261 / 566
第一部
その260 新人教育
しおりを挟む
「このように、総合的に見れば被害者の数が一番多いのはゴブリンの仕業によるものだという事です。したがって冒険者ギルドでは、定期的にゴブリン討伐の依頼があるのです」
うんうん。サッチのヤツ、教官姿が中々サマになってるじゃないか。
新入生も百人近くいるし、ナタリーのハーフエルフ公開ショーも穏便に済んだし、言う事ないのではないだろうか?
そう思っていた矢先、一人の冒険者が立ち上がった。
「そういうのいいからさ、出来れば手っ取り早く強くなれる方法を教えてくんないかな?」
……まぁ、いるよな。こういうやつ。
希少種ではあるが、ランクS程珍しくもない。
英雄志望の若い芽。サッチはどのようにして対処するのか。
「ふむ、では丁度いい被検体がいるので、手伝ってもらいましょう」
今、被検体って言わなかったか? 俺の方を見て。
「まだ知らない人もいるかもしれませんが、彼はミケラルド様。この国の元首にして冒険者ランクSの傑人と言えるでしょう」
「「おぉ~~」」
ナタリーとマックスのニタニタとした視線が何かムカツクのだが、それは置いとこう。
「ではあなた、名前は?」
「カインだ!」
ニカリと笑ったカイン。
ナタリーとそう変わらない年頃の血気盛んな男子……といったところか。
するとサッチは、懐から一本のナイフを取り出し、刃先を持ってカインに渡した。
きょとんとした様子のカインに対し、サッチが言う。
「それで思い切りミケラルド様を刺してください」
一瞬ざわつく教室内。そして一瞬ざわつく俺の心室内。
「大丈夫、彼はよけませんから」
何が大丈夫なのか全くわかりませんけども?
ほほ笑みと共に爆弾を投げて来たサッチだったが、彼の笑みの裏に色々な意図が読み取れたので、俺はそれに付き合う事にした。
「はぁ……仕方ないな。カインだったね、真っ直ぐ狙って来い」
「え、ちょ……マジで? でも元首なんだろ? やって捕まったりしないのかよ?」
「いいからいいから。これも授業だよ。手っ取り早く強くなりたいんだろ? サッチ教官はこれが一番の近道だって言ってるんだよ」
「ふ~ん、ま、俺っちは別にそんな事で物怖じしねぇけど……なっ!」
直後、カインが真っ直ぐ俺に向かう。
懐に抱えたナイフが俺の腹部へ。直後響く悲鳴。
それは、まだ戦闘で怪我すらした事がないであろう新人たちの悲鳴。
「へ、へへへへ……へ?」
カインから漏れた声は当然素っ頓狂なものだった。
何故ならナイフは、俺の腹部に一ミリメートルすら刺さらなかったのだから。
「はい、刺さりませんでしたねっ!」
パチンと両手を合わせ嬉しそうに言うサッチ。
「カイン君の速度、力を考えるとそれなりに鍛えているようですね。年齢の割に成人男性以上の力と瞬発力と言えるでしょう。そんな彼が全力で攻撃し、ミケラルド様には傷一つ付けられなかった。ここまではよろしいですか?」
頷くのはクレアとかナタリーとかマックスくらいだぞ、これ。
メアリィなんて半周しそうなくらい首を傾げていらっしゃる。
「では次はナタリーさん」
「え、え? 私っ? 何でっ?」
「カイン君、ナタリーさんにナイフを」
「え……? あ、あぁ……」
何が何だかわからない様子のカインだが……何となく読めてきたな。
サッチのヤツ……中々性格が悪い。
がしかし、まぁ、いいか。必要な事だろうし。
「ナタリーさんは魔法使いタイプの戦闘職を目指しているとの事で、そこまで力は強くありません。とは言ってもゴブリン位にはあるでしょう」
