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第一部
その242 冒険者の食卓
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「おいおいおい、何だよこのメンバーは……?」
「あ、サッチさん。その席、空いてますよ」
武闘大会で引き抜いたランクA冒険者のサッチが屋敷の食堂へやって来た。
周囲を見渡す事数十秒……彼はこの異様な現場に瞠目している様子だ。
「剣聖レミリア、魔帝グラムス、それに剣神イヅナとはまたとんでもないな」
「サッチ、この私を忘れているのではないだろうな?」
「リィたんは元からリィたんじゃねぇか」
それは一体どういう概念なのだろう?
「ふむ、それもそうか」
リィたんも納得しちゃったぞ?
ジェイルへの説明も終わり、イヅナとの一件はひとまず落ち着きを見せた。
今も尚、睨み合っているが落ち着きを見せたのだ。多分。
「はーい、たーんと召し上がれっ!」
ナタリーとコリンが運んできた食事に向かい手を合わせる。
「いただきます」
「「いただきます」」
俺の言葉に続き、ジェイルとリィたんが続く。
この行為に対し、グラムスが目を見張る。
「何とも面妖な文化じゃのう」
すると、今度はレミリアが言った。
「郷に入っては郷に従うまでの事です。……いただきます」
「儂ゃやらんぞぃ」
「ははは、別に強制するものじゃありませんから。好きにされて結構ですよ」
そもそも、俺がずっとやっていたせいもあり、ジェイルとリィたんが真似するようになっただけなのだから。
「う~ん、相変わらず美味いのう!」
「私はこの蜜菓子が好きです」
「これは酒によく合うんじゃ!」
「いえ、これは紅茶に合います。たとえ魔帝殿でもここは譲れません」
魔帝だろうが剣聖だろうが、美味い物の前ではただの人である。
「ボン、これは?」
「お好み焼きです。ソースの再現が難しいので、まだ完成とは言えないんですけど、ナタリーが出したって事は、更に美味しくなったんだと思いますよ」
イヅナがお好み焼きをナイフとフォークで切る。
こちらとしては、この絵面のが面妖と言える。
時折聞こえるキャベツの咀嚼音が何とも心地良い。
「……旨い」
「だってさ」
俺がそう言うと、ナタリーはトレイで顔を隠しながら恥ずかしそうに「あ、ありがとうございます」と言ったのだった。
やはり、素のナタリーも可愛いが、こういう照れ隠しするナタリーもいいものだな。
「そうだ、ミケラルド」
食事が落ち着いた頃、サッチが俺に言った。
「何でしょう?」
「頼まれてたアレ、完成したぜ」
「おぉ、それは助かります」
「ネムに渡しておいたから、後で精査してくれや」
「わかりました」
そんな会話を拾ったのか、イヅナが俺に聞く。
「ボン、アレとは?」
「【新人冒険者アドバイザー業務】の教科書です」
「……つまるところの新人冒険者への指南書?」
「そういう事です。武器別役割別のモンスターの倒し方、旅の心得、ダンジョンでの立ち回り、色々書いてありますよ」
この説明に反応し、グラムスが首を傾げる。
「業務って言ったのう、坊主? それが本当に金になるのかのう?」
「直接的にはお金になりませんよ。ただ選択肢に迷っている冒険者たちを、このミナジリ領に呼び込む事を目的としています」
「選択肢とな?」
「命のやり取りが行われる世界です。冒険者になりたくても踏ん切りがつかない方もいるでしょう。そういった方も対象とした育成機関。まぁ簡単に言うと自信をつけてもらう場所ですね」
「はん! そんな気弱なやつ、どうやったって冒険者になんかなれんわい」
「得手不得手は当然あるでしょう。だから、卒業時に別の仕事の斡旋も考えています。言ってしまえば、夢への決別の場でもあると思います」
「何じゃ、アコギな商売かと思ったらいやに現実的じゃのう」
「彼らの戦力に期待しない訳じゃないです」
「どういう事じゃ?」
「たとえばグラムスさんやイヅナさんがそうですね……ゴブリンと対峙した時、数を気にせず倒す事が出来るでしょう」
グラムスとイヅナが見合ってから頷く。
「ですが彼ら一人一人がゴブリンと対峙した時、倒せるのはおそらく数匹。新人冒険者なら当たり前の事です。しかしサッチさんが用意した教科書には、子供の腕力でもゴブリンを倒す術が書かれています。これが世界に広まった時、それこそ彼らはその人口分のゴブリンを倒す事が出来る……と、まぁ夢物語なんですけどね」
「なるほど、万人がモンスターを倒せる術を知れば、それだけ各国の冒険者ギルドは助かるという事か」
イヅナが顎を揉みながら言った。
「いずれは、というだけであって、そう簡単に出来るとは思っていませんが」
「いんや、そうとも限らねぇぜ」
「え? どういう事です、サッチさん?」
「ニコルだよ」
「へ?」
「あの美人、かなりのヤリ手だぜ。まるで絡め取るかのように冒険者を狩ってるぜ。男女問わずだ」
いつニコルはモンスターになったのだろう?
