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第一部

その236 完成! 勇者の剣(仮)!

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 ジェイルとイヅナの睨み合いはどこへやら。
 彼女の声は二人の行動をピタリと止めた。

「中へ入られよ」

 皇后アイビスの背中を追い、俺たちはガイアスの作業場へ入って行く。
 短い道中ではあるが、その間のピリピリとした空気は俺にどうする事も出来なかった。
 ジェイルとイヅナの間にリィたんでもかませ、、、ようとも思ったが、その三強ハンバーガーはあまり見たくなかった。

「おい」

 オベイルが肘で小突いてくる。

「何でしょう、オベイルさん?」
「何であの男がお前の部下なんだよ? そもそも師匠なんだろ?」

 珍しく小声で聞くオベイルに目をパチクリさせるミケラルド君。

「複雑な関係でして。というか、リィたんのが疑問になるのでは?」
「あ? リィたんはお前に惚れてるからだろう? だったら男の方が気になるじゃねぇか」

 なるほど、他者の目にはそう映るのか。

「……まぁ、信頼は寄せてくれてるみたいですけどね」

 だが、この三人の関係を簡単に説明出来れば苦労はしないのだ。

「ジェイルって男色って訳じゃねぇんだろ?」
「それは……聞いた事がなかったですね」

 そんな内緒話を拾ってしまうのが、

「私には死別した女房がいた」

 私のトカゲ師匠。
 口にチャックをするオベイルと……見合う俺とリィたん。
 ジェイルに亡くなった奥さんがいたなんて、初めて聞いたからだ。

「だが、とある男、、、、に殺されてしまってな」
「……そいつは悪い事を聞いたな」
「気にするな。もう昔の話だ……そう、昔のな」

 そう言ったきり、ジェイルは言葉を噤んだ。
 そんな話にピンときてしまった俺とリィたん。

『リィたん、とある男って……』
『十中八九――勇者レックスだろうな』
『だよねぇ……知らなかったな、そんな事』
『常々疑問に思っていた事が解消出来た』
『どういう事?』
『何代か前の魔王からは勇者討伐令が発令されたが、休眠中の現魔王からは発令されていなかった。準備段階にあったからな』
『そのタイミングでジェイルさんが動いた』
『果たしてそうなのかな』
『ん? それってどういう事?』
「む?」

 リィたんの声が肉声に変わった時、俺たちの前に背の低い髭モジャのドワーフおじさんと、弱々しくも神々しく光る剣が見えたのだ。

「イヅナにオベイル。それ以外は新顔だが……なるほど、ミケラルドってのはアンタか」

 と言いながらジェイルを見上げるドワーフおじさん。
 するとジェイルは俺を見ながら無言を貫いた。

「あん? 何でぇ、こんな若造がミケラルドかよ!」

 どうも若造です。

「初めましてミケラルドです。以後お見知りおきを」
「ガイアスだ」

 俺とガイアスが軽く握手する。

「レミリアん時も驚いたが、最近のランクSってのはそんなポンポンなれんのかい?」
「さぁ、どうなのでしょう」
「まぁ戦争を終結させるだけの実力はあるってこったな。おら、大事に扱えよ」

 と言いながらガイアスが俺に勇者の剣を持たせる。

「……ん?」

 首を傾げながら皇后アイビスを見ると、炭だらけの顔をこちらに向けたアイビスが淡々と語る。

「それをリプトゥアにいる勇者エメリーに渡して欲しい」

 アイビスが何やら言っている。イマイチ理解が追い付かない俺は、勇者の剣から顔を覗かせ言った。

「私が?」
「私が、だ」

 これだけの顔ぶれがいて、何故俺に白羽の矢が立ったのか。
 それが疑問でならないミケラルド君である。

「それがミケラルド殿へのランクSの依頼である」

 戦争には貴族として参戦したから、今回は冒険者としてって事か。

「はぁ……かしこまりました」
「今回は断られないようで妾も安心したぞ」

 断れない空気作っておいて何を言っているんだ、この狸婆さん。

「ウェイド殿が言っていたぞ。『建国した暁には、、、、、、、、是非ガンドフとの友好関係を望む』と……」
「ははははは……」

 まぁ、ここまでくれば流石にミナジリが建国する話は、権力者たちに隠す事は出来ないだろうな。

「それと、『ブライアン王に感謝を伝えて欲しい』とも」
「有り難きお言葉に存じます」

 ◇◆◇ ◆◇◆

 一つ所用を済ませた俺たちは、そそくさとガンドフを離れた。
 が、大きな問題に直面していた。というより迫っていた。

「ミック、まだ付いてくるぞ?」

 リィたんが後ろを警戒しつつ前を向きながら俺に言う。

「これじゃ転移出来ませんねぇ」

 俺は空を見上げながら答える。

「……すまん」

 俯くジェイル師匠。
 背後から悪霊のように付いてくるのは、当然――剣神イヅナ。
 押されるような圧迫感の正体は殺気か、それとも殺気か、はたまた殺気か。

「いや、ジェイルさんが謝る事ないですよ。誰だって熱くなる事はありますしね」
「弟子に明鏡止水と言っておきながらな……」

 顔を両手で覆うジェイル。何とも珍しい珍事と言えよう。
 剣神イヅナ程の実力者が尾行しているのだ。
 振り切る事は出来ず、転移を見られる訳にもいかず、リィたんに担がれて逃げる男二人という構図も何とも情けないので不採用。

「走りますか」
「だな」

 俺の提案にリィたんが乗り、

「すまん……くっ!」

 謝罪しながら駆け始めるジェイルだった。
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