はい、出てきましたゴブリン。
「ではナタリーさん、先程カイン君がミケラルド様にしたのと同じ事をカイン君に」
「「へっ!?」」
揃ってしまうのはナタリーの驚いた声と……そしてカインの間の抜けた声。
次の瞬間届くのは、サッチの声。
「大丈夫、彼はよけませんから」
それは当然、俺の時と同じ声色だった。
だが、彼には、彼だけには違って聞こえただろう。
カインは凍ったように固まり、震える瞳でナタリーが持つナイフを見つめる。
「え?」
「えっと……じゃあ……いくよ?」
そう、ナタリーとて多くの修羅場を潜っている。
こんな事で物怖じする事はないのだ。
何たって魔界で腕を失くし、回復し、ワイバーンの巣を潜り抜け、ミナジリ加入前のリィたんと対峙した事すらあるのだから。
「っ! えぇ~~いっ!」
それは、どこか演技がかったような掛け声だった。
「ちょ、待っ! 待ってっ!」
鋭い切っ先を前に慌てるカイン。
その切っ先がカインの腹部に届く一瞬。
当然、止めるのはサッチ教官。
瞬時にナタリーの身体を止め、腰を抜かすカインを見下ろす。
そして言うのだ、淡々と。
「どうやらアナタにはゴブリン程度の腕力でも刺さりそうですね」
そして腰を落とし、声を落とし、最前線に立つ冒険者の顔をしたサッチが告げる。
「いいか坊主? 手っ取り早く強くなる方法なんてねぇんだよ。てめぇが持った手札の中で遣り繰りすんのが人生であり冒険者だ。ゴブリンの腕力如きで死ぬ確率があるなら、それを減らす努力をしろ。ランクS以上ってのはな、化け物しかいねぇんだよ。いいか? まずは自分が化け物じゃねぇって自覚から始めるこった。わかったか?」
つまり、今俺は化け物呼ばわりされた訳だ。
まぁ、少なからず自覚はあるよ。うん。
サッチの威嚇染みた説教に対し、小刻みに震えるように頷くカイン。
腰を上げるサッチはいつの間にか教官の顔に戻っていた。
「はい、それでは十分の小休憩の後、ゴブリンの生態について学んでいきたいと思います」
サッチの給料少し上げてやるか。
そう思ったミケラルド君だった。
うんうん。サッチのヤツ、教官姿が中々サマになってるじゃないか。
新入生も百人近くいるし、ナタリーのハーフエルフ公開ショーも穏便に済んだし、言う事ないのではないだろうか?
そう思っていた矢先、一人の冒険者が立ち上がった。
「そういうのいいからさ、出来れば手っ取り早く強くなれる方法を教えてくんないかな?」
……まぁ、いるよな。こういうやつ。
希少種ではあるが、ランクS程珍しくもない。
英雄志望の若い芽。サッチはどのようにして対処するのか。
「ふむ、では丁度いい被検体がいるので、手伝ってもらいましょう」
今、被検体って言わなかったか? 俺の方を見て。
「まだ知らない人もいるかもしれませんが、彼はミケラルド様。この国の元首にして冒険者ランクSの傑人と言えるでしょう」
「「おぉ~~」」
ナタリーとマックスのニタニタとした視線が何かムカツクのだが、それは置いとこう。
「ではあなた、名前は?」
「カインだ!」
ニカリと笑ったカイン。
ナタリーとそう変わらない年頃の血気盛んな男子……といったところか。
するとサッチは、懐から一本のナイフを取り出し、刃先を持ってカインに渡した。
きょとんとした様子のカインに対し、サッチが言う。
「それで思い切りミケラルド様を刺してください」
一瞬ざわつく教室内。そして一瞬ざわつく俺の心室内。
「大丈夫、彼はよけませんから」
何が大丈夫なのか全くわかりませんけども?