まぁ、ニコル相手なら男だろうが女だろうが籠絡されてしまうかもしれない。
「既に何人かの新人冒険者が受講を希望してる。だから今日はその話もしたくてよ」
「わかりました。早急に場所の用意とカリキュラムを組みましょう」
「あ、その件なんだけど――」
今度はナタリーが手を挙げた。
「――シェルフの人たちも受講を希望してるって。実は――」
「――いや、言わなくてもわかる」
「え?」
久しぶりにしゃしゃり出てきたな……バルトめ。
「あ、サッチさん。その席、空いてますよ」
武闘大会で引き抜いたランクA冒険者のサッチが屋敷の食堂へやって来た。
周囲を見渡す事数十秒……彼はこの異様な現場に瞠目している様子だ。
「剣聖レミリア、魔帝グラムス、それに剣神イヅナとはまたとんでもないな」
「サッチ、この私を忘れているのではないだろうな?」
「リィたんは元からリィたんじゃねぇか」
それは一体どういう概念なのだろう?
「ふむ、それもそうか」
リィたんも納得しちゃったぞ?
ジェイルへの説明も終わり、イヅナとの一件はひとまず落ち着きを見せた。
今も尚、睨み合っているが落ち着きを見せたのだ。多分。
「はーい、たーんと召し上がれっ!」
ナタリーとコリンが運んできた食事に向かい手を合わせる。
「いただきます」
「「いただきます」」
俺の言葉に続き、ジェイルとリィたんが続く。
この行為に対し、グラムスが目を見張る。
「何とも面妖な文化じゃのう」
すると、今度はレミリアが言った。
「郷に入っては郷に従うまでの事です。……いただきます」
「儂ゃやらんぞぃ」
「ははは、別に強制するものじゃありませんから。好きにされて結構ですよ」
そもそも、俺がずっとやっていたせいもあり、ジェイルとリィたんが真似するようになっただけなのだから。
「う~ん、相変わらず美味いのう!」
「私はこの蜜菓子が好きです」
「これは酒によく合うんじゃ!」
「いえ、これは紅茶に合います。たとえ魔帝殿でもここは譲れません」
魔帝だろうが剣聖だろうが、美味い物の前ではただの人である。
「ボン、これは?」
「お好み焼きです。ソースの再現が難しいので、まだ完成とは言えないんですけど、ナタリーが出したって事は、更に美味しくなったんだと思いますよ」
イヅナがお好み焼きをナイフとフォークで切る。
こちらとしては、この絵面のが面妖と言える。
時折聞こえるキャベツの咀嚼音が何とも心地良い。
「……旨い」
「だってさ」
俺がそう言うと、ナタリーはトレイで顔を隠しながら恥ずかしそうに「あ、ありがとうございます」と言ったのだった。
やはり、素のナタリーも可愛いが、こういう照れ隠しするナタリーもいいものだな。
「そうだ、ミケラルド」
食事が落ち着いた頃、サッチが俺に言った。
「何でしょう?」
「頼まれてたアレ、完成したぜ」
「おぉ、それは助かります」
「ネムに渡しておいたから、後で精査してくれや」
「わかりました」
そんな会話を拾ったのか、イヅナが俺に聞く。
「ボン、アレとは?」
「【新人冒険者アドバイザー業務】の教科書です」
「……つまるところの新人冒険者への指南書?」
「そういう事です。武器別役割別のモンスターの倒し方、旅の心得、ダンジョンでの立ち回り、色々書いてありますよ」
この説明に反応し、グラムスが首を傾げる。
「業務って言ったのう、坊主? それが本当に金になるのかのう?」
「直接的にはお金になりませんよ。ただ選択肢に迷っている冒険者たちを、このミナジリ領に呼び込む事を目的としています」
「選択肢とな?」
「命のやり取りが行われる世界です。冒険者になりたくても踏ん切りがつかない方もいるでしょう。そういった方も対象とした育成機関。まぁ簡単に言うと自信をつけてもらう場所ですね」
「はん! そんな気弱なやつ、どうやったって冒険者になんかなれんわい」
「得手不得手は当然あるでしょう。だから、卒業時に別の仕事の斡旋も考えています。言ってしまえば、夢への決別の場でもあると思います」
「何じゃ、アコギな商売かと思ったらいやに現実的じゃのう」
「彼らの戦力に期待しない訳じゃないです」
「どういう事じゃ?」
「たとえばグラムスさんやイヅナさんがそうですね……ゴブリンと対峙した時、数を気にせず倒す事が出来るでしょう」
グラムスとイヅナが見合ってから頷く。
「ですが彼ら一人一人がゴブリンと対峙した時、倒せるのはおそらく数匹。新人冒険者なら当たり前の事です。しかしサッチさんが用意した教科書には、子供の腕力でもゴブリンを倒す術が書かれています。これが世界に広まった時、それこそ彼らはその人口分のゴブリンを倒す事が出来る……と、まぁ夢物語なんですけどね」
「なるほど、万人がモンスターを倒せる術を知れば、それだけ各国の冒険者ギルドは助かるという事か」
イヅナが顎を揉みながら言った。
「いずれは、というだけであって、そう簡単に出来るとは思っていませんが」
「いんや、そうとも限らねぇぜ」
「え? どういう事です、サッチさん?」
「ニコルだよ」
「へ?」
「あの美人、かなりのヤリ手だぜ。まるで絡め取るかのように冒険者を狩ってるぜ。男女問わずだ」
いつニコルはモンスターになったのだろう?
まぁ、ニコル相手なら男だろうが女だろうが籠絡されてしまうかもしれない。
「既に何人かの新人冒険者が受講を希望してる。だから今日はその話もしたくてよ」
「わかりました。早急に場所の用意とカリキュラムを組みましょう」
「あ、その件なんだけど――」
今度はナタリーが手を挙げた。
「――シェルフの人たちも受講を希望してるって。実は――」
「――いや、言わなくてもわかる」
「え?」
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