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第一部
その285 強き者
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「楽しそうに見えますか?」
「そうよ!」
「私の顔を狙っている時の王女も楽しそうでしたが?」
「っ! それは、貴方の弱点だと思ったから……!」
「弱点を攻めるのは楽しい事なのですか?」
「戦略的有利になれば、誰であろうと――」
「――では私の弱点を教えましょう」
「……聞いてやろうじゃない!」
「家族です」
「っ!?」
「どうです? 我が家をお教えするのでそこへ向かってはいかがです? 家族を人質にとり、戦略的有利を楽しんではいかがです?」
「そ、そんなのは勝負ではない!」
それには俺も同感だ。
が、それを実行しなければいけない時もある。
何故ならこの子は王族だから。時には後の歴史が英断と呼ぶべき行為もしなければいけない時が来るかもしれないのだ。
「ではお遊びがしたいので?」
「そんな事は言っていない! これは訓練だ!」
「でもそれ、真剣なんですよね? 訓練なのに命を狙うんですか?」
「せ、聖騎士学校では騎士同士の訓練はそういうものだと……!」
「どの段階で私の素性が騎士だとわかったのです? よもや外部の者にそれを押し付けたとでも?」
「ち、違っ!」
「では私が騎士だという情報はどこから?」
「黙れっ!」
あ~、嫌われるんだろうなー。
「クリス王女、貴方はとても無知です」
「黙れ!」
「そして途方もなく弱い」
「黙れっ!」
「騎士道精神大いに結構。ですがそれを他者に押し付けるのは違いますし、それを外部に持ち出すのも無理があります。モンスター相手に、悪人相手にそれは通じませんよ」
「黙れ、黙れ、黙れっ!!」
「それに、王族たる者、御父上が招いた客に対し、そういう態度をとるのもいかがなものでしょう」
クリス王女がビクりとした後、法王クルスを見る。
先程まで失笑していたクルスはその時もう一国の王たる厳格な顔へと変わっていた。まったく、器用なものだ。ある意味、あれも芝居なのだと思うとクリス王女が可哀想に思えてくる。
さて、そろそろ出番だぞ、と。
「クリスよ、お前は聖騎士学校で何を学んできたのだ?」
ずっけぇな。最後に一言だけでかっさらっていきやがった。
半泣き涙目のわがままボディーのわがまま王女は、ガクリと肩を落とした後、どこかへ消えてしまったのだった。
◇◆◇ ◆◇◆
その後、貴賓室に招かれた俺は、慣れ親しんだリプトゥアの茶を飲んでいた。
眼前では法王クルスが静かに目を伏せる。
「すまぬな。助かったぞ、ミケラルド殿」
「少々やり過ぎたかもしれません」
「いや、あのくらいでちょうどいいのだ」
「……原因は、聖騎士学校ですか?」
俺がそう聞くと、法王クルスは静かに頷いてそれを肯定した。
「聖騎士学校の全てが悪いとは言わない。だが、あそこは全寮制でな。たとえ王族だろうとこちらへ戻って来る事は叶わない。だが、学校内でクリスの地位だけは生きていた。皆がクリスを持て囃し、クリスをあのように歪めてしまった……」
「いきなり私に振るのは無理があったと思いますよ?」
「だが、ちゃんと応えてくれたではないか?」
「……読みやすかったですからね」
「読ませたのだ」
「言いますねぇ」
「ははははは、だが、まさか刃すら通さぬとは思わなかったぞ」
「おや、てっきりそこまで読んでいたかと」
「ふふふ、人が悪いなミケラルド殿」
人じゃないもので。
「そういえばアイビス殿は?」
「クリスの飴だ」
「鞭の後は飴だと?」
「あれの母はもうおらぬからな。二人は親子……とまではいかぬが、それなりの仲だ。そばにいてやる事は出来よう」
なるほど、一応そういうところも考えているんだな。
と言ったところで、法王クルスが深いため息を吐く。
「……嫌われただろうか?」
乙女かよ。
そういえばそうだった。
法王クルス自身も、訓練の時にクリスに手心を加えるとか言ってたな。
娘大好き爺か。いや、仕方ないんだけどな。
まぁ、特殊ではあるが叱る事は出来たのだ。全てが上手くいったとは言い切れないが、少なからずこれはクリス王女の心に何らかの足跡は作っただろう。
これが良い方向に転がればいいけどな。
「それで、こちらの利とは一体何なのでしょう?」
「ふむ、それなのだがな? 正直ミケラルド殿の利になるかはわからぬ」
「それは……私次第、という事です?」
「いや」
そうでもないとすれば一体どういう事なんだ?
「ミナジリ共和国の国民次第だ」
「へ? よ、読めませんね……」
「こうしてミケラルド殿が会いに来ているからなぁ……」
俺が会いに来ている事と、ミナジリ共和国の国民が何故繋がるのだろう?
「うーむ、何と言えばいいのやら。そもそも一国の王たる存在はミケラルド殿とは違い、そこまでフットワークが軽くない」
陰湿なイジメでも始まったのだろうか?
「がしかし、実際に出来てしまっている。既に行われている事なのだ。だから有効とは言い難いかもしれぬ。それだけは念頭に聞いてくれ」
「はぁ?」
カップをソーサーに置いた法王クルスが静かに言う。
「ミナジリ共和国が見たい。この目でな」
「………………へ?」
「私がミナジリ共和国に行くと言っている」
なるほど、前置きが長い訳だ。
法王国のトップがミナジリ共和国へ来る。
これはとんでもない大事である。
「そうよ!」
「私の顔を狙っている時の王女も楽しそうでしたが?」
「っ! それは、貴方の弱点だと思ったから……!」
「弱点を攻めるのは楽しい事なのですか?」
「戦略的有利になれば、誰であろうと――」
「――では私の弱点を教えましょう」
「……聞いてやろうじゃない!」
「家族です」
「っ!?」
「どうです? 我が家をお教えするのでそこへ向かってはいかがです? 家族を人質にとり、戦略的有利を楽しんではいかがです?」
「そ、そんなのは勝負ではない!」
それには俺も同感だ。
が、それを実行しなければいけない時もある。
何故ならこの子は王族だから。時には後の歴史が英断と呼ぶべき行為もしなければいけない時が来るかもしれないのだ。
「ではお遊びがしたいので?」
「そんな事は言っていない! これは訓練だ!」
「でもそれ、真剣なんですよね? 訓練なのに命を狙うんですか?」
「せ、聖騎士学校では騎士同士の訓練はそういうものだと……!」
「どの段階で私の素性が騎士だとわかったのです? よもや外部の者にそれを押し付けたとでも?」
「ち、違っ!」
「では私が騎士だという情報はどこから?」
「黙れっ!」
あ~、嫌われるんだろうなー。
「クリス王女、貴方はとても無知です」
「黙れ!」
「そして途方もなく弱い」
「黙れっ!」
「騎士道精神大いに結構。ですがそれを他者に押し付けるのは違いますし、それを外部に持ち出すのも無理があります。モンスター相手に、悪人相手にそれは通じませんよ」
「黙れ、黙れ、黙れっ!!」
「それに、王族たる者、御父上が招いた客に対し、そういう態度をとるのもいかがなものでしょう」
クリス王女がビクりとした後、法王クルスを見る。
先程まで失笑していたクルスはその時もう一国の王たる厳格な顔へと変わっていた。まったく、器用なものだ。ある意味、あれも芝居なのだと思うとクリス王女が可哀想に思えてくる。
さて、そろそろ出番だぞ、と。
「クリスよ、お前は聖騎士学校で何を学んできたのだ?」
ずっけぇな。最後に一言だけでかっさらっていきやがった。
半泣き涙目のわがままボディーのわがまま王女は、ガクリと肩を落とした後、どこかへ消えてしまったのだった。
◇◆◇ ◆◇◆
その後、貴賓室に招かれた俺は、慣れ親しんだリプトゥアの茶を飲んでいた。
眼前では法王クルスが静かに目を伏せる。
「すまぬな。助かったぞ、ミケラルド殿」
「少々やり過ぎたかもしれません」
「いや、あのくらいでちょうどいいのだ」
「……原因は、聖騎士学校ですか?」
俺がそう聞くと、法王クルスは静かに頷いてそれを肯定した。
「聖騎士学校の全てが悪いとは言わない。だが、あそこは全寮制でな。たとえ王族だろうとこちらへ戻って来る事は叶わない。だが、学校内でクリスの地位だけは生きていた。皆がクリスを持て囃し、クリスをあのように歪めてしまった……」
「いきなり私に振るのは無理があったと思いますよ?」
「だが、ちゃんと応えてくれたではないか?」
「……読みやすかったですからね」
「読ませたのだ」
「言いますねぇ」
「ははははは、だが、まさか刃すら通さぬとは思わなかったぞ」
「おや、てっきりそこまで読んでいたかと」
「ふふふ、人が悪いなミケラルド殿」
人じゃないもので。
「そういえばアイビス殿は?」
「クリスの飴だ」
「鞭の後は飴だと?」
「あれの母はもうおらぬからな。二人は親子……とまではいかぬが、それなりの仲だ。そばにいてやる事は出来よう」
なるほど、一応そういうところも考えているんだな。
と言ったところで、法王クルスが深いため息を吐く。
「……嫌われただろうか?」
乙女かよ。
そういえばそうだった。
法王クルス自身も、訓練の時にクリスに手心を加えるとか言ってたな。
娘大好き爺か。いや、仕方ないんだけどな。
まぁ、特殊ではあるが叱る事は出来たのだ。全てが上手くいったとは言い切れないが、少なからずこれはクリス王女の心に何らかの足跡は作っただろう。
これが良い方向に転がればいいけどな。
「それで、こちらの利とは一体何なのでしょう?」
「ふむ、それなのだがな? 正直ミケラルド殿の利になるかはわからぬ」
「それは……私次第、という事です?」
「いや」
そうでもないとすれば一体どういう事なんだ?
「ミナジリ共和国の国民次第だ」
「へ? よ、読めませんね……」
「こうしてミケラルド殿が会いに来ているからなぁ……」
俺が会いに来ている事と、ミナジリ共和国の国民が何故繋がるのだろう?
「うーむ、何と言えばいいのやら。そもそも一国の王たる存在はミケラルド殿とは違い、そこまでフットワークが軽くない」
陰湿なイジメでも始まったのだろうか?
「がしかし、実際に出来てしまっている。既に行われている事なのだ。だから有効とは言い難いかもしれぬ。それだけは念頭に聞いてくれ」
「はぁ?」
カップをソーサーに置いた法王クルスが静かに言う。
「ミナジリ共和国が見たい。この目でな」
「………………へ?」
「私がミナジリ共和国に行くと言っている」
なるほど、前置きが長い訳だ。
法王国のトップがミナジリ共和国へ来る。
これはとんでもない大事である。
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