ほほ笑みと共に爆弾を投げて来たサッチだったが、彼の笑みの裏に色々な意図が読み取れたので、俺はそれに付き合う事にした。
「はぁ……仕方ないな。カインだったね、真っ直ぐ狙って来い」
「え、ちょ……マジで? でも元首なんだろ? やって捕まったりしないのかよ?」
「いいからいいから。これも授業だよ。手っ取り早く強くなりたいんだろ? サッチ教官はこれが一番の近道だって言ってるんだよ」
「ふ~ん、ま、俺っちは別にそんな事で物怖じしねぇけど……なっ!」
直後、カインが真っ直ぐ俺に向かう。
懐に抱えたナイフが俺の腹部へ。直後響く悲鳴。
それは、まだ戦闘で怪我すらした事がないであろう新人たちの悲鳴。
「へ、へへへへ……へ?」
カインから漏れた声は当然素っ頓狂なものだった。
何故ならナイフは、俺の腹部に一ミリメートルすら刺さらなかったのだから。
「はい、刺さりませんでしたねっ!」
パチンと両手を合わせ嬉しそうに言うサッチ。
「カイン君の速度、力を考えるとそれなりに鍛えているようですね。年齢の割に成人男性以上の力と瞬発力と言えるでしょう。そんな彼が全力で攻撃し、ミケラルド様には傷一つ付けられなかった。ここまではよろしいですか?」
頷くのはクレアとかナタリーとかマックスくらいだぞ、これ。
メアリィなんて半周しそうなくらい首を傾げていらっしゃる。
「では次はナタリーさん」
「え、え? 私っ? 何でっ?」
「カイン君、ナタリーさんにナイフを」
「え……? あ、あぁ……」
何が何だかわからない様子のカインだが……何となく読めてきたな。
サッチのヤツ……中々性格が悪い。
がしかし、まぁ、いいか。必要な事だろうし。
「ナタリーさんは魔法使いタイプの戦闘職を目指しているとの事で、そこまで力は強くありません。とは言ってもゴブリン位にはあるでしょう」
はい、出てきましたゴブリン。
「ではナタリーさん、先程カイン君がミケラルド様にしたのと同じ事をカイン君に」
「「へっ!?」」
揃ってしまうのはナタリーの驚いた声と……そしてカインの間の抜けた声。
次の瞬間届くのは、サッチの声。
「大丈夫、彼はよけませんから」
それは当然、俺の時と同じ声色だった。
だが、彼には、彼だけには違って聞こえただろう。
カインは凍ったように固まり、震える瞳でナタリーが持つナイフを見つめる。
「え?」
「えっと……じゃあ……いくよ?」
そう、ナタリーとて多くの修羅場を潜っている。
こんな事で物怖じする事はないのだ。
何たって魔界で腕を失くし、回復し、ワイバーンの巣を潜り抜け、ミナジリ加入前のリィたんと対峙した事すらあるのだから。
「っ! えぇ~~いっ!」
それは、どこか演技がかったような掛け声だった。
「ちょ、待っ! 待ってっ!」
鋭い切っ先を前に慌てるカイン。
その切っ先がカインの腹部に届く一瞬。
当然、止めるのはサッチ教官。
瞬時にナタリーの身体を止め、腰を抜かすカインを見下ろす。
そして言うのだ、淡々と。
「どうやらアナタにはゴブリン程度の腕力でも刺さりそうですね」
そして腰を落とし、声を落とし、最前線に立つ冒険者の顔をしたサッチが告げる。
「いいか坊主? 手っ取り早く強くなる方法なんてねぇんだよ。てめぇが持った手札の中で遣り繰りすんのが人生であり冒険者だ。ゴブリンの腕力如きで死ぬ確率があるなら、それを減らす努力をしろ。ランクS以上ってのはな、化け物しかいねぇんだよ。いいか? まずは自分が化け物じゃねぇって自覚から始めるこった。わかったか?」
つまり、今俺は化け物呼ばわりされた訳だ。
まぁ、少なからず自覚はあるよ。うん。
サッチの威嚇染みた説教に対し、小刻みに震えるように頷くカイン。
腰を上げるサッチはいつの間にか教官の顔に戻っていた。
「はい、それでは十分の小休憩の後、ゴブリンの生態について学んでいきたいと思います」
サッチの給料少し上げてやるか。
そう思ったミケラルド君だった。
0
お気に入りに追加
447
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
辺境の農村から始まる俺流魔工革命~錬金チートで荒れ地を理想郷に変えてみた~
昼から山猫
ファンタジー
ブラック企業に勤め過労死した俺、篠原タクミは異世界で農夫の息子として転生していた。そこは魔力至上主義の帝国。魔力が弱い者は下層民扱いされ、俺の暮らす辺境の農村は痩せた土地で飢えに苦しむ日々。
だがある日、前世の化学知識と異世界の錬金術を組み合わせたら、ありふれた鉱石から土壌改良剤を作れることに気づく。さらに試行錯誤で魔力ゼロでも動く「魔工器具」を独自開発。荒地は次第に緑豊かな農地へ姿を変え、俺の評判は少しずつ村中に広まっていく。
そんな折、国境付近で魔物の群れが出現し、貴族達が非情な命令を下す。弱者を切り捨てる帝国のやり方に疑問を抱いた俺は、村人達と共に、錬金術で生み出した魔工兵器を手に立ち上がることを決意する。
これは、弱き者が新たな価値を創り出し、世界に挑む物語。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~
楠富 つかさ
ファンタジー
地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。
そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。
できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!!
第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる