俺だからこそ理解できた。
だが、しょんぼりとする黒髪美少女を見捨てる事が出来ないのも俺なのだ。
体育座りで俯く色白の少女は、確かに【聖女】と言われるだけの神聖なオーラを纏っているように見えた。
「あの」
珍しくも声を掛けたのは俺だった。
俺の声に反応して聖女が顔を上げる。
そして俺の顔を見て、また俯き、大きな溜め息を吐いたのだった。
「先程のお話、耳に入ってしまいまして。災難でしたね」
「……いえ」
む? これはもしかして…………警戒されている?
そういえばそうだった。俺は男で、相手は少女。
ダンジョン前とはいえ、声を掛けたのが俺だとしたら……これはナンパと間違われても文句言えないのではなかろうか?
俺は咳払いを一つかまし、じりじりと後方へ下がった。
「では、幸多い一日を」
うむ、これならば問題ないだろう。
可哀想な少女を見かねたおっさんが、ただ一言声を掛けるだけ。
現代であればちょっと事案かもしれないが、幸いここはTHEファンタジーだ。問題ないだろう。そもそも聖女の保護者って……確か皇后アイビスだろう?
大丈夫だ、皇后アイビスには貸しがある。いざとなったらそれを存分に使おう。そう思い、俺はダンジョンへと向かう。
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」
ランクSのダンジョン前である。五人組の冒険者パーティが先行して侵入した今、この場にいるのは俺と聖女のみ。
即ち、俺を引き留めたのは聖女という事になる。
はて? 一体どうしたのだろうか。
「そこは侵入禁止のダンジョンですよ!」
「許可ならありますけど?」
「たとえランクSでもパーティは四人以上じゃないと――」
「――SSですけど?」
ペラリとアーダイン直筆のサインが入った許可証を見せる。
「へ? えぇええええ!? 何で? 嘘!? どうして!? 貴方がSS!?」
俺の持つ許可証をぐわしと掴み、ぐりんぐりんと目を動かして文章を読む聖女。
彼女が聖女という事に、少々不安を覚えてきたミケラルド君である。
「まさか偽造!?」
その発想がまさかだよ。
「ちょっと付いてきてください!」
「えぇ……」
と、困った顔を浮かべたのはほんの一瞬。
俺は気付いてしまったのだ。
そう、俺の手を引っ張るのは美少女であり聖女なのである。
美少女がおっさんの手を引っ張るこの行為。もしかして俺は先払いの報酬を貰っているのかもしれない。いや待て、この美少女には聖女以外に頭に付く言葉がある。それは「噂の」であったり「知らない」であるのだ。つまり、この手つなぎイベントは一生に一回あるかないかの大イベント。見る人が見ればご褒美ともとれるこの行動。ならばどうして俺にこの手を振り解く事ができよう。
そんな事を考えている内に、俺はまた冒険者ギルドまで戻っていたのだ。
俺の手を引きずかずかと冒険者ギルドの奥に入って行く聖女。
まるで勝手知ったる我が家かなという様子である。
先程までいた応接室に入った俺は、またヤツに会った。
「見覚えのある顔だな」
また会ったな、アーダイン。
というか、まだここにいたのか。
てっきりギルド本部に戻ったのかと思っていたのだが。
「それで? 何でミケラルドが【聖女アリス】と一緒にいるんだ?」
「アーダインさん!」
ばしんとテーブルを叩く聖女。
「この人は本当にSSなのですか!?」
凄いな、ここまで聖女っぽくない聖女は俺の知る限りこの子だけだ。
まぁ、そもそも知っている聖女は物語の中だけの人物だがな。
「さっき付でな。あー、何だ? もしかしてダンジョンの件か?」
「そうです!」
「だとよ」
アーダインは俺にそう言ってニヤリと笑った。
「…………まぁ、薄々気付いてましたけど、SS一人で連れ歩いていいんですか?」
「アリスは特別だ。ランクAだろうが、ダンジョンの侵入許可を持ったヤツが一緒なら、ランクSダンジョンに入る事が出来る。それでもランクAの資格は必要だがな」
「中々危うい橋ですねぇ」
「そんな事はないさ。……本来ならな」
「それはまた、過去の聖女と照らし合わせていると?」
「そういう事だ。聖女と一緒にダンジョンに侵入すれば、本来であれば冒険が格段に楽になる。当然それは聖女の固有能力【聖加護】が理由だ」
アーダインはちらりと聖女アリスを見るが、彼女はつんとした表情のままだった。
「【聖加護】のコントロールが上手くいけば、どの冒険者パーティからも引っ張りだこなんだがな」
「彼女、私を引っ張って連れてきましたよ」
「モテモテだな」
アーダインが茶化すように言うと、アリスがようやく口を開いた。
「わ、私はただこの人が本当にSSなのか確かめたくて……」
もじもじするアリスは中々に可愛いのだが、解せない点がある。
「この許可証、公文書として本当に効果あるんですか?」
ダンジョンの侵入許可証をぺらりと見せ、アーダインに聞く。
「勿論だ、ただ相手が悪かったな」
先程まで面と向かって喋っていたアーダインが俺の耳に口を寄せる。
「相手が子供じゃ通じない事もある」
そう、アーダインが小声で指摘する。
なるほど、彼女に対し子供は禁句って事はわかったぞ。
たとえ約束した事だとはいえ、生き残る確率を考えれば、ランクAの仲間よりランクSの仲間だ。
それは国を預かる俺だからこそ理解できた。
だが、しょんぼりとする黒髪美少女を見捨てる事が出来ないのも俺なのだ。
体育座りで俯く色白の少女は、確かに【聖女】と言われるだけの神聖なオーラを纏っているように見えた。
「あの」
珍しくも声を掛けたのは俺だった。
俺の声に反応して聖女が顔を上げる。
そして俺の顔を見て、また俯き、大きな溜め息を吐いたのだった。
「先程のお話、耳に入ってしまいまして。災難でしたね」
「……いえ」
む? これはもしかして…………警戒されている?
そういえばそうだった。俺は男で、相手は少女。
ダンジョン前とはいえ、声を掛けたのが俺だとしたら……これはナンパと間違われても文句言えないのではなかろうか?
俺は咳払いを一つかまし、じりじりと後方へ下がった。
「では、幸多い一日を」
うむ、これならば問題ないだろう。
可哀想な少女を見かねたおっさんが、ただ一言声を掛けるだけ。
現代であればちょっと事案かもしれないが、幸いここはTHEファンタジーだ。問題ないだろう。そもそも聖女の保護者って……確か皇后アイビスだろう?
大丈夫だ、皇后アイビスには貸しがある。いざとなったらそれを存分に使おう。そう思い、俺はダンジョンへと向かう。
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」
ランクSのダンジョン前である。五人組の冒険者パーティが先行して侵入した今、この場にいるのは俺と聖女のみ。
即ち、俺を引き留めたのは聖女という事になる。
はて? 一体どうしたのだろうか。
「そこは侵入禁止のダンジョンですよ!」
「許可ならありますけど?」
「たとえランクSでもパーティは四人以上じゃないと――」
「――SSですけど?」
ペラリとアーダイン直筆のサインが入った許可証を見せる。
「へ? えぇええええ!? 何で? 嘘!? どうして!? 貴方がSS!?」
俺の持つ許可証をぐわしと掴み、ぐりんぐりんと目を動かして文章を読む聖女。
彼女が聖女という事に、少々不安を覚えてきたミケラルド君である。
「まさか偽造!?」
その発想がまさかだよ。
「ちょっと付いてきてください!」
「えぇ……」
と、困った顔を浮かべたのはほんの一瞬。
俺は気付いてしまったのだ。
そう、俺の手を引っ張るのは美少女であり聖女なのである。
美少女がおっさんの手を引っ張るこの行為。もしかして俺は先払いの報酬を貰っているのかもしれない。いや待て、この美少女には聖女以外に頭に付く言葉がある。それは「噂の」であったり「知らない」であるのだ。つまり、この手つなぎイベントは一生に一回あるかないかの大イベント。見る人が見ればご褒美ともとれるこの行動。ならばどうして俺にこの手を振り解く事ができよう。
そんな事を考えている内に、俺はまた冒険者ギルドまで戻っていたのだ。
俺の手を引きずかずかと冒険者ギルドの奥に入って行く聖女。
まるで勝手知ったる我が家かなという様子である。
先程までいた応接室に入った俺は、またヤツに会った。
「見覚えのある顔だな」
また会ったな、アーダイン。
というか、まだここにいたのか。
てっきりギルド本部に戻ったのかと思っていたのだが。
「それで? 何でミケラルドが【聖女アリス】と一緒にいるんだ?」
「アーダインさん!」
ばしんとテーブルを叩く聖女。
「この人は本当にSSなのですか!?」
凄いな、ここまで聖女っぽくない聖女は俺の知る限りこの子だけだ。
まぁ、そもそも知っている聖女は物語の中だけの人物だがな。
「さっき付でな。あー、何だ? もしかしてダンジョンの件か?」
「そうです!」
「だとよ」
アーダインは俺にそう言ってニヤリと笑った。
「…………まぁ、薄々気付いてましたけど、SS一人で連れ歩いていいんですか?」
「アリスは特別だ。ランクAだろうが、ダンジョンの侵入許可を持ったヤツが一緒なら、ランクSダンジョンに入る事が出来る。それでもランクAの資格は必要だがな」
「中々危うい橋ですねぇ」
「そんな事はないさ。……本来ならな」
「それはまた、過去の聖女と照らし合わせていると?」
「そういう事だ。聖女と一緒にダンジョンに侵入すれば、本来であれば冒険が格段に楽になる。当然それは聖女の固有能力【聖加護】が理由だ」
アーダインはちらりと聖女アリスを見るが、彼女はつんとした表情のままだった。
「【聖加護】のコントロールが上手くいけば、どの冒険者パーティからも引っ張りだこなんだがな」
「彼女、私を引っ張って連れてきましたよ」
「モテモテだな」
アーダインが茶化すように言うと、アリスがようやく口を開いた。
「わ、私はただこの人が本当にSSなのか確かめたくて……」
もじもじするアリスは中々に可愛いのだが、解せない点がある。
「この許可証、公文書として本当に効果あるんですか?」
ダンジョンの侵入許可証をぺらりと見せ、アーダインに聞く。
「勿論だ、ただ相手が悪かったな」
先程まで面と向かって喋っていたアーダインが俺の耳に口を寄せる。
「相手が子供じゃ通じない事もある」
そう、アーダインが小声で指摘する。
なるほど、彼女に対し子供は禁句って事はわかったぞ。
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