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第一部
その268 ウェイド・ガンドフ
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「いやぁ肝を冷やしたぞ、ミケラルド」
ガンドフ城の中庭にある東屋。
そこで頭を掻きながら一息吐くのはウェイド・ガンドフ。
「はははは、『冒険者として来た』と何度も言ったんですけどね」
「私としても配慮が足りなかったようだ。許せ」
「行き違いは誰にでも起こり得ます。今回の場合、事例が特殊だったに過ぎませんよ」
「つまり、今も尚……冒険者ミケラルドだと?」
「国家間のやり取りならば、公式に行わなければいけないかと」
「なるほど、うむ。確かにその通りだ。では今回は私もそう頭に入れて語ろう」
「お気遣い痛み入ります」
俺は小さく頭を下げ、ウェイド王に言った。
そしてウェイド王は少し考えてから俺に聞いたのだ。
「ミケラルドは確かミナジリ共和国に拠点を置いていると聞くが、私はまだあの地に行った事がない。是非ミナジリ共和国という国がどんな国なのか知りたいところだ」
なるほど、上手い聞き方だ。
ここは俺も、冒険者として知っているべき事を喋らなくちゃいけない。
「そうですね、多くの種族がやって来る世界的に見ても珍しい国かと」
「我がガンドフは多種族の受け入れこそするものの、居住については許していない。無論、稀に高額で居住権を買う者もいるがな?」
まぁ、流石に俺が買った土地の事は知っているか。
「町で異種族間の弊害は起こっておらぬのか?」
「警備に当たっている者に優秀な者が多く、現状目立った問題は起きていないかと思います。当然、軽犯罪という観点では何件か取り締まったと聞きますね」
「ほぉ? それは喋ってしまってよいのかな?」
「ミケラルド商店が発行している新聞に記載されてますよ。一枚あるのでお譲りしましょう」
と言いながら【闇空間】からクロード新聞を取り出してウェイド王に渡す。
「ほう、これが噂に聞く新聞か。……なるほど、娯楽と事件といった情報をわかりやすくまとめ、金にかえているのだな。確かにこういった手法ならば全国民に満遍なく最低限の情報を伝えられる。楽しみも生まれ、用心も生まれ、犯罪者の名前を皆が知る……が、解せない点もある」
「というと?」
「代筆屋だけで賄える分量とも思えぬ」
さて、新しい金の種である。
ここは【交渉】を発動しておこう。
「ミケラルド商店のオーナーは企業秘密だと」
「……そういえば我が国にもミケラルド商店が出店するかもしれないという噂もあるのだが、いつ頃なのだろうか? 冒険者ミケラルドよ」
まぁ、ランクS冒険者の店ってお触れは出してるし、ここはオーナーが出張っても問題ないだろう。
「そうですね、この配送依頼が終わり次第……といったところでしょうか」
「開店次第、連絡をとらせてもらおう」
「お待ちしております♪」
活版印刷の技術は各国同時期に売っていきたい情報商材だ。
特定の国に売り、その国が他国へ売ろうとする事を考慮するならば法王国にもこの話を匂わせた方がいいだろうな。
リプトゥア国は気が進まないが……仲間外れにしたら怒りそうだし、帰って考えるか。
「そういえばミケラルド」
「何でしょう、陛下?」
「我がガンドフのダンジョンは潜ったのか?」
そう、今回の目的は正にそれ。
「本日はガンドフで身体を休めるので、夜に一度潜ってみようかと思っています」
「ガンドフのダンジョンはランクA。SSSに近い実力を持つといわれる其方ならば心配いらぬとは思うが、入念な準備をしていくといい」
「ありがとうございます」
その後、これまで潜ったダンジョンの話だとか、ミケラルド商店の目玉商品の話だとかをしていると、あっという間に時間は過ぎていった。
受領書を受け取った俺は、新店舗用の空き家へ向かい、簡単な家財道具を配置した後、冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルドの扉を開けた瞬間、ぐわしと首に手を回された俺。
回避しなかったのは、相手が知り合いだからだ。
「お、お久しぶりです。オベイルさん……」
そうなのだ、ここはドワーフの国ガンドフ。
SSの実力者、剣鬼オベイルのホームタウンとも呼べる場所。冒険者ギルドに行けば、彼に会う可能性は大いにあった。
ただ、俺がすっかりすっぽり忘れてしまっていただけなのだ。
「おう、元気そうじゃねぇか。ミケラルド」
「オベイルさんに会ってちょっと元気がなくなりました」
「はっはっはっは! 俺様にそんな事言うのはお前くらいだぜ!」
「皆さん、今まで言えなかった事代弁しますよ~?」
そう言ってギルド内に耳を向ける俺。
当然、誰も何も言って来ない。何故なら相手は剣鬼。
彼が怒ったらギルドなんて一瞬でみじん切りにされてしまう。
まぁ、オベイルはそういう事をする人間じゃないけどな。
「はっはっはっは! いねぇってよ!」
バシバシと俺の背中を叩くオベイル。
「それで、今回はここに何の用だ?」
その疑問の声に、俺はハッとした。
これは言うべきではない。言ってしまえば、彼は絶対に付いて来る。
オベイルはそういう事をする人間なのだ。
「…………あ、用事思い出しました。また日を改めます~」
言いながら踵を返す俺。
そんな俺の首根っこを掴むオベイル。
「ダンジョンだな?」
強いやつらは何故こうも勘が鋭いのだろうか。
まぁ、鋭くないと生きていけない世界だけどな。
しょうがない、様式美として俺もこう言おうじゃないか。
「ぎくり」
「俺様が案内してやる」
ですよねー。
ガンドフ城の中庭にある東屋。
そこで頭を掻きながら一息吐くのはウェイド・ガンドフ。
「はははは、『冒険者として来た』と何度も言ったんですけどね」
「私としても配慮が足りなかったようだ。許せ」
「行き違いは誰にでも起こり得ます。今回の場合、事例が特殊だったに過ぎませんよ」
「つまり、今も尚……冒険者ミケラルドだと?」
「国家間のやり取りならば、公式に行わなければいけないかと」
「なるほど、うむ。確かにその通りだ。では今回は私もそう頭に入れて語ろう」
「お気遣い痛み入ります」
俺は小さく頭を下げ、ウェイド王に言った。
そしてウェイド王は少し考えてから俺に聞いたのだ。
「ミケラルドは確かミナジリ共和国に拠点を置いていると聞くが、私はまだあの地に行った事がない。是非ミナジリ共和国という国がどんな国なのか知りたいところだ」
なるほど、上手い聞き方だ。
ここは俺も、冒険者として知っているべき事を喋らなくちゃいけない。
「そうですね、多くの種族がやって来る世界的に見ても珍しい国かと」
「我がガンドフは多種族の受け入れこそするものの、居住については許していない。無論、稀に高額で居住権を買う者もいるがな?」
まぁ、流石に俺が買った土地の事は知っているか。
「町で異種族間の弊害は起こっておらぬのか?」
「警備に当たっている者に優秀な者が多く、現状目立った問題は起きていないかと思います。当然、軽犯罪という観点では何件か取り締まったと聞きますね」
「ほぉ? それは喋ってしまってよいのかな?」
「ミケラルド商店が発行している新聞に記載されてますよ。一枚あるのでお譲りしましょう」
と言いながら【闇空間】からクロード新聞を取り出してウェイド王に渡す。
「ほう、これが噂に聞く新聞か。……なるほど、娯楽と事件といった情報をわかりやすくまとめ、金にかえているのだな。確かにこういった手法ならば全国民に満遍なく最低限の情報を伝えられる。楽しみも生まれ、用心も生まれ、犯罪者の名前を皆が知る……が、解せない点もある」
「というと?」
「代筆屋だけで賄える分量とも思えぬ」
さて、新しい金の種である。
ここは【交渉】を発動しておこう。
「ミケラルド商店のオーナーは企業秘密だと」
「……そういえば我が国にもミケラルド商店が出店するかもしれないという噂もあるのだが、いつ頃なのだろうか? 冒険者ミケラルドよ」
まぁ、ランクS冒険者の店ってお触れは出してるし、ここはオーナーが出張っても問題ないだろう。
「そうですね、この配送依頼が終わり次第……といったところでしょうか」
「開店次第、連絡をとらせてもらおう」
「お待ちしております♪」
活版印刷の技術は各国同時期に売っていきたい情報商材だ。
特定の国に売り、その国が他国へ売ろうとする事を考慮するならば法王国にもこの話を匂わせた方がいいだろうな。
リプトゥア国は気が進まないが……仲間外れにしたら怒りそうだし、帰って考えるか。
「そういえばミケラルド」
「何でしょう、陛下?」
「我がガンドフのダンジョンは潜ったのか?」
そう、今回の目的は正にそれ。
「本日はガンドフで身体を休めるので、夜に一度潜ってみようかと思っています」
「ガンドフのダンジョンはランクA。SSSに近い実力を持つといわれる其方ならば心配いらぬとは思うが、入念な準備をしていくといい」
「ありがとうございます」
その後、これまで潜ったダンジョンの話だとか、ミケラルド商店の目玉商品の話だとかをしていると、あっという間に時間は過ぎていった。
受領書を受け取った俺は、新店舗用の空き家へ向かい、簡単な家財道具を配置した後、冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルドの扉を開けた瞬間、ぐわしと首に手を回された俺。
回避しなかったのは、相手が知り合いだからだ。
「お、お久しぶりです。オベイルさん……」
そうなのだ、ここはドワーフの国ガンドフ。
SSの実力者、剣鬼オベイルのホームタウンとも呼べる場所。冒険者ギルドに行けば、彼に会う可能性は大いにあった。
ただ、俺がすっかりすっぽり忘れてしまっていただけなのだ。
「おう、元気そうじゃねぇか。ミケラルド」
「オベイルさんに会ってちょっと元気がなくなりました」
「はっはっはっは! 俺様にそんな事言うのはお前くらいだぜ!」
「皆さん、今まで言えなかった事代弁しますよ~?」
そう言ってギルド内に耳を向ける俺。
当然、誰も何も言って来ない。何故なら相手は剣鬼。
彼が怒ったらギルドなんて一瞬でみじん切りにされてしまう。
まぁ、オベイルはそういう事をする人間じゃないけどな。
「はっはっはっは! いねぇってよ!」
バシバシと俺の背中を叩くオベイル。
「それで、今回はここに何の用だ?」
その疑問の声に、俺はハッとした。
これは言うべきではない。言ってしまえば、彼は絶対に付いて来る。
オベイルはそういう事をする人間なのだ。
「…………あ、用事思い出しました。また日を改めます~」
言いながら踵を返す俺。
そんな俺の首根っこを掴むオベイル。
「ダンジョンだな?」
強いやつらは何故こうも勘が鋭いのだろうか。
まぁ、鋭くないと生きていけない世界だけどな。
しょうがない、様式美として俺もこう言おうじゃないか。
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